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ロシアと北朝鮮の接近
2023年9月9日
田中 宇
ロシアが北朝鮮に接近している。9月9-13日にロシア極東のウラジオストクで行われる東方経済フォーラムにプーチン大統領がやってきて、そこで北朝鮮から訪露した金正恩と4年ぶりに会談する話が出ている。
(Kim Jong-un and Putin Plan to Meet in Russia to Discuss Weapons)
ロシアと中国は、定期開催している合同軍事演習に北朝鮮を入れて3か国の演習にすることも検討している。中露朝の合同演習が定期化したら、これまで軍事的に孤立していた北朝鮮が中露の後ろ盾を得ることになり、極東の安保体制の劇的な転換になる。
(Russia, China & North Korea To Launch Trilateral War Games)
北朝鮮は核兵器を搭載できる潜水艦を開発したと発表した。本当に使い物になるのか怪しいという指摘が韓国政府などから出ている。しかし、ロシアが協力すれば、北の潜水艦や核兵器の技術が改善され、北の軍事力が大幅に強化されうる。
(North Korea Launch Of New "Tactical Nuclear Attack" Submarine Met With Skepticism)
(All you need to know about North Korea’s new nuclear-armed submarine)
ロシアと北朝鮮の接近は、7月末にロシアのショイグ国防相が北朝鮮を訪問した時から感じられたが、あのとき金正恩はショイグを案内して北の核搭載可能な弾道ミサイルの展示を見せている。
中露は、北に核兵器開発を禁じる国連安保理決議に賛成しており、それまで北は訪朝した中露の代表団に自国の核兵器関連の展示を見せないようにしてきた。
(Kim Jong-Un Shows Off 'Banned' Missile Arsenal To Russian Defense Chief Shoigu)
ショイグが7月の訪朝時に北の核関連兵器の展示を見て、それが世界に報じられたことからは、ロシアが北に対して核保有を容認する示唆をしたことが感じられる。
同時期に訪朝した中共の代表団を率いた李鴻忠・政治局員は、北の核関連兵器を見たと報じられていない。北の核保有を容認するロシアと、容認しない中国の間に齟齬がある、中露は対北政策で分裂していると米国側で分析されている。だが、これは中露の役割分担の本質を見ていない間違いだ。
(Russia’s Shoigu to join Chinese officials in North Korea visit)
(Can North Korea play off Russia against China?)
ウクライナ開戦後、中国とロシアは同じ世界戦略を共有しつつ、ロシアはより過激な形で米国側と対立する外交演技を展開する一方、中国は米国側との対立を避ける穏便役を演じている。
すでに米国側と戦争状態にあるロシアは、過激に対立しても失うものがない。ロシアは、中国がとりたくない外交リスクをとることで中国に恩を売り、石油ガスなどをたくさん買ってもらえる。BRICSでも南アなどは、ロシアを敬遠しても中国とは仲が良い。中露の役割分担は奏功している
(Russia to develop ties with North Korea regardless of what other countries think - Kremlin)
ロシアは過激な「鉄砲玉」、中国は穏便にやろうとする親分という演じ分けは、北朝鮮のほか、アフリカや中東でも展開されている。
中露は、先に中東アフリカでやって成功した演じ分けを、7月のショイグ訪朝以降、北朝鮮でも始めた感じだ。中露は、北朝鮮を非米側の仲間に加えた。
(Russian embassy in Pyongyang rotates diplomatic, technical staff for first time since 2019)
中露は、北朝鮮の核保有を隠然と容認した観がある(顕然とやると国連決議違反になる)。その上で、ロシアは北を軍事的に支援し始めている。ウクライナ開戦後、ロシアは北から武器弾薬を輸入し、北の経済をテコ入れしている。
北はロシアに感謝し、ウクライナから分離独立したドンバスをいち早く国家承認し、ドンバスに北の労働者を送り込んで国家再建の建設事業に協力すると表明した(ドンバスは、北朝鮮とシリアという、ロシアにお世話になっている2か国とロシアしか国家承認していない)。
(Why is North Korea aiming to strengthen ties with Russia?)
