イランがシリア内戦を終わらせる2015年8月8日 田中 宇7月中旬にイランと米国など(米露中独仏英)が締結した、イランの核兵器開発抑止の協約の最大の目的は、イランの核兵器開発を抑止すること自体でない。イランは核兵器を開発していない。そのことは、IAEAの08年の報告書などで示され、私も何度も記事を書いている。 (September 2008 report) (イラン核問題:繰り返される不正義) (対米協調を画策したのに対露協調させられるイラン) 米オバマ政権が、イランとの核協約の締結を急いだ最大の理由は、イランに対する経済制裁を解除してイランを強化し、中東を安定化するまとめ役をイランに任せたいからだ。イランが中東安定化のまとめ役をすることは、ロシアや中国も望んでいる。 (Obama: Iran must play a role in ending Syria's civil war) (Obama eyes next diplomatic steps with Iran) (Kerry to talk with Russia on Islamic State fight and role Iran might play) イランに対する経済制裁は、まだ解除が決定していない。米政府がイランと調印した協約を、米議会が3分の2以上の圧倒的多数で否決した場合、オバマも議会の票決に拒否権を発動できず、米国はイラン制裁を解除せず、全ての国際銀行間決済がNY連銀を経由する米ドルによるイランと世界との貿易決済が再開できない。米議会は9月半ばまでにこの件の可否を決議する。7月半ばの協約締結直後は、米議会の反対派が3分の2まで達しないとみられていたが、その後、イスラエルロビーの圧力を受け、反対を表明する議員が増えている。 (Sen. Chuck Schumer announces his opposition to the deal with Iran) (Iran Agreement Boosts Peace, Defeats Neocons) (What, really, is Netanyahu's game plan for America?) しかし、米国がイラン制裁を解除しなくても、国連やEUはイラン制裁を解除する。米国はもともとイランとの貿易が少ない。イランとの貿易や投資を、EUはユーロで決済するし、中露などBRICSは自国通貨や人民元で決済する(日本は円で決済できる)。イランと世界との貿易や投資でドル建て決済ができないことは、むしろ「多極化」の一環である国際決済の非ドル化を促進する。米国がイラン制裁を解除しなくても、長期的には影響が少ない。 (イラン制裁はドル覇権を弱める) (イランとオバマとプーチンの勝利) イランは、中東安定化のまとめ役になる動きを、すでに開始している。顕在化していることの一つは、シリア内戦の和平案を、イランが国連に提出することだ。イラン外務省は先日、シリア内戦の解決策について、シリアのアサド政権、サウジアラビア主導のGCC(ペルシャ湾岸諸国)、エジプトなどアラブ諸国や国連と協議しており、和平解案で修正すべき点をアラブ諸国から出してもらって修正し、間もなく正式に国連に提出すると発表した。 (Iran says it will present Syria initiative to UN) イラン政府は、準備中のシリア和平案の内容を発表していないが、報道から判断すると、サウジアラビアやトルコ、カタールなど、これまでシリア国内のISIS(イスラム国)やイスラム過激派諸勢力を支援してアサド政権を潰そうとしてきた諸国を説得して翻意させ、ISISや過激諸派を弱めるとともに、ISIS以外のシリアの諸勢力を招待して和平会議を行って停戦を実現し、その後、選挙を経てシリアの新政権を樹立する構想だ。イランの和平案には、アサド政権も賛成している。アサドは、大統領選挙をやったら自分が勝てると考えているのだろう。 (Iran-authored Syria plan en route to UN) イランの上層部で外交政策立案を担当するベラヤチ元外相は最近、アサドが4年前の内戦勃発時より強い状態にあると賞賛している。これは、イランがアサド政権を存続させるかたちでシリア内戦を終わらせるつもりであることを示唆している。 (Iran says Syrian govt. stronger than start of unrest) 米国は、アサドを辞めさせることに固執している。米政府は、アサドが政権を放棄することを条件に、武力でなく交渉でシリア内戦を終わらせることに賛成している。