地球温暖化問題の裏側2008年4月22日 田中 宇日本では最近、政府が国民に地球温暖化対策の実施をさかんに呼びかけている。役所やマスコミは、二酸化炭素などの温室効果ガスをなるべく出さない生活を心がけましょうという宣伝を繰り返している。企業活動や生活の中で人間が排出する二酸化炭素が温室効果を激化させ、地球の温度を過剰に上昇させてしまうという、国連の専門家機関(IPCC)で主張される地球温暖化の理論(仮説)は、完全に「事実」として定着した観がある。 しかし私が見るところ、世界の専門家の中には、温暖化対策が必要だとする政策の根拠になっている「地球温暖化は人類排出の二酸化炭素が主因」という考え方に対し「間違いだ」と思っている人がかなりいる。「IPCCは、温暖化対策が必要だという結論を先に持ち、それに沿った議論だけを束ね、懐疑的な指摘や質問を拒否して、温暖化の報告書を作ってきた」という見方も強い。IPCCや、イギリスを主導役とする先進各国が、温暖化対策を世界に義務づけようと急ぐほど、専門家の中からの疑問視や反発が強くなっている。昨年あたりから、IPCCのやり方に反対する専門家らが集まる会合や組織も多くなってきた。(関連記事その1、その2) テロ戦争や、中国ロシアに関する報道に見られるように、英米を中心とする世界のマスコミは、イギリスが立案する「英米中心主義」の戦略に沿って政治的な誇張が入った国際報道を展開する傾向がある。テロ戦争は「第2冷戦」として企図されているし、中露への敵視報道は、米英中心主義を崩壊させかねない中露台頭を阻止する意味で、冷戦型戦略の一環である。 地球温暖化問題でも、イギリスのBBCなどは一貫して「地球の温暖化は激化しつつある」「懐疑派の理論は間違っている」といった、極端な主張を含む報道を繰り返している。米英のマスコミは、IPCCと同様、実際の気候変動について分析することよりも、温暖化対策を支持する方向に世界の世論を持っていくことの方を重視し、懐疑的な学者たちの見方をほとんど紹介しない(日本の報道は米英の翻訳なので、同じ傾向を持つ)。(関連記事) たとえば米調査機関(Business & Media Institute)によると、アメリカの地上波テレビ3局は昨年後半、地球温暖化や気候変動について205回報じたが、その80%は、通説に懐疑的な人の主張に全く言及せずに報じられた。昨年カリフォルニア州で大きな山火事があり、これについて地元の大学の専門家は、地球温暖化とは関係ないと分析しているのに、こうした分析は無視され、温暖化のせいで山火事が増えたという報道が目立ったと指摘されている。(関連記事) 日本でも、何でもかんでも温暖化のせいにする報道の風潮は強い。こんな状態なので、世の中の人々の多くは「人類が出す二酸化炭素のせいで地球が温暖化していることは、もはや確定した事実なのだ」と思ってしまっている。 かつてイラク侵攻前、米英政府が、無数の諜報情報の中から「イラクは大量破壊兵器を開発している」という結論につながる情報だけを集めて理論を組み立て、マスコミを通じて「だからイラクの政権を転覆せねばならない」という国際世論を掻き立て、イラク侵攻を挙行した。イラク現地を査察した経験を持つ専門家は「イラクは大量破壊兵器を開発していない可能性が高い」と主張したが、確定的でないとして米英政府に拒否され、代わりにもっと不確定な「イラクは大量破壊兵器を開発しているに違いない」という結論が採用された。 地球温暖化問題をめぐるここ数年の流れは、このイラクの大量破壊兵器をめぐる世論操作と、やり方が似ている。この類似性から、イラク戦争前からマスコミウォッチを続けている米英の反戦運動家の中には、地球温暖化問題を胡散臭いと思っている人がけっこういる。 私はこれまでに、地球温暖化問題に対する懐疑的な見方の記事を5本(うち4本は上下2組)書いているが、私の分析の筋は、今回も同じである。私の分析は2点ある。一つは、温暖化の主因が人類排出の二酸化炭素だとは考えにくいこと。もう一つは、それなのに温室効果ガス排出削減策や排出権取引構想が世界的に推進されているのは、先進国(特にイギリス)が、自分たちが世界を主導する地位を途上国に奪われないよう、途上国の経済発展を、温室効果ガス排出規制、つまり石油利用規制によって縛り、途上国の政治的な国際台頭を防ごうとするためだろう、ということである。(関連記事その1、その2、その3、その4、その5) ▼太陽活動説の方が説得性がある すでに書いたように、マスコミは温暖化人為説だけを強調し、人為説への懐疑を表明する専門家の意見が報じられることは少ない。しかし、懐疑派の主張を探して読んでいくと、なるほどと思うことが多い。 