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クルド独立の終わり
2026年1月25日
田中 宇
中東のシリアは、2024年末にアルカイダ系の武装組織HTS(レバント解放機構)が決起してアサド政権を倒し、HTSの頭目だったアハマド・シャラアが大統領になって統治している。第二次大戦後にフランスから独立した後の1970年からシリアをずっと統治してきたアサド家の前政権は、わずか2週間で倒された。
HTS(などアルカイダ諸派)は決起する前、シリア内戦でアサド政権のシリア国軍と戦って負け続け、トルコ当局が越境支配していたシリア北部のイドリブ周辺に逃げ込んで、トルコ軍(諜報機関、NATO加盟)に守られて半亡命の生活を送っていた。
(シリア新政権はイスラエルの傀儡)
それがいきなり決起して2週間で圧勝し、アサドをモスクワに亡命させて政権をとったのだから、何か裏があって当然だ。私は、世界でダントツに強い米諜報界を乗っ取ったイスラエル(リクード系)が、HTSをトルコ当局から借り出して傀儡化し、アサドの国軍を倒すためのコツ(軍事諜報)と兵器(NATO製)を与え、政権転覆させたと推測している。
2024年末は、リクード系に支援されたトランプが米大統領に返り咲く直前で、イスラエルはトランプを勝たせた見返りにシリアの政権転覆を了承してもらい、トランプの隠れた盟友であるプーチンのロシアがアサドの亡命先を用意し、HTSが政権転覆したと考えられる。
トランプは就任後、HTSのシャラア大統領を高く評価し、アサド時代のシリアへの経済制裁を解除していろいろ支援している。
(Trump's photo with Syrian President al-Sharaa symbolizes new world order)
イスラエル自身は、新生シリアがイスラエルの傀儡であることを世界に悟られたくないので、目くらまし策として、シリアの新政権を批判してなかなか仲良くせず、昨年の後半になってようやくシャラアと国交正常化の交渉を開始した。
イスラエルのマスコミなどは、シリアの新政権がトルコの傀儡であると批判し続けている。トルコは、アサド政権を2週間で倒せる軍事(諜報)力など持っていない。もし持っていたら、ずっと前にトルコがアサドを転覆したはずだ。アサド転覆は、イスラエルが米諜報界を乗っ取ったからこそできたことだ。
(イスラエルの拡大)
ここまでは「これまでのあらすじ」だ。私の見立ては、マスコミや専門家が言っていることとかなり違うので、いちいち昔にさかのぼって説明しなければならない。
(しかも、妄想とか難解とか反ユダヤとか、永久にけなされて批判され、エックス=ツイッターやグーグルで恒久的な制限をかけられている。反でなくて知ユダヤなんだけど。こっそり世界を動かしてるのに余計な詮索をする奴はみんな反ユダヤかもだけど。難解に見えるのは読者がマスコミ権威筋を解説を軽信してるからだし)
(米国の中東覇権を継承するイスラエル)
今回の話は、そのようなシリアにおいて、以前の内戦下で米イスラエルに支援されて一定のちからを持っていた北東部のクルド人が、米イスラエルに見捨てられてちからを失ったことについてだ。
クルド人(やキリスト教徒、ドルーズなど少数派)は、第一次大戦以来、英国系(大英帝国と傀儡のフランス)が中東を支配する際に、トルコやアラブやペルシャなどの大きな勢力を加圧して言うことを聞かせるための道具として使われてきた(スンニvsシーアも)。
英国系(英仏と、以前の米イスラエル)はクルド人に独立をうながして決起させ、周辺諸国がクルド人を弾圧するように仕向け、トルコやイランやイラクやシリアに人権侵害のレッテルを貼って制裁することを中東支配の戦略にしてきた。
(US Declares End to Military Support for Syrian Kurds)
米イスラエル(当時はまだ英国系)は湾岸戦争後、イラクのクルド人を支援してフセイン政権に楯突かせたが、クルドが強くなりすぎると、逆にフセイン政権のイラク軍に諜報を渡してクルド潰しをやらせたりした。
そしてフセインがクルド人を虐殺したと非難してイラク制裁を強化した。中東支配はモグラ叩きだった。
米国はNATO加盟国としてトルコを支援したが、同時にクルド人(PKK)に分離独立運動をやらせ、トルコ政府がクルド人を弾圧することを非難した。中東4か国などに分かれて住むクルド人の悲願である独立は、永遠の「おあずけ」だった。
(Israel must deepen its alliance with Kurds as Syria fractures)
