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サウジをイスラエルの言いなりにさせていく
2026年9月19日
田中 宇
イエメンのフーシ派から東西パイプラインなどを攻撃され、紅海の出口の島々も占領されて石油を輸出できなくなっているサウジアラビアが、フーシ派やイラン防衛隊政権を裏から操っていると勘ぐれるイスラエルに、軍事諜報と秘密交渉などの面で頼る傾向を強めている。
逆の言い方をすると、イスラエルはフーシ派やイランが好戦策をとってサウジの石油輸出を止めるように仕向け、サウジが困窮したらフーシ派退治の方策を「お試し」的に少しだけ教え「イスラエル敵視をやめて国交樹立のアブラハム合意に入るなら、もっと教えてあげますよ」と誘っている。
(Israel provided Saudi Arabia with intel. assistance as Houthi attacks on Riyadh's assets continue)
イスラエルは、米諜報界を牛耳って世界中の軍事諜報を手にしている。それを活用し、世界中のイスラエル敵視な諸国やNGOを無力化しつつある。2月末からのイラン戦争も、その一環だ。
イスラエルは、イランの好戦的な革命防衛隊に政権奪取させ、防衛隊の長距離兵器を破壊してイスラエルを攻撃できないようにした上で、防衛隊がホルムズ海峡を閉鎖してサウジやクウェートなどアラブ産油国の石油輸出を阻止するように仕向けた。親イスラエルなUAEだけは石油を輸出できている。
サウジはホルムズ海峡を迂回できる紅海側への東西パイプラインを持っているが、そちらも今回、イラン傘下のイエメンのフーシ派(民兵団)に破壊された。
フーシ派は、サウジが迂回路の紅海側から石油を出す際にタンカーが通らねばならない紅海出入り口のバブエルマンデブ海峡の近くの島々や港町をどんどん占領し、迂回路をふさいでいる。
フーシ派はさらに、無人機で聖地メッカを攻撃する試みもやっている(サウジ側に迎撃された)。サウジ王家は、メッカの守護者としてイスラム世界を主導してきた。イエメンのシーア派民兵団ごときに攻撃されてメッカを守れないと、サウジ王政は国際的な威信を保てない。サウジの権力者MbS皇太子は困窮している。
(Houthis Unleash Major Missile Barrage On Saudi Arabia's Sprawling King Khalid Air Base)
サウジは、王家と親しかったビンラディン家の御曹司が主犯となった911事件以来、米国から脅威とみなされぬよう、独自の自国軍を強化せず、巨額の防衛費を計上しつつも全て米国と米軍頼みで、米国にカネを払ってサウジを守ってもらう安保策をとってきた。
サウジ王家は、困ったらいつでも電話1本で米軍に敵を攻撃してもらえるはずだった。だがフーシ派のイエメン占領が急拡大した9月10日、MbSがトランプに電話して米軍によるイエメン攻撃を頼んだところ、トランプはこれ以上戦争を拡大できないと言って断った。
(Israel unlikely to improve Saudi ties despite Houthi threat, expert tells 'Post')
米軍は最近、イラン戦争の長期化で武器弾薬が底をついているという話を流布している。イランに中東の米軍基地を破壊され、米軍は中東から出ていかざるを得ないという話すら語られている。
(US acknowledges for first time that war in Iran caused weapons shortage)
それでトランプはMbSの要請を断った。これは異例であり、サウジとの不文律に対する不履行・裏切りだった。トランプは代わりに、サウジがフーシ派とうまく戦えるようにする軍事諜報を提供するとMbSに言って米軍幹部らをサウジに派遣してきた。
そして、米軍がサウジに伝えてきたのが、イスラエル提供の諜報だった。トランプは、サウジなどアラブ諸国を、イスラエルとの和解交渉にいざなっている。
(Israel said to be aiding Saudi Arabia against Houthis via CENTCOM)
(Houthi attacks on Saudi Arabia could revive Israel-Saudi normalization efforts)
イスラエルは手下のUAEを使って、数年前からイエメン対岸のソマリランドに新たな空港(空軍基地)を作らせ、そこにイスラエル軍の部隊が非公式に駐屯し、イエメンでのフーシ派(やイランやサウジ側)の動きを独自に偵察し、必要に応じてフーシ派を攻撃し、逆に入れ知恵もして、フーシ派を裏から操作している。イスラエルはソマリランドと正式な国交を結んでいる唯一の国家でもある。
