中間選挙で米国が変わる?2022年11月8日 田中 宇米国の連邦議会は、11月8日の中間選挙で、多数派が上下院とも、これまでの与党民主党から、野党の共和党に転換しそうだ(結果の確定は数日後かそれ以降になる)。2020年の大統領選のように、民主党が選挙不正をやったとしても、選挙結果を覆せないほどの差になっている(共和党系の分析者たちは、民主党が支配するいくつかの州で選挙不正をやりそうだと予測している)。大統領が民主党のバイデンで、議会多数派が共和党だと、ねじれ現象になり、多くのことが決まらない状態になる。だが、それによって米国の何かが大きく変わりそうかというと、今のところそのようには見えない。 (Midterm Red Alert: Expect the Steal in These Dem-Run States) ("It's Not Looking Good" - Martin Armstrong Warns There May Not Be A 2024 Election) たとえば、主な政策論争の一つに、メキシコから米国に入ってくる違法移民の扱いがある。中南米からの違法移民の多くは米国で民主党を支持するので、民主党は違法移民を野放しにしてどんどん入れたい。共和党はそれに反対している。米政界がねじれ現象になると、議会が共和党主導で違法移民の流入への規制を強化する法案が可決されるかもしれないが、それはバイデンが署名を拒否して葬り去られる。 (All You Need to Know About 2022 US Midterm Elections) (Joe Biden just told us exactly how he's going to steal this election and Tucker exposed it... full Tucker roundup...) 民主党内はかつてビル・クリントンが率いた中道派が強かったが、今は弱体化し、代わりに今の民主党を握るのは左派(極左)勢力だ。この傾向はバイデンの2年間で強まった。左派は警察を敵視し、民主党が州政府を握る全米各州で警察への予算配分を減らした。そのため米国の治安はこの2年間で劇的に悪化した。治安の悪化に不満をつのらせ、民主党への支持を捨てて共和党に投票する人が増えたので、今回の中間選挙で共和党が議会両院を取りそうになっている。中間選挙は州知事選も行われるが、これまで民主党の牙城だったいくつかの州が共和党に転換しそうだ。共和党主導で全米の警察の建て直しが図られそうだが、左派が握る民主党はそれを全力で阻止する。いったん悪化した治安はなかなか元に戻らない。米国の治安は今後しばらくひどい状態が続く。 (No one knows what’s going on with the most important US election issue) (Democrats 'Fearful' Over Where 'Momentum Is Going' In Midterm Elections: Former Press Secretary) バイデン政権はインフレ対策に失敗して米国の物価が高騰したので民主党への支持が減っている。だが、共和党が対策を作ってもインフレはおさまらない。インフレを沈静化するには、世界の資源類の大半を握るロシアなど非米側への敵視をやめることと、米諜報界が意図的にやった流通網の詰まりを解除していくことが必要だが、ロシアや中国への敵視は共和党内でも強い。流通網の詰まりを解除するのは不可能に近い。インフレは今後も続く。 (Republicans Will Sweep Both House And Senate: Stifel) 米連銀は中間選挙前に(お門違いな)インフレ対策として利上げをしたが、利上げは米国の金融バブルを崩壊させかねない。中間選挙前に米金融が崩壊したらまずいので、米連銀は同時に金融界に残っているQE資金を投入し、相場を高騰(メルトアップ)させた。この手のテコ入れは、中間選挙後に減るはずだ。年内に金融崩壊するとしたらこれからだ。来年まで持ちそうな感じもするが。 (With Recession And Mass Layoffs Imminent, Dems Throw Fed's Powell Under-The-Bus For "Risking Millions Of Livelihoods") 米議会多数派を共和党が握ることで、米国からウクライナへの軍事支援が大幅減額される可能性がある。中間選挙後に起こりうる最大の変化はこれかもしれない。