失効に向かう地球温暖化対策2011年12月7日 田中 宇11月29日から12月9日まで南アフリカのダーバンで開かれている「国連気候変動枠組み条約締結国会議」(COP17)は、来年末に期限が切れる京都議定書を延長できるかどうかや、温室効果ガス削減のための代わりの枠組みを作れるかどうかがが会議の要点だが、何も決められないまま終了しそうだ。国連のバンキムン事務総長は12月6日に会場で「世界不況のため各国が温暖化対策費を出しにくくなり、先進諸国と途上諸国との意見対立が解けないため、新たな協約を締結できそうもない」という趣旨の発言をした。 (UN chief warns on climate pact chances) 1997年のCOP3で締結された京都議定書は、温室効果ガスの削減目標について2012年までの分しか決めていない。その後の分について、毎年の年末に開かれるCOP会議で何年も前から決めようとしているが、先進諸国と途上諸国との意見対立や、米国の不参加などの問題が解決できず、何も決まらないCOPが毎年続いている。今年も、何も決まりそうもないので、13年初以降、気候変動枠組み条約が失効した状態になる。 (NPR reports Kyoto Protocol in trouble in Durban) EUは、京都議定書に代わる新たな枠組みを提案している。京都議定書は先進諸国だけが参加する体制だが、EUの新提案は、世界のすべての国々の参加を前提としている。90年代に京都議定書が策定された後、BRICなど途上諸国が高度経済成長に入り、温室効果ガスの一人当たりの排出量は、先進国に分類されてきたイタリアよりも、途上国に分類されてきた中国の方が多くなった。EUの提案は、こうした現状に対応しようとするものだ。 (Chinese sceptics see global warming as US conspiracy) EU提案の新条約が実現するには、途上諸国を率いる中国などBRICの賛同が不可欠だ。しかし中国やインドは、この200年間温室効果ガスを出してきたのは先進諸国なので、途上諸国の参加より先に、京都議定書の延長などによって先進諸国の温室効果ガス削減の体制を確立しない限り、新条約に参加できないと主張している。また中国などは、先進諸国が途上諸国の温暖化対策事業に金を出すことも必要だと言っている。 (Gloomy outlook for Durban climate talks) (China throws climate talks into confusion) もともと先進諸国の戦略は、京都議定書によって先進諸国が範を示して先に温室効果ガスの削減に着手し、その後、途上諸国に国際圧力をかけて、途上諸国が高度成長するころには途上諸国にも温室効果ガスの削減を義務づけ、途上諸国の経済成長を抑止したり、途上諸国が削減しきれない分は先進諸国から排出権を買い取らせたりして、先進諸国の長期的な凋落を防止するのが目的だった。植民地支配の延長を思わせる「成長しなくなる先進国が、成長し始める途上国からピンはねする」構図だった。 (地球温暖化めぐる歪曲と暗闘(2)) しかし、そうした構図は、08年のリーマンショック後、世界の事実上の最高意思決定機関が、先進諸国のみで構成するG7から、途上国と先進国が対等なG20に取って代わられたのと前後して大転換し始めた。09年末のCOP15では、中国が主導する先進諸国が「先進国が途上国の温暖化対策に金を出し、しかも先進国が先に排出削減をしない限り、排出削減に応じられない」と強く主張し、何も決まらなかった。交渉のテーブルがぐるりと回転し、温暖化をめぐる国際政治は「途上国が先進国からピンはねする」構図に逆転した。それ以降、毎年のCOPで何も決まらない状態が続いている。 (◆新興諸国に乗っ取られた地球温暖化問題) ピンはねの構図が逆転し、米国も不参加なので、先進諸国の多くは、京都議定書の延長に賛同しなくなった。対米従属を国是とする日本やカナダが、延長への不参加を表明した。00年のプーチンの登場以後、G7(G8)に入って先進国の仲間入りするよりBRICの一翼を担った方が良いと考えるようになったロシアも不参加を宣言している。EUも、途上諸国が参加する新体制に移行していく流れが作れない限り、京都議定書の延長には参加しないと言っている。 (China favours EU plans for Kyoto replacement - but with conditions) 京都議定書の枠組みを前提に、米シカゴや英ロンドンなどに、温室効果ガスの排出権を取引する市場が作られた。しかしピンはね構図の逆転とともに、排出権取引も意味のないものとなった。シカゴの排出権取引所は、来年はじめに閉鎖されることになった(その後は取引所なしの店頭取引となる)。 (ICE to Close Chicago Climate Futures Exchange) ▼動き出すと転換できないプロパガンダ機能 マスコミでは、人類が排出した二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスによって地球が温暖化しているという温暖化人為説が「確定した事実」として報じられ、懐疑論は無根拠な空論とされている。だが実際には、人類は気候変動の原因を解明し切れておらず、人為説が温暖化の最大の要因であると言い切れる状態でない。太陽黒点説、雲の動き、海洋の変化、火山活動など諸説があり、人為説はその中のひとつの仮説にすぎない。二酸化炭素は大気の温度を上昇させず、逆に冷却させるという研究結果も出ている。 (Greenhouse Gas Theory Discredited by 'Coolant' Carbon Dioxide) 近年は、大気の温度が温暖化の傾向でなく、逆に寒冷化の傾向だとも指摘されている。国連自身、今後30年は寒冷化の可能性の方が大きいと言っている。太陽黒点が減少していることがその理由という説もある。大気が温暖化していないので、学界やマスコミは、温暖化人為説を放棄し、代わりに異常気象の頻発を二酸化炭素のせいにする論調を出したりしている。このような状況なのに、国連機関のIPCCや学界などで、人為説だけが政治力を持ち、他の諸説を空論として排除する構図が作られている。 (UN trapped in climate turmoil) COP17を前に、英米の権威ある気候学者が気候変動の研究を歪曲し、温暖化が続いているように装っていたことが、学者どうしでやり取りしたメールの束がネット上に暴露されたことで発覚した「クライメートゲート」の第2弾として、約5千通のメールの束が11月下旬に暴露された。だが、温暖化問題そのものに対する注目度が下がったこともあり、ほとんど話題になっていない。 (EDITORIAL: A climate of fraud) (Uh oh, global warming loons: here comes Climategate II!) 人為説だけが正しいという歪曲が行われている理由は、もともと温暖化対策が、途上国からピンはねする先進国の策略であったため、英米主導で、学界(英米の学術誌が最高権威)や、国際論調(マスコミ)のプロパガンダ機能を使って温暖化人為説を政治的に確定しようとしたのだろう。それは、米国が米英中心の金融覇権体制を推進していた00年までのクリントン政権の時代に確立された。 (地球温暖化問題の裏側) 米国はその後、経済覇権を軽視して軍事的な単独覇権を強硬に推進するブッシュ政権になった。同政権内には、軍事的な強硬策をやりすぎて未必の故意的に失敗させることで、米英覇権体制そのものを瓦解させ、米英覇権体制下で経済成長を抑制されてきた途上諸国の経済成長を引き出す多極型の覇権体制に転換し、長期的な世界経済の成長を増長させたい勢力(ネオコン、チェイニー副大統領、ポールソン財務長官、一部の共和党有力議員など「隠れ多極主義者」)がいた。 (地球温暖化の国際政治学) ブッシュ政権下の米国は、京都議定書を批准せず、リーマンショック後のG20サミット体制など覇権転換の開始によって、中国などBRICの台頭を誘導し、温暖化問題の政治構造の逆転が起きることを黙認した。先進国が得するピンはねの構図は失われたが、いったん作られたプロパガンダの機能は休止や方向転換が難しく、今もマスコミや学界では、温暖化人為説のみが権威を持ち、疑う者に対する抑圧が続いている。 (地球温暖化めぐる歪曲と暗闘(1)) いったん当局がプロパガンダ体制を構築すると、その後の動きを簡単に変えられなくなることは、米国がイスラム主義を敵視するプロパガンダ戦略が、中東を反米イスラム主義で団結させ、中東の親米政権が次々に打倒されても、米国側の論調や戦略を転換させられないことにも表れている。09年からのオバマ政権は、前任のブッシュ時代に行われた未必の故意的な過激策の奔流を何とか止めようとしてきたが、ほとんど成功していない。地球温暖化に関してオバマは、ほとんど新しいことをやっておらず、事態の改善をあきらめている感じだ。 今後もCOPでは温暖化対策が決定できず、そのうち温暖化問題自体が、しだいに重視されなくなっていく可能性が高い。温暖化人為説が諸説の一つにすぎず、地球の大きな温暖化も起きていない以上、国際的な温暖化対策が何も決まらなくても、人類にとって自然現象的な実害は何もない。政治経済的には、日本など先進国が中国からピンはねできるなら、中国を脅威とみなす日本人にとって、うれしいことだっただろう。だがそれは実現しない。むしろ今後、中国の国際政治力が強まるほど、逆に日本は「温暖化対策費の援助」の名目で中国からピンはねされかねない。
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