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活気あふれる中国(4)台湾の存在感

2000年12月24日   田中 宇

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 台北に住む私の友人(日本人)が、上海に行って驚いたことがある。点心レストランに行ったら、店の名前が「台北小龍包」だったことだという。「小龍包」(しょうろんぽう)は点心の料理の一つで、台湾では上海が小龍包の本場だと考えられているのに、上海では逆に店の名前に「台北」の名前をつけた方が良いと考えられている。それが意外だったそうだ。

 これを聞いて、政治の世界の「一つの中国」問題の逆をいく話だと感じた。従来、台湾(国民党)と中国(共産党)はいずれも「中国は一つ」と主張しながら、その「一つの中国」とは、台湾にとっては中華民国であり、中国にとっては中華人民共和国であるという正反対の正統性を主張してきた(台湾はもう争いから抜けたいようだが、中国が認めない)。ところが「一つの小龍包」問題では、お互いが相手こそ正統だと思っているのである。

 小龍包だけでなく、上海では店や商品に「台北」の名前をつけるとおしゃれだと思われており、加えて「北京はソウル風、広州は香港風」がおしゃれだとされている、と友人は分析していた。「東京」がないのは、中国では反日教育が徹底しているので、日本風には抵抗があるためらしい。(とはいえ、日本の流行が大好きという、もともと台湾などにいた「哈日族」の若者が、最近は上海や北京にもいるそうだ)

 私が上海を歩いた際に感じた「台北」は、ひらがなの「の」である。日本風がおしゃれだと思われている台湾では「牛丼の吉野屋」式の、「の」だけひらがなであとは漢字という看板や表示がよくあるが、それと同じスタイルの看板を上海でも何ヵ所かで見かけた。

▼パソコンパーツの価格速報も台湾発祥?

 北京の「中関村」や上海の「徐家匯」と呼ばれる繁華街などには、「電脳城」「電子城」などと呼ばれる巨大なパソコン市場ビルがあり、そこは立体化した秋葉原のような場所だ、マザーボードやハードディスクなど、組み立て用のパーツを売っている店や、プリンターやモデムの専門店、ノートPCの店など、無数の小さな店が入居している。

 その内部を歩いていると、CPUやメモリ、ハードディスク、マザーボードなどパーツ類の「本日の価格表」を店頭に置いて配布している店が多い。日本の秋葉原や台北の「光華商場」でも、全く同じ発想で作られた価格速報が作成、配布されている。

 秋葉原で最初に価格速報を作ったのは、今はもう閉店に追い込まれた旧オウム真理教系(と当局が言っている)PCパーツ小売店で、彼らはパーツを台湾から仕入れており、価格速報をまいて客を集める手法も台湾から学んだのだと聞いたことがある(確証はないが)。この話が正しいとすれば、この価格速報を使った販売戦略も台湾から中国、そして日本へと広がったことになる。(この件について詳しい方のコメントをお待ちします)

 上海や北京で売られているパーツ類の多くは台湾メーカー製だ。たとえばマザーボードだと、華碩(AsusTek)技嘉(Gigabyte)梅捷(SOYO)など、漢字表記だと不可解だが、英文名で見ると世界的なブランドだと分かる。これらの部品の多くは、後述する広東省東莞市などで作られているのだろう。

【写真】上海の徐家匯「太平洋電脳広場」入り口。日曜日の午後

▼あちこちで台湾を感じる中国沿海部経済

 今回私が旅行した上海や浙江省など中国沿海部では、あちこちで経済活動の背後に台湾を感じた。見学した5工場のうちの一つは、台湾資本の自動車部品工場だった。その会社では、ガラス窓やドアの周囲のゴム製ショック緩衝材を作り、トヨタやホンダ、フォルクスワーゲン、GMが中国各地で作っている乗用車やバンのために供給しており、中国での市場シェアは25%以上に達している。

