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イスラム国はアルカイダのブランド再編

2014年10月15日   田中 宇

 2001年の911事件の直前、米捜査当局FBIで傍受情報を翻訳する仕事をしていた時に、米当局がテロ組織(アルカイダ)の活動を知りながら放置していることを発見し、911後にそれを内部告発して有名になった諜報専門家のシベル・エドモンズが、最近、ISIS(イスラム国)について「アルカイダがすたれたことを受け、米当局がアルカイダのテロリストたちを別のブランドとして立て直し、マーケティング策を変更してISISが出てきた」という趣旨の発言をした。アルカイダは、米当局にとって、自分たちに都合の良いようにテロをやらせる道具として育てた組織だったが、同様にISISも、米当局の都合に合わせて動く新たなバージョンの組織として、米当局によって育てられたという意味だ。 (US cultivated, financed ISIS - FBI whistleblower Sibel Edmonds

 エドモンズは、米国のマスコミを動かしている(米中枢の)勢力が、ISISが強い軍事力を持っているかのように報道させ、その結果、実際にはそれほど強くないISISが、非常に強いかのような幻影が流布しているとも指摘している。こうした幻影策は、かつてアルカイダに対しても行われていたという。アルカイダが米当局による作り物の観があることは、以前から指摘されていた。ISISも、主導的な5人の司令官のうち4人が米軍運営のイラクの監獄に長くいた人物であり、米当局の要員である疑いが強い。米軍は、ISISをシリア反政府勢力としてヨルダン国内の基地で訓練していた。しかもISISは、昨年までアルカイダに属していた。ISISがアルカイダと同様、米当局の作り物であるというエドモンズの見方は納得できる。 (アルカイダは諜報機関の作りもの) (◆敵としてイスラム国を作って戦争する米国

 ISISの支配地は、記者たちが入れない場所だ。入ると捕まって処刑されてしまう。記者の多くがISISの支配地に入らないので、ISISは外から見て実体不明の組織のままになっている。米当局がISISにテコ入れしても、その実態が報じられることはない。この状態は米当局にとって好都合な機密保持策だ。同様の傾向はアルカイダに関してもあった。マスコミはISISの脅威を喧伝するが、米政府のいくつもの諜報機関が、ISISは米本土に脅威を与える勢力でないと認める報告書を出している。 (War reporters lament news 'black holes' in IS-held zones) (America's intelligence agencies agree: ISIS isn't that big of a threat

 ISISがアルカイダの焼き直し・ブランド再編であると考えられる根拠はほかにもある。911事件が起きて、米政府がアルカイダと戦う「テロ戦争」を宣言した直後、CIAのウールジー元長官が「テロ戦争は40年続くだろう」との予測を発した。「40年」という数字は、軍産英複合体が引き起こした米ソ冷戦(1950-90)が40年続いたので、それと同程度の期間続くという意味と考えられる。 (911十周年で再考するテロ戦争の意味

 最近、パネッタ元国防長官が「ISISとの戦争は30年間続くだろう」との予測を発した。なぜ30年間かを考えると、アルカイダとの「テロ戦争」が2001年から40年続くはずだったが、10年後の2011年に、米当局がビンラディンを殺害(する演技を挙行)し、テロ戦争は事実上10年で終わった。残りの30年の分について、アルカイダの焼き直しであるISISとの戦争として続けることにしたという宣言であると考えると納得できる。 (Can America Fight a Thirty Years' War?

 米当局は、なぜ今になってテロ戦争の焼き直しを再開するのだろうか。一つ考えられることは、これから11月に米国で中間選挙があり、野党の共和党が勝ちそうなこととの関係だ。中間選挙から任期末までの2年間、民主党のオバマ政権は、政治力が低下したレイムダック状態になりそうだ。軍産複合体は、911事件の発生を黙認(誘発)して01年のテロ戦争を開始したが、当時のブッシュ政権の内部にはテロ戦争を過剰に自滅的にやってしまう「ネオコン」などの勢力がいて、イラクもアフガニスタンも泥沼の占領に陥った。 (Gallup: Republicans Are Likely to Win Congress Next Month

 09年から大統領になったオバマは、国防総省の反対を押し切って、国力の浪費になるイラクとアフガンの占領をやめて撤退を挙行した。またオバマは、テロ戦争の構造自体も良くないと考え、11年5月にビンラディンをパキスタンで発見して殺したことにして、テロ戦争を終わらせた。しかし軍産複合体は、こうしたオバマのやり方に反対で、ISISを育て上げ、オバマが中間選挙後にレイムダックになる今のタイミングを見計らって、ISISとの30年戦争を打ち出したと考えられる。ISISとの戦い方をめぐり、国防総省はオバマの言うことを聞かない傾向を強めている。 (Rift widens between Obama, U.S. military over strategy to fight Islamic State

 オバマ自身は、テロ戦争の焼き直しなどしたくないだろう。オバマの意に反して、軍産複合体が勝手にISISを育ててテロ戦争の焼き直しを開始したこと自体、オバマがすでにレイムダックに陥っていることを示している。パネッタが「30年戦争」を言い出したのを聞いて、バイデン副大統領は「ISISとの戦争を30年戦争と呼ぶのは、オバマ政権が終わってからにしてくれ」と苦言を呈している。 (Panetta Predicts '30-Year War' Against ISIS