イラン案は、事実上アサド政権の存続を容認しており、米国の条件を満たしていない。だが、アサドが選挙で勝ったうえで大統領の座にとどまるなら、それは米国が至上のものとみなす民主主義の結果であり、米国も容認せざるを得ない。アサドは、シリアで少数派(国民の約1割)のアラウィ派イスラム教徒の出身なので、内戦が終結して事態が安定した後、多数派のスンニの中から有力な指導者(ムスリム同胞団関係者など)が出てきたら、アサドは選挙で負けるかもしれない。 (100年前の植民地時代に宗主国のフランスが、多数派のスンニでなく、少数派のアラウィに警察や軍など治安担当を任せる策略を採ったため、独立後もシリアは、軍や諜報機関を中心に、権力の上層部でアラウィ派が強い) (シリアも政権転覆か?) イランのシリア和平案は、サウジやカタール、トルコといった、アサドを敵視する諸国の翻意が前提だ。翻意が可能なのかという疑念が湧く。サウジもカタールもトルコも米国の同盟国であり、米国と同盟諸国が団結してアサドを辞めさせようとしている以上、米国やサウジと長く対立してきた反米のイランが説得したところで翻意させられるはずがない、米国はまだまだ強い覇権国だ、と考える人が多くても不思議でない。 しかし個別に見ていくと、トルコ以外の国々(アラブ諸国)は、アサド敵視・ISIS容認のこれまでの姿勢を、アサド容認・ISIS敵視に転換していく可能性が見える。たとえばサウジアラビアでは最近、ISISが治安部隊の基地にあるモスクに近所の礼拝者を装って入り込んで自爆テロをやり、治安要員を多数殺すなど、サウジ当局に対する宣戦布告と思える攻撃を開始している。ISISは、アサド政権を倒せたら、次はサウジを標的にする可能性が高い。 (ISIS claims responsibility for Saudi suicide bombing) イスラム過激派の中には、私利私欲まみれなのにイスラム世界を代表するかのような振る舞いをするサウジ王室を憎み、聖地メッカを浄化するためサウジ王政を倒さねばならないと考える者が多く、サウジはISISの格好の敵になる。サウジ王政は、米国が2011年にアサドを敵視したのに同期して、イスラム教として異端と見なされるアラウィ派の独裁であるアサド政権が転覆され、シリアにスンニ派純正の政権ができることを望むようになり、米軍が涵養したISISを隠然と支援してきた。しかし、ISISが強くなってサウジ自身に攻撃を仕掛けてきた今、サウジはISISへの支援をやめて、逆にアサド政権の持続を容認せざるを得ない状況になっている。 (Syrian leader can stop Islamic State terrorist group - Russian security official) サウジ王政のアサド敵視は、対米従属策の一環でもある。サウジは、米政府がアサド政権への敵視をやめることを検討した2010年にアサド大統領を自国に招待して和解したが、その後、米国がアサド敵視を再開すると、サウジもアサド敵視に戻った。 (ISISと米イスラエルのつながり) しかしサウジは最近、対米従属をやめる傾向を強めている。その最たるものが、サウジが米国のシェール石油産業を潰すために昨秋から国際原油価格を引き下げていることだ。これについて私は何度か記事を書いたが、最近、英国のテレグラフ紙が「米国のシェール産業より先にサウジが財政破綻する」と予測する記事を出した。米シェール産業は採掘技術の向上により、原油価格の安値が続いても破綻しなくなり、むしろ原油安で収入が減るサウジ王政の方が危ないと書いている。 (Saudi Arabia may go broke before the US oil industry buckles) (米サウジ戦争としての原油安の長期化) 「米シェール産業は採掘技術の向上で生き延びる」という「解説」は、以前から折に触れて「シェール革命」のシナリオ執筆者である米金融界が発しており、食傷気味だ。むしろ、今後の半年で中小シェール企業の倒産や企業売却が増えると予測するCNNの記事の方が信憑性があるが、私が重視したのはそのことでなく、米金融界の提灯持ち的な英テレグラフの記事でさえ、サウジの原油安戦略の目的が米シェール産業を潰すことであると大々的に認めている点だ。 (Some U.S. oil companies need to die) サウジの原油安戦略は昨秋の当初、対米従属的な「ロシア潰し」の策だと喧伝されたが、実際は逆に、米シェール産業のジャンク債の破綻を引き起こし、米国の覇権の源泉である債券金融システムの重要な一角をなすエネルギー関連債券市場を潰そうとする、米国に対するこの上ない敵対行為だ。