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結束して国際問題の解決に乗り出す中露

2017年7月8日   田中 宇

 中国とロシアが、結束して北朝鮮の核ミサイル問題の解決に乗り出している。これまで北の問題を解決する枠組みとして国際社会が考えてきたのは、米国もしくは中国が主導役だった。クリントン政権時代は米国主導、ブッシュ政権時代は中国主導(中国への主導役の押し付け)、それから今年はトランプがやりかけた米中協調による主導があった。いずれの時代もロシアは主導役でなく、ブッシュ政権時代の6か国協議の一員に入っていただけだった。ロシアが北問題解決の主導役に入るのは初めてであり、画期的だ。 (Can a Russia-China Axis Help Find a Solution to Problems on the Korean Peninsula?) (China, Russia may be coordinating response to North Korea

 6月末以降、トランプが「北に対する中国の姿勢は甘すぎる」と怒って中国を批判し始め、中国の丹東銀行を金融制裁して米中協調で北問題の解決を主導する体制を壊したため、中国は、米国と組むのをやめて、代わりにロシアと組むことにした。トランプは最近「中国と組んでもダメだから、米国だけで北に核を放棄させる。北を軍事攻撃することも辞さない」と言っているが、この方針は口だけで、何の現実性もない。マティス国防長官は、北への軍事攻撃は韓国を破壊することになるので現実的でないと言っている。北問題の解決に関しトランプは、ドンキホーテ的なお門違いの空想屋に(意図的に)なってみせている。現実的な北問題の解決をやりうるのは、今や中国とロシアの同盟体だけになっている。 (US options narrow on North Korea military action) (理不尽な敵視策で覇権放棄を狙うトランプ

 北の問題は構造的に解決が困難だ。北は、周辺諸国との緊張が低下し、経済成長が始まると、これまで極度の結束状態だった国内の統制がとりにくくなり、政権崩壊の懸念が強まる。だから金正恩ら北の政権中枢は、核問題の解決や緊張緩和に消極的だ。国際社会の側の、北問題解決の主導役をどの国がやろうが、北問題の解決困難性は変わらない。中露は国連安保理で、北が核ミサイル開発をやめる見返りに、米韓が合同軍事演習をやめる仲裁案を出した。この案は、以前から中国が出していたものだ。米国は以前から、合同軍事演習はやめないと言っている。北は前から、この案に乗る姿勢を見せてきたが、北は簡単に核兵器を隠し持つことができるし、いったん核ミサイル開発をやめても、容易に再開できる。これを見ると、主導役が中露になっても事態が変わらない感じがする。 (‘Best time in history’ for China-Russia relationship: Xi and Putin boost ties) (Russia, China agree joint approach to North Korea, slam US oer missile shield

 今回、北問題解決の主導役が替わることの重要点は、米国が主導役から外れることだ。米国はブッシュ政権以来、北問題解決の主導役をやる一方で、先制攻撃を示唆して北に脅威を与え続け、北の核武装を扇動してきた。挑発役と解決主導役が同じなので、問題が解決されなかった。米国は、今後も北への先制攻撃を示唆し続け、挑発をやめそうもないが、マッチポンプ的な姿勢の米国が主導役から抜け、主導役が中露に替わることで、北と米国の両方をいさめつつ、現実的な問題解決ができるようになる。中露は、米国に、韓国への地対空迎撃ミサイルTHAADの配備をやめさせたい点でも一致している。 (China, Russia share opposition to U.S. THAAD in South Korea: Xi

 中露が北問題解決の主導役になることで、北制裁の抜け穴も小さくなる。これまで、米国が主導役だった時代は、中国が北への物資・資金供給の最大経路(抜け穴)で、北は米欧日から制裁されても中国と密貿易して食っていけた。トランプ政権になり、米中が共同で主導役になると、中国が抜け穴をふさいで北への輸出入を減らしたが、これを受けて北はロシアに擦り寄り、ロシアが北への物資供給国として目立つようになった。今後、ロシアが主導役に入ると、この抜け穴もふさがれ、北制裁の効果が高まる。 (U.S. worries Russia could step up North Korea support to fill China void

