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G7=ドルと、中国=金地金の暗闘

2021年6月19日  田中 宇

フランスのマクロン大統領が6月10日、G7サミットで「G7諸国の政府や中央銀行が保有する金地金の一部、合計1億ドル分をIMFに寄贈し、IMFがこの地金を担保にアフリカ諸国に融資し、アフリカの開発や過去の債務の帳消しなどに使うべきだ」と提案した。今回のG7サミットの主題の一つは「中国への対抗」であり、中国は最近アフリカに経済支援して影響力を拡大している。旧宗主国としてアフリカへの影響力を持っていたフランスは、中国に奪われた影響力を奪回したい意図もあり、G7を巻き込む今回の提案になった。 (Killing All the Birds With One Pile of Gold) (France's Macron Urges G-7 To Sell Gold Reserves To Fund Bailout For Africa

マクロンの提案には、米覇権下のG7が中国の台頭を抑える試みとしての他の意図もありそうだ。それは、金地金を手放する構想をぶち上げることによって金相場を引き下げ、金地金の高騰でドルの崩壊感が強まることを防ぐ意図だ。事実、マクロンの提案後に金相場は暴落した(マクロンの言葉で下がったというより、それと同期して米連銀などが金融界を通じて金先物を売って相場を暴落させた)。マクロンの提案は、金相場が1オンス2千ドルを越えるのを防ぎ、基軸通貨としてドルの究極のライバルである金地金を抑止するためのものでもあった。米覇権の基盤にあるドルの崩壊感が強まるほど、相対的に中国の台頭や覇権の多極化が進行するので、金相場を抑止するマクロンの提案は、アフリカ支援と並び、G7のテーマである中国への対抗策になっている。 (Gold Prices Tumble as Macron Calls for IMF Sales, 'Overly-Long' Hedge Funds Cut Back But ETFs Grow) (Macron hosts summit on financing Africa's post-pandemic recovery

しかし、さらに掘り下げて考えると、逆の側面も見えてくる。マクロンの提案は、先進諸国が保有する金地金の一部をIMFに譲渡させるものだ。短期的に見ると、対米従属の先進諸国は、中国や金相場を抑止して米覇権やドルを守りたいが、長期的に見ると、いずれ米覇権やドルの崩壊が不可避なので、米覇権とドルが崩壊した後のことを考えて、金地金をできるだけ多く保有し続けるのが良い(ドルが崩壊したら金地金が主要な富の備蓄手段になる)。IMFは米覇権下・先進国支配下の国際機関と思う人がいるかもしれないが、それは違う。08年のリーマン危機後、世界経済の政策決定の最高機関がG7からG20に移行するのと同時に、IMFもG20の傘下に移った。その後G20は機能していないが、IMFの上部機関である国連における中国の影響力は格段に大きくなった(半面、米国は、国連やIMFを大事にせず、いじめ続けている)。国連もIMFも、もはや米覇権体制下の組織でなく、中国など多極側の組織になっている。先進諸国だけを厳格な都市閉鎖で自滅させた国連組織のWHOが好例だ。 (中国を世界経済の主導役に擁立したIMF) (ブレトンウッズ、一帯一路、金本位制

米国はインフレが悪化し続け、米連銀はQEを縮小できずインフレ抑止策をとれない(QEを縮小したらバブル崩壊する。そもそも今回のインフレの原因は通貨の過剰発行でない)。ドルと米覇権は行き詰まっており、いずれ破綻する。米覇権が破綻したら、IMFは、先進諸国でなく中国の言うことを聞くようになる。先進諸国が金地金をIMFに譲渡すると、その地金は中国側・多極側の所有物になる。マクロンの提案は、長期的に先進諸国を弱体化する。ドルのバブルがパンパンに膨らんでいる今の時期に金地金を手放すのは馬鹿である。先進諸国の担当者はそれを知っており、金地金を手放したがらないはずだ(とはいえ過去には英国やカナダの政府が、最安値で金地金を手放す間抜けをやっている。担当者の叡智は、諜報界の多極側に騙された政治家の勘違いで上書きされる)。 (Canada sells off most of its gold reserves) (Two decades ago, Gordon Brown sold half of Britain’s gold reserves – was it a bad deal for our economy?

