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トランプ再選への裏街道〈3〉

2020年11月18日   田中 宇

米国の大統領選挙をめぐる状況は依然として、バイデン勝利を確信する民主党やマスコミ権威筋と、トランプ勝利を確信する共和党とに分裂している。マスコミはバイデン勝利を確定的に報じているが、トランプ側は共和党が強い結束を保っている限り、以前の記事で書いた米憲法修正12条に沿って当選を得られる。 (トランプ再選への裏街道) (Alan Dershowitz Predicts Trump Will Win Pennsylvania Lawsuit

接戦州の一つペンシルバニアでは、投票日より後に到着した郵送票(バイデン票が大半)を有効とした州政府の決定を、連邦最高裁が不当であると判断した。これで、選挙人20人分が覆る可能性が出てきた。全米29州の353の選挙区で、有権者登録をした人数が、その地区の有権者人口の総数を上回っており、死者の登録や二重登録などの不正や錯誤があった可能性があるとの指摘も出ている。 (Rudy Giuliani claims 650,000 votes were counted unlawfully in Philadelphia and Pittsburgh) (New Judicial Watch analysis finds 353 counties in 29 states with voter registration over 100%

トランプ陣営は、2000年選挙から問題になっていたコンピューター方式のドミニオン投票機で不正が行われたとも言い出している。ミシガン州の投票機でトランプに入れたつもりがバイデンに入っていたという、民主党によるシステム不正と疑われる事案が発覚している。この投票機は30州で使われているため、トランプ陣営は、他の州でも同様の不正が行われたのでないかと言っている。広範な不正が発覚・確定しなくても、共和党側がそう確信して、マスコミがバイデン勝利を宣言したいくつかの接戦州で、トランプ勝利を決める選挙人会議を開いて当選証書を連邦議会に送れば、上院議長のペンス副大統領がトランプの当選を決めてくれる。ワシントンDCでは、百万人がトランプ支持の集会を開いた。共和党の結束は固くなってきた。 (Big chunk of the steal was done by the Dominion voting systems) (BLM/Antifa Thugs Attack Trump Supporters, Including Children, After D.C. "Million MAGA March"

大統領選と同時に行われた連邦議会選挙は、下院で民主党が多数派を維持したものの、共和党との差が縮まった。上院では、すでに共和党が半分の50議席を獲得している。残っているのはジョージア州の2議席で、これは1月5日に決選投票が行われて決まる。もし2議席とも民主党が取ると、両党の議席は50対50になる。上院議長は副大統領だから、誰が大統領になるかで、上院の多数派が変わってくる。マスコミ権威筋はバイデン勝利の確定を軽信しているので「ジョージア州の上院2議席を民主党がとれば、連邦議会はの上下院と大統領府のすべてを民主党が取る画期的な事態になる」と興奮している。民主党左派は「今こそ2大政党制を破壊し、選挙人制も廃止して直接選挙制にして、民主党政権を長期化すべきだ」と主張し始めている。 (Michael Moore Urges Biden To Embrace Socialism, Eliminate Electoral College) (The Democrats Are Aiming for a One-Party Government

しかし私が見るところ、バイデンでなくトランプが続投する可能性が裏で日に日に高まっている。トランプが続投したら、上院の多数派は共和党のままだ。選挙前と同様、民主党は下院だけだ。共和党の強気勢力(ギングリッチ元下院議長)は「民主党で左翼が強まると、穏健な民主党支持者が離反し、2022年の中間選挙で民主党は下院の多数派も失うぞ。長期政権は共和党だよ」と揶揄している。どっちがすべてを取るのか、オセロの終盤戦みたいだ。 (Gingrich: Dems Will Get “Wiped Out” in 2022 Election if Pelosi and Biden Prove Overly Radical) (Who Owns the Future? Dems or GOP?