しかしこれも今のところ決定的でない。共和党では、トランプ前大統領が主導する右派の愛国ポピュリズム運動(米国第一主義、MAGA)が主力の勢力になっているが、その前の主流派だった軍産複合体や金持ち(ブッシュ家など)からなる中道保守派の議員がまだ多く残っている。トランプ派は、ウクライナへの支援を打ち切り、ウクライナに譲歩を強いてロシアと和解させたいと考えているが、軍産派はロシア敵視とウクライナ支援を続けたいと考えている。トランプ派は急拡大しているが、中間選挙後に米議会の共和党議員団の何割がトランプ派になるか不明だ。上院は中間選挙で3分の1しか改選しないのでまだ軍産派が多い。 (Are Republicans really poised to put brakes on Ukraine aid?) トランプ派が米議会でウクライナ支援打ち切りの法案を出しても、共和党内の軍産派は賛成しない。民主党内では、下院に30人ほどいる反戦派がウクライナとロシアを和解させたがっており、彼らはもしかすると条件付きで共和党のトランプ派のウクライナ支援打ち切り法案に賛成するかもしれないが、その場合でも、ウクライナ支援打ち切りへの賛成議員は上下院とも過半数にならないだろう。かつては左翼=反戦という図式があったが、今や民主党を牛耳る左翼はロシアを戦争で潰さねばならないと考えている好戦派で、ウクライナに軍事支援して人殺しや戦争犯罪・対露濡れ衣かけを過激にやっている軍産そのものだ。(日本でも左翼は、戦争プロパガンダを信じ込み、「反戦」」を捨てて中国ロシアを敵視するうっかり傀儡の間抜けな好戦派になっている)。 (If they win, MAGA Republicans will push to abandon Ukraine and harm U.S. security.) (Under pressure, progressives retract call for diplomacy in Ukraine) 米民主党内に残っている反戦派は力がなく、バイデンを説得しようとした決議を撤回させられている。共和党もまだ軍産系が多い。そのため、米国からウクライナに対する支援は、減るかもしれないが止められずに続く。共和党議員団の過半数がトランプ派になるのは今回でなく、次の2024年の総選挙(大統領選+議会選挙)の時でないか。 (Analysis: U.S. Republicans aim at Ukraine aid but unlikely to block it) 私はそう考えているが、共和党議員の中には議席維持のために政策を軍産派からトランプ派に鞍替えする者もいそうだ。トランプ派の伸長は意外に速いかもしれない。米議会では、民主党が共和党軍産派を誘って、新しい議会が来年正月に発足するより前の、改選前の勢力図が残っている今年中に、ウクライナへの追加支援法案を駆け込みで可決してしまおうとする動きがある。今回の中間選挙で、共和党議員の過半数がトランプ派になってしまう可能性があるので民主党や軍産が焦っている。 (With GOP skeptics of Ukraine aid poised to gain seats in Congress, lawmakers look to lock in a huge military assistance package) トランプ派の共和党議員たちは、勢力が拡大した後の来年の米議会で、米国からウクライナに送られた軍事支援の兵器や資金の半分以上が(ウクライナ政府幹部による着服や、国際犯罪組織への兵器転売などによって)行方不明になっている件について精査すると言っている。この精査・捜査がちゃんと進むと、ウクライナ戦争にまつわる米欧政府の壮大な不正が発覚する。トランプ派は正しいことをやっている。それなのにマスコミ権威筋はトランプ派を危険分子のレッテルを貼って攻撃している。マスコミ権威筋自身がウクライナの不正に加担しているので、不正を暴露しようとするトランプ派を攻撃している。米国では共和党支持者の多くが、すでに(NYタイムスやCNNなど民主党系の)マスコミを信用していない。 (Ukraine ‘won’t get a penny’ if Republicans win Congress - Trump ally) いずれ(2025年?)トランプ派が米議会と大統領府を握ると、米国はウクライナを支援しなくなる。現在、ウクライナへの支援のほとんどが米国からきている。いずれそれが失われる。ウクライナはロシアとポーランドに分割されて終わる。