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日米安保から北東アジア安保へ

2008年6月24日   田中 宇

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 北朝鮮の核開発問題が、いよいよ解決していきそうな状況になってきた。アメリカのライス国務長官は6月18日に米ヘリテージ財団で行った講演の中で、北朝鮮が近く核開発事業についての情報公開を行う見通しで、それが予定通り行われた場合、6者協議の合意に基づき、ブッシュ政権は北朝鮮をテロ支援国家リストから外す制裁解除のプロセスに入ると表明した。(関連記事

 6月末に開かれる予定の6者協議で、北朝鮮の核開発問題の解決が宣言され、アメリカが北への制裁解除の手続きに入る可能性が大きい。北朝鮮敵視を弱めたくない米議会は、ブッシュ政権に対し、北朝鮮への制裁を解除する場合、米議会が満足する説明を行わねばならないとする法律をすでに決議しているが、ライスはこの件を大した障害と見ていない。制裁解除には日本政府も強く反対しているが、ブッシュ政権は、日本や米議会の意向を無視して、北朝鮮をリストから外すことになりそうだ。

 ライスは今週から来週にかけて日本、韓国、中国を訪問し、自分が中国にいる間に北京で6者協議が開かれるように設定している。一方、北朝鮮は同じタイミングの6月26日に、6者協議の主催国である中国に核事業の全容についての報告書を手渡し、6月27日か28日には「核廃棄」を象徴する演出として、寧辺原子炉の冷却塔を爆破する予定になっている。北朝鮮当局は、米CNNなど、6者協議の北朝鮮以外の5カ国(米中露韓日)からテレビ局を1社ずつ、この冷却塔爆破ショーに招待し、実況中継させる手続きを進めている。(関連記事

 2005年の6者協議の合意では、北の核問題が解決したら、アメリカと日本は北朝鮮との国交を正常化することが決められている。米朝と日朝の関係改善も、今後短期間のうちに開始されそうな見通しとなってきた。(関連記事

 4月8日の米朝交渉で決めた「北朝鮮がシリアに核兵器技術を提供した濡れ衣を認める代わりに、アメリカは北朝鮮を許す」という交換条件が、イスラエルのシリアとの和平交渉突入によって意味がなくなって無効になり、いったんは米朝交渉は破綻かと思われた。しかし、その後の北京での米朝交渉で、体勢が立て直されたようだ。(関連記事

 6月21日には、北朝鮮がアメリカに渡した資料から、高濃度のウランの痕跡が見つかったとする報道が出てきた。まだ土壇場で米政府が翻心して協議再開が見送られる懸念もある。米政府は、イランの核問題に対しては、土壇場で進展を止めている。だが北朝鮮問題は、米政界を牛耳るイスラエルが絡んでいるイラン問題とは状況が異なる。ヒルやライスの言動の勢いから考えると、このまま問題解決に向かって進んでいきそうな感じがする。(関連記事その1その2

▼動き出す日本政界

 日本では、自民党の山崎拓・元副総裁が率いる「日朝国交正常化推進議員連盟」が、早期の北朝鮮訪問と、北朝鮮との国交正常化に向けて動き出している。北が核廃棄したら日朝は関係を正常化するという6者協議の合意に基づけば、この山拓らの動きは当然であり、無謀ではないのだが、日本政界では安倍晋三前首相らが、北朝鮮との関係改善をすべきでないと山拓を非難している。

 安倍と山拓の論争では、山拓の方が冷静に事態を見ている。山拓は「北朝鮮核問題で重要な展開がある。もっと大きく国際情勢を見て日本の平和と安全を確保すべきで、足の引っ張り合いをやっている時ではない」と述べており、アメリカの戦略的変化を見据えている。(関連記事

 安倍は、06−07年に首相になる前から日朝関係の好転に反対だったので、本来なら、自分が首相だった期間中に、北が核廃棄したら日朝は関係を正常化するという6者協議の合意を破棄すると宣言しておけば良かったはずだ。しかし、この合意はアメリカが勝手に話をまとめて日本に押しつけたものであり、対米従属を何よりも重視する安倍は、合意破棄を宣言できなかった。

