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「地球の平均気温」は意味がない

2009年6月28日   田中 宇

 地球温暖化問題は「地球の平均気温は上昇している」ということと「平均気温の上昇の主因は、化石燃料の使用など人類の活動による二酸化炭素など温室効果ガスの排出である(温暖化人為説)」という、2つの主張が根幹に存在する。この2つのどちらかが間違っていた場合、世界的な大騒ぎとなっている地球温暖化問題は、本当に問題なのかどうか、考え直さねばならなくなる。

 温暖化を問題だと考える人々(支持派)と、温暖化問題に対して懐疑的な人々(懐疑派)とは「地球の平均気温は上がっている」「いや上がっていない」とか「平均気温上昇の人為説は正しい」「いや、間違っている」などと、何年も激論を戦わせ、ネットの掲示板などで罵倒しあっている。

 しかし、そもそもこの議論の根幹にある「地球の平均気温」(Global Temperature)という考え方そのものが、正当さを欠いた概念なのではないか。そんな主張を、コペンハーゲン大学の研究者ビヤルン・アンダーセン(Bjarne Andresen)と、カナダの大学の2人の研究者が、今年3月に発表した。 (Researchers Question Validity Of A 'Global Temperature'

 地球温暖化の議論には、地球の気温を単一の数字(平均値)としてとらえることが不可欠である。世界には、各国の気象台などが毎日気温を測定している地点が無数にあり、その中には現在の気温が例年より高い地点もあれば、低い地点もある。測定しているすべての地点で、気温が前年より高い傾向が何年も続けば、それは明らかな「地球温暖化」であるが、実際にはそのような状況ではない。地球上には、昨年より気温が高い地点と低い地点が混在している。

 ここで出てくるのが「地球の平均気温」の概念だ。世界中の気温観測地点での今の気温を単純平均(すべての温度を合計して総数で割った算術平均)したものが、今の地球の平均気温である。各観測地点の気温が、その周辺の地域の気温を代表し、世界中の観測地点の気温の平均値が地球の気温を代表しているという考え方だ。

 アンダーセンらは、複数の地点の気温の平均値が、それらの地域全体の気温を代表しているという考え方に、疑問を呈している。たとえば、隣接する2つの地域のA地点とB地点の気温の平均値が25度という時、Aが10度でBが40度でも平均は25度だし、AB両方が25度でも平均は25度であるが、前者の場合は両方の空気が激しく対流して強風や雷雨が発生するのに対し、後者の場合は何も起こらない。平均気温は同じ25度でも、発生する気候は全く異なる。

 地球上に無数の観測地点があり、その各地点間の気温が多様な差異を持ち、多種多様な気候が発生して、それが次の日の気温や気候に反映されていく連続的な現象があり、その総体が地球の気候である。この非常に複雑な地球の気候の状態を、各地点の気温の平均値によって代表させることは、非現実的である。アンダーセンらは「各地点の気温の平均値が地球を代表する気温だと考えることは、電話帳に載っているすべての電話番号を合算して算出した平均値が、その町を代表する電話番号であると考えるのと同じ種類の、頓珍漢な話である」と主張している。 (Does a Global Temperature Exist?

▼根本から崩れている温暖化の考え方

「地球の平均気温」という概念が無意味だとすると「地球の平均気温が上がり、海面上昇や大干ばつなど破滅的な現象が起きる」と予測する温暖化問題も、根本から崩れることになる。

「いや、問題は全世界の平均気温じゃない。南極と北極の温度上昇によって極地の氷が溶けて海面上昇が起きることだ」などといった、各論に話を飛ばした反論がすぐに出てきそうだが、これについても、両極の氷は増大しているという指摘がある。世界的な海面上昇についても、長年の傾向から乖離した上昇は起きていないと指摘されている。極地には気温の観測地点が少なく、それを補うための推測モデルを操作することで、IPCCは極地が温暖化しているかのような結論を出してきた。 (Antarctic ice is growing, not melting away) (Rise of sea levels is 'the greatest lie ever told') (Greenland ice tipping point 'further off than thought'

「地球は人類の二酸化炭素によって急速に温暖化しているのだから、地球の平均気温という概念に意味があるかどうかという悠長な哲学議論している余裕はない」といった「運動家」からの反論もありうるが、これは本末転倒である。「世界を代表する専門家たちが国連のIPCCに集まって議論した結論なのだから間違いない」といった主張もよくあるが、IPCCをはるかに上回る人数の世界の専門家が何度もIPCCの結論(温暖化人為説)は正しくないという結論の文書に賛同し、署名している。 (What happened to the climate consensus?

