決定不能になっていく米国2020年10月21日 田中 宇米国の大統領選挙は、2016年の前回選挙と同様、投票日まで2週間となった今、もともと民主党が優勢になるように設定してある大手の世論調査における民主党とバイデンの優勢が減退し、これまでバイデンが勝つに決まっていると言っていた権威筋が、意外に接戦だと言い出している。4年前と同じ、権威筋にとって自滅的なシナリオが再演されているのが滑稽だ。ここにきて「多くの専門家は、前からバイデン優勢の世論調査を疑っていた」という分析も出てきた。バイデンの息子ハンターが中国やウクライナから贈賄されていた話が、今はくすぶっている状態だが、投票日直前に燃え上がるかもしれない。 (Trump Vs Biden: The Race Tightens, "Suddenly Looks Like 2016") (Here's 3 Reasons Why Very Few Experts Trust The National Polls Showing Biden With A Huge Lead) 投票後の混乱や未決状態も必至になってきた。WSJとNBCの調査によると、バイデン支持者の47%は郵送で投票し、対照的に、トランプ支持者の66%は直接投票所に行って投票する。郵送投票は開票に時間がかかるし正確な集計がやりにくく、不正が起こりやすいという理由で、トランプや共和党は郵送投票に反対してきた。共和党が強いテキサスなどは、直接投票が中心で、理由がないと郵送投票できない決まりにしてある。対照的に、民主党が強い西海岸などの諸州は、コロナ危機を理由に郵送投票を中心にしている。中立的な諸州は、有権者が郵送投票と直接投票のどちらでも選べるようになっている。 (Biden Supporters More Likely Than Trump’s to Vote by Mail, Poll Shows) (47% Of Biden Supporters Will Vote By Mail; 86%<多分66%の間違い> Of Trump Votes Will Be In Person) すでに全米で2千万票近くが郵送投票されているが、その多くは11月3日に直接投票が終わるまで開票を開始できない規則だ。郵送投票は多くの州で、直接投票日の1週間前に締め切られるが、1週間ではすべての票を開票所に集められないと、配達を担当する米国の郵便公社が言っている。投票日に選挙結果が判明しない可能性が80%だという予測も出ている。配達遅延だけなら数日だが、ほかにも遅延の要素が出てきそうだ。開票開始後、最初にトランプの票が伸び、それを受けてトランプが早々と勝利宣言するかもしれないが、その後、郵送分のバイデンの票が伸びてくる。各所で開票が混乱し、なかなか結論が出ない。双方が相手の不正を指摘し始める。最終的にトランプが勝ったとしても、左派を中心に民主党はトランプの勝利を認めず、大都市などで反トランプの暴動が続く・・・、といったシナリオが考えられる。米国の選挙は決定不能な状態を生みそうだ。 (Traders Rattled After Morgan Stanley Sees 80% Odds Result Won't Be Determined On Election Night) (US 2020: Postal service warns of delays in mail-in vote count) 選挙で米国の政界地図がどう変わるかわからないのに「従来のような、米国が覇権戦略を超党派で決める体制をとれなくなる」「その結果、米国の世界戦略の一貫性や合理性が低下し、外交力=覇権が失われる」といった、気の早い見通し記事もシンクタンクから出ている。記事の内容は曖昧で「別の理由」がああでもないこうでもないと書いてあるだけだが、こういうものは題名の衝撃が売りだ。今冬のダボス会議のテーマ「大リセット」も「世界の政治体制の大リセット(米国覇権が崩れて多極型に転換すること)」を指すとしか思えないのだが、中身を見ていくと環境保護や性差別解消などのリセットが列挙してあり、エスタブはこうやって話をごまかすのかと勉強になる(笑)。 (The Bankruptcy Of ‘Bipartisan Foreign Policy’) (The Dangerous Decline of U.S. Diplomacy) (近づく世界の大リセット) 超党派で重要政策を決められると、2大政党制は「2党独裁」になる。米国の覇権維持には、この2党独裁の体制が必要だ。2大政党が談合せず本気で対立するようになると政策が決まらず、米国の覇権も維持できなくなる。トランプは就任後まず2大政党のエスタブ支配と対立し、共和党の中枢からエスタブ勢力を追い出してトランプ党に転換した。民主党の方も隠れトランプ系の別働隊である左派勢力が、中枢のエスタブ勢力に戦いを挑んでいる。