 中露は、国連安保理で、既存の北制裁の実施状況を調べており、中露以外の抜け穴も地道にふさごうとしている。金正恩は最近、核兵器廃棄の交渉に絶対応じないという宣言を世界に向かって発した。一見、北はますますかたくなになっているが、それは北が、世界から自国への核ミサイル廃棄圧力の強まりを予測し、脅威に感じていることを意味しており、いずれ北が交渉に応じる姿勢に転じる可能性は十分ある。 (Russia, China to present Korean peninsula issue to UN) (Kim Jong Un warns North Korea will never negotiate on nukes

 ロシアは、今回北が発射したのは弾道ミサイルでなく中距離ミサイルだったと主張している。実際、北のミサイルは、6000キロの射程と言われつつ今回500キロしか飛んでいない。北の今回のミサイルが中距離ミサイルなら、もともと米本土まで届かないものになり、米国が「北のミサイルは米本土に届くのだから先制攻撃すべきだ」と騒いで事態を悪化させるのも不必要だからやめろと警告できるようになる。中国は今年、米国に言われて北を経済制裁したが、ロシアは、経済制裁を国際政治一般の手段として使うことについて、中国よりもさらに消極的だ。経済制裁はほとんどの場合、問題を解決せず、事態を悪化させるだけだと、ロシアは以前から主張している。ロシアが主導役に入ることで、北の問題解決のやり方が変化していきそうだ。 (Russia, at U.N., Disputes Findings That North Korea Launched an ICBM) (North Korea Launches Its First Eer ICBM, "Can Reach Alaska"

▼北朝鮮、シリア、アフガンなどが中露主導で安定化し、米国の退潮が定着して多極型の覇権が確立する

 中露の結束は、北の問題に関してだけでなく、ユーラシア全域を範囲にしている。6月中旬、上海協力機構の年次総会がカザフスタンの首都アスタナで開かれ、この傍らで、習近平とプーチンとの中露首脳会談が行われた。この首脳会談で、プーチンが、国際政治と経済の広範な分野で、中露の結束を強めることを提案し、習近平の賛同を得た。その後、2人は7月4日のG20前の習近平のモスクワ訪問で再び会い、中露結束強化の話をさらに詰めた。北の問題解決の主導役を中露でやることは、習近平とプーチンが決めた広範な中露結束の一分野にすぎない。 (Beijing shares Putin’s ideas of Russia-China cooperation) (Xi-Putin Meet on SCO Summit Sidelines to Strengthen China-Russia Ties

 今回の中露の結束強化は秘密同盟のかたちをとっており、世界に向けて発表されたものでない。私の分析も、断片的な情報をつないだ推測にすぎない。だが、長年の世界の多極化の流れの中で、中露の結束は以前から強化される傾向だ。トランプの覇権放棄策によって米国の単独覇権の崩壊が進む中で、中露が秘密同盟を組み、911以来、世界を混乱させるばかりの米単独覇権体制に取って代わる、多極型の覇権体制を作っていこうとするのは自然な流れだ。プーチンは、今回の中露の結束について、中身を言わないものの、画期的なものであると言っている。 (Russia-China Tandem Shifts Global Power) (中露結束は長期化する

 今回、中露は共同歩調で、北朝鮮のほか、シリアやアフガニスタンに関して、覇権運営的な動きを開始している。いずれも、米国がやってきた無茶苦茶をやめさせ、もっと現実的、安定的な策に転じようとする動きだ。シリアに関しては、米国がアサド政権の政府軍に対し、根拠も示さず「化学兵器を使った攻撃を今年4月に行った」「間もなくまた化学兵器を使いそうだ」といった濡れ衣攻撃を続けているのを、中露がやめさせようとする動きを開始した。中露は国連安保理において、アサド政権が化学兵器を使った攻撃を本当に行った(今後行う)のか、公正な調査をすべきだと提案した。この問題は従来、ロシアだけが主張していた。トランプは、ブッシュ政権以来の米国がやってきた濡れ衣攻撃を、さらに過激にして、濡れ衣であることが世界にバレやすいような形で展開し、中露の結束や多極化にこっそり(しだいに堂々と)貢献している。 (Russia, China Call for Unbiased Probe Into Use of Chemical Weapons in Syria) (中露の大国化、世界の多極化