日経(対米従属の日本財務省の下請け)に買われ、米国覇権衰退を示す鋭い記事がいずれ減りそうなFT紙も、エネルギー業界のせいでジャンク債の価値が下がり、それが株価の下落に発展しかねないと指摘している。 (Will US equities follow junk bonds down?) (サウジアラビア原油安の陰謀) 以前の記事に書いたが、サウジは新国王になってロシアに接近している。シェール潰しや対露接近は、サウジがもはや対米従属をやめて、むしろ米国を隠然と敵視しているいることを示している。マスコミは、今でもサウジがイラン敵視を最重要の国家戦略としていると報じているが、サウジが米国とイランの両方を敵視することを戦略にしているとは考えにくい。サウジは、表向きの同盟関係と裏腹に親米戦略をすでにやめているのと同時に、表向きの敵対関係と裏腹にイラン敵視をすでにやめている可能性が高い。 (多極側に寝返るサウジやインド) サウジが親米・反イラン・反露から、反米・親イラン・親露へと、こっそり国是を転換したのなら、サウジはイランが提案するシリア停戦案に賛成し、反アサド・ISIS容認から、アサド容認・反ISISに転換するのが自然な流れだ。自国の姿勢について間違った認識を世界に持たせておく(米国のマスコミの意図的な誤報を訂正しない)のがサウジの戦略のようなので、今後もしばらく「サウジは親米・反イランだ」という「常識」が揺らがないかもしれないが、その裏でサウジはこっそり新たな戦略を進めるだろう。 (米国を見限ったサウジアラビア) 以前からISISやアルカイダ、ムスリム同胞団などのイスラム主義勢力を支援し、国内に大きな米空軍基地(al-Udeid)を持つカタールは、イランと米国などとの核協約の締結を受け、イランと真剣な対話を開始すると発表している。カタールはペルシャ湾のイランの対岸にあり、両国の海底の国境線が巨大な海底ガス田を二分しており、天然ガスの埋蔵量はイランが世界第2位、カタールが第3位だ。カタールやUAE(ドバイなど)は、イランが台頭すると、イランへの敵対をやめて経済関係を強化する方が得になる(これまでは制裁破りの対イラン密貿易で稼いできた)。サウジがイラン敵視をやめると、他のGCC諸国もすべてイラン敵視をやめるだろう。 (Qatar calls for `serious dialogue' with Iran after nuclear deal) カタール政府は、米サウジが発する建前論に沿って、まだ「アサドは敵だ」と言っているが、GCCの中でも、国民の多数が非スンニ(イバーディ派)で、伝統的に比較的イランと親しいオマーンは、8月7日にシリアのムアレム外相を自国に招待し、アサド政権を支持する姿勢をいち早く見せた。シリア外相がアラブ諸国を訪問するのは、2011年の内戦開始以来、これが初めてだ。GCCは事実上、大国であるサウジの一極支配であり、サウジが強く反対すれば、シリア外相のオマーン訪問は実現しなかったはずだ。シリア外相のオマーン訪問を容認したサウジは、アサド政権の存続や、イラン提案の和平案に沿ったシリア内戦の終結に、すでにほとんど賛成していることになる。 (Syria foreign minister in first visit to Gulf since conflict: Media) (Oman and Syria to Work Together to End Civil War) サウジと並ぶアラブの盟主であるエジプト政府も「シリアの国家統合を維持すべきだ」と表明し、アサド政権の存続を事実上支持する発言を発している。エジプト外務省は7月末、米国やトルコがシリアの反政府勢力を支援するため空爆や越境砲撃し始めたことを受け、攻撃はシリア国家を分裂させるとして反対した。トルコは、アサド政権を倒して、シリアの最大野党だったムスリム同胞団の政権を作ることを目標としてきたが、ムスリム同胞団の前政権をクーデターで倒して作られたエジプトの現政権(軍事政権)は、シリアでムスリム同胞団を擁立したいトルコを嫌い、アサド政権を容認する方に傾いている。 (Egypt defends Syria's territorial unity after Turkey moves against ISIS) 中東(イスラエル以外)は、イラン、サウジ、エジプト、トルコが4大国だ。イランは、事実上アサド政権を維持するシリアの和平案について、サウジとエジプトから、半ば賛同を受けている。トルコだけがまだイラン案に反対している。