ドルはいずれ崩壊し、金地金はいずれ高騰する。しかし、そう考えている間にも金地金は暴落している。道理で考えたことと正反対のことが起き続けている。昨年、コロナの都市閉鎖で経済が壊滅していったまさにその時期に、株価が高騰・反騰して最高値を更新した。インフレになると長期金利が上がるはずなのに超低金利になっている。いずれも米連銀など中銀群がQEの大造幣で資金を注入しているからだ。この過剰なQE自体、とっくに破綻していても不思議でないが、あらゆる資金の流出先をQE資金でふさぐことによって延命している。しかしバブルが大膨張したドルの皮は脆弱化しており、しだいに破裂しやすくなっていく。 (ニセ現実だらけになった世界) (インフレで金利上昇してQEバブル崩壊へ

米連銀を行き詰まらせているインフレは悪化しつつ今後も続く。コンテナ船の運賃が世界的に高騰し続けている。コンテナ船の市場は中国が支配しており、中国が船賃を吊り上げて米国(米欧)のインフレを悪化させてドル崩壊につなげようとしている可能性がある。米国では、流通網の混乱やシステムのハッキング攻撃などで、食肉や木材も高騰しているが、これらは納得できる経済的説明が出ていないので、米諜報界の多極派の仕業かもしれない。中共と、諜報界の多極派が組んで、米連銀を追い詰めてドルを破綻させようとしている。諜報界の多極派・隠れ多極主義者たちが黒幕となり、中国に入れ知恵して台頭させ、米国や同盟諸国に自滅策をとらせて多極化を進めている。これはニクソン訪中あたりからの長い流れだ。最近、中国自身もインフレや金融バブル崩壊に悩まされているが、中共は自ら国内金融のバブルを潰し続けており、それは大したことでない。 (強まるインフレ、行き詰まるQE) (Supply-Chain Chaos: Container Rates Skyrocket Even Higher... And There’s No End In Sight

金相場に関しては、6月28日から銀行界におけるバーゼル3の金先物規制強化が始まる(最初は欧州大陸の銀行だけだが)。あと1週間なのに、金相場にバーゼル3規制の要素が織り込まれて上昇する感じが全くない。金相場に1オンス2千ドルを越えてほしくないドル側(中銀群)が、QE資金による先物売りで簡単に暴落を引き起こしている。もっとぎりぎりの時期にいきなり反騰していくのか?。今の暴落は、巨大な反騰の前の動きなのか?。私は今のところ半信半疑だ。1週間前なのに、何のシグナルもないからだ。この件で前に騒いだ金の虫たちのブログ群も沈黙している。欧州や英国で金先物が規制されても、米国ではやれる。銀行でなくヘッジファンドなどが起債して資金を集めて先物を売れる。

だが同時に、今のような金融大崩壊の直前の時期は、ぎりぎりまで平然とバブル膨張が永久に続きそうな感じが醸成され続けた後、急に大きく崩壊する流れになる。それが、6月末をはさんでその後までの金相場や株式相場で起きる可能性はある(株価が6月中に暴落するという説もある)。何も起きないかもしれないし、すごいことが起きるかもしれない。起きるとしたら突然に起きる。間もなく起きなくても年末に起きるかもしれない。これから何年かそういう時期が続く。こうしたバブル崩壊の有無に関係なく、これから数か月かけて米国などのインフレがさらに悪化し、隠し切れなくなって顕在化していく。インフレは米国の多極側と中共が起こしている謀略であり、QEとドルが崩壊するまで延々と続く。大異変が、その前に起きるか、その後に起きるかという時期的な違いだ。 (金相場引き下げ策の自滅的な終わり) (Congressman Presses Secretary Yellen for Disclosure of U.S. Gold Activities

これは経済の需給の話でなく、覇権をめぐる政治の暗闘だ。マスコミで経済分析をしている権威ある人々も、暗闘に参加する諜報エージェントの政治屋・詐欺師である。911やITバブル崩壊あたりから今までの20年の暗闘では、米覇権側が延命しつつもどんどん弱くなり、多極側が着実に強くなっている。米国側の構造(QEや2大政党制やNATOや中東支配)は自滅させられ崩壊しかかっているが、対照的に、中国側の構造(習近平独裁や中露結束や一帯一路)は強化され揺るがなくなっている。バイデン政権になって米軍内で兵士たちの士気を低下させる覚醒運動やCRT(白人の自己肯定感を下げたりする民族対立扇動プロパガンダ)がさかんに行われ、米軍を自滅させている。中露が結束しているので、世界大戦になったら米国が負ける。世界大戦にはならない。米覇権の崩壊と多極化は今後も進む。逆流する要素がない。この現状が続く限り、QE破綻、ドル崩壊、金地金の反騰は、いずれ必ず起きる。未定なのは、それがいつ起きるかだ。 (‘Hundreds’ of Whistleblowers Say Military Forcing ‘Anti-American Indoctrination’ on Them: Sen. Cotton) (Tom Cotton: Military Whistleblowers Report Leadership Forcing ‘Anti-American Indoctrination’ On Them) (覚醒運動を過激化し米国を壊す諜報界