ロシアは、シリアやアフリカ諸国に対してやって成功している、軍事支援と経済関係・貿易投資が入り混じった関係強化策を、北朝鮮に対しても展開している。
北朝鮮はもともとソ連が作った国であり、二国間関係の基盤はあるが、今のロシアの対北戦略はウクライナ開戦後の新しいものだ。これは中露が決めた世界戦略の一環であり、中国はロシアのやり方を承認している。
(Russia, North Korea 'Actively Advancing' Arms Deal For Ukraine War: White House)
(アフリカの非米化とロシア)
今回の事態になるまで中露は北と距離を置いており、北朝鮮は孤立状態で米国側と対峙してきた。北は、米国を困らせて交渉の場に引っ張り出して支援させるために、核兵器や弾道ミサイルを開発し、一触即発の軍事行動を展開し続けてきた。
米国は本質的に北と関係改善する気がなく、むしろ北との軍事対立を恒久化して日韓を傀儡にしておく策をとっていた。日韓も米国の傀儡が心地よかったので北との対立維持を望んだ。北も軍部優位の政体なのでそれで良かった。これで70年が過ぎた。
(On Korea, Joe Biden Is Choosing Every Bad Option)
ところがプーチン(中露)は今、北朝鮮を味方・事実上の軍事同盟相手として認めて積極的に軍事支援を増加し、核保有も容認して、北が米国側に対して軍事的な抑止力をつけてしまうことをやっている。
北が抑止力をつけているのに、北と米国側は、相互に一触即発の好戦的な態度をとり続けている。対応を間違えると、70年間の朝鮮戦争の停戦状態が外れて大戦争になりかねない。
しかし、プーチンは「朝鮮半島と北東アジアの安定と安全を確保するために、ロシアは北朝鮮との関係を改善している」と言っている。マスコミと軽信者たちは「プーチンがまたウソを言っている」と思うだろうが、私はそう思わない。
(Developing Russia-North Korea ties in line with ensuring regional security - Putin)
ロシアが北朝鮮を軍事支援することで、米国側は、抑止力が増した北に対して軍事挑発しにくくなり、中長期的に緊張緩和していくことになる。
北が弱い状態だと、米韓日は軍事的な現状維持を目的として北との対立を扇動し続けられたが、北が強くなると、本物の戦争になりやすく、挑発策のリスクが高くなりすぎる。
(Russia Threatens To Give North Korea Advanced Weapons If Seoul Arms Ukraine)
とくに、戦場になったら国家的な全破壊になる韓国は、中露に仲介してもらって北との和解が必要になる。中露朝と和解したい韓国と、敵視し続けたい米国との乖離がひどくなる。米国は(隠れ多極派が牛耳っているので)覇権崩壊しても中露朝への敵視をやめず、韓国は中露に頼る傾向を強める。
ロシアが北を強化することによる軍事バランスの変化は、中長期的に、プーチンが言う通り、朝鮮半島の緊張緩和につながっていく。
とくに、きたるべき米国の金融崩壊が起きた後は、米国の軍事力が低下し、韓国も日本も中露と和解せざるを得なくなり、中露の仲介で日韓が北と和解する流れになる。
(China, Russia accuse US at UN of stoking N.Korea tensions)
▼これまでの流れ
ウクライナ開戦まで、ロシアも中国も、北朝鮮に核兵器を廃絶させようとする米国の動きに賛同し、北から距離を置いていた。中国は北朝鮮の経済崩壊を防ぐため、目立たないように北を経済支援し続けていたが、ロシアは冷戦後、北と疎遠になる時期が続いた。
プーチンと金正恩は2019年4月にもウラジオで会談したが、この時はプーチンが北朝鮮に核廃棄させようとする米国(トランプ政権)に協力し、ロシアが米朝和解を取り持つ動きだった。結局、米国は北敵視を解かず、北は核を廃棄しても見返りが少ないので動きは頓挫した。
(2019 North Korea–Russia summit - Wikipedia)