ウィキペディア英語版に、温暖化に関するIPCCの結論(人為説)に反対している専門家(関連論文を発表したことがある人)がどのような主張をしているか、発言元の論文などをたどれるものを並べたページがある。そもそも地球が現在温暖化しているとは思えないと言う人から、温暖化の主因は人為ではなく自然由来のものだと言う人、温暖化は寒冷地の気候が和らぐので良い、二酸化炭素の増加は植物を増やすので良いと言う人まで、約50人の主張が並んでいる。 私なりに分析すると、この専門家たちの多くに共通している見方は「地球の気候は大昔から何度も大きく変動してきた。多くの人がいろいろ調べてきたが、変動の理由は確定できず、まだわからない部分が大きい。あえて言うなら、人類排出の二酸化炭素による温室効果より、太陽活動の変化など自然由来の原因の方が大きそうだ。IPCCは、人類排出の二酸化炭素が主因だと断定しているが、これは間違った結論だ」というものである。 温暖化の悪影響としてマスコミなどで語られているものの中には、氷山の溶解による世界的海水面の上昇、北極南極での動物の減少など、極地に由来するものが多いが、このページで紹介された専門家の一人であるオタワ大学の北極専門家、イアン・クラーク教授は、北極圏の温暖化は太陽活動が主因だと書いている。(関連記事) クラークの主張は、以下のようなものだ。北極圏では今から1万−5千年前に温暖期があり、その後19世紀末から現在まで、小氷河期の終わりに位置づけられる温暖化傾向が再び続いているが、いずれも太陽活動の活発化(黒点の増加)と連動していると考えられる。二酸化炭素が原因だという人々の主張は、二酸化炭素が増えると水蒸気(雲など)が大気を暖める温室効果が強まるという仮説に基づいているが、この仮説は実地に検証できていない。雲には(太陽光線を反射する)寒冷効果もあり、温室効果と寒冷効果の両方がもたらす複雑さは解明できていない。それに比べると、太陽活動が温暖化につながることは多くのデータで実証されている。 ウィキペディアの前出のページで紹介されたもう一人、ウェスタン・ワシントン大学の地質学者であるドン・イースターブルックによると、米カスケード山脈の過去の氷河の伸び縮みから推察される温度変化は、1890年代から1920年代の寒冷期の後、1925年から45年まで急速に温暖化、45年から77年まで寒冷化、77年から現在までは再び温暖化している。(関連記事) 温暖化の原因が人類排出の二酸化炭素だとしたら、世界の工業化が進んだ1950−70年代に温暖化が進まねばならないが、実際には、この時期は逆に寒冷化している。このようなジグザグは二酸化炭素ではなく、太陽活動で説明した方が辻褄が合う。 専門家たちの間では、IPCCの運営方法に対する不満や反発も強い。IPCCのメンバーで、ニュージーランドの気候専門家であるビンセント・グレイは「IPCCの議論では、突っ込んだ質問が無視され、コメントが理由なしに拒否されるときが何度もあった。分析のやり方に問題があると何回も指摘したが、拒絶され続けたので、私は、IPCCは意識して不健全なやり方を採っていると結論づけざるを得なくなった。この病的な状況は、IPCC結成当初からのものだ」と書いている。(関連記事) ▼海水温は下がっていた IPCCは、膨大な量の報告書を発表しており、そこでは気候変動に関するいろいろな仮説や主張が列挙され、それらを踏まえたうえで、最終結論である人為二酸化炭素説が出されたという形を取っている。太陽活動説など、他の説が主張されても「その件はすでに検討され、大して重要ではないという結論が出てまいす」「その要件は、すでにわれわれのコンピューターモデルの中に組み込まれており、それを包含した上で、今の結論になりました」と言い返して終われるメカニズムが作られている。 しかし反論の中には「説」ではなく「データ」もある。たとえば、米NASAなどが参加して、世界で3千個の海中探査装置を2000メートルの海中に沈ませ、10日に一回浮上させて海中の水温や塩分濃度、潮流などを調べる国際的な海洋温度探査事業アルゴ・モニターが2003年から始まっている。最近、過去5年間のデータが発表され、この5年間、世界の海水温度の平均値は、少し下がる傾向にあったことが明らかになった。(関連記事) IPCCが人為温暖化説の根拠として採用したコンピューターモデルのほとんどは、海洋温度の上昇が大気圏の気温上昇につながるという原理だが、海水温が下がっているのに大気温が上がっているとなると、このモデルの妥当性が失われる。5年間は、気候変動を計るには短すぎる期間だが、大気温の方は、ここ数年の上昇を理由に「このままだと温暖化が進んで大変なことになる」とマスコミなどが大騒ぎしているので「5年は短すぎる」と言えない。