 かつて、IPCCの温暖化人為説が、世界の専門家の「コンセンサス」とされたが、今や逆に「IPCCの人為説は間違いだ」という考えの方が世界のコンセンサスになってきている。「今年は、温暖化人為説が終焉する年になる」という見方も出ている。 (Global warming a 'political delusion'

 IPCCは、2001年の報告書に、地球の平均気温は産業革命以後の100年あまりで急上昇したとする「ホッケーの棒理論」(歴史的な平均気温の変化をグラフ化すると、L字型のホッケーの棒のように最後の100年だけが急上昇になる)を載せたが、この理論は中世に近代よりずっと高温の時代があったことを意図的に外して無理矢理にL字型のグラフを作った捏造だった。IPCC参加者の一人が「中世の温暖期を無視しなければなりませんな」と発言したともいわれている。本来なら、IPCCの信頼性は01年の時点で失われているべきだった。しかしIPCC支持派やマスコミは、ホッケーの棒理論について単に沈黙することで、この詐欺行為をなかったことにしている。 (Despite the hot air, the Antarctic is not warming up

 米国のNASA(GISS)は今年初めに「2008年の地球の平均気温は、2000年以来で最も低かった」と発表した。地球の気候に関係していると考えられている太陽黒点の減少もあり、温暖化ではなく寒冷化の方が問題だという主張も出てきた。 (Blog: Science Temperature Monitors Report Widescale Global Cooling

 温暖化人為説派は「2008年の気温は低下したとはいえ、1880年以来の全体を見ると記録的な高さを維持している」「気温は短期的には上下しうるが、長期的には必ず上がる」と反論している。株価が下がって困っている投資家に対して「短期的には下がっても、長期的には上がります。科学的に証明されています。何人もの専門家がそう言っています」と説得する証券会社の営業マンのようだ。 (New global temperature record expected in the next 1-2 years

▼温暖化はアルカイダと似ている

 全体として、地球が温暖化しているという主張の根拠は薄くなっている。「地球の平均気温」にどれだけの意味があるのかを勘案すると、地球の平均気温が上がっているとしても、それが破滅的な現象につながっているとは考えにくい。平均気温自体が下がりつつある可能性も大きくなっている。少なくとも、平均気温が上がっていることは、すでに確実なことではない。 (Pouring cold water on global warming

 温暖化人為説の主張に対する反論が増えた結果、人為説の確度も、しだいに低くなっている。全体的に考えると「地球は温暖化しつつあり危険だが、化石燃料の使用などによって人類が発生させている温室効果ガスを減らせば危険は回避できる」という、温暖化問題支持派の主張は、全崩壊している。

 しかし日本や欧米での「常識」は、依然として「地球温暖化を止めるために二酸化炭素などの排出を減らさねばならない」というものだ。政府もマスコミも、この路線を喧伝しており、再考や修正の気運は少ない。企業は、二酸化炭素などの排出量が少ないハイブリッド自動車や家電製品などを発売し、国民の多くが温暖化理論を軽信し、それらの製品を「良いもの」として買っている。こうした「温暖化便乗ビジネス」は、不況対策としては有効かもしれないが、温暖化や人為説が不確定である以上、騙しでしかなくなる。石油ガスのほぼ全量を輸入する日本では、石油ガスを節約する省エネの努力は明確な意味があるが、温暖化対策は、人為説が確定しない限り、やる意味がない。

 以前の記事に書いたが、私が見るところ、温暖化問題は、経済成長が頭打ちになっても覇権を維持したい英米中心主義の勢力による、高度成長で台頭しつつある発展途上国(BRICなど)を抑制するための、ピンハネ戦略である。温暖化問題で最初の国際合意となった京都議定書の話が90年代後半に出てきたのは、米国の隠れ多極主義者が冷戦を終わらせて英米中心体制を壊し、多極化への道が開かれ出した後のタイミングである。米ブッシュ政権が温暖化問題を拒否したのも、隠れ多極主義だったからだ。 (地球温暖化の国際政治学