 アフガニスタンに関しては、トランプの米政府が、米軍の増派を打ち出している。これに対して中露とパキスタンが先日から共同歩調をとり「米軍の存在は、アフガニスタンの和平を妨害している。米国は、テロリスト退治のふりをしてアフガンに恒久駐留しようとしている。米軍は増派せず、アフガンから出て行った方が良い」と主張し始めている。中露とパキスタンは、米軍を撤退させるとともに、米軍が敵視し続けてきたタリバンをアフガンの民族主義の正当な武装政治組織と再認知し、タリバンと、タリバン敵視の地元諸部族とを和解させ、連立政権を組ませ、今の不安定な米傀儡の政府に代わる、アフガンの新政府にしようとしている。中露は、タリバンの後ろ盾であるパキスタンとともに、この転換をやろうとしている。これまで米国の同盟国だったパキスタンが、しだいに明確に、中露の側に寝返っている。 (U.S. s. Russia, China And Pakistan) (パキスタンを中露の方に押しやる米国

 北朝鮮、シリア、アフガンのいずれも、これまでの主導役だった米国は、問題解決するふりをして、実は事態を悪化させ続けてきた。米国が主導役である限り、問題は解決しなかった。今回、中露が結束(秘密同盟)を強め、これらの3地域で、米国を主導役から追い出し、米国がやった無茶苦茶を、現実的なやり方で整理整頓・安定化していこうとしている。いずれの地域も、問題解決にまだ長い時間がかかる。だが、主導役の交代で、しだいに事態が好転していく。いずれ、これらの3地域とも、中露の主導によって実際に和平や安定化が実現できた場合、中露に対する国際信用が今よりさらに上がり、米国の覇権衰退の傾向が定着し、多極型の覇権体制が確立することになる。 (America’s New Problem? Russia Wants to Sole the North Korea Crisis) (露中主導になるシリア問題の解決

 北朝鮮、シリア、アフガンのほか、イランに対する米イスラエルやサウジの敵視策をやめさせること、リビア内戦、ナゴルノカラバフなどコーカサスの諸問題、米国の政権転覆策と濡れ衣の組み合わせであるウクライナ危機などに関しても、中露の結束による問題解決が試みられる可能性がある。NATOのロシア敵視策に、中露共同で反対表明するとか、南シナ海や台湾に対する米国の介入策に、中露共同で反対する動きも起きるかもしれない。 (中露を強化し続ける米国の反中露策

▼世界は米欧中露G4の多極型に向かう

 中国はこれまで、自国から遠い場所の国際紛争に、口を出すことに慎重だった。中国は、アヘン戦争以来、自国が列強からの内政干渉や分裂策動に悩まされてきたので、中共建国後、自国の隣接地域以外の他国の内政に干渉しないようにしてきた。だが、習近平政権になって、外国の経済を開発する一帯一路(新シルクロード)の世界戦略を掲げ、一帯一路に含まれる諸国の政治の安定化に協力する必要が出てきた。これは、紛争解決に協力するかたちで、中国が遠い外国の内政に干渉し、覇権的な行動をすることを意味する。 (中国の一帯一路と中東

 ロシアのプーチンは、こうした中国の姿勢転換に目をつけ、習近平に対し、一帯一路の諸国の紛争解決や安定化に、ロシアも協力しますよ、一緒にユーラシアを安定化しよう、と呼びかけた。ロシアは15年に、オバマに誘われてシリアに軍事進出して内戦終結に成功して以来、中東を安定化する地域覇権国になりつつある。米国の中東覇権が、中東を不安定化し続けてきたのと対照的だ。プーチンは、ユーラシアや中東を安定化する事業を一緒にやろうと習近平を誘った。 (How Russia and China are bonding against the US) (プーチンに押しかけられて多極化に動く中国