トランプは先日「バイデンは不正をやって勝利した」とツイートした。すると民主党系のマスコミなどがすかさず「トランプがバイデンの勝利、つまり自分の敗北を認めたぞ。事実を受け入れざるを得なくなってきたんだ。バンザイ!」みたいな反応をした。しかし良く考えるとトランプは「バイデンは不正をやらなければ敗北したのに、不正をやって勝ったことにした」という意味のことをツイートしたのであって、トランプのツイートを事実として受け入れてしまうと、それは「バイデンの正当な勝利」でなく「バイデンの不正行為」を認めたことになる。マスコミなど民主党系は「トランプよ、バイデンは不正などしていないぞ!」と反応すべきだったが、不正は無視すればなかったことにできると思っているのか「勝利」にだけ反応した。トランプは説明不足だったと思ったのか「バイデンが勝ったと言っているのはマスコミだけだ」と追加ツイートした。 (Trump seems to acknowledge Biden win, but he won’t concede) (86% Of Trump Voters Say Biden 'Did Not Legitimately Win' Election

こうしたやり取りからは、双方が自分たちの勝利(民主党側は自分らの不正が露呈・公式化しないこと)に自信を持っていることがうかがえる。トランプ政権は側近たちも自信ありげで、ポンペオ国務長官が「(トランプ政権は)円滑に2期目に入っていくだろう」と言い、報道官は「勝利は確定的だ」と言っている。双方が自信を持っているので、新たに起きる出来事も、意味づけがトランプ側と民主党マスコミ側で大幅に食い違っている。たとえばトランプが最近、エスパー国防長官ら国防総省の上層部を辞任させ、世界中から米軍を撤退させたいトランプと同じ姿勢である忠臣のクリストファーミラー・テロ対策センター所長を長官代行に昇格させた人事についてだ。 (New Pentagon Top Adviser Wants US Troops Out Of Syria "Immediately") (Kayleigh McEnany claims Trump will ‘attend his own inauguration’ on 20 January 2021

民主党マスコミ側は「トランプは国防総省のトップを入れ替え、来年1月20日の任期末までに駆け込みでアフガニスタン、イラク、シリアなどから米軍を急いで撤退させようとしている。そんなことをしてもバイデンが大統領になれば、すぐに撤兵を中止して米軍を元に戻すので心配ない」と言っている。たしかに、バイデン政権になると、とりあえず米軍の世界撤退は中止だ(民主党内で左翼と中道派軍産との政争が激化し、左翼が優勢になってハリス副大統領がバイデンをしのぐ力を持ったりすると、左からの世界撤兵が始まるかもしれないが)。 (Biden Expected To Reverse Trump's Germany Troop Draw-Down) (Military Expecting Order For Troop Drawdowns In Iraq And Afghanistan

対照的に、トランプが続投すると、全速力での世界からの米軍撤退がそのまま続く。ドイツや韓国からの駐留米軍の撤退も、バイデンは中止すると言っているが、トランプはどんどん進める。在韓米軍の撤退に着手したら、次は在日米軍の撤退の話も出てくる。トランプの続投になった時点で、すべての同盟諸国が米軍の撤退を覚悟せねばならなくなる。今の時点でトランプが国防総省の上層部を入れ替えて猛然と世界撤兵を開始し、それを軍産民主党側が「トランプはどうせ辞めるのだから放っておけ」と高をくくって放置していると、憲法修正12条などを使ってトランプが続投を決めた場合、世界撤兵を食い止められず、大変なことになる。これまで、誰がやっても不可能だった日本などからの米軍撤退という「絶対に覆らないオセロの石」がひっくり返っていく。 (Trump’s Pentagon Shake-Up Could Lead To Troop Withdrawals) (Acting SecDef Signals Troop Withdrawal In Memo: ‘It’s Time To Come Home’

