田中宇の国際情勢ウェブログ
http://tanakanews.com/blog/に移行しました。サダム拘束の余波パキスタンのウルドゥ語新聞「カブレイン」が12月16日に報じたところによると、サダム・フセインが捕まったのは11月20日のことで、捕まえたのは米軍ではなくクルド人の武装勢力による諜報作戦の結果だった。フセインは拘束された3日後に自殺を図ったが失敗した。そして、11月27日にバグダッドの空港だけをお忍びで電撃訪問した米ブッシュ大統領は、拘留中のフセインと面会したという。 Bush met Saddam on November 27 フセインを捕まえたのは米軍ではなくクルド人の功績だったという主張は、クルド人自身も行っている。クルド人組織PUK(クルド愛国同盟)の新聞によると、クルド人の諜報部隊がティクリート市内にフセインがいることを突き止め、米軍と一緒に捕獲に至ったのだという。 Saddam Hussein captured by Kurds 一方、米国内では、民主党のマクダーモット下院議員が、シアトルのラジオのインタビューの中で、米軍はフセインがどこにいるか、かなり前から知っており、イラク情勢が泥沼化して難しくなってきたときを狙って、拘束を発表したのだと語っている。 Saddam capture staged, McDermott charges フセインが捕まったので、ビンラディンに関する言及も出てきた。オルブライト元国務長官は12月17日、FOXニューステレビの番組に出演する直前の控え室で、局のディレクターに対し「ブッシュ政権はオサマ・ビンラディンをどこかに隠していて、選挙前(の政治的な効果のあるとき)に拘束したと発表するかもしれない」と語った。 Albright thinks Bush hiding bin Laden オルブライトはその後「あの発言はジョークだった」と釈明したが、局のディレクターらその場に居合わせた人々は「オルブライトは発言のときに笑っていなかった。まじめに話していた」と言っている。 Albright: Bin Laden Comments Were 'Tongue-in-Cheek' 03/12/19(金) インド・パキスタン和平の究極の目標は「統合」かもパキスタンの外務大臣は、インドとの通貨統合について「かなり努力しないと達成できないが、不可能な目標ではない」と述べている。彼はEUの例を挙げ、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパール、ブータン、モルディブという南アジア諸国で構成する「南アジア地域協力連合(SAARC)」の枠内で紛争解決や経済統合を進め、その一環としてインドとパキスタンとの和解、経済統合を進めていくことを示唆している。 Single currency idea not unrealistic 従来のインド・パキスタン関係は非常に厳しい敵対の連続であり、両国が和解して通貨統合することなど、現時点では夢物語のようにしか感じ取れないかもしれない。そもそも、アメリカがイスラム教徒を新たな敵として世界規模の戦争(テロ戦争)を扇動し、一方でイスラエルがインドに武器を売りさばいているような現実の中では、印パの和解は困難に見える。 しかしアメリカの中道派は以前から、印パ間の接近を望んでいるふしがあり、911以降も何回か印パ間での交渉が繰り返されてきた。昨今のイラク情勢をめぐって米政権中枢でタカ派の力が弱まり、中道派が盛り返しそうな気配が見られる。もし、この動きが定着していくのなら、今後印パが和解の方向にはっきりと動く可能性もある。 とはいえその一方で、パキスタンのムシャラフ大統領に対する暗殺未遂など、イスラム主義勢力(と、彼らを都合の良い敵として操っていると思われるアメリカのネオコン・タカ派)は、パキスタンの安定を望んでいない。彼らは、イスラム主義がますます台頭し、イスラム教徒の自爆テロリスト志願者が増えていくことを望んでいる。印パ和解の方向性が定着する前に、イスラム主義=ネオコン勢力の側から、何度も和平を転覆しようとする妨害行為が行われることは間違いない。 03/12/17(水) 米軍は2006年までイラクに駐留する米軍は、クウェートやトルコの下請け企業との間で、今後3年間の物資補給について契約を交わした。これは、米軍が今後3年間はイラクに駐留し続ける見通しを立てていることを表している。表向きは、米軍は来年まで駐留する予定、となっているが、実はすでにもっと先まで駐留せざるを得ない情勢になっているということだ。 US Army Prepares For Iraqi Stay Until at Least 2006 日本政府はどのタイミングで派兵するか迷っているようだが、来年ではなく3年後まで米軍が残っているとすれば、自衛隊の派兵を慌ててやらなくても、アメリカに対して「恩義」となることを行うチャンスはまだまだあるということになる。 03/11/17(月) 米軍単独からNATOによる統治に変わりそうなイラクEUの外交を決定する立場にいるハビエル・ソラナによると、ブッシュ政権はイラクの統治をアメリカ単独でやっている現状から、国際的な組織による統治に移行する方向性を模索し始めたという。これまで、ブッシュがそのような翻心をする見通しはなかったが、意外と早く国際軍が結成されるかもしれない。米軍がNATO軍に衣替えして、フランスやドイツの軍隊がイラクに派兵されるかもしれない。 US agrees to international control of its troops in Iraq 今のところ、日本の自衛隊の派兵はかなり先になる見通しとなっているが、イラク統治が米単独から「国際社会」全体による作業に変質するとなると、日本政府は方針を変え、早めに派兵する方向に転換するかもしれない。 しかしその一方で、イラクではフセイン元政権の地下組織によるとみられる米軍に対する攻撃が強まっており、国際軍に衣替えしても、派兵した独仏などの軍隊がひどい自爆攻撃を受け、危険にさらされる可能性もある。その場合、派兵された日本の自衛隊にも、多数の戦死者が出ることになる。開戦事由が何もない米軍によるイラク侵攻自体が不必要で意味のないものだったのだから、自衛隊員が死ぬのも全くの無駄死にということになる。 03/11/17(月) 消えた?米軍の1万人イラク駐留米軍によると、イラクにいる米軍の兵士数は11万6000人で、それまで発表されていた人数に比べ、1万−1万5000人がいつの間にか減っていることが明らかになった。なぜ、人数が減っているのかは明らかにされていない。脱走兵が多いとか、実は非常に多くの死傷者が出ているのではないかといった憶測が以前から出ており、それらの要因との関係が気になる。 U.S. troop strength in Iraq down to nearly 116,000, military says これに関係しているかもしれない記事がワシントンポストで出ている。イラク戦争開始以来、6000人のアメリカ兵が負傷や病気、精神的な傷などを受けたため、アメリカに引き戻されている。6000人のうち1124人は戦闘中の負傷、301人は交通事故その他戦闘中以外の負傷、その他は精神的、肉体的な病気が原因だとしている。「その他」の内訳が書いていないが、私が気になるのは、米軍が劣化ウラン弾を使っていたと思われることとの関係である。 Number of Wounded in Action on Rise Thousands of US troops evacuated from Iraq for unexplained medical reasons その一方で、ブッシュ大統領が先週議会に要請した870億ドルのイラク復興追加予算のうち、半分以上の510億ドルがイラク駐留米軍の軍事費として使われ、その内訳がほとんど明らかにされていない。明らかになっているものは、米国以外の軍隊がイラクに駐留する際、自国で駐留費を負担できない国に対する援助が8億ドル、米兵の防弾防護服に3億ドル、装甲車の購入費に1.4億ドルといったぐらいの部分しか明らかになっておらず、残りの500億ドル近くは、何にどう使うのか、国防総省は公表していない。 