米国が前のような超党派体制に戻るには、大統領選でバイデンが勝ってトランプ系が全崩壊し、共和党がトランプ系を追い出してエスタブ支配に戻ることが必要だ。民主党が左派に乗っ取られずエスタブ支配が維持されることも必要だ。いずれも、この4年間の米政界の流れと逆だ。意外な大逆流が起きない限り、旧来の2党独裁に戻れない。米国は覇権戦略を決める体制を失う。ここでも決定不能がひどくなる。 (隠れ支持者がトランプを再選させる) (米民主党の自滅でトランプ再選へ) トランプが再選され、その余波で民主党内でエスタブと左派の内紛が激化して党内の統合が崩れると、エスタブによる2党独裁の体制がますます崩れる。民主党の左翼は従来、覇権について何も言ってこなかったが、世界的に左翼の建前は「反覇権」であり、左翼が民主党の実権を握ると、トランプを非難しつつ、トランプ的な覇権放棄に賛成し始めるかもしれない(たとえば左派は、覇権勢力=諜報界の一部であるグーグル・アルファベットの反トラスト法に基づく解体に賛成している)。トランプが勝った場合、民主党が知事や州議会を握っている諸州が、トランプの政策に反対して米連邦からの離脱を言い出す可能性もある。米民主党系のマスコミはすでに米連邦からの離脱を扇動し始めている。これが具体化すると、連邦の解体、国家としての米国の解体である。覇権運営どころでなくなる。 (The Media Is Now Openly Pushing Secession As The Election Nears) コロナ危機も今後、終わりの見えない不確定な状況が続く。米欧の人々に広範にうてるワクチンが年内に完成しそうな感じがない。ビルゲイツが「コロナのワクチンは第2世代にならないと使い物にならない。早くとも来夏まで無理」と言い出している。コロナ危機が針小棒大に扇動される状態が今後も延々と続く。コロナ危機は今年3月ごろの早い段階から、とても長引くことが内定していた。新型コロナが難しい病気だからという医学的な理由からでなく、政治的に、コロナを口実に危機や閉鎖状態を長引かせたいという覇権勢力の下心が見え隠れしていた。 (Bill Gates Warns "World Won't Return To Normal" Until "Second Generation" Of COVID-19 Super-Vaccines Arrives) コロナ危機に対する扇動は、米欧とその他の世界でかなり様相が違う。米欧では、感染者数の再増加の誇張とともに経済を自滅させる都市閉鎖が続けられるが、その他の諸国の多くは、自滅的な都市閉鎖をやらないですませる。都市閉鎖はコロナ対策として効果が薄いことがすでに確定している。トランプの米国やWHOは、米欧の経済優位を喪失させるために都市閉鎖をやらせている。対米従属をやめられない欧州は、米国につられて自滅させられていく。 (WHO Europe Director Says Governments Should Stop Enforcing Lockdowns) 日本や韓国も対米従属だが、コロナを理由にした自滅的な都市閉鎖をトランプらから強要されていない。その理由は、トランプらの構想が多極化であり、日韓は中国の傘下に入る方向なので、日韓を自滅させず無傷で中国圏に押し込み、中国圏の力を全体として維持させたいからだと思われる。中国自身も、米欧経済のコロナ自滅をしり目に成長を続け、世界最大の経済大国が米国から中国に交代するのが今年に前倒しされた。日韓が中国傘下に吸い寄せられる流れが加速している。 (China Is Now the World’s Largest Economy) (Second COVID wave and shut down is based on BOGUS NUMBERS) トランプは日韓の駐留米軍をまだ撤退させていないが、これはまだトランプと軍産の暗闘が続いているからだろう。トランプが2期目に入り、軍産との戦いに決着が見えたら、日韓からの米軍撤退や北朝鮮問題の解決が動くのでないか。同じアジア太平洋でも、豪州やニュージランドは自滅的なコロナの都市閉鎖をやらされている。その理由は、豪NZがアングロサクソンの国として米英に近く、それだけに簡単に中国圏に入れず米欧側に残るので、トランプらによる米欧自滅策の範疇に入れられているのだろう。 (Australian Media Finally Calls Out Davos ‘Great Reset’ Agenda) 日本人の多くは、自国が中国圏に入ることに反対だろうし、日本がすでに中国圏に入りつつあるという実感もない。トランプは就任直後にTPPを離脱することで、日本に選択肢を与えた。TPPを使って米中の間に独自の日豪亜の地域覇権体制を作るか、もしくはTPPもろとも日本が中国の傘下に入っていくか。