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米大統領選の焦点はテロ戦争の継続可否

2008年2月12日   田中 宇

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 アメリカ大統領選挙は、二大政党の予備選挙が進み、共和党はジョン・マケインへの一本化が進み、民主党はバラク・オバマとヒラリー・クリントンの接戦が続いている。次期大統領はマケイン、クリントン、オバマのいずれかになる可能性が大きい。

 民主党では、全般的に見て、オバマが草の根の支持、クリントンがエスタブリッシュメント(政財界)の支持を集めてきた。2人は、政策内容にはそれほどの違いがないが、オバマは黒人が集まるアメリカ南部のキリスト教会の礼拝での説教師の手法を会得し、聴衆に希望を持たせる前向きなキーワードのリズミカルな繰り返しによって、演説を聞いた人々を感動に引き込み、支持を広げている。オバマに比べてクリントンは演説が下手だが、夫のビル・クリントン前大統領の政権に関与して以来の国家政策立案の経験を宣伝し、オバマを空想屋だと批判して対抗している。(関連記事

 共和党にも、ロン・ポール(テキサス州下院議員)という、草の根から支持されている候補がいる。ポールは昨年末、1日で600万ドルの献金を集め、アメリカにおける1日の政治献金集めの記録を塗り替えた。この時の献金の大半は一人あたり100ドル以下で、財界人がぽんと大金を出したのではなく、無数の一般市民が少額の献金を出し、それが全体として600万ドルになる草の根の巨額集金だった。(関連記事その1その2

 ポールは絶大な人気なのに、マスコミにはほとんど無視され、テレビ討論会でも出演を拒否されたことが多い。それは、彼が「連邦政府は最小限の規模と予算にすべき」「対外不干渉主義」(いわゆる孤立主義)などを掲げる「リバタリアン」(自由論者)だからである。ポールは、連邦政府は米国民の世論を無視して無意味な戦争を拡大していると批判し、連銀(FRB)は第一次大戦前の設立時から今に至るまで戦費調達のためにドル札を過剰に刷ってインフレを起こす機関だと指摘して、連銀不要論を説いている。(関連記事

 ポールの主張はまっとうなものだ。米連邦政府は1910年代から、ニューヨークの資本家とイギリスに乗っ取られ、一般の米国民の意志と関係なくアメリカを動かし、戦争を繰り返している。米マスコミも好戦的なプロパガンダ発生装置として、この連邦の戦争機関の一部であるため、ポールの存在をほとんど無視している。しかし、今のような戦争泥沼化の時期には、米国民の中には連邦政府の本当の姿に気づき、ポールを支持する人が増えている。

「銃規制反対」なども掲げるリバタリアンは、地方分権、個人意思尊重の「古き良きアメリカ」の復活を求める人々であり、共和党内でもともと強かった勢力である。アメリカは今後、経済破綻とドル失墜、戦争の大失敗を経て、単独覇権の呪縛から解放され、最終的にはリバタリアン的な、いわゆる孤立主義の国(もしくは西半球の国)に戻り、そこから次のアメリカの発展が始まるのではないかと私は思っている。この件は今回の記事の本題ではないので、このぐらいにしておく。

▼マケインは隠れ多極主義

 マケイン、クリントン、オバマという3人の最有力候補の政策を大雑把に比べると、マケインはブッシュの政策を維持する方針だ。マケインが大統領になったら、減税による収入減と、中東での戦争続行と米軍拡大による支出増によって、米財政は破綻し、インフレとドルの信用不安が悪化する。アメリカは世界から嫌われる傾向を強め、経済・軍事・外交の3面で覇権を減退させる。米はもはやイラクで勝てないのに「勝つまで戦う」と言っているマケインは、ブッシュと同様の自滅的な「隠れ多極主義」である。

 マケインは「フォーリン・アフェアーズ」の論文で「(パレスチナの)ハマスは必ず孤立化させねばならない」と言っているが、これは中東を席巻しつつあるイスラム主義勢力がイスラエルを潰すことを誘発するということだ。「G8からロシアを脱退させ、ブラジルとインドを入れるべきだ」とも言っているが、そうなるとますますG8の影響力は低下し、反動として中露は結束し、ブラジルもインドもアメリカの味方になるのを躊躇する。マケインは、南米ベネズエラの反米的なチャベス大統領を敵視しているが、これも中南米の人々の反米感情を煽り、チャベスの人気を高める。ブッシュの戦略を引き継ぎ、世界中で敵を強化するマケインの戦略は、アメリカの力を意図的に浪費する。(関連記事