Mystery shrouds Pentagon's extra funds 世界一の軍隊がやることにしては、あまりにずさんである。ずさんということではなく、「裏予算」として議会も知らない秘密作戦の資金に使われるのかもしれない。 03/09/11(木) 国連常任理事国の席を狙う日本国連をないがしろにしていたアメリカが、イラク復興には国連が必要だという態度に変わったことを機に、国連の側では「改革」の名のもとに変質を図っているが、その流れの中で日本政府は、安全保障理事会のポストを狙った激しい運動を開始している。 川口外務大臣は8月末「日本が常任理事国になっていたら、イラク戦争は防げたかもしれない」と外国人記者団に語っている。日本はアメリカのイラク侵攻を防ぐためにいろいろ頑張ったが、常任理事国でなかったため、国連の枠外でそれを行わねばならず、その結果、侵攻を防ぐことができなかったのだという。 Japan pushes for fixed seat on Security Council 日本政府がそんな努力をしていたというのは全くの初耳で、おそらく単なる詭弁だろうが、今が常任理事国になるチャンスであることは確かだ。問題は、今後の国連がどういうものになっていくのか、従前通りのアメリカの言いなりの機関に戻るのか、それともそれとは違う道を歩もうとしているのかということだ。日本は国連の財政のうち20%を負担している。常任理事国にしてやるからもっと払え、そしてアメリカのために働け、というのなら、常任理事国になど、なるべきではない。 03/09/10(水) 中国中心のアジア秩序を尊重する日本南太平洋では9月12日から、オーストラリアとアメリカの軍隊を中心に、北朝鮮の船が兵器を輸出しようとする際に海上で立ち入り検査を行うことを想定した国際合同臨検演習「パシフィック・プロテクター」が行われることになっている。この演習には当初、日本の海上自衛隊も艦艇を派遣する予定になっていた。 Anti-weapons marine exercise to target 'Japanese' vessel だが日本の防衛庁は土壇場になって艦艇の参加を見合わせた。これは、日本が中国主導の北朝鮮問題の解決に協力する姿勢を見せたものだと感じられる。東アジアが中国中心の外交体制になっていく中で、日本は中国に協力するのか、それとも日本国内の「何が何でも親米」派が主張するような親米反中国の動きに出るのか、国民が気づかないうちに歴史的な分岐点にさしかかっているように感じられるが、合同臨検演習に対する日本政府の慎重な態度からすると、日本は中国に協力する方向で動いているようだ。 この演習に対しては、中国が「北朝鮮を無意味に刺激するだけだ」と言って反対している。中国は今や、北朝鮮問題を使ってアジアにおける影響力の拡大を図っているように感じられる。とはいえ、アメリカ中枢の分裂との関係で言うと、中国が主張していることは、まさにアメリカの中道派が主張していることと同じだ。中道派は、中国の覇権拡大を容認することで、米国内のタカ派(反中国派)との戦いを有利に進めようとしていることが、ここでもうかがえる。 03/09/10(水) ダライラマの訪米とチベット帰還の可能性チベットの最高指導者ダライラマがアメリカを訪問中だが、訪米に際しての彼の戦略は、まもなく彼自身が中国統治下のチベットに戻るつもりで、その前にアメリカに頼んで中国に圧力をかけてもらい、中国に戻った後の自分の立場を強化しようとするものだと感じられる。チベットに戻る意向を表明するダライラマに対し、中国は「中国人として戻ってくるのなら良い」といっている。つまり、北京政府に対する批判をしたら、逮捕されて厳罰に処せられてもかまわない、という前提でなら戻ってきても良い、ということだ。 これに対し、訪米中のダライラマは「中国が何も条件をつけないのならチベットに戻りたい」といっている。ここにアメリカの出る幕がある。訪米中にブッシュにも会う予定になっているダライラマは、アメリカに仲裁してもらい、有利な条件でチベットに戻れるようにしたいのだろう。中国にとっても、チベット問題を解決できるチャンスなので、かなり譲歩する可能性もある。チベット問題が解決されれば、中国は、欧米から攻撃されるテーマを一つ減らすことができる。台湾の併合問題にとっても有利に働く。 Dalai Lama waiting for green light from China 03/09/10(水) パレスチナ人の交渉力パレスチナの首相だったアバスは辞任したが、その後任としてアラファトから指名されたクレイが「イスラエルとアメリカが自分の就任を認めて和平交渉を続けると表明しない限り、首相には就任しない」と言い、それをアメリカとイスラエルが受け入れた(と思われる)ため、とりあえずロードマップの全崩壊は避けられた。 結局のところ、アバスの辞任劇は、パレスチナ側の和平交渉がいなくなると一番困るのはアメリカだという現状を世界に知らしめることになった。アメリカは、クレイを承認しろとイスラエルに圧力をかけたのだろう。その意味で、アラファトをはじめとするパレスチナ人は交渉力に長けていると感じられる。 Qorei Seeks US Guarantees before Accepting PM Post
アラファトはこの間ずっと、イスラエル軍によってほとんど廃墟にされたままのラマラの大統領府に閉じこもっていた。アラファトは、イスラエル軍に壊された建物の中に住んでいるということで、一般のパレスチナ人が彼を自分たちと同じ存在だと思い、支持率が上がったという。アラファトはなかなかの策士である。 Abu Ala´s room for manoeuvre
そもそもイスラエルにとって、和平と戦争とどちらが好ましい状態なのか。シャロンの行動を見る限り、戦争の方が好ましいと思っているように見える。だが、イスラエル経済はすでに破綻しており、頭のいい人から順番に、イスラエルの若者は欧米に再移住していってしまっている。今後も戦争が続く限り、イスラエルが豊かで住みやすい国になることはない。戦争している限り、イスラエルの建国は失敗だったことになる。そう考えると、イスラエルはパレスチナ人とどこかで折り合いをつけねばならないことは明白だ。 Israel's Choice
そのように考えると、たとえばアメリカのネオコンは、イスラエルのために中東を戦乱に陥れているのではなく、中東に戦乱を広げ、その泥沼の中にアメリカとイスラエルを漬けておくことが目的なのではないか、とも思えてくる。 03/09/10(水) イランに対して好戦的な態度をとるようになったブレア7月にロンドンを訪れたイスラエルのシャロン首相と夕食をともにしてから、イギリスのブレア首相がイランに対して好戦的な態度をとるようになっている。それまでの数年間、イギリスはイランに対して穏健な態度をとる外交を展開してきたが、それを放棄するようになった。この変化に抗議する意味で、イランは在英大使を召還した。 Another dangerous collision course シャロンはブレアに対して何を言ったのか。ブッシュはイランを戦争で潰す気だという内部情報でも伝えたのだろうか。不気味な変化ではあるが、真相は分からない。イスラエルはこのところさかんに「核武装しようとしているイランを倒すべきだ」と主張している。アメリカが叩かないのなら、イスラエルの戦闘機がイランの原子炉を爆撃しに行くかもしれないとも言っている。かつてイラクのオシラク原発を空爆して破壊したように、である。 また、イスラエルのスパイとして有名なラフィ・エイタンが去年からアメリカ国内に滞在しており、麻薬販売組織とコンタクトをとったり、メキシコに行ったりして、テロリストをリクルートしているかのような怪しい動きをしている、とも報じられている。「911にはイスラエルが関与していた」という説を参考に考えるなら、エイタンらは再び米本土で大規模なテロを起こす気かもしれない。それと、イランに対する政策との関係があるのかどうか。 Rafi Eitan Plotting New 9/11?