中東の様相が変化し始めたのは2011年の「アラブの春」からだ。アラブ諸国の英米傀儡な世俗政権が、イスラム主義の反政府運動によって連鎖的に転覆されたアラブの春。いま思うとあれは、2001年の911テロ事件以来、米諜報界に入り込んで乗っ取ったイスラエル(リクード系)を排除しようとした英国系のオバマ政権が、イスラエルから受けた反撃だった。
イスラエルは、諜報力をイスラム主義勢力(ムスリム同胞団)に注入し、アラブ諸国の英国系の諸政権を転覆してイスラム主義政権に替えようとした(私の新たな仮説)。ムスリム同胞団はイスラエル敵視だが、同時に米英(英国系)敵視でもある。
(イスラエルとの闘いの熾烈化)
アラブの春が完全に成功していたら、英国系はアラブのかなりの部分から追い出され、影響力を失っていた。そこにイスラエルが入り込み、米国から諜報を流し込んでムスリム同胞団の新たな諸政権をテコ入れすると、イスラエルとアラブは裏でつながって仲良くし始め、イスラエルが中東から英国系を追い出して覇権を形成できる。いま起きていることが10年早く起きていた。
だが、オバマはこの謀略に抵抗し、エジプトは英国系のシシ軍事政権に戻った。シリアはイスラエルによって内戦化されたが、オバマはロシアとイランにアサドへの支援を要請して対抗し、露イランがアサドを守った。アラブの春は道半ばで頓挫し、シリアは13年間の内戦になった。
(軍産複合体と闘うオバマ)
イスラエルは、米国の諜報界だけでなく政権も乗っ取らねばダメだと思い知った。それでトランプを擁立し、出したり引っ込めたり(英国系だが間抜けなバイデン政権を途中で入れて自滅させ)しつつ、米国の政権を乗っ取った。
イスラエルとトランプは、英国系の米民主党の中の極左勢力を扇動して、ミネソタ州など民主党系の諸州で違法移民取り締まり反対などの暴動を拡大させ、中道派の支持者を民主党から離反させ、今秋の中間選挙で民主党を自滅させようとしている。高市化する日本などを含め、英国系は世界から駆逐されていく。
(All Over America, Thousands Of Radicals Are Being Recruited For “Rapid Response Teams” That Are Designed To Swarm ICE)
イスラエルは念願成就の中東覇権を実現しつつある。延々と書いて、まだ「これまでのあらすじ(歴史の見直し)」から脱却してない。
シリア内戦の本質は、英国系とイスラエルの暗闘だった。イスラエルが暗闘に勝ち、トランプの返り咲きとともにシリア内戦は終わり、イスラエルの傀儡国になった。
英国が、傀儡のフランスと対立するふりをしてレバント(アラブの地中海岸)を南北に分割し、ユダヤ人に与える土地を半分にしたサイクスピコ協定から108年ぶりに、イスラエルは「約束の地」の北半分であるシリア(とレバノン)を傀儡地として得た。
(南半分では、パレスチナを抹消しつつある。本国の米欧で英国系が弱体化したので、エジプトとヨルダンは英国系政権のままイスラエルの傀儡に。レバノンは脱ヒズボラの傀儡化が進行中)
(イスラエルの覇権拡大)
イスラエルはレバント全体を得た後、その他の中東をどうするつもりか。これが新たな疑問・注目点になった。
可能性の一つは、イスラエルが中東の他の諸大国であるイラン、トルコ、サウジを次々と政権転覆して弱体化させていくシナリオだ。この場合、クルド人の武装勢力をけしかけてトルコやイランを内戦化するとか。
イスラエルの傘下に入ったUAEを元兄貴分のサウジに噛みつかせるとか。イエメン内戦でサウジを占領の泥沼にはめ込んで弱めるとか(もうやったけど)。
(イスラム諸国の政府を強化し街頭をへこます)
サウジに関しては、UAEとの喧嘩が最近ひどくなっている(と喧伝されている)。だが、クルド人に関しては、イスラエルがイランやトルコを潰す方向になってない。
トルコからの分離独立を目指して武装闘争を続けてきたクルド人の組織PKKは、昨年5月にとつぜん武装解除を宣言し、トルコの野党として非武装の政治活動だけでクルド人の権利拡大を続けていくことにした。
これは多分、イスラエルやトランプがPKKを加圧してやらせたことだ。イスラエルは、クルド人をけしかけてトルコを内戦化して潰すどころか、逆に、クルド人に分離独立をあきらめさせて武装解除させ、トルコへの同化に転換させている。
(Peace with the PKK in Turkey could be getting closer)
イスラエルは表向きトルコのエルドアン大統領を「親ハマスだ」とか言って非難し続け(実際にエルドアンの政党AKPは隠れムスリム同胞団であり、ハマスと同じ政党)、いずれトルコの政権転覆が必要だと息巻いている。
しかし実際は、イスラエルがエルドアンを強化している。PKKが武装解除した後、エルドアンは、それまでPKKをかくまっていたイラクのクルド自治政府と和解し、イラクのクルド地域で産出した石油を、以前からあったパイプラインでトルコのジェイハン港に運んでイスラエルなどに輸出する流れを再開した。