 そもそも安倍が北朝鮮敵視策をとったのは、北朝鮮が敵である限り、日米安保体制は安泰で、日本は対米従属を続けられるからである。日本には、気楽な対米従属の永続化を望む人が多いが、アメリカは、もう日本は立派な国なのだから、いい加減に一人立ちしてくれと思っている。

 安倍の前の首相だった小泉純一郎は、対米従属と、日朝国交正常化の両刀遣いで、日朝正常化を実現した首相として歴史に名を残そうという野心から、首相時代に平壌を訪問した。山崎拓は小泉の腹心として、日朝国交正常化に向けて動き続けてきた。巧妙な小泉に比べると、安倍は昨秋に自滅的な首相辞任をして以来、負け役のピエロになってしまい、格好悪く踊り続けている。

(安倍辞任はタイミングから見て、隠れ多極主義の米政権が安倍を辞任に追い込んだような、何か裏の事情があっても不思議ではない)

▼解消される日本周辺の脅威

 北の核問題が解決したら、日米中韓朝露の6者協議は、同じメンバーのまま、北東アジアの集団安全保障のメカニズムへと発展することになっている。前回の記事に書いたとおり、ライス国務長官は最近の論文で、それを改めて宣言した。(関連記事

 北東アジアに集団安保体制ができることは、日本と朝鮮半島にとって、朝鮮戦争以来の国際政治体制の大転換である。アメリカは第2次大戦後、北東アジアにおいて、日米や米韓、米中・米台といった2国間関係のみを重視する「ハブ&スポーク型」の外交戦略を保持し、アジア諸国どうしが集団的な横のつながりを持つことを許さなかった。東南アジアでは1960年代からASEANという横のつながりがあったが、北東アジアには何もなかった。北朝鮮6者協議が集団安保体制に発展することは、アメリカの北東アジア戦略の大転換を意味する。

 北東アジアは、多くの対立関係があった。南北朝鮮、台中、日朝、日中、日露(北方領土)、日韓(竹島、歴史教科書)などである。これらの諸対立のうち、台中対立以外のすべてが、新安保体制の中で解決できる。台中対立は、台湾の政権が馬英九になって以来、急速に和解に向かっており、こちらも独自に対立が解消されつつある。

 今後、日本に脅威を与えそうな周辺諸国との関係は、新安保体制の中で解消される方向が定着し、アメリカにとっては、米軍を日本に駐留させておく必要がなくなる。在日米軍の撤退と、日米安保同盟の解消が、次の段階として見えてくる。隣の韓国ではすでに、在韓米軍の撤退傾向が定着している。

 戦後、冷戦時代のアメリカは、日米、米韓、米台のハブ&スポーク型の2国間関係を、中国やソ連に対抗する戦略関係として持っていた。1970年代の米中関係正常化と、1989年の欧州での冷戦終結によって、表面的には日米韓と中露の対立は解消されたものの、その後も日本と韓国、特に戦後の対米従属が非常に心地よかった日本は、対米関係のみを重視する体制からの脱却を嫌がり、北方領土問題や日朝関係の改善を阻害し、中国との敵対を強める工夫を続けてきた(日本のマスコミでは、ロシアや北朝鮮や中国との関係が改善しないのは、相手方が一方的に悪いという価値観だけが報じられてきた)。

 このような、アジアに対して自閉して対米従属に固執する今の日本と日本人にとって、6者協議が成功して新安保体制ができることは、第2次大戦の「無条件降伏」や、幕末の「黒船来航」に匹敵する大きな衝撃となり、日本は「アジア重視」への大転換を余儀なくされるだろう。日本は対米従属という、戦後の「泰平の眠り」から、手荒く覚醒させられようとしている。

 日本人の多くは、いまだに「アメリカは、日本を含む全世界を今後もずっと支配し続けたいに違いないから、日本に対米従属を強制できる日米安保体制を解消するはずがない」と考えている。しかしこの考えは、もはや現実から乖離しており、時代遅れだ。そもそも6者協議を中国に主導させ、協議成功後は新安保体制を作る構想を進めてきたのはアメリカ自身である。米政府は、日本に対しては「日米同盟は永遠です」みたいなことを言い続けてきたが、その裏で、日米同盟の終焉につながる6者協議を進展させ、北朝鮮と中国に対する譲歩を重ねてきた。(関連記事

▼北東アジア新安保は米中枢の談合の結果?