03/09/09(火) 改名してイラン叩きに入る国防総省のネオコン系組織フセイン政権の危険さを誇張する諸情報を流してブッシュ政権をイラク侵攻に駆り立てた国防総省の「Office of Special Plans」(OSP)が組織改定され、イランに対する戦争を準備する「Northern Gulf Affairs office」(ペルシャ湾北部対策室、NGAO)という名前に変わった。OSPはネオコンのダグラス・フェイスが監督しており、最盛期に15人のスタッフがいたが、今のNGAOは12人でやっているという。NGAOは、以前からある地味な組織だったが、ネオコンに乗っ取られて組織としての意味づけが変わった。 OSPは「米軍がサダムを倒したら、イラク人は喜んで親米になるから戦後復興は簡単にできる」というイラクの戦後復興の計画案も作った部署で、「OSPの甘い判断のせいで、多くの米兵やイラク人が戦後にも死ぬことになった」と批判されている。 Controversial Pentagon Office Gets A Makeover NGAOはイランを叩くやり方として、ムジャヘディン・ハルクという在イラクのイラク反体制武装組織を傀儡として使う計画を考えている。アフガニスタンでアメリカがタリバン政権を倒した時、北部同盟を傀儡として使ったのと同じやり方である。 とはいえ、イラクの時にはしてやられた国務省がNGAOを阻止するかたちで動いている。8月中旬、国務省がムジャヘディンハルクのワシントン事務所を閉鎖し、預金を凍結したのがその一例だ。今後も、イランに対する介入をめぐり、ネオコンのNGAOと中道派の国務省が対立する事態が続くと思われる。 Driving half-blind in Washington
03/09/08(月) 「防波堤」としての拉致問題今しがた「北朝鮮とミサイル防衛システムの裏側」を書いて、その後でふと気づいたことがある。アメリカは日韓の駐留米軍兵力を減らしたいがために北朝鮮を取り巻く緊張関係を緩和しようとしているのではないか、ということである。そうだとしたら、本当はアメリカは、日本に穏健な北朝鮮政策を採ってほしいのではないか。 以前、日本では日中国交正常化後、ロシア(ソ連)との国交も正常化せざるを得ない流れになることを防ぐため「4島返還しか認めない」という運動を起こし、北方領土問題を解決不能にする、という「自主鎖国政策」もしくは「防波堤政策」ともいうべき戦略を採った。ニクソン政権が中国、ソ連と和解して冷戦を終わらせようとしたときのことだ。 そのときと今は似ている。中国を中心とした「アジア統合」の流れが始まっているからだ。そして、ニクソンの「雪解け」の時代に「北方領土」という問題を作ってソ連との和解を拒んだ日本は、今回は「拉致」という問題を作り、アジア統合の流れの中に入ることを拒否しようとしている。これは、敗戦後「外交」を捨てた日本人の特性なのか、それとももっと以前の「鎖国」時代からの習性なのか。起源は分からないが、そういう仮説があり得る。 日本と韓国に駐留している米軍の兵力を減らすという方向性は「冷戦」から「テロ戦争」への米軍のシフトを意味している。沖縄から出ていった海兵隊は、フィリピン、オーストラリア、シンガポールなどに移転する構想だ。いずれの地域も、イスラム世界とそれ以外の世界の境界線の近くに位置している。イスラム世界を「巨大な敵」に仕立てるテロ戦争の布陣である。 アメリカではタカ派・中道派を問わず、テロ戦争を何十年も続く「冷戦バージョン2」にしようとする考え方がある。「テロ戦争」というと911事件以後のことだと考えられているが、日韓駐留米軍を減らす話は、911の前から決まっていた。2001年の初め、ネオコン系の人物であるザルマイ・カリルザドがホワイトハウスのアフガン担当になる前、ランド研究所にいたときに「アメリカとアジア」という報告書を書いており、その中で、グアム島など後方の基地から直接「敵」を攻撃するかたちにすることで、沖縄の兵力を減らすという構想を描いている。 以前の記事「アメリカのアジア支配と沖縄」
03/09/05(金) 北朝鮮が9月9日に核実験?北朝鮮が建国記念日である9月9日に核兵器の保有宣言をするか、または核実験を実施するかもしれない、という見方が、しばらく前から流布しているが、それに対して「世界日報」は、核問題をエスカレートさせ、アメリカに交渉を強いるために北朝鮮側が意図的に流した情報、という見方をしている。8000本の使用済み核燃料棒から核爆弾の原料を取り出す再処理を完了したという北朝鮮の主張についても、北の核施設の処理能力からすると、まだ再処理は終わっていない、という見方をしている。 この見方が面白いのは、北朝鮮が核兵器をすでに持っていると、アメリカは交渉に応じざるを得ないという考え方をしている点だ。核兵器をまだ持っておらず開発段階ならば、交渉ではなく、核施設を直接攻撃するという選択肢がある、という考え方なのか、もしくは核兵器を持っているなら、それを使ったり輸出したりするかもしれないから、なだめるために交渉しなければならないが、核武装できるのがまだ先ならば、交渉せず放置し、経済破綻させることができる、という考え方なのか。 いずれにしても、北朝鮮が「核武装するぞ」「したぞ」と言い続けているのは、アメリカに交渉してほしいというシグナルだということだ。交渉の先には、アメリカが北朝鮮と外交関係を結び、先制攻撃をしてこない状況を作り、北朝鮮の国家を存続させるという金正日の目的がある。 世界日報は、情報の出所について「西側情報機関筋」としているが、こういうことを言いそうなのはCIAだ。CIAは、北朝鮮問題を軍事攻撃ではなく外交で解決したいと考えている国務省とつながっており、北朝鮮の危険度についてなるべく低めに言う傾向がある。そう考えると「9月9日核保有宣言説は北朝鮮のプロパガンダだ」と言い切ることには、アメリカの中道派が情報操作を意図しているのではないかとも感じられる。 また韓国では統一院長官が「北朝鮮が核保有について脅しを言い続けるのは(アメリカなどに)圧力をかけ、次回の外交交渉で有利な立場に立つことができると考えているからだ」と語っている。 N Korea nuke stance 'a tactic' 03/09/04(木) フィリピンで再びクーデターのおそれ7月に兵士がマニラのホテルに立てこもるクーデター未遂事件があったフィリピンで、再びクーデターが起きるかもしれない状況になっている。アロヨ大統領が、クーデター再発の可能性を指摘した。 前回のクーデター騒ぎの際も、数日前からアロヨ大統領やその側近が、クーデター発生の可能性を指摘していた。アロヨは、軍内部の腐敗を指摘する将軍らを事前に懐柔しようと対話会合を持ったりしたが効果がなく、その結果として前回のクーデター騒ぎが起きた。対話会合が失敗した時点で、アロヨはクーデターの発生を予期していた。今回、反乱が再発しそうだとアロヨが言っているのは、前回同様、信憑性がけっこう高いかもしれない。 Arroyo warns of coup; Manila frees soldiers 軍自体は、クーデター再発のおそれを否定している。 Reports of new coup plot denied