そんなことはあり得ない、と思っている人が多いだろう。しかし世界を見ると「マスコミの解説」がないのでわからないだけで、すでに「覆るはずがないオセロの石の転覆」が起きている。それはたとえば、コーカサスのナゴルノカラバフだ。ナゴルノカラバフは、国際社会がアゼルバイジャンに帰属すべきと認めた地域だが、ソ連が崩壊してアゼルバイジャンやアルメニアが独立国になった直後から、軍事外交力が強いアルメニアがナゴルノカラバフを占領し続けてきた。ところが今年9月、弱かったアゼルバイジャンがトルコの支援を受けてナゴルノカラバフに進軍し、いくつかの街をアルメニアから奪還した。ロシアが仲裁し、アルメニアが譲歩し、アゼルバイジャンが一部を奪還した状態で先日停戦した。アルメニア人の強硬派は、譲歩した自国政府に対して激怒し、首相暗殺未遂事件まで起きている。なぜ強いはずのアルメニアが譲歩したのか。 (2020 Nagorno-Karabakh war) (CIA And MI6 Behind Armenian–Azerbaijani Conflict?

それは、これまでアルメニアは外交諜報軍事面で米イスラエルに隠然と支援されており、米国の世界撤退により、後ろ盾を失ったアルメニアが弱くなったからだ。エルドアンのトルコはアルメニアの弱体化を見て取り、同じトルコ系のアゼルバイジャンを軍事支援してナゴルノカラバフの一部をアルメニアから奪還させた。「影響圏の再拡大=オスマントルコの再生」はエルドアンの目標であり、彼の政治力の源泉だ。 (Erdogan dealt strong hand against Putin in Azerbaijan-Armenia war) (近現代の終わりとトルコの転換

トルコは、反イスラム的な米欧イスラエルから「アルメニア人虐殺」の歴史的誇張(「人道上の罪」の濡れ衣)を延々と着せられてきた。アルメニアは、イスラエルから入れ知恵され、ホロコーストを真似たアルメニア人虐殺問題を、在米アルメニア人団体が在米ユダヤ人団体のちからをかりて米政界にゴリ押しし、米イスラエルがアルメニアを隠然支援する構図が冷戦終結後に形成された。ナゴルノカラバフ紛争は米イスラエル・軍産や英国にとって、ロシアとトルコとイラン、中央アジアと中東と東欧にまたがるユーラシア内部に恒久的な地域紛争を植え付ける地政学的な支配戦略の一つだった(似たような植え付け型の恒久紛争としてクルド問題がある)。イスラエルはアゼルバイジャンにも兵器類を売ってきた。イスラエルで西岸入植者が国政や外交を牛耳っているように、ナゴルノカラバフの出身者はアルメニア政界でかなりの力を持っていた(パレスチナ問題自体、イスラエルが英米に背負わされた植え付け型の恒久紛争だ)。 (戦争とマスコミ) (移民大国アメリカを実感する

子ブッシュ政権以来の覇権の自滅、そして極めつけは覇権放棄屋のトランプによって、米国はこの地域から隠然と退却し、イスラエルの影響力も減退した。トルコはエルドアンになって欧米傘下から抜け出して勝手に覇権拡大の試行錯誤を始めた。アルメニア政府は昨年から、米国の覇権衰退を見て、急いでナゴルノカラバフを「占領地」でなく「自国固有の領土」に転換しようとした(この動きもイスラエルと同じだ)。だが、隠れ多極主義化する米国から阻止されたらしく間に合わず、そのうちにトルコが、傘下のアルカイダ系の北シリアの民兵団を引き連れてアゼルバイジャンをテコ入れし、進軍・奪還に動き出した。米国は傍観するだけだ。そこにプーチンが含み笑いしつつやってきて「仲裁しても良いけど、どうする?」。アルメニアはプーチンに頼って停戦するしかなかった。 (What’s Turkey’s role in the Nagorno-Karabakh conflict?