イスラエルはお試しの諜報をくれたが、諜報だけでは戦争できない。米軍に動いてもらわないと、サウジは戦えない体制だ。
(多極化後の中東の覇権争い)
イラン戦争が長期化するほど、米軍の武器弾薬不足や中東の基地破壊やトランプの支持率低下が問題にされ、米軍が中東から出ていく話が繰り返し再燃する。
米軍が出ていくと、最も困るのはイスラエルでなくサウジだ。イスラエルは、米国の諜報を牛耳り、米国の兵器類を事実上無償でもらい続け、高い技能を持った自国の軍人たちがそれらを使って有効に戦争できる。米軍はイスラエル軍の雑用係だ。
(Pentagon unsure about ‘future posture’ in Middle East)
(US withdraws some personnel from Middle East bases amid Trump Iran threats 14 Jan 2026)
サウジは違う。高い技能を持った自国の軍人がいない。911以降、意図的に養成していない。米軍は出ていく前に、中東の兵器類を同盟諸国に売る話を進めている。
以前のサウジなら全部買えたが、今のサウジは石油を売れず急速に金欠になっている。米軍の兵器類の最新鋭の部分はイスラエルに(無償で)引き継がれる(かたちは購入だが、そのカネは米国がイスラエルに貸す)。
(Tucker Carlson Sounds Alarm Over Trump's Planned 'Largest Transfer Of Ordinance In Modern History')
(Media Lie About Weapon Transfer To Israel)
サウジはイラン開戦後の6月、米軍が出ていく動きを察知し、パキスタンやトルコと新しい軍事同盟(メッカ協定)を結んだ。この協定は、NATOの5条と同じ相互防衛義務を備えた強力なものだと喧伝されたが、実のところ「親睦会」でしかない。
(The Houthis’ Power Play Exposed The Hollowness Of The Islamic NATO)
サウジがフーシ派に攻撃されて苦戦しているのに、誰も来てくれない。パキスタンの国防相は、メッカ協定を履行する準備をしていると表明したが、実際にやったのはイランにフーシ派をテコ入れするなと要請する外交努力だけだ。昔からサウジに金銭支援してもらってきたのに意外と冷たい。
エジプトも、サウジに金銭支援してもらってきた。だがエジプトはメッカ協定への参加自体を断っている。以前はエジプトの空軍機がイエメンを空爆してくれた。だが、最近はサウジの石油輸出が止まって財政破綻していきそうな流れが見えてきた。「金の切れ目が縁の切れ目」だ。
(Defense Minister Says Pakistan Will ‘Fulfill Our Duty’ to Saudi Arabia Amid Attacks from Ansar Allah)
困窮したサウジは、イランと交渉し、ホルムズ海峡の閉鎖とフーシ派支援をやめてもらおうとした。オマーンが仲介役となり、9月14日にサウジなどアラブ産油諸国とイランの間で閣僚会議が開かれる予定になった。だがこれも、イランが強硬姿勢を崩さないのでサウジの方から延期を決めた。
(Oman postpones Gulf-Iran ministerial meeting)
早くからアブラハム合意に入り、イスラエルと国交を結んで言いなりになったUAEは、イスラエルと対抗しようとしたサウジと対照的に、うまくいっている。
同様にモロッコも、イスラエルの諜報力に助けられ、セウタの移民侵略を起こして、左翼でイスラエル敵視なスペイン政府を困らせ、セウタをスペインから奪還できそうな流れを作れている。
(スペイン移民侵略騒動は米イスラエルの欧英潰し策)
イスラエルと仲良くすると、いろいろ良いことがある。パレスチナの大義を叫んでイスラエルを敵視する国は、イランやサウジのように困らされ、しだいに潰されていく。後述するが、アルジェリアが好例だ。
パレスチナ人を大量虐殺するイスラエルは「極悪」であり、パレスチナの大義を叫ぶ人々は「正義」だ。しかし今の世界は、正義が勝つ構図になっていない。
パレスチナをめぐる善悪の構図は、以前に米覇権運営者(諜報界主流派)として世界を支配していた英国系が、いずれライバルになりそうなイスラエルを弱めておくために作った。