とはいえ、アロヨ大統領の夫がマネーロンダリングの疑惑で取り調べを受けそうになっていることを考えると、この疑惑に報道の焦点が集まらないようにするスピン作戦として、クーデター再発の可能性を指摘した可能性もある。 Philippine leader's husband faces money laundering inquiry 03/09/04(木) 中国人民元の切り上げ問題アメリカのスノー財務長官が中国を訪問し、人民元の対ドル相場を切り上げろと盛んに圧力をかけている。現在は1ドル=8.25元前後のレートで固定されている人民元を1ドル=5元程度の水準に持っていくことで、アメリカとしては、中国が持っている米国債などドル建て対米債権の価値を減らし、中国経済を支えている対米輸出の儲けを減らし、アメリカの対中輸出を増やそうとする作戦だ。 スノーは訪中前には東京に寄り、同じく人民元が切り上げられた方がメリットがある日本政府に「君たちも中国に圧力をかけてくれ」と言って回った。日本の高官たちは、こぞって「人民元は安すぎる」と言い出した。 私から見ると、これは北朝鮮問題で中国に主導権を与えたことの「見返り」をアメリカが求めているように感じられる。アメリカは7月ぐらいから、日欧と結託して人民元の切り下げ運動を展開しているが、ここにきて、先週の北京6カ国協議が終わった矢先に、スノーが北京に殴り込みをかけたという時期的なタイミングから、そう感じる。 アメリカでは来年の大統領選挙にかけて、再選を目指すブッシュ政権が何らかの経済的な成功事例を示そうとしており、その一つが人民元切り上げで米経済の負担を軽減させるということだとも思われる。だが中国当局は今のところ、切り上げに応じる気配はない。 China sticks to its guns on keeping currency peg 03/09/04(木) パレスチナ和平、崩壊の瀬戸際にロードマップが崩壊の瀬戸際に来ている。マフムード・アバスは、パレスチナ側の「テロ容疑者」取り締まりに力を入れ、イスラエル側との交渉のやり直しをするために、パレスチナ自治政府内部での自らの権限を強化しようとしている。だが、アラファトはこれを拒否しようとしており「もうロードマップは終わりだ」と言っている。アバスは、権限が強化できなければ辞任すると脅している。 アバスが辞めてアラファト体制に戻ればロードマップは崩壊し、イスラエルとの戦闘が続くことになる。反対に、アラファトとアバスがどこかの線で折り合い、ロードマップを維持したいというパレスチナ側の意志を一致させた上で、もう一度イスラエルと交渉する可能性も残っている。来週までには、どちらに進むのか見えてくるだろう。 Roadmap virtually dead, says Arafat Abbas to resign if refused more powers: Minister 03/09/04(木) ・・・などといっていたら、その日のうちに、アバスが首相の座を追われて亡命するのではないか、という見方が出てきている。すでにアバスは、エジプトかカタールに亡命先を探しているのだという。アバスが辞めたら、パレスチナは再び戦争状態になるのではないか。 Abbas reportedly ready to leave 03/09/04(木) イラクをわざと内戦に陥らせるアメリカナジャフのモスクでハキーム師らを殺害した爆破テロは、自爆テロではなく、モスクの近くの路上に駐車してあった自動車に爆弾が仕掛けてあり、犯人は近くのホテルから見ていて、ハキーム師らがモスクから出てきたときを狙い、リモコン操作で爆破した可能性が大きいことが分かってきた。自動車は、爆破の24時間以上前から駐車してあったという。 爆破に使われた爆薬は旧ソ連製で、イラク軍が使っていた大砲の弾や手榴弾の中身として使われていた火薬だという。同じ火薬が、8月19日のバグダッド国連事務所の爆破テロと、その前におきた在バグダッド・ヨルダン大使館の爆破テロでも使われていた。つまり、この3つは同一組織による犯行である可能性がある。 そして、いずれも自爆テロではなく、リモコン操作による爆破だった可能性もある。イラクでは、フセイン政権がイスラム原理主義の国内への浸透を嫌っていたため、イスラム教的な「聖戦」の概念で自爆テロの実行犯を養成することが難しい。自爆テロだと、イラク人ではなく、パレスチナ人やアルカイダ系のイスラム原理主義者が犯人である可能性が高くなる。だがリモコン爆弾だったとなると、イラク人による犯行の可能性が高くなる。組織的な連続テロであるなら「ムカバラット」などイラク前政権の治安当局や軍隊の残存組織がやった可能性が大きい。 Bombing at Iraqi Shrine Appears Carefully Planned
半面、アメリカ側は、イラクが混乱していく状況を止めようとする素振りがほとんど見られない。占領軍政府のブレマー長官は夏休みをとってアメリカ本土に戻ったままで、占領軍政府内では、ブレマーがいつ戻ってくるか、はっきり答えられる人がいない状況だ。 Bremer absent; no one seems to have a plan
その一方で、アハマド・チャラビが提案していた「イラク前政権の秘密警察など治安部隊を再組織化し、米軍に代わってイラク全土の治安維持を任せる」という計画が、どんどん進んでいる。現在、米軍による治安維持の手が回らない地域では、地元のイラク人が自警団を作って警備しているが、それらを解散させ、代わりに旧フセイン政権の治安部隊を再配備する計画だ。これをやると間違いなく、シーア派やクルド人の自警団と、旧政権の治安部隊との間で内戦に陥る。 U.S. and the Iraqis Discuss Creating Big Militia Force 下手をすると、9月下旬ぐらいまでに、イラクは完全な内戦状態に陥り、その中で米軍が撤退を始める、ということになる。イラクを長い内戦状態に陥らせるのは、開戦前からのネオコンの作戦だった。アメリカは、ブッシュ大統領らホワイトハウスが判断不能に陥っている間に、ネオコン系の勢力がイラク情勢をどんどん悪化させようとしている、と感じられる。 03/09/01(月) 北京の北朝鮮会議の本質北京で開かれた北朝鮮の交渉が始まった8月27日、イギリスのBBCテレビのニュースを見ていたら、その日の交渉が始まる前、6カ国の6人が並んでマスコミに記念写真を撮らせるとき、中国の代表が残りの5人をうながして円形に並ばせ、各人が右手を前に出して6人が手を握りあい、みんなでカメラの方を向いて笑う、ということをさせたシーンが映っていた。ちょうど、バレーボールの試合が始まるときに選手たちが円陣になって右手を重ね合い、力を合わせて頑張ろう、というポーズである。円形の真ん中には、北朝鮮代表の金永日・外務次官が立っていた。 【写真】手を取り合った6カ国協議の首席代表ら(韓国・中央日報)