本来、IPCCは従来のモデルの放棄を検討せねばならないところだが、実際には、IPCCやマスコミは、アルゴ・モニターのデータを無視して事なきを得ている。(関連記事) そもそも、雲が及ぼす影響など、まだわかっていない部分が大きい気候変動のメカニズムを、わかったことにして数式モデル化し、コンピューターのシミュレーションにして、それを回して未来の気候状況を的確に予測できると考えるIPCCの結論の出し方は、全くの頓珍漢だ。そこに根本的な問題がある。(関連記事その1、その2) ▼世界は昨年から寒冷化している? 昨年から今年にかけての冬は、地上の気温の方も世界的に低下している。アメリカの気候データセンターによると、今年1月から2月にかけて、全米の多くの地域で、史上最も寒い温度が記録された。イラクの砂漠では100年ぶりの雪が降り、サウジアラビアでも20年ぶりの大雪となった。中国では大寒波で交通が何日も麻痺し、中央アジア諸国では凍死者が大勢出た。昨年の気温の下降は、過去100年間の気温上昇傾向を逆行させるものだという指摘もある。(関連記事その1、その2、その3) 同時に、昨年から太陽活動が縮小期に入っており、寒冷化はそのために起きていると主張する学者がロシアやカナダで出てきた。先に、1925年から45年まで急速に温暖化、45年から77年まで寒冷化、77年から現在までは再び温暖化しているとする指摘を紹介したが、それを加味すると、77年から2006年まで温暖化し、07年から再び寒冷化が始まったのではないかと考えることもできる。再び小氷河期が来るという「地球寒冷化」を予測する学者も現れた。(70年代にも、地球寒冷化の恐怖が喧伝されていた)(関連記事その1、その2) IPCC擁護派の側は、昨年からの寒さは、太平洋上の状態が、これまでのエルニーニョ(南米沖の海面温度が高めになる状態)から、ラニーニャ(その逆)に代わったからだと説明している。(関連記事) 今後も寒冷化が続くのか、それとも温暖化に戻るのか、寒冷化の主因は太陽活動なのかラニーニャなのか、まだ確定した説明がつかないのは当然だが、少なくとも明確に言えるのは、地球が一気に温暖化していると断言できなくなったということだ。 気候に関してメカニズムがよくわかっていないものはたくさんある。たとえば最近、アメリカの著名なハリケーン(カリブ海からアメリカに上陸する大嵐)の研究者が新しいハリケーン分析モデルを作り、コンピューターを回してみたところ、海水に急速な温暖化が起きたとしても、ハリケーンの増加にはほとんど影響がないことがわかったと発表した。新モデルに基づくと、ハリケーンは今後、減少傾向になるという。(関連記事) 従来は、温暖化が進むとハリケーンも大型化・増加し、アメリカに上陸して大変な被害をもたらすことになる、と説明されてきた。米マスコミは「温暖化を放置するとハリケーンで家を壊されますよ」と米国民を脅してきた。だが、今後はそれができなくなる。(これも無視されて、従前通りの脅しが繰り返されるのかもしれないが) ▼IPCC支持派だけでなく反対派も市民運動化 最近、アル・ゴア前副大統領が作った映画「不都合な真実」など、地球温暖化について誇張しすぎる案件が目立つようになった。その結果、IPCCのやり方など、地球温暖化問題をめぐるあり方に疑問を持つ人々が、世界的に多くなっている。温暖化対策に反対したり、ゴアを敵視するキャンペーンも行われている。(関連記事その1、その2) アメリカでは、たとえば、シアトルで珍しく4月に雪が降り、これについて地元のメディアが「この寒さは短期的な例外であり、地球温暖化の傾向は変わらない」と説明するIPCC的な記事を出したところ、その記事の下の掲示板に「地球温暖化はウソだ。地球は温暖化してない」「いや、地球は温暖化している。君は間違っている」という感じの議論が延々と展開されている。(関連記事) こうした激論は、以前には見られなかったことだ。私が1997年に最初に温暖化懐疑論を書いたころには「田中さんは、石油業界から金をもらっている一部の研究者の歪曲分析を真に受けてしまっていますよ」と、左翼の人からやんわり注意される程度だった。2005−07年に書いたときには、IPCC支持派が血気盛んに「市民運動化」しており、中傷的・攻撃的に批判を受けた。 しかし今、シアトルの新聞記事の掲示板に象徴される状況は、IPCC支持派だけでなく、反対派も市民運動化し、互いに敵対し、攻撃し合っている。この1−2年で、IPCCを批判的に見る人が増加したことになる。 【続く】 田中宇の国際ニュース解説・メインページへ |