当時の安倍は後者を選択し、中国に向かって「TPPは一帯一路と合体します」と宣言した。これで日本の運命は、自立せず、米国の傘下から中国の傘下に移ることに決まった。「長いものに巻かれる」のが好きな小役人体質の日本人は自立に向いていないのかもしれない。首相が、国際認知されていた安倍から、地味な菅になり、ますます国際主導権を発揮して独自の地域覇権国になる道から遠ざかり、日本は中国にすり寄っていく。世界の状況が見えにくいコロナの体制下で、米国側から中国側への日本の移動など、覇権の転換が黙々と進んでいく。全く報じられず、国民も気づかない。 (米国の中国敵視に追随せず対中和解した安倍の日本) (中国と和解して日豪亜を進める安倍の日本 <安倍はその後、日豪亜を進めなくなった>) (日豪亜同盟としてのTPP11) コロナで経済が無茶苦茶になっても、米国中心の株や債券など金融の相場は下がらない。下がってもすぐ戻り、史上最高値に近い水準が続く。米連銀FRBなど中銀群がQEで資金注入してバブル膨張を維持している。この状態は今後も続く。マスコミや権威筋の中で、この状態をインチキだと言う者はいない。言ったら権威筋の業界から外されてしまう。「まとも」な者たちは、誰も王様は裸だと言いたがらない。私自身は権威業界の外にいる「まがいもの」「習わぬ経をよんでいる門前の小僧」だ。外部者の方が、お寺のシステムのインチキさを理解できるのに、などと看破してはいけない。 (COVID Financial Pain 'Much, Much Worse' Than Expected, Warns Harvard Study) 株価の暴落など金融バブルの不可逆的な崩壊が起きるのは、米覇権崩壊や多極化が進む最後の段階になりそうだ。先に覇権の多極化が進み、日韓が米国側から中国側に隠然と移転していく。金融崩壊より非米化を先に進めた方が、非米化された地域の金融システムを米国から分離しておき、米国中心の金融システムがバブル崩壊した時に影響を受けにくい状況にしておける。覇権運営者たちは、米国でなく世界のことを考えている。世界的な経済成長の極大化。最近、いずれインフレや食糧危機が起きる、という指摘もあちこちから出ている。これも、どの段階で、どちら側で起きるか(米国やドルの側か、非米側か。はたまた両側か)によって意味が変わってくる。 (The Great Unknowns of 2021) (Merry-Go-Round of Money Printing Madness) (Inflation Will Be a Game Changer) 米欧がコロナ対策として効果が薄い、ひどい愚策の都市閉鎖を、多くの人々の生活を窮地・貧困に追い込みながら延々と続け、それが米欧の専門家たちの権威を賭けて行なわれている。最終的に、都市閉鎖が愚策であることが公式に確定する。医療や学界、大学など科学の全体に対する人々からの信用が失墜していく。科学を真実とあがめる近代の「科学信仰」が自滅していく。大学は世界的に、コロナを理由に延々と閉鎖され続け、よく考えたら大学なんて役立たずで要らないな、という人々の正しい気づきにつながっていく。 (French Professor says there is no second wave) (Politics, Not Science, Is Keeping Schools Closed) 科学信仰は、この200年間の英米の覇権構造の一部である。何が優れた科学の業績であるかを決めるのは米国や英国の学術誌や米英主導の学会であり、その背景には覇権運営体(軍産)がいる。権威ある世界的な医療・科学の専門家たちがコロナで愚策をやって自滅していく流れは、米英覇権の一部としての科学信仰の体制を破壊する。これはおそらく意図的な多極化策の一部である。コロナの前には地球温暖化人為説が同様の構図を持っていた。温暖化問題は、コロナの出現で立ち消えている。科学信仰の破壊策としてコロナが登場したので、それまでやっていた温暖化問題は不要になった。グレタはグレている。 (Science for Madmen) (Why Those COVID-19 Models Aren't Real Science) 同様に、覇権運営上のプロパガンダ策だった国際マスコミやジャーナリズムも、イラク侵攻以来、自滅させられていく流れの中にある。コロナでそれが加速している。「門前の小僧」の私自身は、これらの全体について、インチキな「お寺」の体制の化けの皮が剥がれるので良いことだと思っている。門前小僧も私も、お寺(マスコミ)が潰れると失業しかねない(お寺が潰れると門前町も倒産。マスコミが潰れると私やオルトメディアは情報源の一部を失う)のであるが。 (戦争とマスコミ) (コロナの歪曲とトランプvs軍産の関係)
田中宇の国際ニュース解説・メインページへ |