私はこのシーンを見て、やっぱり中国が主導して東アジアの安定を作るために今回の会議が開かれたのだ、と感じた。アメリカが中国に下働きをさせて北朝鮮を封じ込める、というのではなく、北朝鮮をなだめすかしてこの問題を解決した後、中国がゆるやかな覇権を握る安定した東アジアを生み出すための交渉ではないか、と私は感じている。 6カ国の6人が円陣を組んでカメラに向かって笑うシーンが日本のテレビでも放送されるかどうか関心があったので、この日のNHKニュースを何回か注意して見ていたが、出てこなかった。日本では、今回の北京会議は「北朝鮮に厳しい態度をとるための交渉」というイメージになっており、特に拉致問題では外務省は一歩も引きません、という態度を国民に見せようと努力しているようで、そのために日本のテレビは「みんなで頑張ろう」という円陣のシーンを流さなかったのではないか、と感じた。 おそらく日本の外務省も、中国が主導する「みんなで頑張ろう」の意味を十分に知っている。しかし日本国内では拉致問題で感情的になっている人々がおり、マスコミがそれに動かされている現実がある。外務省は、国内向けと外交の現場とで、違った態度を見せていると思われる。 一方アメリカでも、日本のヒステリックな状態と似た、タカ派の議会やマスコミがあり「北朝鮮に対して譲歩するなんてとんでもない」という態度をとっている。だから、日本外務省と同様、アメリカの国務省も、表向きは厳しい態度をとっているかのように振る舞いながら、落としどころは中国(とその従者となりつつある韓国)が求める穏和的な解決へと向かっていこうとしているように見える。 静かに進むアジアの統合
強まるブッシュ叩きアメリカの外交政策の奥の院と目される「外交評議会」が出している隔月刊誌「フォーリンアフェアーズ」の新しい号が出た。前回の号よりさらにブッシュ政権を批判し、ネオコンや政権内のタカ派が提唱してきた「一強主義」に異論を呈する内容の論文ばかりが並んでいる。「EUとの関係を好転させ、中東を安定化させるべきだ」(Rebuilding the Atlantic Alliance)とか「アメリカは国連を必要としている」(Why America Still Needs the United Nations)といった言説が飛び交っている。思想界ではネオコンがなりを潜め、中道派が復活している。
この号の筆頭の記事では、オルブライト前国務長官が「ブッシュ政権が、親米でなければテロリストの仲間とみなすという外交政策をとってきたことのつけが出ている」とブッシュ批判を展開している。 だが気になるのは、オルブライト自身、クリントンの国務長官だったときは「ならず者国家」の考え方を振り回し、ブッシュ的な強硬策の原型を自ら実行していたことである。しかもイラク戦争後、彼女はCSISを拠点に、ヨーロッパに対して「EUはアメリカが歓迎できるような統合をしなければならない」という提案を行い、西欧側から強く拒絶されている。ブッシュとオルブライトは、大した差がない。
ブッシュ政権がイラク戦争を泥沼化させ、弱くなってきたので、政権交代を視野に、民主党の一強主義者がブッシュ叩きに群がってきた、という感じがする。 一方、911直後から「アメリカは大英帝国時代のイギリスと似た状態にあるのだから、帝国であることを認めるべきだ」と主張してきたイギリスの学者ニアル・ファーグソンは、書評という場を借りて、改めて同じ主張を繰り返している。 ( 米英で復活する植民地主義 ) ファーグソンは7月、ネオコン系シンクタンクAEIで、ネオコンのロバート・キーガンと討論し、ファーグソンが「ネオコンさんも、アメリカが帝国だと認めちゃいなさいよ」と誘ったのに対し、キーガンは「いやいや、うちは帝国じゃありません」と拒否していた。 The United States Is, and Should Be, an Empire アメリカが帝国だと認めると、帝国として世界に対する「責任」が出てくる。ネオコンとしては、都合のいいときだけ覇権を行使できる今の状態が望ましいのか。それとも「革命家」の末裔であるネオコンは「帝国」として祭り上げられてはたまらない、革命家の究極の目的は、むしろ従来のアメリカ隠然帝国主義をぶち壊すことにあるのだから、ということなのか。私にはまだ、結論が見えていない。 03/08/27(水) カダフィ恩赦の裏に均衡戦略?リビアのカダフィが「国際社会」に戻ってくることになった。1988年のスコットランド・ロカビーでのパンナム機墜落事件にリビアが関与したことを認め、犠牲者に対して補償金を払うことで、国連がリビアに対する経済制裁を解除する、という方向で話が進んでいる。 しかし、私の感覚では、パンナム機墜落事故はリビアによる犯行ではない。事故が発生してからの約2年間、捜査線上にリビアという名前は全く出てきていなかった。その後、リビアとアメリカなどとの関係悪化にともない、リビアにテロリスト国家の汚名を着せるために、ロカビー事件といえばリビア、という「常識」が作られた。 こうした経緯をきちんと把握しているイギリスの国会議員は、今回リビアがロカビー事件への関与を認めたことについて「カダフィは経済制裁を解除してもらうために『ビジネス契約』として犯行を認めたのだ」と言っている。つまりリビアは犯行にかかわっていないが、私がやりましたと言うことで、国際社会に入れてもらえるような話が欧米側とついている、ということだ。 Lockerbie 'a business deal'
この線で考えると、おそらくロカビー事件で死傷した被害者・遺族への補償金の支払いのお金の出所も、リビアそのものではなく、英米であろう。もしくはリビアの石油が少し高めに売れるようにして、その差額が補償金になるとか。 この「ビジネス契約」を聞きつけて、フランスがあわてて「俺たちにももっと払え」と言い出した。ロカビー事件だけではなく、1989年にフランスの旅客機が墜落した事件(170人死亡)でもリビアが犯人とされたが、この事件の遺族たちにはリビアは3300万ドル(1人あたり20万ドル)しか払っていない。これに対し、ロカビー事件(270人死亡)では今回リビアは27億ドルの補償金(1人あたり1000万ドル)を払うことになっている。 Lockerbie resolution expected Monday as France threatens a veto