独仏など西欧諸国のエリート支配の政府は、米国から加圧され、民意の反対を無視してロシア敵視とウクライナ支援を強行してきたが、いずれ米国にはしごを外され、ロシア敵視を継続できなくなる。(ハンガリーやセルビアなどを除く)欧州の多くの国とEUで、国民が政府を信用しなくなり、エリート支配が崩れ、右派ポピュリストの政権に替わる。 (EU自滅の行方) 今回の中間選挙でトランプ派が共和党の過半数をとれなくても、米議会の大きな勢力になることは間違いない。トランプ派の議員が議会の調査機能を使い、これまで不問に付されてきたウクライナ支援をめぐる不正(既述)や、(ランド・ポール上院議員らが調査してきた)新型コロナをめぐる数々の不正や超愚策、地球温暖化問題のインチキ構図などを暴いていく可能性が高まる。米議会は政策決定の機関であるだけでなく、世界有数の調査機能を持っている。軍産系は米諜報界(隠然独裁)の一部だが、それと敵対する位置にあるトランプ派が議会の調査機能を握り、米諜報界の軍産系と対決していく。これぞ民主主義、という感じだ。 (Rand Paul Vows To Introduce Bill To Stop Government And Big Tech Colluding To Censor Speech) (Rand Paul says U.S. botched covid. He could soon lead probes of it) 米議会と並んで大転換が始まっているのが、ネット大企業が握るSNSの言論界だ。共和党トランプ派を応援し始めたイーロン・マスクが、民主党左翼(軍産マスコミ系)が握ってきたツイッターを買収して乗っ取り、社内にいる左翼の幹部や社員を大量解雇したことが転換開始の象徴だ。ツイッターは2006年の設立当初から、イランなど反米非米諸国で反政府プロパガンダを流布して政権転覆することを目的の一つとしており、本社にはそのための部署(人権チームなど)もあり、民主党の左翼がその部署を担当してきた。ツイッターを乗っ取ったマスクは、その部署を潰し、要員を解雇した。1990年後半から30年近く続いてきた米国(軍産マスコミ)の政権転覆戦略に風穴が開き始めた。テスラ株で世界一の資産を持つイーロン・マスクは、巨額資金を使って壮大な「正義の遊び」を展開している。面白い。 (左派覇権主義と右派ポピュリズムが戦う米国) (The Twitter Massacre) (Why Is The Left So Afraid Of Twitter?) 軍産マスコミ左翼は、トランプ派やマスクの動きに対して危機感と誹謗中傷を強めている。プーチンとトランプとマスクは、軍産系から同じ種類の攻撃・悪のレッテル貼りを受けている。米国人の半分と、日本人のほとんどが、軍産のプロパガンダを軽信している。しかし同時に、ネット言論界ではマスク傘下の新生ツイッターが、米政界ではトランプ派の議員らが力を強め、軍産マスコミによるウソや歪曲を暴露する反撃を開始している。軽信し、うっかり傀儡のゾンビになっている米欧日の人々は、いずれ気づくのだろうか。わからない。永久にゾンビで、マスク(イーロンでなく不織布の)を平然とし続け、百害あって一利なしのワクチンを打ち続けるのかもしれない。自業自得なのだから好きにすれば良い。 (Elon Musk promises ‘most accurate source of information on Earth’) (Tucker Carlson Explains Why Democrats Must Rely On Censorship To Maintain Political Viability) 米国は自主独立の精神風土が強いので、他人に頼る左翼の構図になじまない。米民主党は、左傾化するほど支持が減り、自滅していく。しかし民主党は政権をとっているので、自滅しつつも米国を治安や経済の面で猛然と破壊している。左傾化した民主党が米国と米覇権を自滅させ、自らも壊れていく。民主党の左傾化を扇動しているのは米諜報界を牛耳る多極派だろう。以前に米諜報界の主流派だった軍産を過激化・稚拙化して自滅させたのも彼らだ。米国と対照的に、日本は他人のことを異様に気にする(気に病む)左翼的な社会風土だ。権威を軽信する傾向も強く、軍産傀儡ゾンビから抜け出すのが難しい。 (Almost 8 Out Of 10 Americans Say Things Are "Out Of Control"; New Poll Finds)
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