トルコが、イラン提案のシリア和平案に反対する最大の理由は、クルド人の国家建設に寄与しそうだからだ。イランの提案には、シリアの内戦終結後、シリア国内のクルド人に大幅な自治を与え、クルド人の軍隊(民兵団)とシリア政府軍が協力してISISを掃討していくことが含まれている。 クルド人は、シリア、イラク、トルコ、イランの4カ国に分かれて住んでいる。第一次大戦後、戦勝国の英国などがオスマントルコ帝国を分割する際、当初、クルド人に国家建設を約束したが、その後トルコにアタチュルク将軍による欧州型の世俗国家建設運動が起こって英国などがそれを承認し、クルド人はその犠牲になって国家建設を認められなくなり、4カ国分裂居住の無国家民族におとしめられた。それ以来、国家建設がクルド人の悲願だが、現在、シリアだけでなくイラクでも中央政府が弱く、クルド人の自治状態が強まっている。 イランは、シリアの中央政府(アサド政権)と、イラクの中央政府(シーア派主導のアバディ政権)の両方を、自国の傘下に入れている。シリアでもイラクでも、クルド人の民兵はISISと互角で、ISISとクルド人は、一部の地域で境界線を設定して停戦状態にあるが、他の地域では戦闘している。イランの案は、シリアとイラクのクルド人に、今より大きな自治を認めて強化し、ISISと戦わせて勝つよう仕向けるものだ。イランは、イラクのクルド人に、自治区内にあるキルクーク油田などから石油を輸出する自由も与えるつもりだろう。クルド人の一方的な石油輸出には、イラクの中央政府が強く反対しているが、同政府はイランの財政支援がなければ破綻するので逆らいにくい。 (On top of everything else, Iraq is heading for a financial crisis) 現在ISISと戦っているのは、クルド人のシリア(YPG)とイラク(ペシュメガ)の民兵団のほか、シリア政府軍、レバノンからシリアに援軍として来たシーア派民兵ヒズボラ、イラクの政府軍とシーア派民兵といった勢力だが、これらのすべてがイランに支援されている。イランが世界から制裁解除されて資金を得ると、これらの勢力の軍資金が増し、強化される。さらにイランは、シリアとイラクのクルド人に自治を与えて強化し、ISISを潰す策だ。 イランは、自治を得たイラクとシリアのクルド人が領土を統合してクルド人国家を創設するところまで容認するかもしれない。イラクとシリアの国家統合が失われるが、その一方で、イラクはシーア派の国としてのアイデンティティが強くなり、シーア派の盟主であるイランにとってむしろ好都合だ(アンバア州などスンニ派地域の、ISISを潰した後の処遇が問題になるが)。シリアのアサド政権は、自分たちの政権が延命するなら、クルド人地域の切り離しに応じるだろう。 クルド人はイラン自身の国内にも住んでいる。イラクとシリアのクルド人が国家を作ったら、イランのクルド人もイランから分離してクルド国家に入りたくなる。その機先を制するように、イランのロハニ大統領は、米国などと核協約を結んだ直後の7月末、イランのクルド人地域であるクルディスタン州を訪問した。ロハニの同州訪問は、2年前の大統領就任以来初めてだ。ロハニは、同州で今後2年間に11のダムを建設するなどのインフラ整備を発表し、クルド人が分離独立の運動を強めないよう懐柔した。 (Iranian president visits Iranian Kurdistan) ロハニは同州の州都サナンダジで演説し「イランが支援しなければ、アルビルもバグダッドもテロリストの手に落ちる」「イラン政府は、国内のクルディスタンを保護するのと同様に、アルビルやバグダッド、スレイマニヤ、ダフークを保護している」と述べた。アルビル、スレイマニヤ、ダフークはイラクの3つのクルド人自治州の州都だ。ロハニの発言は、イランのクルド人に対し「イランから独立してイラクにできるクルド人国家と統合しても、イランの傘下から抜けることはできないのだから、今のままイラン国内にいて、中央政府からの援助を受けた方がいい」とさとす意図がある。 シリアとイラクのクルド人に自治強化や独立を認めると、イラン自身のクルド人の独立運動を扇動しかねないが、同時に、クルド人を強化してISISを倒せば、イランはシリア、レバノン、イラクにまたがる広大な影響圏を確保でき、イランにとって得るものが大きい。しかし対照的に、トルコにとっては失うものが大きい。 シリアとイラクのクルド人が国家を持つと、トルコのクルド人も分離独立してクルド人国家に入りたがる。トルコは以前「トルコ民族主義」を国是とし、国民の約2割を占めるクルド人にトルコ語を強要して強制的な同化を試み、反発したクルド人が近隣のシリアやイラクのクルド人地域を拠点に武装蜂起やゲリラ活動を繰り返していた。