プーチンは、エルドアンを説得して紛争の激化を止め、アルメニアにも譲歩させて停戦した。エルドアンは事前にプーチンに「侵攻するけど、その後の仲裁者として顔を立ててあげるから許してね」と通告してあったのでないか。2人は仲が良い。2人は国際政治家として地域で名を挙げ、米イスラエルの力の低下と多極化も確定した。アルメニア人虐殺は、ホロコーストや南京大虐殺といった誇張された「人道上の罪」の仲間たちと一緒に、しだいに歴史の忘却の中に入っていく(忘れる「べきでない」と力説する方々も、ご一緒に彼方へ)。 (Putin calls for Turkish involvement in Nagorno-Karabakh talks) (War in Nagorno-Karabakh Is a Gamechanger in Russian-Turkish Relations

目に見える「米軍駐留」だけが米国の世界支配ではない。今回のナゴルノカラバフの逆転劇は、米国の世界からの撤退の一形態として起きている。米国の覇権・世界支配の終わり、総撤退が隠然・顕然の両面で進んでいく。トランプが続投すると、経済面の米中分離を進め、中国側が実体経済で強くなり、米国側はますます中銀群のQE(造幣)による金融財政バブルの膨張だけに依存するようになる。実体経済の裏づけが減り続けるバブル膨張は、いずれ劇的に崩壊していく。トランプの続投は、米国覇権の放棄・自滅的衰退と多極化を進める。 (Why Trump Will Likely Win a Second Term

万が一バイデンが大統領になると、世界からの軍事諜報外交的な撤退をやめて米国覇権を維持しようとするだろう。表向き、バイデン政権はトランプと逆方向の覇権蘇生を試みる。だが実のところ、バイデン政権になると、別の面で米国覇権の自滅になる。その一つは、政権の左傾化により、QEの造幣のみを原資としたUBI(ユニバーサル・ベーシックインカム)=全国民への生活費の継続的な支給策の開始だ。UBIの裏側には、コロナ危機の扇動と都市閉鎖の拡大・恒久化によって経済を意図的に自滅させていくことがある。欧州はすでにコロナ危機の先導と都市閉鎖によって経済を自滅させる道に入っている。バイデンの米国も、その道に入る。 (The National Urging Plan: Biden Appears To Downgrade His Mask Pledge From A “Mandate” To An “Urging”) (Squad On The Attack: Tlaib Says She Won’t 'Be Silent,' AOC Says It's Time To 'Take Our Gloves Off'

これは、完全雇用システムが行き詰まったのでQE利用のUBIのシステムに転換するのだというエリートの世界戦略だとも言われているが、原資のQE依存はいずれ破綻するので自滅の道であり、その意味で隠れ多極主義的である。中国の傘下に入る日本や韓国は、同盟諸国だが、こうした自滅の道を強要されていない。バイデンは、マスク着用義務化や言論統制、ネット規制の強化もやりたい。全くリベラルではない。トランプとバイデンのどちらになっても、米国は覇権を自滅させていく。 (Biden Covid advisor says U.S. lockdown of 4 to 6 weeks could control pandemic and revive economy) (If you think online censorship is bad now, it will get far worse if Joe Biden is installed

米国はどんどん無茶苦茶になっていくが、株価だけは史上最高値だ。QEの資金が入っているからだ。誰が大統領になっても、この傾向はしばらく続く。QEをやれなくなるまで続く。QEを続けるほどドルの覇権は低下する。だからビットコインなど民間仮想通貨が値上がりしている。しかし、QEの資金を使えばビットコインなどドルのライバルと目される資産群の価値を引き下げて潰しておける。金地金はその対象になっているので、上昇を抑制されている。ビットコインは今のところ上昇を放置されている。ビットコインは金地金への「当て馬」だ。金地金を買っている投資家を失望させてビットコインに鞍替えさせることで、ドルの究極のライバルである金地金の上昇抑止を長期化するQE側の策略かもしれない。 (ビットコインと金地金の戦い



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