おそらく、最初にこの話を持ちかけたのはカダフィの側ではなく、欧米側、特にアメリカであろう。カダフィの側でこのようなことをやろうとしても、テロリストに厳しい態度をとると言っているアメリカが裏で態度を変質させない限り、実現しない。 今回の話の本質は、アメリカの方からリビアに話を持ちかけ、カダフィを国際社会に復活させようとしている、というものであるように感じられる。しかし、なぜアメリカはカダフィを活性化させる必要があるのか。 一つ考えられるのは、パレスチナ和平(ロードマップ)が暗礁に乗り上げていることとの関係だ。カダフィは、アラブ民族主義の英雄であるエジプトの故ナセル元大統領の「後継者」を自認している。カダフィは弁舌もうまく、アラブ人の心の隅に追いやられているアラブ統一の夢をかき立てる存在になりうる。今後カダフィが「テロリスト」の汚名を返上し、国際社会に復活してくれば、それによってアラブの団結が促進される可能性がある。カダフィが音頭をとり、アラブがイラク復興や中東和平に協力すれば、イラクとパレスチナという、アメリカが抱えている問題の解決にプラスに働く。 米国内的には、こうした問題の解決方法は、国務省など中道派にとって好ましいもので、逆に国防総省やタカ派、ネオコンにとっては潰したいものだろう。そう見ると、今回の問題も「中道派対ネオコン」の文脈でとらえることができる。カダフィを復活させることで、イスラエルやネオコンをへこまそうという「均衡戦略」である。 また、中東世界とヨーロッパ世界を包含する地中海共同体へと発展することを模索しているEUにとっては、カダフィを取り込むことで、アラブ側との和合という面で大きな前進となる。 FTは「これは外交の勝利だ」と書いているが、こういう解説記事が出るのも「がんばれ中道派」的な感じがする。 Editorial comment: Engaging Libya 「拡大EU」としてアラブ世界との融合を考えているEUは、東南アジアと東アジアを融合させようとする中国中心の「アセアン・プラス3」の考え方と同じである。非米同盟的なやり方である。アメリカの中でも中道派(多極主義者)はこれを支持していると思われるので、厳密には「非米」ではなく非「一強」同盟なのだが。 そこで思いついたのだが、もしかするとネオコンは多極主義者の「スパイ」なのかもしれない。ネオコンが無理矢理アメリカを単独でイラク戦争の泥沼に引っ張り込み、その結果、世界の国々はアメリカを敬遠し、アメリカを中心とした一極世界ではない地域ごとの多極世界を模索する方向に進んでいる。アメリカがイラク戦争の泥沼にはまり込むほど、その方向が進む。その結果、極限的な一極主義を目指していたはずのネオコンが実現するのは、多極的な世界だということになる。話が飛躍しすぎていて、自分でも半信半疑の仮説ではあるが。 敬遠され出したアメリカのイラク統治9月1日から英米以外の軍隊として唯一イラクに派兵することを決めていたポーランド軍が、8月19日のバグダッドでの国連事務所爆破テロを受け、バグダッド周辺の「高度危険地域」には展開しないことを決めた。代わりに米軍がこの危険地域を守り続ける。 ポーランド軍がイラクに来ることで、米軍の一部がアメリカに帰れると考えられており、ポーランドに続いて他の国々も派兵してくれれば、今は大きすぎる状態になっている米軍の負担が減らせると米政府は考えていた。ポーランド軍が高度危険地域には展開しないということは、米軍の負担は今後も減らないということだ。米軍にとって、国際的な協力が得られないまま、ベトナム化する危険がどんどん高まっている。 ポーランド軍は、米軍が展開しているバグダッドと、英軍が展開しているバスラとの間の、イラク中南部に展開し、2500人の兵士が少なくとも2年間は駐留することになっている。だが国連事務所の爆破テロのあと、ポーランドではイラク駐留に反対する世論が拡大し始めており、ポーランド政府は慎重な姿勢になっている。 Poland to withdraw troops from 'high-risk area' near capital
開戦時には米英の側につき、反戦系の独仏と対立したスペインでも、イラクから自国軍を撤兵すべきだという議論が高まっている。スペインは800人近くの兵士をイラクに派遣しているが、国連事務所の爆破で1人が死亡した。たった1人が死んだだけで「断固戦う」と言っていたのが「撤兵すべきだ」というトーンに変わってしまうあたりが、いかにもラテンの政府らしい。(スペイン国民の多くは、最初から反戦だった) Spain under pressure to pull out troops from Iraq
国連では、パウエル国務長官が、世界各国に対してイラク派兵を要請するための国連決議を提起した。だが、今年2月にイラクが大量破壊兵器を持っているということを主張するために、中身のない証拠を公開してヨーロッパをわざと反戦に持っていったときと同様、今回もまた、パウエルらしい「わざと失敗させる」ための伏線が張られている。アメリカは各国に派兵を求めるが、全軍の統帥権や、イラク統治の主導権はあくまでアメリカが握り、その点で譲歩することはない、とパウエルは言っている。 これでは、統帥権や統治権の一部を国際化しない限りアメリカと一緒にやれない、と言ってきた独仏中ロなどが納得しない。パウエルはまたもや、わざと国連決議を流れさせ、米軍が単独でイラクの泥沼にはまることで、宿敵である国防総省のタカ派やネオコンをたたき潰そうとしているのではないか、と感じられる。 Powell Bids for Help in Iraq Through UN Resolution
03/08/23(土) 決定的になってきたイラクの泥沼化爆破されたイラク北部の石油パイプラインの復旧は、当初は数日で終わると予測されていたが、その後、少なくとも数週間はかかることが分かってきた。爆破から3日たった後も、パイプラインは燃え続けている。テロによってイラク駐在国連代表のセルジオ・デメロが殺されたことと合わせ、イラクの復興は大幅に遅れ、イラクは復興の方向ではなく逆に内戦の泥沼化していく可能性が急速に高まっている。 Iraq oil pipeline repair could take weeks, says US, amid persistent violence これは「自然」な流れではない。少なくとも、ネオコンはイラク戦争前からこのようなイラクの泥沼化を欲していたのだと感じられる。また、エルサレムで新たな爆弾テロがあり、パレスチナ和平のロードマップも終わりが近づいていることを感じさせる。これらの動きは、一つの流れを構成しているように思われる。 Police said checking if bomber dressed as ultra-Orthodox Jew