 北朝鮮の核問題が解決し、6者協議が北東アジア安保体制に発展することは、北東アジアでの冷戦構造の終わりを意味している。もともと冷戦構造は、アメリカ中枢での「多極主義」と「米英単独覇権主義」との暗闘の結果、米英派の勝利の結果として起きている。

 米英派とは、戦前からのアメリカの軍産複合体(軍事産業)とイギリス(アメリカにイギリス好みの世界支配戦略を採らせることで大英帝国の支配構造を維持してきた)、それから1970年代以降はイスラエル(在米右派)が加わってできた「軍産英イスラエル複合体」である。多極派とは、世界経済の成長率を高めたいニューヨークの大資本家たちが中心である。

 米英派は、米英独仏日ソが並び立っていた戦前の状態を崩し、日独を破壊して米英単独覇権体制を作るために第2次世界大戦を誘発した(第1次大戦の続編として)。多極派は、戦後体制を米英仏露中の多極的な5大国体制(国連安保理常任理事国)にすることを条件に、米英が日独を潰す戦争を起こすことに協力した。

 第2次大戦後、国連では約束どおり5大国体制が作られたが、その後、米英派はアメリカの戦時プロパガンダ機能を使って世論を「反共産主義」にして中ソと米英が対立する冷戦構造を作り出し、1950年の朝鮮戦争の勃発とともに、米中関係は味方から敵へと転換した。米英派は、冷戦構造を作って「(西側)国際社会」から中ソを排除し、多極派を出し抜いて、米英中心の覇権体制を確立した。

 多極派はその後、1972年のニクソン訪中から巻き返し、1989年のレーガンによる米ソ和解によって冷戦を終結させた。ニクソン以来の米中関係正常化は、自滅的なベトナム戦争によって米国内で反戦(反軍事産業)の世論が強化された背景を使って実施された。70年代からの米英の産業衰退への対策として「中国を市場化して企業が儲かるようにする」という、米英企業の国際化(多国籍化)と絡んだ新戦略も、米中正常化を実現する説得材料となった。

 1989年の中ソ和解は、1985年以降の米英経済の金融化・サービス化と抱き合わせることで実現できた。国際化する米英の金融サービス業の市場拡大のために、冷戦構造を取り払った方が良いという説得が、多極派から発せられた。米英派の一翼であるイギリスには「ロンドンを、ニューヨークと並ぶ国際金融センターにしてあげる」という代償が与えられた。時代のキーワードは「核ミサイル」から「デリバティブ」に変わった。

 このような経緯から考えると、北朝鮮敵視をやめて北東アジア新安保体制を作るという、今回の北東アジア冷戦体制の終焉に際しても、それを推進したい多極派から、阻止したい米英派(冷戦派)に対し、何らかの説得材料や交換条件が出され、談合がすでに成立している可能性がある。何の代償もなしに、軍産複合体が、北東アジアの緊張緩和に賛成するはずがない。もし談合が成立していないのなら、北朝鮮問題は今後も、解決しそうに見えつつも解決しない状況が続くはずだ。

 昨今の米政界で最強の勢力は、イスラエルである。だから今回、米英派と多極派の間でありそうな談合は「アメリカは今後もイスラエルを軍事的に守り続ける。米軍はイラクから撤退せず、必要ならイランを攻撃する」「その代わり、北東アジアで冷戦を終わらせることに、米中枢の全勢力が賛成する」というものだ。中東での戦争が続く限り、軍産複合体も満足である。以前から「イランとの戦争」と「北朝鮮との和解」が同時に進みそうな局面が何回か繰り返されている。(関連記事