 マケインは同論文で「国際社会での日本の台頭を歓迎する」とも言っている。日本について多くを語っているのは、3人の主要候補者の中でマケインだけである。マケインの日本支持は、日本に中国包囲網の主役の一つに仕立てようとする方向性のもので、安倍政権が掲げていた中露包囲網戦略「自由と安定の弧」を賞賛し、拉致問題と北のミサイル開発を北朝鮮核問題の6者協議の議題に加えるべきだと書いている。

 マケインは日本が好戦的になることを求めている。日本人は、これを日米同盟強化と米中関係悪化という冷戦体制の復活で、今後も対米従属を続けられると歓迎するかもしれないが、それは間違いである。アメリカが日本の外交軍事力を拡大させようと誘導するのは、中期的には日本が単独で中国と張り合えるようにするためだが、長期的には単独で張り合うようになった日本が中国と一定の協調関係を独自に結び、日本がアメリカ抜きで東アジアの中でやっていけるようにする「乳離れ戦略」であり、世界多極化の一環である。(関連記事その1その2その3

 現在のマケインは、過剰に好戦的な自滅型のネオコンだが、以前のマケインは正反対だった。1983年のレーガンのレバノン侵攻に対して「ゲリラ戦の泥沼にはまるのでやめるべきだ」と批判し、1991年の湾岸戦争では「米地上軍をイラクに入れるのは自滅だ」と、空爆のみにとどめることを主張するという、慎重な戦争を求める「現実派」として有名になった。マケインが「地上軍を派兵すれば何でも解決できる」という自滅型好戦派に変質したのは、99年のコソボ戦争からだったと指摘されている。(関連記事

 この変節は、ブッシュ家やクリントン家と同期している。ブッシュ家は、90年代初期のパパブッシュ大統領の時代には慎重な現実派だったが、98年にネオコンがPNACを結成してイラクへの地上軍侵攻を主張した後、息子のブッシュはこれに乗って当選し、約束どおりイラクに侵攻して泥沼にはまった。93年から2000年までのクリントン前大統領も、最初は現実派だったが、97年ごろから「ならず者国家」非難戦略など、現ブッシュ政権の「悪の枢軸」に近い好戦的な戦略を掲げ「ネオリベラル」化した。

 マケインとブッシュ家とクリントンが、現実策から過激策に転換したのは、イスラエル右派が米政界での力を拡大した時期と一致している。米大統領選挙の主力候補たちが、こぞって親イスラエルぶりを競うようになったのは、ブッシュがゴアを破った2000年の選挙あたりからである。それまでの米政界では、パレスチナ問題に対し、表面上だけでも「公正な立場」を表明するのが正しいあり方だったが、1998年ごろを境に「イスラエル支持」「アラブのテロを許さない」と表明しない政治家は弱体化させられる傾向が強まった。今回の3人の主力大統領候補は皆、政策論文の中で明確に「イスラエル支持」と「テロ戦争推進」を明記している。

▼クリントンは覇権再建を目指す

 3人の主要候補は、いずれもイスラエル支持を表明しているものの、実際にはおそらく3人とも、米外交がイスラエルに牛耳られる状態を脱する隠れた戦略を持っている。マケインは、過激にイスラエル支持をやりすぎることで、イスラエルに不利な状況を作るブッシュ政権の「隠れ多極主義」を継承している。前述のロン・ポールを例外として、ジュリアーニやハカビーなど、他の共和党(元)候補たちも同様の戦略である。

 共和党は、アメリカを単独覇権国の地位から落とそうとしているが、民主党は逆に、アメリカの覇権を立て直そうとしている。ヒラリー・クリントンは、フォーリン・アフェアーズ誌に書いた論文で、米軍をイラクから早期に撤退して軍事力を温存する一方、中国やロシアとの敵対関係を解消し、中国を国際社会(G8?)に取り込み、ロシアが民主化したらアメリカの同盟国にしてやるという誘導を行う政策を打ち出している。(関連記事

