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朝鮮半島問題の解決には韓国の非米化が必要

2024年6月20日 田中 宇

ロシアのプーチン大統領が24年ぶりに北朝鮮を訪問し、北朝鮮が外国(米韓など)から軍事攻撃されたらロシアが助けに入ることを盛り込んだ同盟国並みの包括戦略条約を締結した。
ロシアが外国から攻撃されたら、北が助けに入る。すでに北は、この条約に沿う形で、米欧ウクライナから攻撃されているロシアを助けるため500万発の砲弾を送っている。
Putin & Kim Sign Pact Vowing Mutual Defense If Attacked
North Korea Reportedly Sending Shipments Of 5 Million Artillery Shells To Russia

朝鮮半島問題の解決といえば、これまでは、米韓の側が北を制裁・攻撃・飢餓拡大・反乱醸成して金家の政権を転覆して北を国家崩壊させ、崩壊した北を韓国が併合するシナリオが主力だった。
以前は、南北が協議して和解していく構想もあったが、この20年あまり、米国とその傀儡の韓日は北への敵視を強めたままで、北も米側からの敵視に呼応して核兵器やミサイルの開発を進め、和解策は不可能になっていた。
北が崩壊させられる前に韓国に侵攻して全破壊する朝鮮再戦争になるとか、南北が繁栄して解決されるのでなく、焼け野原の国家崩壊で解決(対立終結)の方向ばかりだった。崩壊や戦争にならぬよう、現状維持しているのがやっとだった。
御しがたい北朝鮮

そんな中に昨夏以来、ウクライナ戦争で米国側から徹底敵視されたプーチンのロシアが入ってきて、同じく米国側と戦っている北にぐんぐん接近した。昨夏以来、北はロシアに砲弾を送り(ロシアも北も兵器が旧ソ連の規格なので合致するらしい)、北がほしい軍事や産業用の技術をロシアが供与する協力関係が構築された。
北に対してはもともと中国が目立たないように経済支援を続けてきた。中国はこれまで米国に敵視されたくなかったので隠然と北を支援してきた。
ロシアは、中国と親密な関係にあり、北との関係強化は中国と相談して決めている。ロシアは、すでに米国から猛烈に敵視されているので、北と軍事条約を結んでも失うものがない。ロシアは、中国がやれない大胆な北との関係強化を、中国に代わってリスクを取って進めた。
露朝の接近を中国が懸念しているというマスコミの解説は、中露関係を誤読する間違いだ。
ロシアと北朝鮮の接近

ロシアが北と軍事条約を結んだことで、米韓は北を軍事力で倒すことができなくなった。北と戦争したらロシアが出てくる。
米国はウクライナにおいて、ロシアと直接交戦することを避けている。米露が交戦したら核戦争に発展しうるからだ。米国は、ウクライナでロシアと直接戦争せず、ウクライナに兵器を渡して代理戦争させるばかりだから、米国は北朝鮮でもロシアと直接戦争しない。
今後も南北の小競り合い的な交戦はあるだろうが、それは本格戦争に発展せず、露軍は出てこない。プーチン訪朝の前日にも、北朝鮮軍が軍事分界線を越える挑発行為を行い、南北が交戦している。
Live Fire Incident: Casualties Reported After North Korean Soldiers Cross Military Demarcation Line

米韓はもう北と本格戦争できない。米国側は、もう北を軍事的に倒せない。加えて、米国側は経済面でも北を倒せなくなった。ロシアは、国連安保理が決議してきた北への経済制裁を否定し始めている。
安保理の北制裁は、昨年までロシア自身が賛成してきた。ロシアは、昨夏に北朝鮮との関係を緊密化した後、安保理の北制裁に反対するようになり、今年3月の北制裁の延長決議案に拒否権を発動して潰した。
非米側の防人になった北朝鮮