「地球温暖化問題」は「アルカイダ」(テロ戦争)と似た構図を持っている。一見、言われていること(地球は温暖化によって危機にあるとか、アルカイダが世界的テロを起こそうとしているとか)は正しいように見え、マスコミも大々的に報道し、人々の常識と化している。しかし、かみ砕いて理解しようと調べていくと、問題そのものが実体不明になり、詐欺商法的な構図を持つことが感じられてきて、大きな歪曲の結果として問題が捏造されているのではないかと思えてくる。

 温暖化やアルカイダに関する常識は間違っていると表明する人に対しては「素人が間違った理解をしている」「科学者や、テロ専門家の言うことしか信用すべきでない」といった社会的な抑止が働き、異論を言う人は孤立させられて、既存の「常識」が維持される仕掛けになっている。これは、米国の財政問題に対する「レーガノミックス」(減税は税収増につながる)や、金融危機対策としての「量的緩和」(ドルを無限に刷るのがよい)などに関しても言える構図である。

▼オバマの温暖化対策の意味

 折しも米国では6月26日、温暖化対策としての排出規制法が、史上初めて米議会(今回は下院)で可決された。この法律は、二酸化炭素など温室効果ガスの米国での総排出量を2020年までに20%削減することを掲げ、電力会社など排出企業に対して目標値を設定させ、目標を上回って排出量を減らした場合はその分を販売でき、目標を達成できなかった企業が購入する排出権取引の制度を盛り込んでいる。 (Climate bill squeaks past House

 法案は、ゴア元副大統領らクリントン政権の流れをくむ米民主党の温暖化問題推進派によって成立が画策された。共和党は、法案が可決されると経済成長が抑制されて不況が長引くと反対した。民主党は、この法律による経済損失は米国民一人当たり100ドル前後と主張しているが、共和党は、一人当たり800ドルの損失になると概算している。米政界には「地球の温暖化も人為説も確定的ではないのだから、経済に損失を与える排出規制は不要だ」という意見も強く、4月以来の議論の中で、共和党は、英国の温暖化懐疑論者であるモンクトン卿を呼んで証言させようとしたが、民主党の反対で潰された。 (Climate change doubters take stage

 法案の決議の数時間前には、民主党から300ページの追加条項が出され、これを議員たちが詳しく読む時間も与えられないまま、評決が実行された。 (House Passes the 1,200-page Climate Bill that Congress was Not Allowed to Read) (Climate Bill Passes in House by Seven Votes

 ブッシュ政権が反対していた温暖化対策を、オバマ政権が導入したことは、単に「石油利権」と結託していたブッシュがいなくなったから、と見ることもできるし、米国が「隠れ多極主義」から「英米中心主義」に転換したと見ることもできる。だがオバマ政権は、米国の金融財政を自滅させることを続ける一方で、中国の台頭を後押し、英国とイスラエルに冷や飯を食わせており、全体としてみると、相変わらずの隠れ多極主義である。(それにブッシュはイラクを無茶苦茶にしただけで、イラクの石油利権を米国のために確保していない)

 今回の温暖化対策法は、タイミング的に見ると、米国が未曾有の大不況を乗り切れるかどうかという、経済成長の原動力が重要になる時期に創設されている。新法は下手をすると、共和党の主張通り、不況を悪化させる効果をもたらす。米国に投資しようとしている世界の企業を米国から遠ざけ、温暖化対策の存在しない中国やインドに向かわせてしまう。タイミングの悪さからすると、オバマの今回の温暖化対策も、かつてのブッシュの温暖化対策(エタノール燃料を奨励する建前で、政治圧力の強い農民の要求を容れ、財政を無駄遣いして農業補助金を増やした)と同様に重過失的な自滅策になるかもしれない。

 オバマの温暖化対策に対しては、アリゾナ州が「地球の温暖化や人為説は不確定な話なのだから、連邦政府の温暖化対策は、無意味に経済損失を与えるだけであり、違法である」とする州法を、州議会で検討している。今後、米国の不況が長引くとともに、温暖化に関する不確定さが明確化した場合、全米各州で、この手の反連邦的な「温暖化対策違法宣言」が出てきそうだ。米国の連邦解体にも、拍車をかけるかもしれない。 (Arizona Looks to Outlaw Global Warming Legislation

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