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CIA長官訪露と欧露戦争の拡大
2026年9月1日
田中 宇
8月25日、米CIAのラトクリフ長官がモスクワを訪問し、ロシアの諜報長官(SVRのナルイシキン)らと会談した。ラトクリフの訪露は、NATOの同盟諸国にも事前に知らされず「秘密裏」の「極秘訪問」だったとされる。
会談の内容も不明なままだ。ロシアが間もなくウクライナ戦争を拡大して欧州NATO諸国(バルト三国など)を攻撃しそうなので、トランプがCIA長官を訪露させて警告を発したのでないか、などと推測されている。
(US leaves European allies uninformed about details of CIA chief’s Moscow visit)
これより前、CIA長官が前回モスクワを訪問したのは、ウクライナ開戦3か月前の2021年11月。露軍の動きを察知したバイデン政権がバーンズCIA長官を訪露させ、警告を発した。プーチンは警告を無視して3か月後にウクライナ侵攻(特殊作戦)を開始した。
今回も、間もなくロシアがウクライナ戦争を欧州に拡大しそうなのでCIA長官を訪露させて警告を発し、いずれプーチンが警告を無視してバルト三国などの国境を少し侵犯して占領し、NATOの5条が発動されず機能不全であることを世界に示すのでないか、などと言われている。
(Russian Offensive Campaign Assessment, August 27, 2026)
ラトクリフの訪露が「極秘」とされるのは、ロシアとNATOの戦争の可能性について話しに行った訪露なのに、トランプは訪露を事前にNATOの同盟諸国に教えず、事後の説明もしていないからだ。トランプは、自分の部下の米政府内に対してもラトクリフ訪露を教えなかった。
(ウクライナのゼレンスキーに対しては事前に、8月25-26日はロシアを攻撃するなと通告したが、米国から誰が訪露するかは教えなかった)
今回と対照的に、2021年11月のバーンズ訪問時、バイデン政権は事前にNATO諸国に説明し、バーンズの滞在中にモスクワの米大使館が訪露を公式発表した。
前回は、米国がNATOを率いて正式にウクライナ侵攻するなとロシアに警告する形をとっていた。今回はそうでない。
(Top White House aides caught off guard as Trump 'secretly' sends CIA chief to Moscow)
トランプはラトクリフ訪露の目的を「ロシアへの警告」でなく「戦争終結に向けた米露ウクライナの3者首脳会議を提案する和平のため」と説明している。
だが、露政府は以前から「停戦交渉が合意した後でしかウクライナと首脳会談しない」と宣言し、今回もそれを再宣言している。
ロシアに即刻拒否される提案をするためにわざわざCIA長官が訪露するはずがない。トランプの説明は、世の中を馬鹿にした目くらましだ。
(CIA Director Pushed Trump-Putin-Zelensky Summit During Moscow Visit: Report)
▼CIA長官の訪露。前回は英国系、今回はリクード系。
バイデン政権下のCIA長官訪露と、今回の違いの本質は、バイデンがNATOなどロシアを恒久的な仇敵と見なすことで覇権を維持する「英国系(リベラル覇権)」の一部だったのに対し、トランプは英国系を追い出して覇権(米諜報界)を乗っ取った「リクード系(反人道主義)」の一部だという点だ。
ウクライナ戦争は、当時すでに米諜報界を乗っ取っていたリクード系が、お門違いになりつつあった旧勢力の英国系を騙して開戦した。
ウクライナ戦争は、表向きロシアが自滅していく戦争のように見えて、実は長期化するほど英欧が自滅していく仕掛けになっている。米国でトランプが返り咲いて英欧支援から足を洗っていき、取り残された英欧が自滅を加速するシナリオが、開戦時から用意されていた。
(ウクライナ戦争を再燃させ欧英自滅を加速するトランプ)
諜報力を喪失し、この本質に気づかない(しかも認知症の)バイデンら英国系は、NATOとしてプーチンに警告を発しながらも、プーチンが警告を無視してウクライナ侵攻して自滅していくと予測しいた。
プーチンは、英国系の予測通りウクライナ侵攻したが、実際に自滅していくのはロシアでなく英欧の方だった。実は、プーチンもリクード系の一味だった。(人々の多くは、英国系のマスコミ権威筋に洗脳されているので、今でもこの構図に気づいてない)
バイデン時代のこのような構図と対照的に、今は、トランプとプーチンがリクード系として裏でつながりつつ、英国系のNATOやEU、英独仏を自滅に追い込んでいる。
トランプはすでに英国系の英欧諸国に、米国のNATO足抜けを受け入れて英欧だけでウクライナを延々と支援してロシアと戦い続ける「NATO3.0」をやらせている。
(Remarks by Under Secretary of War for Policy Elbridge Colby)