 この工場の品質管理は日本式だった。「5S運動」について説明する掲示板が生産ラインの前に立っていた(5S運動とは「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の5つの頭の1字をとったもので、職場をきれいにするための運動)。かつては台湾で生産していたが、今ではすべて中国に移したそうで、日本企業から受けた生産技術を自分のものにした上で、中国に進出していることがうかがえた。

(アメリカ人にそのことを話したら「日本もアメリカの技術を上手に真似たわけだから、アメリカ・日本・台湾・中国と技術が渡っていったことになるな」と言っていた)

 中国の国有企業では一般に社員の愛社精神が弱く、取引相手から社員が個人的にキックバックをもらうなどの腐敗が多い。日本式に「社員に良い待遇をすれば愛社精神を持ってくれる」と期待して失敗する日本企業も多いと聞いたが、この台湾企業の場合、社員に対する信賞必罰を強化して腐敗を防ぎ、社員の愛社精神を育てようとしているという。日本式の技術と台湾式の人材管理を組み合わせて成功しているように見えた。

 一方、前回の記事「国有企業の挑戦」でも紹介した南洋華僑系の製紙工場では、副社長以下約30人の台湾人が働いており、工場内に台湾人社員専用の宿舎が設けられていた。その前の記事「過激な問屋街」で紹介した浙江省義烏市の大問屋街ができた背景にも、福建省などへの台湾企業の進出があったと思われる。

▼中国の中の台湾、広東省東莞市

 今回は私は行く機会がなかったが、南部の広東省では、台湾企業はもっと大っぴらに活躍している。最近有名になってきたのは、香港の隣の中国側の深セン経済特別区の、そのまた隣にある広東省東莞市である。

 ここでは、コンピューターや携帯電話関連の製造業が結集している。パソコン部品の世界シェアでいうと、ケースの40%、電源ユニットの25%、マザーボードの15%がこの町で生産されており、世界で作られるパソコンの70%が、この町で作られた何らかの部品を使っているという。

 そして、東莞のパソコン産業の4分の3は台湾系企業である。東莞が台湾企業に選ばれたのは、深センに隣接していながら、深センより人件費が安いためだ。内陸から出稼ぎに来た中国人は、東莞までは自由に来れるが、そこから深センに入るには当局の許可証が必要で、そこから香港に行くには、さらに別の許可証が必要になる。それだけ行ける人は限られているわけで、人件費が高くなる。

(深センはもともと、社会主義だった中国が、イギリス植民地だった香港から資本主義のやり方を吸収するための「緩衝地帯」として作られた。香港が中国に返還されてからも、このシステムは継続している)

 東莞市の人口は4−5年前まで3万人ほどだったが、今では出稼ぎ労働者の流入によって400万人ほどにまで急増した。東莞には台湾人が4万人住んでおり、今夏には台湾人駐在者の子供たちのために、台湾(中華民国)の教育システムに沿った小中学校「東莞台商子弟学校」まで開校した。

 この学校は、今は生徒数が700人だが、来年中に倍増する見込みだ。中国共産党にとっては、国内に敵方の学校を作ることを許したことになる。政治より経済面のメリットを重視した対応といえる。

 香港の中国への返還後、オモテの企業進出だけでなく「黒社会」と呼ばれる犯罪組織も、台湾から中国大陸への進出を活発化している。「四海バン」「竹聯バン」などの台湾系組織が、「14K」など香港の犯罪組織に負けない勢いで大陸に進出し、広東省や福建省、雲南省などの役人を賄賂で丸め込み、組織犯罪を容認させるケースが増え、中国政府は取り締まりを強化しているが追いついていない。

 中華民国は1949年に国共内戦に敗れて台湾に逃げ込んだ後も、福建省で廈門市の対岸に浮かぶ金門島と、福州市の近くにある馬祖島は、軍事的に持ちこたえて領有しつづけ、今日に至っている。これまで内戦の最前線だった金門・馬祖と大陸との間には直行便の航路がなかったが、台湾政府は対中国融和策の一貫として来年には直航便の就航を認可する「小三通」と呼ばれる計画を進めている。