エルドアンは、トルコとイラクのクルド人を傘下に入れた。イスラエルは石油を得たが、それで良いのか?。どうもイスラエルは、クルド人を管理する権限をトルコに移譲した感じがする。
(Turkey Pushes for Full Use of Kurdistan Oil Pipeline)
そして今回、トランプはシリアの北東部に駐留していた米軍をイラクに撤退させることにした。シリア駐留の米軍はISIS掃討と油田乗っ取りが任務で、漸減して約千人しか残っていなかったが、その傘下に数万人のクルド人の民兵団(SDF、YPG)がいて、シリア北東部のISISと戦っていた(トルコPKKのシリア支部がYPG)。
シリア北東部はもともとクルド人の居住地域で、民兵団はクルドの自警組織だったが、シリア内戦とともに米軍がISIS掃討の名目で入ってきて傘下にクルド人を入れ、クルド軍はクルド人の居住地域を越えて広範に展開してきた。
(The Causes & Consequences Of Syria’s Rapid Dismantlement Of Kurdish Autonomy)
トランプは以前からシリア駐留米軍を撤退したかったが、イスラエルとクルドがもう少しいてくれと要請し、油田の利権もあったので漸減に留めていた。
今回、シャラア政権によるシリアの安定化(アサドが属していたアラウィー派の虐殺、南部のドルーズ派との利権調整など)が一段落したので、イスラエルはシリアからの米軍撤退を認めた。
米軍の傘下にいたクルド軍は見捨てられ、支配地域がクルド地域のみに縮小した。その他のアラブ人地域にはシリア国軍が入ってきた。クルド軍が撤退を拒否したアレッポ近郊では国軍との戦闘になったが、結局クルド軍が撤退した。
シリアのクルド分離独立の可能性はなくなり、クルド人は一定の自治を得て(名目だけかも)シリア人としてとどまることになった。
(Kurds ,Erdogan Threatens Operation Against Syrian Kurds If 'Integration' With Damascus Fails)
米イスラエルは、イランの政権転覆を画策してきたが、クルド人の反政府運動を扇動していない。
昨年6月、イスラエルとイランが戦争した直後、イラン政府が国内のクルド人に「イスラエルのスパイ」の容疑をかけて多数逮捕した。しかし、これは米イスラエルがクルド人の反政府運動を煽った結果でなく、イラン当局による予防拘禁の策だった。
トランプは米軍の艦隊をイラン沖に派遣し、今にもイランを再攻撃しそうな感じを醸し出している。だが、これは「ベネズエラ方式」で、イランを加圧して最高指導者のハメネイ師を亡命(もしくは辞任)させる代わりに今のイスラム共和国の政体を残す「ソフト転覆」の可能性が最も大きい。
イスラエルがトランプを動かしてイランを根本から政権転覆して、内戦化とか分割する可能性は低い。
(Post-war Iran moves to crush dissent amid fears of uprising)
(イランは転覆されるのか?)
イランがソフト転覆されて親米親イスラエルに転換したら、その後のイランは、イラクのシーア派地域への影響力を維持することを多分許される。イラクは表向き独立国家であり続けるが、シーア派地域がイランの影響下、スンニ派地域がサウジの影響下、クルド人地域がトルコの影響下になる。
(Resumption of Kurdish oil exports to ease fuel shortages in Turkey)
クルド人は、トルコ、シリア、イラン、イラクのいずれでも分離独立を許されず、クルドの独立運動は外部からの支援を失って終焉していく。
イスラエルは結局のところ、中東の4極体制を尊重する。ただし、他の極であるトルコ、イラン、サウジのいずれもイスラエルに楯突かなくなる。表向きイスラエルと対立しているように見えても、本質的にイスラエルの言うことを聞くようになる。
今後の中東(など全世界)は、国家が強くなり、国家以外の諸勢力、市民運動とか野党とか民兵団とかテロ組織などは取り締まられ、掃討されて弱くなる。国家以外の諸勢力を動かし、国家群を抑圧して覇権に従わせてきた英国系が弱体化・消滅していくことが、その主因だ。
(イスラエルは中東4極体制で満足なのか?)
こういったところが、現時点での私の、今後の中東に関する見立てだ。変更があったらまた記事を書く。中東は相変わらず複雑だ。私は一生、ああでもないこうでもないと書き続ける。馬鹿だね。単なるオタク。難解でごめんなさい。
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