ロシアは、米国主導の北制裁を大っぴらに無視して、軍事・鉱業など各種産業・食糧など多方面で北との経済関係を強化している。ロシアが風穴を開けてくれたおかげで、中国など他の非米諸国は、北朝鮮との貿易を拡大しやすくなった。
米国側がいくら北を制裁しても、非米側は無視して北と貿易する。世界経済に占める割合は、米国側よりも非米側がどんどん大きくなっている。北はもう経済崩壊しない。
プーチンが訪朝して北と戦略条約を結んだことで、北はもう米国側に潰されず、国家として存続し続けることが確定した。北は1990年前後の冷戦終結以降、約35年ぶりに国家崩壊の可能性がほぼゼロに戻った。北がプーチンの訪朝を大歓迎したのは当然だ。
北朝鮮とロシア

プーチンは、なぜ北朝鮮を強化したのか。ウクライナ戦争での砲弾不足を補うために北が作る砲弾がほしかったからか??。違う。ウクライナ戦争で露軍は、余裕たっぷりに勝ったままの状態を続けている。緒戦以来、露軍の苦戦を報じる米国側のマスコミは、米諜報界のウソ情報の垂れ流しだ。
北がロシアに送った砲弾は500万発といわれ、ロシアが年間に製造する砲弾は300万発と比べて確かに大量だ。しかし、露軍は砲弾不足でない。北の砲弾供給はロシアにとって、外交的にうれしいが、軍事的にはさほどでない。(米欧は合計で年間120万発しか作っていない)
Russia Producing 3 Times More Shells Than US, Europe Combined

ならばプーチンは、北に米韓を攻撃させて朝鮮半島を戦争に陥らせ、米軍の戦力をアジアに散らしてウクライナ戦争を優勢にしたいのか??。それも違う。朝鮮半島の戦争は、多極型世界におけるロシアの兄貴分である中国が好まない。兄貴分の中国は、ロシアの戦略に対して口出しできる。
しかもプーチンは、ウクライナ戦争を拮抗状態で長びかせたい。長引くほど、米国側と非米側の分断が長引き、露中BRICSなど非米側が結束して、米覇権システムの外部に経済政治の非米・多極型の世界システムを作り、米覇権に取って代われるようになる。
ウクライナ戦争で、ロシアは今すでに十分に優勢で、むしろ米欧ウクライナ側が劣勢すぎて停戦を希望しかねないのでプーチンは懸念している(ゼレンスキーに頑張ってもらいたい)。
米覇権潰しを宣言した中露

私が見るところプーチンは、北朝鮮と同盟を結んで強化し、戦争や制裁では朝鮮半島問題を解決できない状態にして、交渉相手である韓国を米国から引き剥がして非米側に転向させていく戦略のように見える。
韓国は、米国側にいる限り北を敵視するしかないが、非米側に転じれば、中露の仲裁で北と和解できる。それは、習近平が望むことでもある。
米国は、北朝鮮や中露との和解を全く考えていない。米国は、覇権を自滅させているのに無視して単独覇権主義に固執し、朝鮮半島でもウクライナでも、同盟諸国に中露敵視を強要している。
韓国は、米国側にいる限り、北と和解することを許されない。米国にいわれるままに北を敵視し続けるしかない。それで北を潰せるのならやり甲斐があるが、ロシアが北を守る体制を敷いた以上、もう北は潰れない。
Putin’s North Korea Visit ‘Directly Challenges US Regional Clout’

米国は韓国に、北を敵視し続けろと強要するくせに、米国自身は北の後見役になったロシアと戦争する気がない。韓国は、米国が露中側と対立する際の「使い捨ての戦士」にされる。この状況は、ウクライナが置かれている立場に似ている。
米国の覇権はどんどん弱まっている。米国の同盟国であり続けることは、北や中露との対立を無意味に高めるばかりで、韓国の国益にならなくなっている。韓国の安全を保障してくれるはずの米国が、韓国の安全を阻害している。これは欧州や日本に関しても言える。
Are International Institutions Viable in the Future World Order?