ウクライナ戦争は早期から、英欧がウクライナに送った兵器群の貯蔵場所の情報がロシア側に漏れ、露軍がウクライナ側の兵器類を使用前に破壊していく流れが続いている。英欧のウクライナ支援はとても非効率で、莫大な軍事費を食っている。
トランプの命令通り、英欧が防衛費をGDPの5%まで引き上げても、その増額分の多くはウクライナで浪費される。そのため、ロシアはGDPがEU合計の8分の1しかないのに、ウクライナで優勢を維持している。
(ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧)
最近は、ウクライナの兵力が戦死(多くは無駄死に)によって枯渇し、ウクライナ側は兵力を使わない無人機でロシア国内の民間施設などを攻撃しているが、これは戦争の勝敗や方向性を転換しない(ロシアが苦戦している印象を、欧日の軽信者たちに与えて満足させるだけ)。
この状態が長期化すると、英欧側の国民に厭戦機運が広まり、ウクライナ支援や露敵視に対する疑問視が増える。
ロシアが潰れるまで是が非でもウクライナ支援を続けるんだと考える、英傀儡な既存の中道左右のエリート諸政党への人気が下がり、現実路線を取って露敵視をやめた方が良いと考える独AfDや仏ルペン派などの「極右」勢力の支持が増す。
(リベラル世界体制の終わり)
英国系やリベラル派は、自分らの独裁体制を崩す極右政党を敵視するので、極右はリクード系とくっつく。極右はネオナチでイスラエルの敵だという思い込みは間違っている。欧州の極右政党は、プーチンやトランプと親和性が高い。
欧州は、エリート政権が選挙に負けて極右が与党になると、ウクライナ停戦と対露和解が具現化するとともに、英国系の政治力が世界的に失われる。
("Citizens Want Political Turnaround": AfD Now Polls At 43% Across Eastern Germany)
英国系の大本山だった英国では、リベラル全体主義や移民勢力の席巻などリクード系が仕掛けた自滅策が奏功し、政治が機能不全に陥っている。
トランプは、英国を助ける気がまったくない。「英国が防衛費をGDPの5%まで増やさないなら、フォークランド紛争で英国を支持しないぞ(米州主義に基づき、親トランプなアルゼンチンを支持する)」と公言している。
(US threatening UK over Falklands)
英国系やリベラル覇権派の大本山は、マーク・カーニーとともにカナダに亡命した。それで、トランプは英国系潰しの一環として、カナダに貿易戦争を吹っかけ、カナダの地名であるオンタリオ湖の名前をアメリカ湖に改名したりして、カーニーを攻撃している。
(A World Leader is Going to Regret This Bad Move of Declaring War on Trump)
(豪州やNZは、英国系であることよりも、アジア太平洋の国であることの方を国益として優先し、英国系の覇権維持に協力することをやめている。心底英傀儡だった日本も、リクード系による高市化であっさり転換した。自民党内の英傀儡の残党らが、イラン戦争でトランプが負けたと勘違いし、中共に再び頼りに行ったが、中共はリクード系に起こされた内乱再発でそれどころでない)
(China Ousts 4 Senior Military Commanders In Widening Purges)
▼英欧自滅を加速するための戦争拡大
ウクライナと欧州の現状が続くと、いずれ英国系やリベラル人道主義の覇権勢力は不可逆的に絶滅する。だが、ゆっくりそれを待っているよりも、英国系の絶滅を加速する方法があるのでないか。
トランプやプーチンは、それを考えているようだ。ラトクリフの訪露も、その関係で行われたのだろう。英国系は敵なのだから、トランプはラトクリフ訪露の予定や会議内容を、英欧や米政府内の英国系に教えていない。
親露なセルビアのブチッチ大統領は8月9日、ウクライナ戦争が停戦できなかったので、これから欧州に戦争が拡大していき、来春かそれ以降まで停戦機運が戻らないという予測を表明した。
ウクライナ戦争が、ロシアと英欧NATOとの戦争に拡大していく感じを、ブチッチも指摘している。
(Vucic: Europe is at the beginning of a larger war)
プーチンは以前から、ウクライナでの戦闘を越えた英国系との戦いとして、NATO諸国でウクライナ向けの兵器類を作っている工場をスパイに放火させたり、無人機でNATO諸国の領空を侵犯したり施設を破壊するなどの「複合(ハイブリッド)戦争」と呼ばれる非正規戦争を展開してきた。
(Russia steps up ’gray zone’ attacks across Europe as NATO tensions rise)
非正規な複合戦争は、正規の戦争のような大掛かりな費用や政治負担をかけず、ロシアがNATO諸国側の国民に対し、戦争と同種の心理的、物理的な負担や被害を被らせ、ロシアと戦争したくないという気持ちにさせる。
