トランプが作る新世界
2025年4月22日
田中 宇
トランプ米大統領の世界に対する戦略・策略の全容が、しだいに見えてきている。80年続いてきた米英覇権体制を崩し、世界を多極型に転換する計略だ。2000年ごろから隠然と続けられてきた多極化策のラストスパートをトランプが担っている。
地域別に見ると、欧州は、英欧を対露敗北させていくウクライナ戦争。中東は、イスラエルに覇権譲渡してアラブやイラン、トルコを従わせる。
(米国の中東覇権を継承するイスラエル)
(英欧だけに露敵視させる策略)
東亜(東アジア)や経済面は、高関税策で中国と貿易戦争して中国を反米非米化で奮い立たせ、中国がドル覇権を引き倒すように仕向け、ドル基軸が低下した後、米国と中国(などBRICS)で多極型の新通貨体制を作る「マーラゴ合意」を結ぶ。その一環で、これからパウエル連銀総裁を罷免する。
(Inside the Mar-A-Lago Accord)
(高関税策で米覇権を壊す)
アフリカは、米欧傘下からBRICS傘下に移転している。中南米やカナダは、多極型世界における米国極(南北米州)に属する諸国として再編されつつある(グリーンランドも)。
中央アジアは、ずっと前から中露の覇権下だ。東南アジアは、米国から中国の覇権下への移転を大体完了した。南アジアは、これまで覇権を求めなかった印度をモディが変身させ、印度を中心とした地域へと再編していく(これまでムスリムとヒンドゥーの対立を扇動してきた英国系はいなくなる)。
(トランプの米州主義)
(India speaks out on regime change in Bangladesh)
日韓や豪州NZは、独自の影響圏を形成しそうもないが、中国の覇権下に入るのも嫌だろう。中国も、韓国と北朝鮮なら傘下に入れてもいいが(朝鮮は昔から中国覇権=冊封下)、日豪NZは、中国覇権下に入るには大きすぎる。強すぎる。
(日本はもう、弱いふりする小役人ごっこをやめなよ、いい加減。ロシアを見習え。イスラエルの爪の垢を煎じて飲め。そう書いても、被洗脳が大好きな小役人には理解不能だろうけど)
(トランプの米州主義と日本)
米国は、ハワイやグアムまで持っているので、西太平洋も影響圏だ。しかし今後の米国は、日本や豪NZが従来型の対米従属を続けてぶら下がることを望まない。
米国は今後、カナダやグリーンランドを自国の一部として併合していく方向だ。日豪NZも、カナダと同様に米国領の一部になりたいかといえば、とても従属的な日本人でさえ、それを望まないだろう。拳銃だらけで、自己主張し続けねばならない米国社会に入りたい人は、それを日本に招くのでなく、米国に移住すれば良い。
(韓国戒厳令の裏読み)
米国は今後、メキシコ以南の中南米を、自国の覇権下で再編する(中南米は、それを嫌がって米国と別の極として自立するかもしれない。ブラジルはBRICSだし。パナマまで米国傘下、以南は自立とか)。
それは中共が、ラオスやカンボジアやミャンマーといった中共覇権下の諸国の面倒を見る続けるのと似た策になるのでないか。日豪NZも、中米やラオスやカンボジアやミャンマーみたいになれるかといえば、それも無理だ。日豪NZは、規模が大きすぎる。
(Trump Dismisses Claim That Musk Will Be Briefed On Potential War Plans With China)
今後しばらく、日豪NZなど西太平洋の諸国は、対米従属の度合いを薄めつつ、米国の影響圏内に残れるだろう。しかし長期的には、米国圏でも中共圏でもない西太平洋諸国のまとまりを作っていかねばならない。
日本と豪NZは遠いし、文明的にも全く違う。まとまれない。日本だけでハンチントン流の孤立文明として生きていくなら、孤立文明としての自覚を持てば良い。孤立文明でなく独自文明(漢字や箸は使ってるけど)。
さもないと、今後の多極型世界でショボい勢力になり、衰退が加速する。ほんと、日本は弱いふりを早くやめた方が良い。
(中国と和解して日豪亜を進める安倍の日本)
トランプは、パウエル連銀総裁を罷免する。トランプは数日前から急に、パウエルが無能だと非難し続けている。トランプは、パウエルを脅して服従させつつ続投させ、自分の策をやらせるつもりかもしれないが、続投させるならこんなに無能を非難しないはず。辞任させるつもりだろう。
トランプはパウエルに「利下げしろ」と加圧しているが、高インフレが続いているので利下げできない。「やらないなら解任だ」と言って辞めさせる。
トランプは、高関税策を皮切りに「ニクソンショック(金ドル交換停止)の生まれかわり」みたいな、ドルの基軸性を破壊する策をやり出している。ドルの為替が下がり続けている。ドルの究極のライバルである金地金が、どんどん高騰している。すでに、ドル覇権がぱっくりと割れ始めている。
(Trump & The Fate Of The Dollar)
中国などBRICSはウクライナ開戦後、ドルを使わない国際決済や、米国債でなく金地金で富を備蓄するなど、非ドル化しした新体制の準備を加速した。BRICSなど非米側は、非ドル化の準備がほぼできている。
そしてトランプが返り咲き、高関税策をやり出して、米経済覇権(英国系のグローバル市場体制)を壊し始めた。近いうちにドル崩壊が顕在化し、ドルの役割を大幅に縮小した新たな世界経済の体制について、トランプと(BRICSを代表する)習近平の間で話し合わねばならなくなる。
その交渉で形成されるのが、ドル切り下げなどの「マーラゴ合意(プラザ合意の転生)」だ。1985年のプラザ合意は、対米従属をやめたくない日独が米覇権を延命させて終わったが、次のマーラゴ合意は、中国などBRICSが米覇権を壊し、世界を多極型に転換する。
(Devaluing The US Dollar: How To Make America Poorer Again)
トランプは、パウエルを辞めさせ、後任の連銀総裁にマーラゴ合意の準備をやれる適任者を据えるつもりだろう。
「トランプは中央銀行の独立を侵害してる」って??。米民主党やマスコミとかのリベラル(英傀儡)が言いそう。いやいや、中央銀行の独立はずっと前から、地球温暖化人為説と同様の、権威ある人々が軽信を義務づけられた薄っぺらいウソですよ。
トランプのニクソンショック転生は、まだ始まったばかりだ。あらためて考える。
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