その後、米国が誘発したウクライナ開戦で米露対立が激化し、世界の構造が大転換した。かつて米国に狙われた国々は潰されていたが、ロシアは米国側から思い切り経済制裁されても経済崩壊せず、資源類を非米側に輸出してむしろ発展した。軍事的にもロシアは優勢を維持した。
中国はロシアと結束して世界を非米化する動きを加速し、中露・非米側と米国側の対立が決定的になった。サウジなどの参加で非米側は世界の資源類の大半を確保し、米国側が持つ主要資産は金融バブルだけになり、米国側が経済崩壊していき非米側が世界の中心になる流れが確定した。
(新しい世界体制の立ち上がり)
米国側を自滅させるウクライナ戦争が長期化し、中露が勝ち組、米国側が負け組になる構図が定着している。中露はもう米国に気兼ねする必要がなくなった。
その上で北朝鮮の問題を見てみると、悪の根源は北の好戦性や核武装でなく、米国が北を敵視して潰そうとしている点だというのがわかる。米国側の北敵視が減れば、北は好戦性や核兵器を引っ込める(ひけらかさず穏便に隠匿する)。
(Putin & Kim As Leaders Of World's "Most Sanctioned Countries" Pledge Deeper Ties Against "Hostile" US)
中露が北に味方して、米国が北を潰そうとしたら中露がそれを阻止する姿勢を見せ、中露が北の後ろ盾になれば、米国は北を潰せなくなる。米国は、北が孤立している状態なら敵視して潰そうとするが、中露が後ろ盾だと敵視しても潰せない。
米国は、中露と直接戦争しない。国連P5同士は戦争しない。(米政府やNATOは繰り返し、ウクライナは米NATOとロシアの直接の戦争でないと言い続けている。台湾に関しても、米国は一つの中国の原則を堅持し続け、米中の直接戦争を避けている)
ウクライナ開戦前、中露は米国に気兼ねして北を積極支援しなかった。だがウクライナ開戦後、中露は米国と決定的に対立したまま世界を動かし続けられることを確認した。中露は米国に気兼ねしなくなり、大っぴらに北を積極支援し、中露が北に事実上の安全保障を与え始めた。米国の北敵視は無効になった。
(South Korea asks for Russia and China’s help)
中露が北の核兵器保有を黙認していることを「悪」だと騒ぎ立てる人がいるかもしれない。だがそういう人は、米国が印パやイスラエルの核保有を黙認して軍事支援していることをわざと見ていない偽善者である。
北朝鮮が核保有したのは、米国が北を潰そうとする過激策を続けたからだ。北の核保有は「自衛策」である。
(Peace on Korean Peninsula possible only without US pressure)
いったん核兵器を持った国は、加圧・制裁されても核を破棄しない。加圧されて作りかけの核を放棄したリビアのカダフィが殺され、国を恒久内戦にされたことを、米に敵視された諸国はみんな知っている。
米国側の人々は、北が敵だから、北の核保有を極悪・脅威だという。北が友好国なら、核保有も脅威でない。中露は、北を非米側の仲間として引き入れたので、北の核保有が脅威でなくなり、黙認した。
北の核保有問題は、北の核廃棄でなく、日韓が北と和解して核保有を黙認する形で終わる。北だけ核を持つ状態が嫌だと思う韓国人は、韓国も核兵器を持つべきだと言い出している。
(South Korea Threatens May Seek Its Own Nukes For First Time)
今後しばらくは、米覇権の崩壊が(報じられないので)顕在化せず、ロシアによる北の軍事強化も過小評価され、北と米国側との一触即発の対立劇が続く。
しかし、その間に北は強化され、中露が世界経済を非米化する流れが進み、最終的な米国の金融と覇権の崩壊になる。気がつくと日韓は米国に頼れなくなっており、中露朝と和解する方向に転換する。
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