2003年8月19日という日は、イラク戦争(後)の泥沼化が決定的になった分水嶺的な日として、覚えておくべき日になるかもしれない。この日、ブッシュ大統領は、5月にカリフォルニア沖の空母上で発したイラク戦争の終結宣言を撤回するような趣旨のことをいっている。今の状態は、イラク戦争「後」ではく、まだイラク戦争が続いているということだ。 Bush Revises Views On 'Combat' in Iraq
分野的には関係ないけれど、日本の気象庁が「実は梅雨明けしてませんでした」と言い始めているのと、妙な同一性を感じる。 気象庁、梅雨明け撤回を検討…関東甲信・東北南部
03/08/20(水) 中国では江沢民の権力がまだ強い?中国共産党は、江沢民が昨年提唱した「3つの代表」の原則(三個代表)を、憲法に加える方向で検討していると報じられている。「三個代表」は、従来は「敵」だったはずの資本家をも共産党員として迎え入れ、共産党を「農民と労働者のための政党」から「中国の国民政党」へと脱皮させようとする試みだが、同時に江沢民が毛沢東、トウ小平に続く「偉大な指導者」として後生に名を残すために打ち上げたキャンペーンであるとも目されている。この視点に立つと、「三個代表」が憲法の一部になるということは、江沢民の野望が結実することを意味している。 昨年秋に胡錦涛が党書記などトップの座に就任して以来、江沢民が院政を敷いているかどうかということが中国ウォッチャーの関心になっている。中国政界の中枢で何が起きているか、外から実態が見えにくいため「三個代表」に対する扱いがどうなるかが、江沢民と胡錦涛の間の力関係を象徴すると考えられている。三個代表が憲法に書き込まれるということは、江沢民の権力がまだ強いということを表している。党内には、三個代表の憲法化に反対する声も大きい。 とはいえ、これとは違う見方として「江沢民の院政」は、胡錦涛がなかなか改革を進めなくても、隠然と江沢民に責任転嫁できるという逃げ口上に使われているだけだという可能性もある。中国では、江沢民時代には「李鵬ら保守派が邪魔して改革できない」という言い訳が振りまかれていた。当時は「改革派」だったはずの江沢民が、今では胡錦涛の改革を邪魔する保守老人になっているというのは、どうも納得がいかない。 `Three Represents' to be added into China's Constitution
03/08/19(火) 米軍が再びコロンビアに介入強化イラクが一段落したら、またアメリカはコロンビアの麻薬戦争に「協力」する名目で、政治介入にはいるのではないか、と感じさせることが始まっている。国防総省のマイヤー統合参謀本部長がコロンビアを訪問し、近くラムズフェルド国防長官もコロンビアを訪れる。ブッシュ政権は今後、コロンビアだけでなく、中南米の全体に対する外交に再び力を入れる方針だと伝えられている。 Myers visit stresses aid; Rumsfeld to follow
従来、アメリカのコロンビアに対する協力は、麻薬取引を取り締まることに絞られていたが、今後は麻薬資金を使って反政府ゲリラ活動をしている武装勢力(FARC)との戦いに協力し、米軍がコロンビア軍を訓練するのだという。こうした軍事支援のやり方は、フィリピンに対するものと似ている。 反政府軍は、石油パイプラインを爆破しようとしているが、米軍がコロンビア軍を訓練することで、こうした事態を避ける計画とされる。だが、イラクでは米軍がイラク人の反感を煽り、そのあげくに石油パイプラインや水道管が爆破され、復興に遅れが出る事態となっている。米軍はコロンビアの安定化を支援するのか、それとも妨害するのか。かつてアメリカで知り合ったコロンビア人ジャーナリストは、アメリカの「支援」に対して強い猜疑の念を抱いていた。 03/08/19(火) 戦争しにくくなっている人類昔の戦争では、敵陣の死者が多くなるほど、味方の陣営が鼓舞されるので、戦争をやるたびにマスコミは敵方に何人犠牲が出たか、誇らしく報じていた。だが、ベトナム戦争を機に、反戦運動は「罪もないベトナム人を殺している」というトーンを得て、敵方の死を発表することが、当局にとってマイナスになった。今回のイラク戦争では、米軍はイラク側の死者数を発表していない(確か前回の湾岸戦争でも)。 Changing Numbers and Colors of the Dead
つまり、人類はしだいに戦争がやりにくくなっている。アメリカであれ、世界のその他の国であれ、人々の意識が、昔の「敵国人がどんどん死ねばいい」という状態に戻っていくとは考えにくい。日本でも、北朝鮮の金正日の死を求める声は大っぴらにできても、北朝鮮の一般市民がたくさん死ねばいいという発言はタブーである。むしろ「北朝鮮の人々を救うために金正日を殺せ」といったような論調になる。 ベトナム戦争から30年、こうした反戦的な意識は世界の人々の中に根づいていると思われる以上、米政権中枢のネオコンなどが戦争を世界に広げようとしても、それは限界があるということになる。 問題は、これからアメリカが大統領選挙の時期に入る中で、共和党タカ派によってコントロールされている感が強い米マスコミが、イラクでの米軍側の死傷者数をしだいに発表しなくなり、それに対して米国内外から大した反対も出ず、イラクで自国兵がどんどん死んでいることを米国民自身が問題にしないままになるという可能性である。
03/08/17(日) ニューヨーク大停電とエンロン事件アメリカ北東部の停電について、調査報道記者として有名なグレッグ・パラストが、一昨年のカリフォルニア電力不足やエンロン事件と関連する、エネルギー産業が政府にけしかけたゆがんだ電力自由化の結果だとする記事を書いている。彼が、ジャーナリストになる前に総会屋潰しの探偵をしていたというのは面白い。 POWER OUTAGE TRACED TO DIM BULB IN WHITE HOUSE