今のイスラム主義のAKP(公正発展党)のエルドアン政権になってから、国是を「トルコ民族主義」からクルド人がそのまま入れる「イスラム教」にしだいに転換し、クルド語の使用が容認された。しかし同時にクルド人が政党を作って政界に進出する傾向になり、今年6月の選挙でAKPは議会の多数派を失った。今後、イランがシリアとイラクのクルド人に国家建設を容認すると、AKPやエルドアンはさらに不利になる。 (Turkey's Push Into War Is Seen as Erdogan's Political Strategy) (Sultan Erdogan's dream turns to nightmare in Turkish election) トルコは、ISISをこっそり支援することで、ISISがシリアやイラクのクルド人と戦って、クルド人が弱体化することを望んできた。トルコ国内にいくつもISISの秘密拠点が作られ、欧州などで過激思想を持つイスラム教徒がISISに合流する際のルートとなり、武器や資金の流入もトルコ経由が多かった。トルコが態度を変えないと、ISISを潰すことはできない。 (Links between Turkey and ISIS are now 'undeniable') (Turkey: ISIS's Hostage Again) イラン核協約後、米国がトルコを説得し、イランのために助け船を出した。7月23日、トルコはISISを攻撃することに同意し、見返りに米国はトルコに対し、トルコのクルド人組織PKKのシリア国内の拠点を空爆することを容認した。トルコがISISを支援してクルド人と戦わせるのでなく、トルコが直接クルド人を空爆して良いから、その代わりトルコはISISを潰す戦争に参加してくれ、というのが米国の提案だった。米国からの隠密の要請で、トルコはNATOを召集し、NATOは全体としてトルコのISISとの戦いを支援(支持)することを約束した。 (Turkey takes off gloves in battle against ISIS) (NATO, Turkey to meet over ISIL, PKK on Ankara's request) トルコは同時に、ISISとの戦争の一環として、トルコ国境沿いのシリア北部の東西の幅約110キロの地域に「飛行禁止区域」を設けることを決めた。トルコ政府は、これを米国との合意として国内マスコミにリークしたが、米政府は、そんな合意など結んでいないと否定した。 (US, Turkey Eye 60-Mile `Safe Zone' in Northern Syria) (Turkey, US agree on no-fly zone over Syria) この飛行禁止区域の計画は、実のところ、クルド人に対する妨害工作だった。シリアのクルド人は、トルコ国境近くの北部地域の東側と西側の2カ所に分かれて住んでおり、トルコが設定した飛行禁止区域は、2つのクルド人居住地域の間に位置していた。トルコは、2つのクルド人地域の間に自国が管轄する飛行禁止区域を割り込ませ、今後もしイランの和平案が実行されてシリアのクルド人が自治区または独自国家を持つようになっても、2つのクルド人地域が統合できないようにして、妨害しようとしている。イランの和平案に賛成している米政府は、飛行禁止区域設定の存在を否定することで、トルコを牽制した。 (As Iran Rises in the Mideast, Kurds Benefit in Iraq and Syria) 米国の助け船でトルコがISISとの戦いにしぶしぶ参加することになった後、イランの外相がトルコを訪問し、ISIS退治に協力してほしいと要請した。 (Turkey, Iran to discuss combating ISIS) トルコが今後、どの程度本気でISISとの戦いに参加するか、まだわからない。しかし米オバマ政権は、ISISとの戦いやシリアの内戦終結を、イラン主導でやってもらいたいと考えている(だからイスラエルの反対を押しのけて核協約を締結した)。トルコがISISの出入り口としての機能をやめるまで、米国はエルドアン政権に圧力をかけると予測される。 この問題に関しては、書きたいことがまだいくつもあるが、長文になってしまったし、書き上げるまでに何日もかかってしまったので、今回はここまでで配信する。
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