韓国が非米側に転向し、中露の仲裁で北との対話を始めると、朝鮮半島は少しずつ和解に向かっていく。対立する中国と印度が一緒にBRICSに入っていることに象徴されるように、非米側は対立を止揚していく世界システムになっている。
米国が扇動したサウジとイランの対立を、習近平が和解に転じさせたのも象徴的だ。韓国が非米側に転じると、それだけで朝鮮半島は緊張緩和していく。
非米側が作る新世界秩序

韓国が非米側に転換するには、在韓米軍の撤退が必要だ。次の米大統領がトランプになったら、日韓の安保タダ乗り論を展開して米国の方から在韓と在日の米軍を撤退していく可能性があり、韓国の非米側への自然な転向があり得る。
以前のように、北朝鮮が孤立していた状況下では、在韓米軍の撤退が北朝鮮軍の南侵を誘発する懸念があったが、今後の北朝鮮は安保的にロシア(中露)の傘下なので、韓国と中露が水面下で交渉すれば、北がおとなしくしたまま在韓米軍の撤退を実現できる。
最大の問題はむしろ米国の妨害だろう。しかし、米国は覇権が衰退し続けている。今後どこかの時点で在韓米軍は撤退し、韓国が非米側に転向し、中露の仲裁で韓国と北朝鮮が和解する。
Putin In North Korea, Solidifies Anti-West Cooperation With Kim

韓国が非米側に転向しても、日本は米国側に残って対米従属を続ける。日本が自発的に対米自立する見通しは、今のところほとんどゼロだ。いずれ米国がドル崩壊して経済覇権が崩れ、米国の傘下にいる経済利得が失われても、日本は対米自立の選択肢をわざと見ないようにして、対米従属を続けたがる(悲観的すぎるかも)。
欧州では、ウクライナ戦争が長引くほど、欧州の敗北・政治混乱と経済的な苦境がひどくなり、EU内でNATOの対米従属の体制から自立すべきだという声が強まる。いずれ訪れるウクライナ戦争の終結は、EUの対米自立・欧米同盟(NATO)の解体を引き起こす(楽観的すぎるかも)。
その場合、独仏を中心とするEUは、米国から離れて非米側の一員になる。英国だけは(米国を牛耳りたいので)米国側に残る(イスラエルは非米側に転じる)。太平洋側では、豪州とNZ、日本が米国側に残る。それとカナダ。米国側は、米英加豪NZ日に縮小する。他の諸国はすべて非米側になる。多極型世界が出現する。これは、一つの試論でしかないが。
世界経済を中国の傘下に付け替える

北朝鮮がロシアの傘下に入って強化され、北朝鮮を軍事的に倒すシナリオが潰えていく流れの中で、米国は日韓との軍事同盟をことさら強調し、日韓は米国の軍事同盟(軍事牢獄)から出られなないように拘束されている。
プーチンの訪朝前、岸田首相が訪朝する構想が持ち上がった。だが岸田は、米国や、日本国内の米傀儡勢力から妨害されて訪朝を延期し、その間にプーチンが準備して訪朝と北の強化を実現してしまった。
北は今後再び岸田の訪朝を提案してくるかもしれない。日朝と南北が同時並行的に緊張緩和し、日米韓よりも日中韓が重要になっていく。楽観論だとそうなるが、そんな流れを米国が黙認するのかどうか。
Malaysia moving to join BRICS

東南アジアでは、マレーシアが中国にBRICS加盟を申請した。プーチンは北朝鮮の後にベトナムを訪問し、ベトナム政府は米国からの非難を跳ねのけてプーチンを歓迎した。ベトナムは、中国に対抗するためにロシアに接近したのではない。プーチンは、中国の影響圏を奪うために訪越したのでない。中越間は過去の対立もあってぎくしゃくしがちだが、そこにロシアが入ることでうまく仲裁できる。だからプーチンが訪越した。
マレーシアやベトナムのASEAN諸国は米国と親密だが、立ち位置としては非米側だ。だから、BRICS加盟やプーチン招待を自由にやれる。世界非米化の恩恵を最大限に享受できる。
日本や韓国は違う。米国に縛られ、何もできない。全く不自由だ。米国との安保は、自国を安全でなく危険にする体制だ。日韓にとっても、欧州にとっても。マスコミはそんな現状を意図的に無視し、BRICSやプーチンを過小評価するばかり。ほとんどの人は軽信者。馬鹿である。
Washington's Sharp Rebuke Of Vietnam For Hosting Putin Later This Week Was Ridiculous



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