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中露と米国の大戦代替
2023年8月24日
田中 宇
8月23日、南アフリカでBRICSサミットが開かれ、中印などだけでなくアフリカ諸国の指導者たちが集まっている最中に、アフリカでのロシアの影響力拡大に深く関与していたロシアの傭兵団(民兵団)ワグネルの頭目エフゲニー・プリゴジンが乗っていたとされる自家用ジェット機がモスクワ北方を飛行中にミサイル攻撃され墜落した。
ワグネルの軍事面のトップだった露諜報界のドミトリー・ウトキンも搭乗者リストにあった。プリゴジンらの生死は確定していないが、墜落死した場合、ワグネルの損失は大きい。
(Prigozhin plane crash: What we know so far)
最近、米ウクライナ側がモスクワを無人機やミサイルで攻撃する頻度が高まっており、プリゴジンのジェット機も米ウクライナ側に狙い撃ちされたのだろう。米露大戦に近い状況が続いている。ワグネルをめぐってはいろんな目くらましがあり、プーチンがプリゴジンを暗殺したと言ってる人は目くらましに騙されている。
(ロシアでなく欧州を潰してる)
BRICSサミットでは、習近平が参加しているものの、演説する予定だった23日のフォーラムを欠席した。演説は同行した中国の大臣が代読した。習近平は暗殺される懸念があり、それでフォーラムを欠席したのでないか。
南アフリカは親米的な国でもあり、米英諜報界が入り込んでいる。国内の治安が改善せず、政府当局が管理できていない地域がヨハネスブルグにもある。習近平がウクライナ開戦後に訪問した外国は、地続きの味方であるロシアだけだ。ほとんど外国に行かない習近平を米国側が殺そうと思ったら、南アでのサミットは好機だ。
(BRICS新通貨登場でどうなるか)
今の中国の覇権活動は習近平個人が動かしており、習近平が死ねば中国の覇権活動は大幅に低下し、中国が主導するBRICSも無意味になり、米覇権は倒されない(自滅するが)。プーチンは、習近平の覇権活動における「武闘派」の子分だ。今の世界の中心・黒幕・親分は習近平だ。彼を殺す意味は大きい。
米国側のマスコミ権威筋は、BRICSは大したものでなく、米覇権に脅威になるほどの存在でないと高をくくったことを言っている。実際はそうでない。中露の謀略により、BRICSはサウジアラビアやイラン、インドネシアといった資源大国を新規加盟させ、世界の資源利権の大半を把握していく。
(ほかに中南米の2か国目としてアルゼンチン、アフリカの2か国目としてエジプトもしくはナイジェリアもしくはアルジェリアが新規加盟しそう)
(The 'Earthquake' Starts Today)
今の世界経済は「消費」が最重要だが、これから世界の消費大国になっていく諸国はすべてBRICS・非米側だ。世界的な製造業の中心も中国になっている。購買力平価で見ると、すでにG7よりBRICSの方が大きい。今後の世界の実体経済は非米側が握り、米国側にはいずれ崩壊する金融バブルしか残っていない。
(Putin: Russia Among World's Top Five Economies, Overtakes Germany)
ウクライナ開戦後に中露がBRICSなど非米側を率いて展開していることは、世界経済の中心を米国側から非米側に移す「覇権転換」であり、米国にとってとても危険な動きだ。BRICSは大したものでないと高をくくっている場合でない。
それなのに米国側のマスコミ権威筋は、2000年に中露が上海協力機構を作り、今に続く非米側の動きが始まった時から、それらの動きを軽視・無視し続けてきた。米国では、非米側の動きを研究する研究者を冷遇する(隠れ多極主義的な)動きすらあった。覇権転換が間近に感じられる今になっても、まだ無視軽視だ。
(De-dollarization "Irreversible" - Putin Tells BRICS Summit In Remote Address)
米国は表向きBRICSを無視軽視なのだが、多様な勢力が混在する米諜報界には、習近平やプーチンを殺したがる勢力もいるだろう。中露首脳を殺すには、治安の悪い親米の国である南アでのBRICSサミットが良い。
ヨハネスブルグにのこのこやってきた習近平が経済フォーラムで演説中に射殺される。米国側にとって劇的で素晴らしい「覇権防衛戦」になる。習近平はそれを回避した。
(Xi Arrives In South Africa With A Message Urging BRICS To Become Geopolitical Rival To G7)
ロシアのプーチンはBRICSサミットに来ず、画面での参加だ。プーチンは米国側からICCに戦犯として訴追されており(それもウクライナの子供たちを拉致したという全くの濡れ衣で)、開催国の南アが米国側に配慮してプーチンに画面参加を求めたという話になっている。
これも、もしプーチンがヨハネスブルグに来ていたら米国側に暗殺される可能性があった。ICCの件は南アが訪問時にプーチンを逮捕しないと約束すればいいだけの話なので、訴追よりも暗殺の懸念の方が大きい感じもする。
