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終わりゆくEUやユーロ
2024年12月2日
田中 宇
政権崩壊したドイツ政界で、支持と議席を増やしている右派政党(マスコミ権威筋リベラル派から見ると「極右」)のAfD(ドイツのための選択肢)が11月末、ドイツがEUやユーロ、温暖化対策パリ協定から離脱し、対露制裁をやめてロシアから石油ガス資源類などの輸入を再開することなどを掲げた新公約を発表した。
1月の党大会で正式決定し、来年2月の連邦議会選挙の公約にする。AfDは、これまでの公約でもEUを批判していたが、離脱を掲げたのは初めてだ。欧州最大の経済大国で、EUやユーロの中心であるドイツが離脱すると、EUもユーロも崩壊してしまう。
(on{}Germany's far-right AfD to campaign to leave EU, euro and Paris deal)
(Germany's far-right AfD vows to part ways with EU, Paris deal, euro)
AfDは、ドイツが通貨としてユーロを使い続けることは、ドイツが(借金体質の南欧諸国を含む)EUを救済し続ける不合理なことなので、ユーロを離脱して新たな自国通貨(新マルク?)を作り、EUに替わる国家間共同体を作ると言っている。
温暖化問題については、温暖化人為説が政治圧力によって無誤謬な科学的合意だという話にされている(人為説は実のところ間違っている)ので、温暖化対策のパリ協定からドイツを離脱させると言っている。人為説が政治詐欺であるという話は、私から見ると全く正しい。
(欧米の自滅と多極化を招く温暖化対策)
米欧日のマスコミ権威筋リベラル派(米エリート側)から見ると、AfDは間違った考えを掲げる危険な極右であり、AfDの選挙公約も大間違いな危険思想だということになる。ドイツのエリート側の諸政党(SPDやCDUなど)は、AfDを非合法化しようとしている。
(The End Of Democracy? Vote To Ban AfD Party Will Occur Before German Snap Elections)
だが私から見ると、ウクライナ戦争(ロシア敵視)、中国敵視(貿易停止)、地球温暖化、移民問題、財政、以前の新型コロナ対策、覚醒運動(ジェンダーなどの歪曲・逆差別)など、いくつもの分野で大間違いで危険な策を強行し、反対する人々を潰す全体主義を強めてきたのはエリート側だ。
ドイツのAfDやBSW(ザーラワーゲンクネヒト同盟)は、エリート側の大間違いに気づいた有権者に支持され、議席を増やしている。
エリート側がAfDを非合法化しようとするほど、有権者の間でAfDの人気が高まる。AfDは、人々の不満を汲み取って政策化しており、民主主義的だ。大間違いな策を強行するエリート側は、AfDなど反対派を弾圧する全体主義に走ることで、権力にしがみつこうとしている。
(リベラル全体主義・リベ全の強まり)
AfDの方が正しく、エリート側は間違っており「悪」だ。EUはフォンデアライエンなど、全体主義化したリベラル派が上層部を支配し、露敵視や温暖化対策や移民問題、覚醒運動などで大間違いで自滅的な策をやり続けている。AfDとその支持者たちが、ドイツのEU離脱を望むのは当然だ。
ユーロは、AfDが政権を取る前に金融崩壊を引き起こすかもしれない。ユーロが健全な状態なら離脱は困難だが、崩壊するならむしろ離脱して当然だ。
ウクライナ戦争が米欧側の敗北で終わりそうな中で、ロシア敵視も不合理な策になっている。米欧側の敗色をわざと無視して報じず、米国側の人々を無知な状態にしたマスコミは極悪だ。
少し前まで「過激な策」に見えていたEUとユーロからの離脱、パリ協定離脱、対露和解などAfDの策は今後、まっとうな政策に見えるようになっていく。
(欧州エリート支配の崩壊)
ドイツの社会活動機関Bertelsmann StiftungがEU27か国の市民に聞いたところ、欧州は対米従属を離脱して自立的に安保政策を決めるべきだと思っている人が、2017年の25%から今年の63%に増加している。欧州の従来の支配層(リベラル派エリート)は対米従属でやってきたが、それは民意の多数派でなくなくっている。
(この世論調査で言うところの対米自立は「NATO内で欧州が米国と対等になり、欧州が米国から自立した安保政策を採れるようになること」を意味しているようだが、NATOにいる限り加盟諸国は徹底的な対米従属を強いられ、米国と対等などあり得ない。マスコミ権威筋によくあることだが、この設問は非現実的だ。欧州が対米自立するなら、NATOから出ていくしかない)
(Europeans prefer greater independence from the US)
(Most EU citizens back breaking from US - poll)
AfDだけでなく、フランスのルペン、ハンガリーのオルバン、スロバキアのフィツォなど、欧州各地で右派政党が支持を拡大している。最近は、ルーマニアの大統領選挙で右派のジョルジェスクが勝ちつつある(ロシアの選挙介入があったとか、米英傀儡のエリート層がイチャモンつけてるが)。