厭戦機運が強まり、露敵視なエリート諸政党の不利が強まり、極右政党の優勢が増す。
(Russia is escalating hybrid attacks and Europe has no answer)
かつてプーチンと親しかったエフゲニー・プリゴジンが作ったロシアの民兵団「ワグネル」の要員たちが、ロシアの諜報機関の傘下の勢力としてNATO諸国に入り込み、複合戦争の一部の実行役を担っていると言われている。
(ロシアの戦略とプリゴジンの死)
(Fire at Estonian defence company rekindles concerns over hybrid war)
この非正規な複合戦争が激化すると、ブチッチが指摘したような、ウクライナ戦争が欧露の広範な戦争に拡大していく流れになりうる。
ロシアでは9月20日に議会選挙があるが、欧露の戦争拡大があるとしたら選挙後になりそうだという見方もある。
(Russia may attempt an invasion of the Baltic states: why the US is sounding the alarm)
ラトクリフ訪露前からバルト三国では、ウクライナに無人機などを輸出しているエストニアの軍事工場が放火されたり、ラトビアやリトアニアに無人機が飛ばされたりして、複合戦争が激化している。ロシアの仕業であると確定できないものも多く、非正規戦の色彩が強い。
('It's war against the West' - Latvian PM on Russian provocations against European countries)
▼NATOの5条が機能するかどうか試す
バルト三国はいずれもNATOとEUに加盟しており、NATOが5条を本当に発動するかどうか、ロシアが試すために、バルト三国のどこかに少し侵攻してみる可能性も指摘されている。
ロシアと接するバルト三国のどこかの地域で、偽旗作戦などで何らかのきっかけを作り、露軍が少し越境侵攻して数平方キロぐらいの狭い地域を占領する。
(Baltic States Arm For Russian Threat As Leaked Letter Shows Growing Fears)
これはNATO加盟国に対する侵略行為なので、NATOの5条が発動され、米英独仏といったNATOの大国がバルト三国を守るためにロシアと戦争せねばならなくなる。
だが、本当に米英独仏などがロシアと戦ってくれるのかどうか。戦ってくれない場合、NATOの根幹である5条が必要時に機能しないことが露呈し、NATOや米英独仏に対する信頼が崩壊する。
プーチンとトランプ(リクード系)は、NATO(英国系)を潰したいと考えている。プーチンとトランプがこっそり組んで、NATOの5条の機能不全を演出する可能性もある。
プーチンがバルト三国のどこかに露軍を少しだけ越境侵攻する。NATOの5条が発動されるが、トランプはいろんな理由をつけて米軍を動かさない。この時点でNATOの信用が崩れる。
(The Estonian city that fears it’s next on Putin’s list)
バルト三国で露軍が少しだけ侵攻しそうな場所として、NATO側では、3つの地域の名前が挙がっている(3地域の喧伝は、NATOが住民に防衛費の増額を税負担させるためのプロパガンダのようでもあるが)。
一つはエストニアの対露国境(タリンとサンクトを結ぶルート沿い)にある街ナルバ(Narva。人口6万人)。この街は人口の95%がロシア系(露語話者)で、露軍は偽旗作戦を起こした後、邦人保護の名目でナルバを占領しうる。
(Narva scenario)
2つ目は、ラトビア南東部のベラルーシ国境近くの街ダウガフピルス。ラトビア第2の都市(人口9万人)で、人口の半分がロシア系だ。
3つ目は、バルト海に面するロシアの飛び地カリーニングラードをめぐるもの。カリーニングラードとロシア本土(親露なベラルーシ)の間には、リトアニアとポーランドが接する長さ100キロの「スバウキ回廊」がある。露軍が偽旗作戦を起こし、リトアニアとポーランドがカリーニングラードを封鎖するように誘導し、それへの正当防衛な対抗措置として露軍がスバウキ回廊に侵攻して占領する。
この3つの地域をめぐるロシアの偽旗作戦の可能性は、露敵視なNATO内で以前から指摘され、ウクライナ開戦後、現実性の高いシナリオとして取り沙汰されている。
ウクライナ開戦後、NATOは、ロシアが次の展開としてバルト三国やポーランドに侵攻する可能性が高まったと判断し、小さなバルト三国の軍隊だけでは防御できないので加勢が必要と考えた。
それで、エストニアに英国軍、ラトビアにカナダ軍、リトアニアにドイツ軍、ポーランドには米軍が、NATO軍として各1000人前後の規模で駐留を開始し、その後それぞれ5000人前後まで増強している。
今後、露軍がバルト三国に少しでも侵攻すると、5条の発動とかの話になる前に、即時にこれらのNATO軍と戦闘になる。
