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ウィキリークスの今後

2024年6月28日   田中 宇

機密情報を暴露するウィキリークスの創立者で、米政府から機密漏洩の罪で訴追され、英国で投獄されていた豪州国籍のジュリアン・アサンジが6月26日、米政府との司法取引により刑期満了で釈放され、14年ぶりに自由の身になって豪州に帰国した。
豪州の労働党政権が米国に釈放を求めて交渉してきたのが実った。豪政府が動かなければ、アサンジは英国から米国に送致され、終身刑にされていただろう。豪州が釈放を強く求めたため、米国は司法取引を認めた。
"Julian Is Free!" Assange Released After 'Time Served' Plea Deal With DOJ, Departs For Home

司法取引に沿って、アサンジは英国でいったん釈放され、匿名の支持者が出費した自家用ジェット機で豪州に近い米国領サイパン島に移動して米裁判所に出頭した。米裁判所はアサンジを機密漏洩で有罪にしたものの、刑期は英国ですでに満了している5年間と定めた。アサンジは有罪だが収監されず自由の身になり、その日のうちに豪州に帰国した。
Julian Assange has reached a plea deal with the U.S., allowing him to go free

豪政府は、アサンジの健康を心配し、人権重視の観点から米政府に釈放を求めたことになっている。民間のアサンジ支持者たちは、米国のスパイ防止法を、言論の自由に反する間違った法律だと非難し、アサンジの釈放を求めてきたが、豪政府は米スパイ防止法を批判していない。
外国で投獄されて健康を害している囚人は無数にいる。健康被害を理由に、他国で投獄されている自国民の釈放を豪政府が求めるのは無理がある。真の理由は健康問題でない。
Australian Lawmakers to Visit Washington to Lobby for Julian Assange’s Freedom

自由の身になったアサンジは今後、ウィキリークスの活動を再開するかもしれない。豪州自身を含む世界中の諜報界の機密が再びウィキリークスによって暴露されかねない。釈放は、理由がどうあれ、アサンジの健康維持の話をはるかに越え、世界的な諜報界の死活問題を再燃させる。豪政府は、それを認識したうえで米国にアサンジ釈放を求めたと考えられる。
US Ambassador to Australia Hints at Plea Deal for Julian Assange

ここまで書いて「ウィキリークスは2010年前後に諜報界にとって大きな脅威だったが、今はもう脅威でないかもしれない」と、横槍の自問自答が入った。2010年ごろは、米国側のマスコミにまだ健全さがあり、ウィキリークスが暴露した情報をマスコミが喧伝して大騒動に発展させた。
だがその後、米国側のエスタブの覇権低下や不利が増すとともに、エスタブの一部であるマスコミはどんどん不健全になり、歪曲や選択的な無視を頻発して自らの機能を低下させている。もうウィキリークスの味方でない。SNSやグーグルなどネット大手の多くも、マスコミと同様に腐っている。
Tears for Navalny. Assange? Not So Much.

またこの十数年、各国政府は、政府要員が義侠心などに駆られて機密を漏洩することを防ぐ体制を強化した。これからアサンジがウィキリークスを立て直して機密暴露を再活性化しても、マスコミやネット大手は無視や歪曲誹謗するだけで、暴露が注目されるのを防ぐだろう。
機密を漏洩して情報源になってくれる政府系の要員も減り、ウィキリークスのやり方はすでに時代遅れになっているのかもしれない。
だとしたら、豪政府はそこまで考え、アサンジ釈放を米国に求めたとも考えられる。アサンジは左派リベラルなどの有権者に人気なので、労働党政権がアサンジ釈放に尽力することは政権維持につながる。そういう浅薄な話かもしれない。
Report: Justice Department Considering Plea Deal for Assange

しかし、さらに考えると別の見方になる。エスタブ全体主義の強まりを批判したタッカー・カールソンが昨年FOXに解雇された後、自分のサイトを立ち上げて発信を続け、プーチンと単独会見したりして、むしろFOX時代よりも人々に注目されている。
人々の意外に多くが、マスコミやネット大手の多くが腐って歪曲だらけになったことを知っており、独自配信でも見に来てくれる。ウィキリークスはマスコミに頼る必要がない。
機密漏洩者への監視は強まっても、漏洩させたら爆発的に状況を転換しそうな機密情報自体は増えている。コロナ独裁の裏側とか。温暖化人為説の捏造とか。ウクライナ戦争をめぐる大ウソとか。金融当局のインチキとか。
ニセ現実だらけになった世界