 ISISとの長期戦争の開始は、中東の政治状況でなく、米国の政治状況の変化を反映した動きだ。911のテロ事件も同様だ。00年までの民主党クリントン大統領は、アフガンや中東でスンニ派テロ組織と本格的に戦うと泥沼化するので嫌がり、米軍に空爆以上のことをやらせなかった。そのため、01年に共和党ブッシュ政権ができた後になってから、軍産がクーデター的な大規模テロ事件の誘発策を強め、ブッシュの就任8カ月後に911事件が起きた。 (田中宇:911事件関係の記事

 もう一つ、軍産複合体が今のタイミングでISISとの長期戦争を始める必要があった理由として考えられることは、シリアの関係だ。昨年8月、米国は、シリアのアサド政権が化学兵器で市民を攻撃したと濡れ衣をかけ、アサド政権に対する空爆を決めたが、その後オバマの判断で空爆をとりやめ、代わりにロシアに監督させてシリアの化学兵器を撤去させる策に転換した。シリアの化学兵器は今年8月末に完全撤去され、アサド政権が国際社会に再び受け入れられる素地が整った。ロシアや中国は国連で、早くアサド政権を許すべきだと言い出した。 (Destruction Of Syria Chemical Weapons Complete) (World powers see Assad as bulwark against Islamic State

 当時、すでにISISはシリアとイラクで勢力を拡大し始めていた。米国が黙っていたら、国際社会がアサド政権(やその背後にいるイラン)を再受容し、ISISとの戦いの正式な参加者になってもらうべきだという主張が強まっていただろう。それを防ぐには、2016年にオバマ政権が終わるのを待たず、今のタイミングで米軍がテロ戦争の焼き直しとしてISISへの空爆を開始し、アサドやイラン抜きのISISと国際社会の戦争の構図を作る必要があった。

 米国はアサド敵視をやめておらず、ISISを戦争で潰した後「穏健派」のシリア反政府勢力を支援してアサド政権を潰すといっている。ロシアの外相は、米国がISISと戦争しつつ、同時にアサドも潰す気だろうと言っている。 (Lavrov: West may use ISIS as pretext to bomb Syrian govt forces

 しかし、もしISISより先にアサド政権が潰されると、イランやロシアといった親アサド勢力にとってだけでなく、サウジアラビアやイスラエル、トルコといったアサドを敵視してきた国々にとっても非常に危険なことになる。ISISが存続したままアサドが潰れると、シリアはすべてISISのものになる。米国が支援したい「穏健派」のシリア反政府勢力は弱い勢力でしかない。ISISは強くなり、トルコやイスラエル(ゴラン高原)、サウジアラビアなどに戦いを挑むだろう。ISISを育てることに協力してきたイスラエルやサウジは、強くなったISISに逆にやられる「ブローバック」を受ける。 (A Look Inside The Secret Deal With Saudi Arabia That Unleashed The Syrian Bombing

 サウジ王政がアサドの打倒を心底望んでいると米国のマスコミが喧伝しているが、それは考えにくい。サウジ王政は、自分たちの権力温存策として何より安定を重視する。アサドが倒れたらシリアがISISの国になり、メッカを侵攻して陥落し、イスラム国の首都にしようとサウジを攻撃しかねない。たとえISISを撃退できたとしても、サウジは不安定化する。イスラエルには、アサド政権が温存された方が良いと本音を表明する高官がいる。サウジやイスラエルにとって、シリアはISISとアサド政権が並存していた方が良い。

 911事件で起きたテロ戦争が「スンニ過激派」との恒久戦争という形をとった理由の一つは「イスラエル」である。1970年代以来、米国の軍産複合体を牛耳る傾向を強めたイスラエルは、90年の冷戦終結後、中東で米国と「敵」との冷戦型の恒久対立構造を作り、米軍を中東に長期に貼りつけ、イスラエルを守らせる衛兵の役割をさせようとした。そして起きたのが、イスラエルのライバルであるスンニ派アラブを敵とする911テロ戦争だった。だから、テロ戦争の焼き直しであるISISとの戦争も、スンニ派アラブを敵とする中東の恒久対立である必要があった。

 イスラエルは自国の安全上、アサド政権の転覆を望まないが、イランの傀儡であるアサド政権が国際社会に再受容され、イランの勢力が堂々とイスラエルの隣に存在するようになることも望まない。イスラエルは、シリアでISISとアサド政権の内戦が恒久化することや、ISISがイラン、イラク、サウジ、トルコなどイスラム諸国に長い戦いを強いる存在になることを望んでいる。米国がISISとの戦いの一環として、クルド人に急いで大量の武器を与えている動きも、米国の背後にいるイスラエルが、イラン、イラク、トルコを苛立たせる存在であるクルド人を強化したいと考えていることを踏まえると納得できる。

 ISISとの戦争が本当に何十年も続くのか、まだわからない。もしオバマが任期中に軍産複合体に一矢報いようとするなら、昨年夏にシリア情勢に関してやったように、ロシアやイランに任せて丸投げするやり方が今後あり得る。これはオバマが、軍産と闘うためにロシアやイランの味方になってしまうことを意味する。逆に軍産は、ロシアやイランとの敵対構造をできるだけ長く続けようとしている。そのせめぎ合いがどうなるかによって、イランやISISといった中東情勢、それからウクライナ情勢の今後の展開が変わってくる。



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