英国やカナダといった英国系の総本山は、トランプやプーチンのリクード系の仇敵なので、露軍がエストニアに侵攻して英軍と戦うとか、すごい話ではある。
最近の英国軍は、予算不足でほとんど機能していない。戦闘経験もない。対照的に、露軍はウクライナで長い戦闘経験を積んでいる。
実際にロシアと英国がエストニアで戦争するとなると、第三次世界大戦的な、予測不能な事態になる。
しかし、トランプの米国はのらくらと傍観する。NATOの5条は機能しない。米国抜きで、英国やカナダやドイツがロシアと戦争になる。
エストニアで戦争になったら、ラトビアのカナダ軍とリトアニアのドイツ軍はエストニアに移動するはず。違うか?。
戦闘経験がある露軍はひるまない。進軍に躊躇するとしたら、英独加の方だ。その時点でNATOの5条がゆらぐ。
(Are the Baltics safe? CIA director's Moscow trip raises more questions than answers)
ラトクリフ訪露前、8月14日に露軍がラトビアに無人機を侵入させ、ラトビア軍の戦闘機が発進して撃ち落とす事件や、8月24日にウクライナに無人機を供給しているエストニアの軍需工場で放火みたいな火事が起きている。
ロシアがバルト三国に対してNATO5条試しの侵攻につながりそうな複合戦争を激化したのを見て、トランプがラトクリフを訪露させ「そろそろやるのか。何するんだ。少し教えろ。協力するぞ」もしくは「こうやったらどうか」みたいな話をしに行った観はある。
(NATO Baltic Air Policing jets shoot down drone over Latvia)
ラトクリフ訪問は、ロシアが英国に対する敵視を強めたこととも同期している。英国は最近、対露攻撃用の長距離無人機の開発技術に関する軍事機密をウクライナに渡している。
ロシアはこれを、英国が対露戦争に参戦したとみなし、報復としてウクライナや英本国にある英国の軍事施設を破壊すると言い出した。この騒動は、ラトクリフが訪露した8月25日から激化している。
(Moscow Warns It Could Target British Military Facilities In Unprecedented Statement)
そのほか、今後ウクライナ戦争が拡大していきそうな国としてベラルーシがある。ベラルーシのルカシェンコ大統領は、ロシアの諜報力に頼って国内の野党潰しや自政権の安定化をやっている。ルカシェンコはプーチンの子分みたいな存在だ。
ベラルーシはウクライナの北隣にあり、ロシア軍がベラルーシに入ってウクライナを攻撃できれば便利だ。露軍はすでにベラルーシにいるが、時々ウクライナに無人機を飛ばすぐらいで、まだ露軍がベラルーシからウクライナを本格的に攻撃する事態になっていない。
(Russia continues pressuring Belarus to become more involved in war against Ukraine)
だが、ラトクリフの訪露後、8月26日にベラルーシが軍事訓練の強化などの戦争準備を開始した。8月28日にはルカシェンコが訪露してプーチンと話し合った。
米国側との諜報会談で、プーチンは、ベラルーシ駐留の露軍にウクライナを本格攻撃させ、ベラルーシを戦争に巻き込んでもかまわないと判断したのかもしれない。
地理的にロシア(本土)は、リトアニアやポーランドと直接に接していない。ベラルーシはリトアニアやポーランドと接している。
露軍がベラルーシに公然と入れるようになれば、露地上軍がリトアニアやポーランドに侵攻できる。飛び地のカリーニングラードとつなぐスバウキ回廊にも入れる。露軍はすでに核兵器(イスカンデル)をベラルーシにも配備している。
(Belarus Orders Surprise Military Readiness Check as CIA Chief Visits Moscow)
来年は、多くの欧州諸国で選挙がある。極右政党が議席を増やし、英国系エリート支配が崩れていく流れになる。プーチンやトランプが英国系による欧州支配を早く壊したければ、選挙の前にロシアとNATOが戦争状態に入り、NATOの5条が機能しないことを欧州市民たちに示すのが良い。
欧州の有権者たちは、NATOや米軍の助けなしに露軍と対峙する危険を実感し、ロシアが崩壊するまでウクライナ戦争を続けると言っている英国系エリートたちを支持するのをやめる。ロシアと対話する現実路線を好む極右政党への支持が増す。
それを考えると、今年中か来春までに、プーチンがウクライナ戦争のNATOへの拡大を試みる可能性がある。そのための打ち合わせとか様子を探る(もしくは、米国はNATO5条を無視するからやっちまいなよとプーチンを扇動する)ために、米国からラトクリフが訪露したのかもしれない。
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