近年の米国側は、左派リベラル勢力が全体主義の体制を作っている。ウィキリークスは以前、左派リベラルの政治信条が強かったようだが、そのままの信条に拘泥して活動を再活性化すると、身内の不利益を漏洩したがらず不発に終わる。
だがウィキリークスは2016年の米大統領選に際し、左派リベラルな米民主党本部とヒラリー陣営の不正行為を暴露し、エスタブ諜報界リベラルに喧嘩を売ったトランプを優勢にした。今後のウィキリークスもたぶん政治信条に拘泥しないだろう。
揺れる米欧同盟とロシア敵視

11月の米大統領選挙を考えると、アサンジの釈放は絶妙なタイミングで行われている。ウィキリークスが活動を再活性化すると、ちょうど選挙の前後にいろんな機密暴露を再開できる。
今の米国は民主党政権だから、政敵のトランプを不利にするためにアサンジを釈放したのか??。そうだとしても、現実はそうならない。トランプを不利にする案件は、すでに出尽くしている。トランプの不正行為は、事業家としての節税(脱税)と、スケベオヤジとしての不倫(と隠蔽)ぐらいで、それらはすべて裁判になって決着がつき、むしろトランプの人気上昇で終わっている。
トランプの有罪

その他は、ロシアのスパイ疑惑(ロシアゲート)とか、J6(連邦議事堂占拠事件)扇動疑惑とか、いずれも民主党による濡れ衣工作だ。これらの関連が機密暴露されたら、トランプでなく、謀略した民主党が不利になる。
民主党は敗北を防ぐため、これまでで最高の選挙不正を思い切りやりそうだが、その選挙不正もウィキリークスが暴露することが期待される。
バイデンの側近たちは隠れ多極主義的なので、アサンジ釈放も、トランプを不利にする機密を漏洩させるためと称して行われ、実際は民主党と米覇権を失墜させる流れになりそうだ。
'Do The Right Thing': Assange Supporters Urge As Biden Mulls Dropping Case

ウィキリークスがさかんに機密を暴露するので、米英欧は2010年ごろからアサンジに濡れ衣をかけて逮捕しようとした。後に冤罪と判明するスウェーデンでの強姦容疑で起訴されたアサンジは、逮捕を逃れるためにロンドンのエクアドル大使館に逃げ込んで亡命申請し、2012年から2019年まで同大使館に住んでウィキリークスの活動を続けたが、しだいに制限が増えた。
米国中枢では2017年のトランプ就任後、トランプと諜報界エスタブ側との対立が激化し、トランプ政権内は、スティーブ・バノンなど反エスタブな側近が排除され、ビル・バー司法長官など諜報界エスタブの側近が幅を利かせた。
トランプの苦戦

トランプ政権内のエスタブ側は、2019年にアサンジにスパイ防止法違反容疑をかけ、英政府を加圧してアサンジを逮捕させ、米国に送致させようした。トランプは、アサンジが米国に送致されたら大統領権限で恩赦し、それで自分の人気を高めるとともにエスタブ側の裏をかこうとした。
アサンジを米国に連行し民主党と戦わせるトランプ

英国は、トランプと諜報界エスタブの両方からアサンジの米国送致を加圧された。米国が加圧するほど、英国で政府批判のアサンジ支援運動が強まり、英政府は迷惑した。トランプは、不正に落選されられた任期末に英国への加圧を強め、2021年1月に英裁判所が送致却下の判決を出した。
英裁判所は判決の中で、アサンジが米国のスパイ防止法に違反したことを認定しつつ、米国に送致するとアサンジの健康が劇的に悪化しそうなので送致を却下したと言い訳した。今回の豪政府と同じ言い方だった。英国は、米国との関係悪化を防ぎつつ、トランプにアサンジを恩赦する人気取り策もやらせないため、この判決を出した。
'Brutal' US incarceration system key factor in judge denying extradition of Assange