ビットコインがあるじゃないか、金地金は時代遅れだ、という人々がいる。中国は独裁だぞ、民主主義の方が強いはずだ、という人もいる。新聞や人気ブログにはそう書いてある。しかしそれらは(笑)である。中国はビットコインのマイニングを禁止した。中共は以前から、仮想通貨をまがい物だと言っている。今回それが改めて報じられた途端に、ビットコインが30%減価した。中共は金地金を好み、仮想通貨を嫌っている。ドル側は、QE資金を仮想通貨に注入して膨張させ、金地金と戦う当て馬として仮想通貨を応援してきた。覇権暗闘の構図の中で、金地金は多極側、仮想通貨は米覇権側だ。以前は、仮想通貨が政府当局の規制を拒否する反ドル・反覇権の存在だったが、一昨年あたりからの急騰の資金がドル側から入ったことで、仮想通貨はドルの傀儡にさせられた。国際政治でたとえると、ビットコインなど仮想通貨は、ウクライナ右派やチェチェン人やクルド人みたいな存在だ。独立や自立の幻影を追い続けるが実は傀儡にされ、欧米で賛美されつつも成就させてもらえず使い捨てにされる。 (仮想通貨を暴落させる中国) (Price Discovery Is Alive And Well In Crypto) (China Continues Assault On Cryptocurrency

今後、最終的に中共など多極側が強くなると、仮想通貨は抑止されたままになる。仮想通貨を持っている人は、それまでの暗闘期間中に、再度の乱高下で急騰する場面があったら売ってしまうのが良いかも。その時に金地金に替えるとか(思いつきだけど)。独裁より民主主義の方が強いかもしれないが、米英の2大政党制は2党独裁であり、しかも米国は選挙不正も完全犯罪でまかり通る。民主主義と言えない。同盟諸国の重要政策は米国が決めており、これも民主主義でなく傀儡国家である。民主主義はフランス革命以来、国民をその気にさせて喜んで兵役や納税をさせるためのプロパガンダである。中国は、国内が多様すぎるし、漢民族が政治権力をカネにする技能に長けすぎているので民主主義をやれないだけだ。 (米国側が自滅する米中分離) (資本主義の歴史を再考する

コロナ危機は世界的にそろそろ終わりのようだ。米欧の上層部では最近、コロナの永遠化を画策する人々がしだいに弱くなっている(秋以降に「やっぱりワクチンはあまり長く効きません」という話になり、人為的に陽性者を再び増やして危機を再演させるつもりかもしれないが)。G7では、コロナ対策と同じぐらいの力点・強調が、地球温暖化対策に割かれた。コロナが終わったら、温暖化対策の排出削減など各種の経済自滅策が先進諸国に強要される。中国やインドなど非米側・多極側の諸国は、温暖化対策をやるふりだけして実行しない。コロナでも温暖化でも、米国側の先進諸国だけが自滅的な経済政策を延々とやらされ、負債が米連銀など米欧日の中銀群に集積されていく。 (金融バブルを無限に拡大して試す

地球温暖化人為説は、コンピューターの歪曲したシミュレーションを根拠とする非現実的な詐欺である。地球の気候は変動し続けているが、それによって大変な事態になることはない。コロナウイルスは存在するが、ほとんどの人は自然免疫が機能するので発症しない、それなのに大騒ぎさせられてきたのと同じ構図だ。コロナも温暖化も、先進国を自滅させ、中国など非米側に漁夫の利を与え、米覇権が低下して多極化につながる。G7や、それらを喧伝するマスコミ自体もお門違いな存在だ。 (Lagarde, Powell Clash Over Role Of Central Banks In Fighting Climate Change



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