 「小三通」が始まると、福建省と台湾との交流が深まることは確実で、海産物など食品分野を中心に中国製品の台湾市場への流入が増える半面、福建省に台湾の家電量販店が出店を計画するなど、台湾製品の中国流入も増えそうだ。また「黒社会」の縄張り争いが激化するとの見通しや、大陸に愛人を持つ台湾人ビジネスマンが増えると予測して「先生殖器統一」(生殖器の分野で先に台中が統一する)などという新聞の見出しが掲載されたりしている。

▼台湾独立を認める上海人

 東京や、私が今住んでいるアメリカのボストンで、これまで何人かの中国人に対して「もし台湾人の過半数が中国とは別の国家になることを望むなら、あなたはそれを容認するか」と質問してみたが、返ってくる答えはほとんどすべて「台湾の独立は認められない」「台湾は中国(中華人民共和国)の一部になるべきだ」というものだった。

 そして「でも台湾に行くと、自分たちは中国とは別の国だと思っている台湾人が多いと感じられますよ」とたたみかけると、ご本人は台湾に行ったことがないのに「日本人は台湾を中国から切り離し、再び植民地にしたいと望んでいるから、勝手にそんな風に感じるのだ」と反論されたりする。昨年、私が台湾人の独立志向についての記事を配信したときも、多くの中国人読者から、それに似たコメントのメールを受け取った。

(もし「台湾の独立を容認すべきだ」という中国人の方がいらっしゃいましたらメールをください)

 ところが、私が今回、上海で数人の中国人の方々にお会いして、非常に意外だったのは、ほとんどの人が「台湾の人々が独立したいのなら、すればよい」と考えていたことだった。「台湾には独立してもらった方が良い。上海も北京から独立できるから。私のまわりの若い人は、皆そう考えていますよ」と述べる若い人もいた。

 調査の母数が数人では少なすぎるが、私には非常に意外だった。これをどう考えるべきだろう。頭をよぎったのは「北京愛国、上海愛出国、広東売国」という言葉だった。「北京の人は愛国心が強い。上海の人は祖国を捨てて外国に行きたがる。広東の人は金儲けのために祖国を外国の侵略者に売る売国奴が多い」といった意味らしい。

(広東省にとって非常に重要な意味を持つ香港が、中国領土でありながら「外国」の地位にある場所だとしたら、「租界」から生まれた上海は逆に「外国」を中国領内に取り込んだ伝統を持つ場所だといえる。そこが広東と上海の違いになっていると思われる)

▼強い地方の独立意識

 これを私なりに台湾との関係にあてはめると「国家意識が強い北京の人は、台湾に独立されると中国の統一が崩れかねないので大反対」「上海の人は、自分たちも自由になりたいので台湾独立は容認」「広東の人は、経済発展にプラスなので台湾企業は大歓迎。中華民国の学校も作っていいですよ」といったところになる。

(上海や広東にも、台湾独立に強く反対する「愛国」の人は何百万人もいるに違いないので、私の見方はあくまでも観察に基づく試論でしかないが)

 今回の旅行で考えたことの一つは、中国は地域によって政治意識に大きな差があり、地方の独立心も強いので、一枚岩として考えない方が良いということだ。毛沢東でさえ青年時代には、中国の各省が清朝から独立して連邦制国家に移行すべきと考え、故郷の湖南省で「湖南共和国」の建国を主張していた。今も地方には、連邦制への潜在的な要求があるため、北京政府は台湾独立を容認できないのではないかと思われた。

【写真】上海の「浅草」、予園にあるスターバックス
中国のスターバックスの運営を任されているのは台湾の「統一企業集団」だと聞いた。

(続く)


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