 今年の年初来、6者協議の進展と同時並行するかのように、アメリカ大統領選挙のすべての主要候補が「私が大統領になったら、イスラエルを絶対に守る」「イラン侵攻も辞さず」と言い続けている。今年4月には「北朝鮮がシリアに核兵器技術を提供していた」という話を作るための、米朝間の司法取引も試みられた(イスラエルが、シリアとの戦争ではなく和平を望んだので話は立ち消えになった)。これらの状況から、北朝鮮を許すことと、中東での戦争を維持することが交換条件になっている観がある。(関連記事

▼次政権でも変わりそうもない米戦略

 今の米政府であるブッシュ政権は、言動からみて「隠れ多極主義」のようだが、来年からの次の政権も同じ多極派とは限らない。次政権が米英派になり、中国包囲網の再強化を狙い、ブッシュ政権が作った北東アジア新安保体制を壊し、日米や米韓の軍事同盟を再強化する可能性はないのだろうか。私なりの答えを先に書くと、その可能性は低い。

 米大統領選挙は、民主党のオバマと、共和党のマケインに候補者が絞られている。顧問団の顔ぶれから見て、オバマは前クリントン政権の戦略を踏襲しそうだ。クリントンは、米英協調の金融覇権戦略(米英金融界がデリバティブで大儲けし、この資金力で米英が覇権力を維持する)を軸に、イギリスに離反されて無力化した米の軍事産業を合併などで再編縮小し、米政府の財政を再建し、アメリカの経済的な力を復興した。

(北朝鮮が、アメリカをゆすって経済支援を引き出すため、1994年から大っぴらにミサイルや核兵器を開発し始めたのは、米政界での軍事産業の発言力を拡大したが、クリントンはその後、米朝枠組み合意でこれを封じた)

 オバマは、クリントンの戦略をそのままでは踏襲できない。昨年からの米英金融危機は、クリントン時代に確立されたデリバティブで儲けるシステムの崩壊を意味している。米の次期政権は、この10年間で作られたデリバティブのバブルが崩壊し、大損失と不況、インフレ、ドルの危機を引き起こすことへの対策に追われる。米英金融覇権は、クリントンで始まり、オバマで終わりかねない。

 イスラエルとの約束があるため、中東での米軍の浪費は続き、金融覇権戦略を採れないオバマ政権は、アメリカの財政を再建できない。弱いままのアメリカは、中国やロシアへの敵視を協調に切り替え、中露や他の非米諸国(中南米、アラブなど)に協力してもらって、世界を安定化させていくしかない。オバマは、6者協議から発展した北東アジア新安保体制を、支持せざるを得ない。アメリカの軍事負担軽減のため、在日米軍と在韓米軍の撤収、もしくは日韓からもらう駐留費の増額要求の傾向が強まる。

 共和党のマケインは昨年末、フォーリン・アフェアーズに書いた所信表明論文の中で、日韓やインド、豪州などと作る中国包囲網を強化し、中国の台頭に対抗する方針を表明している。この論文を読むと、マケインが大統領になったら、ブッシュ政権が作る北東アジア安保体制を壊し、日米安保などの中国包囲網を再強化しそうに見える。(関連記事

 しかし、顧問団の多くがネオコンであるマケインは、ブッシュ政権と同様に「隠れ多極主義」「中露の敵のふりをした親中露」である可能性があり、要注意である。たとえばマケインは先日、オーストラリアのラッド首相が打ち上げた、中国を含む「アジア共同体」構想に対し、賛意を表明している。(関連記事

 豪ラッド首相は、中国駐在外交官の出身で、中国語が非常にうまく、胡錦涛と仲が良い。ラッドは、昨年末に就任して早々、中国敵視に反対し、アメリカが進めていた「米・日・豪・インド」の中国包囲網の新安保体制からの離脱を宣言している。その後、ラッドは今春、中国を含めた「米中日豪印」のアジア共同体構想を打ち出した。アジア広域FTAや、ゆくゆくはEUのような政治統合までを視野に入れた構想である。(関連記事