結果的には習近平もプーチンも殺されず、実際に殺されたのは、目くらましまみれのプーチンの忠臣であるプリゴジンたちだけだった(それもまだ不確定だが)。
(ロシアでワグネル反乱の意味)
習近平のフォーラム欠席は違う理由かもしれず、どうでもいい話という感じもする。それなのに私がこれを書いているのは、現状が、中露と米国の「世界大戦」に相当する果たし合い・大きな対立になっている感じがするからだ。
中露と米国の果たし合いなら、米国側が習近平やプーチンを殺す陰謀を立てるのはむしろ当然だ。私には今回のBRICSサミットが、第2次大戦終了時の「ヤルタ会談」に匹敵する「覇権争奪戦後の新しい世界体制を宣言する会合(の1回目)」に感じられる。
(The Rise Of The BRICS)
習近平は、閣僚に代読させたフォーラムの演説の中で「中国は、歴史の正しい側にしっかりと立っている」と述べた。今の世界対立において、中国が「正しい側」ならば、米国や日欧は「間違った側」に立っている。そう。中国は第2次大戦でも、対日ゲリラ戦の功績を認められて戦勝国に入れてもらい「歴史の正しい側」にいた。日本やドイツは今回も前回も「歴史の間違った側」に立ってしまっている。間抜け。
(China ‘on the right side of history’ – Xi)
米国側のマスコミ権威筋は、自分たちこそ自由市場で民主主義で恒久繁栄する「正しい側」であり、中露など非米側は独裁で権威主義でいずれ滅びる「間違った側」だと喧伝している。だが実際はすでに書いたように、今後の世界経済の繁栄の中心は中露など非米側であり、米国側は金融バブルの崩壊寸前だ。
米国は選挙不正が連続し、バイデン家の腐敗もすごいのに、それらの報道すら抑止される全体主義国だ。米国側は、正しくないことを正しいと歪曲し、それを認めない人を偽情報屋として弾圧する不正が拡大しつつ衰退している。前にワクチン強制した豪州では、今回も偽情報屋を取り締まる法律を検討中だ。豪加はトンデモ諸国。中国は今回も歴史の正しい側にいる。日本は今回も間違った側にいる。
(Australia's Misinfo Bill Paves Way For Soviet-Style Censorship)
英国から覇権を譲渡されていた米国は、日独を打ち負かし、ヤルタ会談で中ソと和合して多極型の世界秩序を作ろうとした。だがその後、英国(諜報界)が冷戦を起こして中ソを敵に仕立て、米国の中枢を英国系(軍産)が乗っ取って冷戦体制を恒久化した。
レーガンらが冷戦を終わらせると同時に、米英は債券金融システムで覇権を維持する策に転換したが、それも20年後のリーマン危機で崩壊し始め、同時に非米側の結束が進んでBRICSが出てきた。
米国は前回、自国が中ソと英仏の両方をしたがえて多極型の世界体制を作ろうとしたが英国に潰され、米国自身が英国の傀儡にさせられた。
そのため今回は、米国が英国を引き連れてイラク戦争や政権転覆やコロナ愚策や温暖化対策と称する自滅策をやりまくり、ウクライナ戦争を誘発して中露を結束させて米国抜きで覇権運営させる隠れ多極主義を推進し、成功している。米国の隠れ多極主義の一つの到達点が、今回のBRICSサミットである。
(米覇権ゾンビの裏で非米側が新世界を構築)
前回の覇権転換の試みには2度の世界大戦が伴い、何千万人もの人が死んだ。あれは犠牲が多すぎた。大戦を再発したら核戦争になる。だから、今回の覇権転換は世界大戦を伴っていない。
今回は、ウクライナ戦争という局地戦だけで、覇権転換を進めている。事前に新型コロナの超愚策を引き起こし、米欧経済を破綻させるとともに、中国の習近平独裁を強化する「下準備」もやった。温暖化対策を強行して米国側にエネルギー利権を自滅的に放棄させる策も「大戦代替」だ。
(コロナ危機は世界大戦の代わり)
米政府はウクライナ戦争で50万人が死んだと概算を発表したが、そんなに死んでない。その1割の5万人以下でないか。死者の大半はウクライナ軍の兵士だ。ウクライナ戦争は、今の低強度のまま来年にかけて膠着が続く。大戦代替として効率が良い。
(Frozen Frontlines Loom: Ukrainian Officer Predicts Standstill as Winter Approaches)
日本も、中露と一緒に非米側に入ったら発展できるのに、と思う。韓国もそうだ。しかし、日韓とも米国にがんじがらめに支配され、洗脳されているので無理だ。うまくやろうとした安倍晋三は米国系に殺され、米傀儡のマスコミ権威筋から自業自得だと中傷された。米傀儡は極悪だ。しかし、日本など米同盟諸国は極悪な米傀儡に支配されたまま、自滅させられている。
(日米韓豪の中国敵視は茶番から自滅に)
(EU doesn’t know how to not be a vassal of the US anymore)
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