 クリントンは同時に、イラクの安定のためにイランやシリアとも協力し、中東を安定させてパレスチナ和平を推進すると書いている。これは、パレスチナ和平によってイスラエルの力を縮小均衡させ、米政界がイスラエルに牛耳られた状態を解消しようとする戦略で、米民主党は1970年代のカーター政権以来、この戦略を続けてきた。

 ヒラリーの外交戦略は、全体的に夫のビル・クリントン前大統領の戦略を継承している。中東和平、イランやイラク、北朝鮮の問題、中国との関係、国連改革など、クリントンが完成できなかった課題の多くは、その後ブッシュの8年間で無茶苦茶にされた。クリントンが黒字化した米財政も、ブッシュの8年間で史上最悪の赤字に陥っている。それらを立て直し、G8や国連などの国際機関をアメリカ(米英)中心に戻し、米英中心主義を再強化するのがヒラリー・クリントンの戦略である。

▼テロ戦争の続行をめぐる米中枢の暗闘

 クリントンは、イラク撤退を主張する一方で、テロ戦争は続行すると表明している。テロ戦争は「911事件のようなテロが二度と起きないよう、イスラム社会の民主化やテロ組織退治を世界的・長期的に進める」という世界戦略である。だが、そもそも911事件は米政府の自作自演的な色彩が強く、911の犯人とされるテロ組織「アルカイダ」も実体が非常に曖昧で、おそらく米英イスラエルの諜報機関に操られた存在である。(関連記事その1その2

「テロ戦争」は、自作自演的な911事件をきっかけに、自作自演型のテロ組織アルカイダとの何十年もにわたる長期の世界的な低強度戦争を展開する、自作自演型の「第2冷戦」である。テロ戦争を何年も続けるうちに、最初は自作自演的だったテロ組織は、しだいにイスラム世界の一部の人々の支持を集めるようになり、自作自演のテロ戦争は本物のテロ戦争になり、何十年も続けられるようになる。

 この「第2冷戦」は、米ソ間の「冷戦」と同様、米英が敵を挑発扇動することで、米英による「火力調整」が可能であり、だからこそ長続きさせられる。テロ戦争の世界体制を作ることで、米英は「テロ対策」の名目で、あらゆる国々の諜報機関に手を突っ込んで軍事・政治の情報を得られる。反米的な国々に「テロ支援国家」の濡れ衣を着せられ、国連やNATOをテロ戦争のための国際機関に作り替え、米英中心の世界体制を強化できる。

 テロ戦争は、ブッシュ政権の発明ではない。クリントン前政権の1998年ごろから「タリバン敵視」「ならず者国家戦略」などが打ち出され、オサマ・ビンラディンによるテロが相次ぎ、テロ戦争の原型ができている。おそらくテロ戦争は、アメリカの二大政党、軍事産業、財界、米CIA、英MI6、イスラエル・モサドなど、米英中枢の諸勢力が合意した長期戦略である。

 ブッシュ政権は、911以来テロ戦争を遂行してきたものの、やり方が非常に稚拙である。敵であるイスラム世界を怒らせるのはテロ戦争の一環ではあるが、ブッシュ政権はイスラム世界を怒らせすぎて、エジプトやヨルダンなどの親米政権を危機にさらし、トルコを親欧米から反欧米に転換させ、イスラエルの国家存続を危うくし、中東での米英の影響力を低下させた。

 ブッシュ政権は、表向きは米英中枢が合意したテロ戦争の任務を遂行したものの、任務を過激にやりすぎて、テロ戦争を米英イスラエルの敗北として終わらせようとしているように見える。おそらく、米英中枢の諸勢力の中には、テロ戦争に賛成の勢力(米英中心体制で儲かる人々)と、反対の勢力(米英中心より多極的な世界体制の方が儲かる人々)がおり、賛成勢力の押し切りで911が起こされてテロ戦争が始まったが、反対勢力がチェイニー副大統領あたりを動かし、イラク戦争など各種のやりすぎによってテロ戦争を失敗させようとしている。