 中国を入れたことで、ラッドのアジア共同体構想は、中国包囲網ではなくなり、欧州が対米従属のNATOから対米自立のEUに変わったように、アジアも対米従属をやめる方向の構想へと変質している。ラッドはこの構想の発表直後に日本を訪問したが、日本政府から冷遇され、病的な中国嫌悪にとりつかれている日本のマスコミ(外務省記者クラブなど)から「中国の脅威を無視して良いのか」と詰問された。(関連記事

 マケインは、ラッドに関して「非常に有能な人」と評価し、豪州がアジア諸国間の協調関係を先導することを支持した。マケインは、直裁的な発言をすることで知られる。マケインの側近は「マケインがラッドの構想に目を通した時間は5分以下だった」と述べ、マケインがラッドの親中国さを理解せずに発言しているというイメージを醸成しようとしている。(関連記事

 マケインは、中東に対しては強硬姿勢をとるかもしれないが、そのバランスとして、東アジアに対しては、中国や豪州が主導するアジアの自立的な安定化戦略を容認する可能性がある。キッシンジャーやパパブッシュ、ロックフェラーなど、米共和党には、親中国派(軍産複合体からの糾弾を避ける「隠れ親中国派」)が以前から多い。

 ラッドと中国との親密さから考えて、ラッドのアジア共同体構想は、6者協議の成功後に作られる中国中心の北東アジア新安保体制の「外縁部」をなす構想と見ることができる。今後の東アジアは、北東アジアに新安保体制と、東南アジアにASEANが並立・協調し、そのさらに外側に豪印を含めたアジア共同体が存在するかたちになるかもしれない。

▼東シナ海ガス田の解決

 日本の政界やマスコミには、まだ北朝鮮や中国に対する敵意に満ちているが、日本政府は現実的な態度をとっており、すでに日米安保体制から北東アジア新安保体制への移行期の動きとして、中国との関係改善のプロセスに入っている。

 その象徴は、東シナ海ガス田をめぐる日本と中国の紛争が、意外な速さで解決したことだ。日中両政府は6月18日、中国がすでに開発している白樺ガス田(春暁ガス田)に日本が出資し、他の区画の今後の開発は共同で行うことで最終合意した。未解決の、排他的経済水域の境界線問題は棚上げし、日中外相は、2004年以来のガス田紛争の解決を発表した。

 この決着の最重要の意味は、日本政府が中国との関係改善を遅延させる目的で紛争化していたガス田問題を決着させたこと、つまり日本政府が中国との関係改善を抑止するのをやめたことである。中国は以前から、すでに中国側が進めているガス田開発に、日本が資本参加することで対立を解消しようと表明していた。今回の解決は、中国の提案を拒否し続けてきた日本が、態度を転換して対中協調することにした結果である。

 日本と中国では、境界線に対する主張が対立しているが、中国側は、日本が主張する境界線より中国側、中国の排他的経済水域で春暁ガス田を採掘しており、日本側はもともと春暁ガス田について中国を非難する立場になかった。日本側では「ガス田自身は中国側領域にあっても、そこからガスを採掘する地中のパイプを日本側まで越境させて伸ばしているに違いない」と、立証できない非難(いちゃもん)を中国側に対して行うなどして、ガス田問題を紛争化した。日本政府は、他に小泉元首相の靖国参拝などによって中国の世論を反日化させ、中国政府が日本に外交接近することを阻止していた。

 日本政府が、ガス田や靖国などの問題を使って日中関係の改善を抑止していたのは、日中関係が改善してしまうと、アメリカが日本との軍事同盟を希薄化させていきかねないからだった。6者協議が成功し、北東アジア安保体制へと移行していくと、もはや日米軍事同盟の希薄化は避けられない。そのため、日本政府は、ガス田をめぐる中国敵視策を破棄し、北東アジア安保体制に順応する準備を開始したのだろう。



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