 中露は、00年に上海機構を作って以来、ユーラシアの安定化を一緒に進めてきた。それをさらに一歩進め、米国が手を出して失敗した地域の再安定化を中露が手がけることで、その地域の覇権を米国でなく中露が持つようにして、多極化を進めつつ世界を安定させようというのがプーチンの提案だったようだ。習近平はこの提案に賛成し、今回の中露結束の新戦略が始まった。 (China's president in Russia for talks on boosting ties

 中露結束は、中国の一帯一路戦略の一部でもあるので、中国がロシアの鉄道などのインフラ整備に、人民元建てで110億ドルを投資するとか、中国からロシア経由で欧州まで高速貨物列車を運行できるようにするとか、ロシアから中国までパイプラインをつなげて天然ガスを輸出するとかいった経済面の共同事業も決定されている。 (Russia to supply China with gas by end-2019) (China and Russia strike $11bn funding deal

 プーチンは、今回の中露結束の強化に大喜びしているはずだ。米国(の隠れ多極主義者たち)は従来、多極型の覇権体制を考えるに際し、国土は広いが経済が弱いロシアよりも、世界最大の人口がいて経済超大国になり得る中国の方を重視する傾向が強かった。ブッシュ政権時代には、米国と中国で世界を支配する「G2」の覇権体制まで提案された(中国に断られた)。世界の覇権体制が米中G2になってしまうと、冷戦時代に米国と並ぶ超大国(覇権国)だったロシアは、地域大国に格下げされる。これはまずい。北朝鮮はロシアにも隣接しているのに、北の問題解決の主導役はいつも米中だ。今回の中露結束は、これらのロシアの劣勢を挽回する好機だ。 (Russian president Vladimir Putin becomes middleman between China and America to sole North Korea diplomatic crisis

 (隠れ多極主義者の)トランプがタイミングよく怒って米中協調の北問題解決の体制を放棄したおかげで、お鉢がロシアに回ってきた。アフガンでもシリアでも、トランプの愚策が中露結束による米国外し、多極化につながっている。トランプ(とその黒幕のスティーブ・バノン)は、天才的な策士といえる。プーチンは今回のG20でトランプと初めて会って、礼を言っただろう(報じられているような、トランプがロシアのハッキング疑惑でプーチンを批判したというやり取りは実際になく、報道発表用の作り話である可能性が大だ)。

 中露が結束を強めて覇権運営をやり出すことで、世界の覇権体制は、米中G2でなく、米中露の「G3」になる。欧州では、メルケルのドイツやマクロンのフランスが、トランプの米国とは一緒にやれない、独仏主導のEUはリベラルな社会規範や自由貿易の経済体制を守り、保守主義と保護主義の米国とは別の道を行く姿勢を強めている。EUは、戦後の対米従属から離脱し、自立した世界の極になっていきそうだ。すると、今後の世界は、米欧中露の「G4」になる。このG4は、国連安保理常任理事国の5大国体制「P5」(米英仏中露)から、英国を外したものと同じだ(仏=EU)。英国は、昨夏のEU離脱決定以来、迷走しており、しばらくは覇権運営どころでない。世界は、G4の多極型に向かっていきそうだ。 (EU統合の再加速、英国の離脱戦略の大敗

 北朝鮮の問題解決の主導役にロシアが入るのは、日本にとって良いことだ。これまで北朝鮮問題は米国もしくは中国が主導役で、いずれの場合も日本は従属的な役割しかない。これまで日本と同様に従属的な役回りだったロシアは、主導役になっても、6か国協議の体制を、中国よりも重視している。日本は、米国の単独覇権主義はうれしいが、米中G2はうれしくない。日本が中国より格下になるからだ。この心情はロシアと共感できる。日本は、早くロシアと関係改善すべきだろう。 (North Korea tests prompt Japan missile defence rethink



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