 テロ戦争をめぐる米中枢の暗闘は、米次期政権を決める大統領選挙に反映されている。クリントンはテロ戦争の立て直しを目指し、マケインはブッシュ式のやりすぎを続けてテロ戦争を壊そうとしている。

▼正体不明のオバマ

 それでは、民主党のもう一人の主要候補であるオバマはどうなのか。マケインとクリントンは、ワシントンの国際政治の世界での活動歴が長いので、2人の戦略は大体わかる。しかしオバマは新人なので、どんな指向の戦略を持った人なのかわかりにくい。イスラエルのマスコミも「オバマは何者なのか?」「イスラエルの味方のふりをした敵ではないか」といぶかる記事を出している。(関連記事その1その2

 オバマは昨年夏、他の2人に先駆けて、フォーリンアフェアーズに外交戦略に関する論文を書かされているが「アメリカは世界を主導せねばならない」「テロ戦争のために国際的な同盟関係を強化する」など、覇権回復とテロ戦争立て直しを目指す方向性のことを書いている。クリントンと大きな違いがあるようには感じられない。(関連記事

 しかし歴史的に見て、米大統領選挙で意表を突く台頭をして大統領になる人は、それまでの米政界の流れを大きく変える新戦略を、米中枢の勢力から託されて立候補し、大統領になるケースがよくある。冷戦体制を途中まで壊したニクソンがそうだったし(いったん引退したのに、ロックフェラーから頼まれて返り咲き、中国やソ連との和解を進めた)、冷戦後に米英中心の金融覇権戦略を実行したビル・クリントンも、選挙戦で意表を突く台頭をした。オバマも、何か新戦略を持たされて出てきた可能性がある。

 オバマがクリントンの対抗馬として出てきたということは、オバマを担ぎ出したのは、おそらく米中枢でテロ戦争に反対の勢力である。ケネディ家がオバマ支持を表明したが、ジョンFケネディと同じ役割がオバマに期待されているのだとしたら、それはテロ戦争を終わらせることであるとも考えられる。

▼オバマはケネディの再来?

 1960年代初頭に大統領だったケネディは、選挙では対ソ連強硬派として当選したが、就任後、キューバ危機後にソ連のフルシチョフと和解した。キューバ危機は、まずアメリカに亡命しているキューバ人を武装させ、最初から失敗するものとしてキューバ侵攻させ(ピッグス湾事件)、キューバ政府に危機感を抱かせてソ連に軍事援助を求めるように誘導し、キューバにソ連のミサイルを配備させて、米国民が身近にソ連の脅威を感じられる状況を実現し、冷戦の恒久化に役立てようとした。これはケネディの立案ではなく、軍産複合体が先代のアイゼンハワー政権時代から進めていたことだった。

 ケネディ政権下でこの作戦が実行されると、ケネディは軍産複合体の意に反して、ソ連のフルシチョフと交渉し、アメリカがトルコからミサイルを撤去する代わりに、ソ連はキューバからミサイルを撤去する話をまとめてしまい、冷戦の緊張は緩和されてしまった。

 またケネディは、ベトナム戦争の泥沼に入りかけたところで撤退しようとして、おそらく戦争激化を画策していた軍事産業(国防総省)に敵視され、暗殺された。ケネディ暗殺後に副大統領から昇格したジョンソン大統領は、ケネディのベトナム撤退案を即座に破棄し、米政府は戦争激化の方向に再転換している。ケネディは、米英中心主義勢力の一つである米中枢の軍産複合体による冷戦を恒久化する戦略に反対で、禁じ手のはずの「敵との交渉」「途中での撤退」を大胆に進めようとした。

 ケネディが、米英中心主義派による冷戦の恒久化戦略を、敵との交渉や途中での撤退によって破綻させようとしたのと同様、オバマは、米英中心派によるテロ戦争(第2冷戦)の恒久化戦略を、敵(イランや北朝鮮など)との交渉よって終わらせようとするかもしれない。オバマは選挙戦中の発言で、あらゆる敵対国の指導者と話し合う準備がある、と述べている。(関連記事

