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インド航空機ハイジャックの犯人像をさぐる

1999年12月25日   田中 宇

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この記事は、12月25日午後2時の状況をもとに書いています。

 インド航空機がハイジャックされた事件は、現時点でハイジャック犯の要求がはっきりせず、誰がどのような目的で犯行に及んだか、背景は分からない。だが、事件の特徴から、いくつかの推測ができる。

 一つは、犯人がヒンディ語を話していたという、インド当局の発表情報である。ヒンディ語はインドの公用語で、主にインド北部で使われている。インド機を乗っ取り、パキスタンへの着陸を求めたという事件の始まり方からは当然、犯人がパキスタン人ではないかという推測が成り立つが、パキスタンの公用語はウルドゥ語である。パキスタンにもヒンディ語を話す人がいるものの、犯人はパキスタン人ではなく、インド人である可能性が大きい。

 もう一つは、犯人が乗っ取った飛行機をいったんパキスタンのラホールに着陸させた後、アフガニスタンの首都カブールに向かったことである。アフガニスタンは、イスラム原理主義ゲリラ(またはテロリスト)のふるさとのような場所だ。

 アフガニスタンでは1980年代、ソ連軍の侵攻に対して、「ムジャヘディン」と呼ばれるイスラム教徒ゲリラ組織が戦闘を続け、最終的にソ連軍を撤退させた。ゲリラ組織に対しては、アメリカがパキスタンを通じて、資金面や軍事面で援助していたのだが、このゲリラ戦を通じ、多くのイスラム教徒が戦士として育った。

 彼らは冷戦終結後、アメリカから「用済み」とされた後、アメリカこそイスラム教徒を抑圧していることに気づき、反米テロリズムの尖兵となり、中東全域からアフリカ、旧ソ連など、イスラム教徒が住んでいる地域に散らばっていった。パキスタンやカシミールのイスラム主義勢力も、この流れを汲む人々だ。

 こうした歴史をみると、ハイジャック犯がアフガニスタンに向かったことは、彼らがイスラム主義者(原理主義者)である可能性が大きいことが分かる。犯人がヒンディ語を話していたこととあわせて考えると、インドのイスラム原理主義者ということになるが、こうだとすると犯人は、インドとパキスタンの係争地カシミールで、インドからの独立(またはパキスタンへの編入)を求めて戦っている武装勢力である可能性が高い。

▼「ミレニアム・イスラムテロ」の一環か

 とはいえ、カブールに着陸したいという彼らの要求は当初、満たされなかった。カブールの空港には、夜間に大型機が発着できる照明設備がないからであった。このことから、このハイジャック事件はアフガニスタン当局が関与したものではなく、もっと小規模な組織によって立案されたものと考えられる。もし大きな組織が企てたことなら、技術的な理由で目的地に着陸できないというヘマなことは、しないだろう。

 イスラム教徒の武装組織(またはテロリスト)はかつて、アフガニスタンやイラン、シリアなどの国家がバックにいるものが多かったが、ここ数年は、そのような大きな組織ではなく、相互に弱い結びつきしか持っていない小さなグループが、無数に存在する状況になっている。彼らもその一つなのかもしれない。

 だとしたら、まだ発せられていない彼らの要求は何なのか。可能性としては、カシミールからのインド軍の撤退が、最も大きいだろう。

 今年は、クリスマスから正月にかけて、世界中で「イスラムの敵」に対して、イスラム主義者の組織が、爆弾テロなどを展開することが警戒されている。イスラム主義者が敵視しているのは、イスラエルを支援するアメリカ、イスラム教徒の地域であるチェチェンを攻撃するロシア、それからイスラム教徒が大半の地域であるカシミールを武力制圧するインドなどである。

 12月中旬には、国境警備が手薄なカナダからアメリカに、爆弾の材料を車に積んで入国しようとしたアルジェリアなどのイスラム教徒が相次いで逮捕され、アメリカ当局の警戒感も増している。今回のハイジャック事件も、こうした「ミレニアム・イスラムテロ」の一環である可能性もある。


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