しかし911以降、イスラエルのリクード系が米諜報界に入り込んで主流派になっていき、温暖化対策やウクライナ戦争などで英国系を自滅させつつ、ガザ虐殺など力づくでパレスチナを抹消している。虐殺は、英国系を怒らせてリクード系が「敵」をあぶり出す策でもある。
(世界はイスラエル覇権体制になった)
クウェートはパレスチナ支持の国だった。だが最近は、サウジと似た理由で、パレスチナ支持を棚上げしてイスラエルと和解するアブラハム合意への加盟を検討している。間もなく加盟しそうだとイスラエル側が期待している。
クウェートはペルシャ湾の奥にある産油国で、ホルムズ経由でしか石油を出せない。クウェートの国営タンカーは、イランからの攻撃を避けるため、位置情報発信機(AIS)の電源を切るダークモードでホルムズ海峡を航行しているが、攻撃されるリスクが高い。
(Additional country may join Abraham Accords within six months, ambassador to UAE says)
クウェート王政としては、ホルムズ周辺のイランの動きを把握したい。そして、その情報を最も持っているのがイスラエルだ。イスラエルは米諜報界の情報を好き放題に取れるほか、イランの上層部に独自のスパイ網を構築しており、米国より情報収集力が強い。
クウェートの国家財政の95%が石油輸出収入だ。クウェートが、パレスチナ支持を棚上げし、イスラエルと仲良くするアブラハム合意への加盟を検討するのは自然な流れだ。
イスラエルに引き寄せられていくクウェートやサウジと対照的に、パレスチナ支持を強硬に続けてイスラエルから破壊活動を仕掛けられているのがアルジェリアだ。
イスラエルは2012年ごろから、アルジェリアの反政府勢力「カビリア自治運動(MAK)」を支援してきた。カビリアはアルジェリア北部の山岳地帯で、そこに多く住むカビル人は独自の文化と言語を持っている。
アルジェリア政府はMAKが非公式に武装闘争していると指摘し、MAKがイスラエル(とモロッコ)から軍事支援されているとも言っている。モロッコは、アルジェリアの隣にある親イスラエルな国だ。
イスラエルはMAKを支持支援しているが、軍事支援は否定している(軍事支援の兆候は色々ある)。イスラエルとアルジェリアの政府は相互に敵視し合っている。
最近は、イスラエルの諜報面の汚れ仕事を各地でやっているUAEがMAKと接触している。アルジェリアは9月10日にUAEと国交断絶した。
(UAEはスーダンやソマリアの内戦でも、イスラエルの代理勢力として裏活動しており、イスラム主義者たちに敵視されている)
アルジェリアは治安体制が強固なので、MAKがアルジェリアを内戦に陥れていく可能性は今のところ低い。だが少なくとも、イスラエルを敵視し続ける国が内戦化などのリスクを高められてしまうのは確かだ。
サウジは、アラブとイスラムの盟主としてパレスチナ支持を続けざるを得ない。しかし、それも時間の問題かもしれない。石油輸出の大幅減少が長引くと、サウジは財政破綻し、下手をすると内戦状態の失敗国家にされる。
そのためサウジは、可能な限りイスラエルやトランプ(リクード系)の言うことを聞くようにしている。
たとえば9月18日、サウジ国営石油会社アラムコは、10月の欧州向けの原油輸出を停止すると売り先に通告した。これは、サウジがリクード系の英国系(英欧)潰しに協力させられる構図だ。
(Saudi Aramco suspends European crude deliveries after East-West pipeline attack)
サウジから欧州への原油輸出は、エジプトのスエズ運河迂回パイプライン経由であり、ホルムズとバブエルマンデブという航行困難な2つの海峡を通らない。
欧州向けの原油は、東西パイプラインでペルシャ湾岸の油田から紅海岸に運ばれてタンカーに積まれる。東西パイプラインは爆破されたが、来週から回復し始める予定になっている。欧州向けは、航行困難な海峡を通るアジア向けよりも輸出しやすい。
それなのにサウジは、欧州向けを止めることにした。これは輸出路の問題が理由でなく、国際政治的な理由と疑える。理由としてありそうなのが、英欧潰しに協力しろというリクード系(トランプ)からの圧力だ。
英欧はすでに今冬に向けた天然ガスの備蓄が足りず、エネルギー危機になっている。トランプは英欧に米国の原油やLNGを売れる。だがその代償として、トランプは英欧が受け入れにくい条件を出すだろう。
サウジはイスラエルのライバルだったのに、今やイスラエルの言いなりで英欧潰しに加担させられている。この手の話は今後も続く。
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