ナイアガラ・モホーク社などの電力会社は、自由化を推進して電力料金の決定権を獲得し、雇用を切って人件費を減らす一方で電力料金を値上げし、そのあげくに停電を頻発させるという、独占状態を利用した混乱誘発をやった疑いがある。エンロンがカリフォルニアを停電させたのと同じ仕組みだ。 隠密行動好きで陰の政府(FEMA)を主催しているのではないかと勘ぐられているチェイニー副大統領の筋が、電力会社と結託して、予算獲得のため大規模停電を誘発した、という見方もあり得る。この2つの視点は、実は同じものかもしれない。ネオコンがアメリカの政治や外交をわざと破壊しようとしているのと総合してみると、ここ数年間にアメリカ上層部がやっていることの中に、アメリカを自壊させようとしている行為が多く含まれているのに気づく。 「イラクは混乱していない」と言わざるを得ないブレマーイラクで最近行われた記者会見で、アラブ人の記者が、占領軍政府トップのポール・ブレマーに「イラクがこんな混乱に陥っているのに、なぜ米軍を増派しないのか」と尋ねたところ、ブレマーは「混乱なんかしていない。イラクはほとんど平和な状態だ」と答えたという。U.S. can't order a round of patience ブレマーは、混乱を認めることができない。認めると、米軍が増派せざるを得ないからだ。米軍には、もうお金がない(ということになっている)。国防総省は今年4月から、イラクとアフガニスタンに派兵している兵士たちに、特別危険手当と家族手当の増額分として、1人あたり月額225ドルを通常の給料に上乗せして出していた。だが、もう予算がないので、今後はこれを再びなくすことを検討している。 Troops in Iraq face pay cut
これでは、米軍の士気が落ちて当然だ。米軍兵士は、変化のない携帯用配給食と、1日あたり1人2本の水だけで生活させられており、こんな生活はもういやだというメールを実家や友人に送っている兵士もいる。 Local Soldier E-mails From Iraq, Asking For Help ネオコンのシンクタンクであるPNACは、米軍の規模を拡大すべきだと主張しているが、ラムズフェルド国防長官は、これに反対している。ネオコンとラムズフェルドの同盟関係に、ここにきて亀裂が入ったのか。もしくは、米軍の急拡大は来年の選挙にとってマイナスだからダメだとブッシュやカール・ローブあたりが言っているのか。 Rumsfeld on a Bigger Military
Rumsfeld Not Sold On a Bigger Military
しかもその一方でホワイトハウスは、国連にイラク復興のための援軍を求めることもしないと決めたという。全体として、アメリカはわざとイラクの情勢を悪化させ、自国の兵士を自暴自棄に陥らせ、イラク人を乱射するような行動をとらせようとしている。アメリカ政府は、イラクをわざとベトナム化しようとしているように見える。なぜなのか。 U.S. Abandons Idea of Bigger U.N. Role in Iraq Occupation
そういえば、ベトナム戦争のときも、米軍がベトコンの拠点を急襲するとき、なぜか事前に敵方に急襲の情報が漏れ、拠点を襲撃してみたらベトコン兵士は逃げた後だった、ということが相次いだ。これは、CIAの秘密部隊など、だれかがベトコン側に情報を流し、戦況をわざとアメリカにとって不利にしようとしているのではないか、という憶測を呼んだ。イラクの現状は、こうしたベトナム戦争時の状況を思わせるものがある。 国務省vs国防総省の戦いで見ると、イラク復興に国務省が参加しないのは、国防総省との戦いに負けた結果というより、国務省側の意志として参加したくない、というのが考えられる。米軍の中に復興を妨害しようとする勢力があり、イラク復興はうまくいかないと早い段階で分かっていたとしたら、国務省が復興に協力したがらなかったのは当然と思えてくる。 石油を輸出できないイラクイラク北部のパイプラインが、再開されてわずか3日目で破壊された。
イラク北部のキルクークから、トルコの積出港ジェイハンまで1000キロの石油パイプラインは、8月13日に再開されたばかりだったが、15日には爆破によって切断され、再び使用不能になった。北部の油田は、イラクの石油の約4割を産出していた。 パイプラインは数日で復活するという。これが本当なら、石油輸出の遅れの滞りは短期間で終わる。だが、アメリカ国防総省の中には、イラクの復興を遅らせたい、イラク人を怒らせたいという意図を持った人々もいるように感じられるので、このパイプラインがいつ再復活するか、注目した方がいい。 アメリカはイラク復興に石油収入をあてにしているが、パイプラインの破壊で石油が輸出できず、極度の財政不足になっている。
03/08/17(日) ムジャヘディンハルクのワシントン事務所が閉鎖ムジャヘディンハルクのワシントン事務所が閉鎖され、在米の預金が凍結された。これは中道派が優勢であることを示している。 http://www.washtimes.com/world/20030815-101313-1749r.htm 米国内には、共和党右派を中心に、ムジャヘディンハルクに対するテロリスト指定を解除するよう、パウエルの国務省に圧力をかける動きが続いてきたが、パウエルは拒否し、逆にイラン当局と秘密の交渉をして緊張緩和に動いていた。国防総省は、これに対抗し、ムジャヘディンハルクやパリのイラン反体制派を使って、イランの体制に揺さぶりをかけていた。 イラン政府は、アメリカに対し、イランが拘束している3人のアルカイダ容疑者をアメリカに引き渡すから、代わりにムジャヘディンハルクのアメリカでの活動を止めてほしい、という交換条件を出していた。それが実現したのが、今回の事務所閉鎖だった。 アメリカ(と国連)は、ロカビー事件を解決し、リビアとも和解する方向で話を進めている。これらは中道派的な動きだと読める。フランスが「リビアはうちの墜落事件にも金を出せ」などと言って、この動きを阻止したりしているのではあるが。 France threatens to veto Lockerbie resolution at UN: US officials
03/08/16(土) アメリカの世界民主化計画は失敗の連続冷戦終結後、アメリカは4回にわたり、世界の独裁国、問題のある国に対し、軍事介入を行うことで政権交代させ、安定化し、民主化することを試みてきた。1992年のソマリア、1994年のハイチ、1995年のボスニア、1999年のコソボである。だが、これらの試みはすべて失敗に終わっている。今、イラクが5度目の試みとして続いているが、これまた失敗の泥沼に入りかけている。(アフガニスタンを入れるなら、イラクは6つ目になる) Repeating history (again) in Iraq
ウェブログを始めます。しばらくはテスト段階なので、三日坊主になったり、ウェブログ自体をやめてしまうかもしれません。 03/08/16(土) 田中宇の国際ニュース解説・メインページへ |