リベラル派のエリートは、権力にしがみつくために全体主義化し、不人気が増して駆逐されていく。フランスでは、マクロン傘下の連立政権に入った左翼政党がマクロンとの喧嘩を激化し、政府予算が成立せず政権崩壊していく流れにある。ドイツもフランスもエリートの政権が崩壊し、右派が強くなる。この傾向は今後も続く。
(Right-Wing NATO Critic Wins First Round Of Romanian Election)
(French Govt Collapse Imminent As Le Pen Piles On Pressure Over Budget Vote)
AfDの強気は、米国選挙のトランプ勝利も追い風になっている。社会の自滅や不合理な負担増になっているリベラルな移民受け入れ積極策をやめるとか、インチキな人為説に基づく不合理な温暖化対策をやめるなどの点で、トランプとAfD(や多の欧州諸国の右派)の政策は似ている。
トランプは人為説のインチキさに踏み込まずに石油ガス開発の再開を掲げているが、ドイツ人はくそまじめなので、AfDは人為説のインチキさからしっかり指摘している。良い。
(歪曲が軽信され続ける地球温暖化人為説)
トランプは、就任日にウクライナを停戦すると公約した。プーチンは、非米側の結束強化を維持するため、米国側から敵視され続けることをこっそり望んでいる。停戦したら、米国側と非米側の対立が解け、非米側の中で米欧との付き合いを再開したがる国が出てきて、非米側の結束が弱まる懸念がある。
だがプーチンは最近、トランプのウクライナ和平案を受けることにしたと言われている(ウクライナのNATO加盟を延期でなく永久否定にしろと条件を付けたとか)。
('Contours Of A Trump Peace Deal': Kremlin Insiders Discuss Putin's Initial Reaction)
これと連動する話として、ロシア軍は、ロシア領のクルスクを占領しているウクライナ軍を追い詰め始め、クルスクの土地の4割を奪還した。
ロシア政府は、ウクライナがクルスクを占領している限り停戦や和平交渉に応じないと言っていた。そして同時に、ロシア軍が本気を出せばクルスクはすぐ奪還できるのに、それをしてこなかった。ロシアはわざとウクライナにクルスクを占領させ、和平交渉を不可能にしてきた。
そのロシアが最近、クルスクからウクライナ軍を追い出していく過程を続けている。1月下旬のトランプ就任のころに、ちょうど露軍がクルスクからウクライナ軍を追い出し、プーチンが和平交渉に応じるかもしれない。
(Ukraine has lost over 40% of territory previously gained in Kursk incursion, Reuters reports)
(ウクライナ戦争で米・非米分裂を長引かせる)
だがウクライナ停戦してしまうと、非米側の結束が弱まり、プーチンの思惑から外れるのでないか??。それを考える際に、新たな動きとして、ドイツなど欧州各国で右派がリベラルエリートを蹴散らしていく過程が本格化していくことを加味すると。結論が違ってくる。
欧州が崩壊して政治経済の強さを失っていくと、非米側は、たとえウクライナが停戦して露中と欧州との関係が改善しても、もう欧州が魅力的な取引相手でないので、非米側の結束が崩れなくなる。
米国はトランプで、ドルの利用を忌避して米覇権を崩そうとする非米側に懲罰的な高関税をかけて制裁してやると息巻いている。ウクライナがどうなろうが、トランプと非米側(とくに中国)との関係は好転しない。
(How Trump’s dump on de-dollarization affects BRICS)
トランプは、ウクライナとロシアを仲裁して停戦するかもしれないが、同時に、欧州ではドイツもフランスも政権崩壊が進んでおり、欧州が米国と並ぶ世界の中心である状態から急速に遠ざかっている。
ウクライナが停戦しても、米欧は世界の中心に戻らない。トランプが非米諸国を経済制裁するほど、非米側は「米国要らず」の世界体制を構築していく。その全体状況を見て、プーチンはトランプのウクライナ和平策に乗ることにしたのでないか。
トランプは、ウクライナを停戦して停戦ラインをNATOの欧州諸国の軍勢が守る案を出している。だが、独仏が政権崩壊しているので、欧州諸国はウクライナに軍を出せる状況にない。
欧州のエリートは、ロシアを潰すまでウクライナを支援すると言ってきたが、その非現実な姿勢が国民の支持を失い、下野しつつある。エリートに替わって多数派になっていく右派政党は、対露和解して石油ガスの輸入を再開し、ゼレンスキーへの支援をやめる現実策を採っている。ウクライナは停戦しても不安定な状態が続く。
(Trump’s national security advisor pick reveals Ukraine peace vision)
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