 オバマの外交政策顧問団で最も有名な人は、カーター政権で外交戦略を決めたブレジンスキーであるが、ブレジンスキーは1979年のソ連のアフガニスタン侵攻を誘発し、ソ連をアフガンで10年間の泥沼のゲリラ戦に陥らせ、ソ連崩壊の原因を作った人である。(関連記事

 冷戦の恒久化には、米ソ間の力の均衡が大事だったが、ブレジンスキーはソ連の力をアフガンで浪費させ、ソ連に冷戦を終わらせたいと思わせた点で、共和党レーガン政権以来のネオコンと同類である。ブレジンスキーは「強硬派」と言われるが、イラク戦争だけでなく、テロ戦争にも反対している。(関連記事

▼ブッシュが続けるあと1年の無茶苦茶

 全米20州強で予備選挙が行われた2月5日のスーパーチューズデーには、クリントンがやや優勢だったが、その後の1週間でオバマが勝つ予備選が4つ続き、クリントン陣営は選挙参謀を入れ替えるなど、オバマの追い上げに対抗しきれずパニックに陥っていると報じられている。今後、米経済が不況になるほど、共和党の経済戦略に対する不信感が増大し、民主党に有利になるとの指摘もある。3人の主要候補の中で、オバマが最も優勢になりつつある。(関連記事

 しかし、誰が次期大統領になるにしても、それまでにまだ1年近いブッシュ政権の任期がある。その間に、ブッシュ政権が何をするか、米経済がどんな状態になるかが非常に重要である。

 経済面では、もはや不況と金融危機の悪化は、誰にも止められそうもない。高リスク債市場の崩壊による金融機関の不良債権の概算総額は、どんどんふくらんでいる。連銀による急な利下げによって、ドルの信用不安とインフレもひどくなる一方だ。米経済の不調はこの先何年も続くと予測されている。米次期政権がどんなに巧みな経済運営をしても、アメリカの財政難や不況、金融危機はかなり深刻になるだろう。アメリカの経済覇権の維持は難しくなり、基軸通貨の多極化など、現実的な別の戦略が必要になる。(関連記事その1その2

 軍事政治的には、ブッシュ政権は任期末までアフガン・パキスタンの戦争を激化し続ける。アフガンでの戦争を激化したいアメリカと、もう戦争をやめたいドイツなど欧州諸国との間の対立が深まっている。(関連記事

 その一方で欧州各国は昨年末に署名した「リスボン条約」を批准しつつあり、EU軍を作る方向に動いている。アフガンでの失敗によって、アメリカが欧州を軍事的に傘下に入れるNATOは事実上崩壊し、欧州がアメリカから独立したEU軍を強化する動きが進みそうだ。クリントンが頑張ってオバマやマケインに勝ち、アメリカの覇権を復活させようとしても、その時にはすでに、欧州がアメリカの覇権の傘下から出ていく方向性が、不可逆的に定まっているかもしれない。(関連記事

 民主党のオバマとクリントンは、いずれも中東の安定化によるアメリカの覇権維持を掲げているが、現状を見ると、これも無理だ。中東イスラム諸国の反米化が進み、ハマスやヒズボラ、シリアなどはイランからの支援を受け、イスラエルと戦争する準備をしている。(関連記事その1その2その3

 イスラエルは国家的生き残りのため、何とかパレスチナ(西岸)のアッバース政権との交渉をまとめようとして、エルサレムを2分割して東半分をパレスチナ新国家の首都にするという譲歩を秘密裏に進めたが、この秘密交渉は新聞に暴露され、イスラエルのオルメルト連立政権は右派から非難され、再び危機に陥りそうだ。右派政党の「シャス」などが連立政権から離脱し、オルメルト支持は議会の過半数を割るかもしれない。イスラエルが解散総選挙になって、ネタニヤフらによる右派政権になったら、ハマスやヒズボラ、シリアなどとの戦争がおそらく開始される。(関連記事

 テロ戦争は全体的に、ブッシュ政権によるやりすぎの結果、イスラム側の勝利と米英イスラエルの覇権衰退に向かっており、来年1月のブッシュの任期末まで、この傾向は強まり続ける。次の大統領が誰になっても、おそらくアメリカは、テロ戦争の戦略を放棄せざるを得なくなる。米中枢の暗闘は、隠れ多極主義の勝利となる。



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