バイデン就任後、米国は上告審で英国に再びアサンジ送致の加圧を強めた。英国は米国に屈し、2021年12月にアサンジ米送致を許可する判決を出した。だがその後も英政府は、アサンジを米国送致を先送りし、2022年5月に豪州で労働党のアルバニージー政権ができてアサンジ釈放を求め始めると、渡りに船でこの件を豪州に任せた。
FBI Fabrication Against Assange Falls Apart

英国の戦略は、常に米国と同じ立場を維持して良好な同盟関係を保ち、その親密性をテコに米中枢に入り込んで覇権運営を乗っ取り続けることだ。英国が、アサンジの米国送致を却下し続けたり、アサンジ釈放を希求すると、対米関係が悪化する。
しかし英国は、本音の部分でアサンジを米国に送りたくない。だから英国は、自分でやらず、豪州にアサンジの釈放を米国に要求し続けてもらい、釈放を実現した。経緯を見ていくと、豪州のアサンジ釈放要求には、英国も裏で加勢していたと感じられる。
Julian Assange should not be extradited to United States, Deputy Prime Minister Barnaby Joyce says

アサンジは、英豪の利益にとってプラスなのか??。英豪は、ウィキリークスが再び自分たちの諜報界の機密をバリバリ暴露することを望んでいるのか??。
そもそもここ数年、アサンジが投獄されて活動できなくなった後、他のハッカーたちがアサンジの事業を継いで積極的に機密を暴露するような展開になっていない。機密暴露はアサンジだけがやれる事業でなく、他のハッカーたちでもやれる。
実際は、他のハッカーたちは大して何もやらず、アサンジは投獄されて動けなくなり、彼だけが英雄視され、他の誰も機密暴露をやらない状況が続いてきた。アサンジが自由の身に戻り、今後ウィキリークスが機密の暴露をバリバリ再開するのかどうか。
Julian Assange's Extradition To US Formally Approved By UK Government

もし今後ウィキリークスが機密暴露を再開し、それが英豪の隠れた希望であるのなら、地政学的に全く新しい見方ができる。英国系の勢力は、これまで同盟相手だった米国が隠れ多極主義の道をどんどん進んでしまうので愛想を尽かし、むしろアサンジを釈放して米諜報界の機密を暴露させて弱体化し、英国系自身は、米覇権とも中露非米側とも違う、第三の勢力(世界の極の一つ)になろうとしているのでないか。
Australian PM ‘frustrated’ over ongoing imprisonment of Assange

今のように米覇権が隠れ多極派に乗っ取られたままだと、米国が英欧日の同盟諸国に自滅的な諸策を強要し続け、英欧日がどんどん自滅させられる。今の米国は、中露の隠れた味方であり、英国系にとって隠れた敵である。
米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化

(徹頭徹尾の対米従属のために、自国を意図的に無知無能の間抜けにしている策の日本には見たくない話だが、日本も潰れていく)
米国が昔のような良質な覇権国に戻ることはもうない。民主党もトランプも、別々な手法で覇権自滅をやり続ける。米英欧のマスコミは米国の傀儡であり、米国は隠れ多極主義化しているのだから、米傀儡のマスコミも隠れ多極主義的に米欧を自滅させていく方向で報道を展開し続ける。
自滅させられた欧州

自滅を防ぎたい英国系にとって、マスコミはもう頼りにならず、むしろ隠れた敵である。となると、頼りになるのは・・・。そう。獄中のアサンジを引っ張り出してくるしかない、という話になる。
ほんまかいな。一見、突拍子もない話だ。しかし、もし今後、ウィキリークスが再活性化し、米上層部のいろんな機密を暴露し始めたら、それは、諜報界の英国系が、隠れ多極主義化した米国を潰すため、がんばってウィキリークスに情報提供している可能性が強まる。
アサンジがこのまま老後の生活に入って活動を再開しないなら、今回の仮説は私の妄想になる。こうやって劇的に釈放された以上、アサンジは期待を裏切らず、ウィキリークスの機密暴露事業を再活性化すると私は予測している。




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