中露イランと対決させられるイスラエル2020年7月27日 田中 宇米国とイスラエルがひそかにイランを軍事攻撃して戦争を起こそうとしている。イランでは、6月25日にテヘラン郊外Khojirのミサイル製造工場で爆発が起こり、6月30日にはテヘランの病院で爆発が起き、7月2日にはナタンズのウラン濃縮工場で爆発が起きた。7月15日にはブシェール港の造船所で爆発があり7隻が燃えた。いずれも爆発の原因が未発表だが、イスラエル当局は、これらの事件の一部に関与したことを示唆しており、米国とイスラエルが共謀してイランを攻撃した可能性が高い。もし11月の米大統領選挙でトランプが負け、左派が強くなった民主党のバイデンが勝ったら今よりイスラエルに厳しい政策をとりそうなので、11月より前にトランプを巻き込んでイランを潰す戦争につなげる必要があり、イスラエルがイランを攻撃したという推測記事が流布している。イランは自制して反撃しないので戦争になっていない。 (Experts blame Israel for the recent explosions. Why won’t Iran?) (Israel keeps blowing up military targets in Iran, hoping to force a confrontation before Trump can be voted out in November) (Burning Ships in Iran Add to String of Dozens of Explosions and Fires) 米国の上層部では、中東撤兵・覇権放棄を進めたいトランプと、覇権や派兵を維持したい軍産複合体が暗闘し、トランプが勝っている。イスラエルは表向き親トランプだが、米国に中東から撤兵してほしくないので裏で軍産と組み、イランを攻撃し、米イラン戦争を起こそうとしている。トランプは、軍産とイスラエルの策謀を把握しているが放置している。なぜなら、米イスラエルがイランを攻撃して事態を戦争に近づけるほど、中東で新たな戦争を起こしたくない中国やロシアがイランにテコ入れし、イランが中露が結束して米国の覇権を抑止する多極化が進むかたちで戦争が阻止され、トランプが望む米国の覇権放棄が具現化するからだ。 (Israel Hoping to Start a War With Iran Before US Elections) (Long-Planned and Bigger Than Thought: Strike on Iran’s Nuclear Program) 軍産とイスラエルは、中東の覇権を維持したいだけであり、自滅につながる中露との戦争はごめんだ。米イスラエルがイランを戦争で潰すなら、イランが今より孤立していた2013年ごろまでにやるべきだった。その後は中国が一帯一路を開始してイランとの結束を強め、シリア内戦でロシアとイランも結束した。最近では、中国がイランに兵器の供給や油田開発、インフラ整備などを行い、イランが中国に長期で石油ガスを供給する25年協定が締結された。イランはロシアとも長期の協定を結んでいる。イランはすでに中露を強い後ろ盾として持っており、米イスラエルはイランと戦争できない。米国は中露と決して戦争しない。 (China-Iran "Strategic Accord" To Give Tehran $400 Billion Boost Over Next 25 Years) (中国は台頭するか潰れるか) (Iran-China deal to ditch dollar, bypass US sanctions: Leader’s advisor) 軍産とイスラエルは、イランを攻撃することにより、中露イランの結束を強める自滅策をやってしまっている。おそらくイスラエルは事前にこの自滅性を把握していたが、軍産から圧力をかけられたらやらざるを得ない。しかも軍産はトランプとの暗闘に負け、トランプ側に入り込まれている。トランプ側が「反トランプ」の軍産を演じつつ、イスラエルに「トランプを戦争に巻き込むためにイランを攻撃してくれ」と加圧したのでないか。米国はイスラエルにイランを攻撃させる一方で、イラン周辺のアフガニスタンやイラクから米軍を撤退させる方向だ。イスラエルは米国の後ろ盾なしに、中露から支援されているイランと対峙させられていく。イスラエルは米国を牛耳っているように見えて、実は米国に牛耳られ、中露イランとの戦争の最前線に不本意に押し出されている。 (Is Israel At War With Iran?) (The Undeclared War Against Iran) イスラエル自身は、できるだけ中露と対立したくない。中国はイスラエルと、ハイテクやインフラ整備などの経済分野で協力を深めている。ロシアはシリアなどイスラエルの安全にとって重要な地域に政治力を持っている。しかしトランプ政権は、イスラエルに対して「中国との経済関係を切れ。米国と一緒に中国を敵視しよう」と要求してくる。米国の要求なので断れない。だが中国とは仲良くしたい。イスラエルは、こっそり中国と付き合い続けている。日本や英国、豪州と同じ状況だ。世界中、もはや中国と本気で対立したい国などない。「いつか中国は滅びる」と念仏を唱えることしかできない日本人が現状を象徴している。 (UK ban on Huawei is national self-harm. China’s riposte could devastate the ailing British economy) (コロナ、米中対立、陸上イージス中止の関係) そんな中、ポンペオらトランプ政権は全力で中国に「冷戦」を宣戦布告している。領事館に対する相互制裁、中国の銀行に米ドルを使わせなくするSWIFT追放案、同盟諸国に対するファーウェイ使用禁止圧力、中共の香港抑制への懲罰と称して香港の特恵を剥奪する愚策、南シナ海が中国の領海でないと米国が明確に言い出したこと(意外にもこれまで明確に言っていなかった)など、米国は矢継ぎ早に中国敵視策を打ち出している。尻込みする世界を横目に、ついてこれない同盟国は捨てて米国だけで中国との新冷戦に勝つんだと宣言し、一見単独覇権主義だがよく見ると孤立主義を突っ走っている。トランプは、世界がついてこれないのを承知で、覇権放棄の一環として中国敵視を加速している。 (Trump Has Damaged the U.S.-Japan-South Korea Alliance—And China Loves It) (Possibility Of Washington Cutting Off China's Access To US Dollar System) ポンペオ国務長官は最近の演説で、中国に対し、イランやシリアやベネズエラなどの反米諸国に対して課しているのと同じ制裁政策を適用するとも表明した。これは中国に、イランなど反米諸国との結束を強めさせる効果をもたらす。中国は従来、米国から敵視されたくないので、米国が敵視する他の諸国を大っぴらに支持しないようにしてきた。だが、最近の米国の無茶苦茶な中国敵視は、中国が自制しても無意味な状況を生み出している。中国は自制をやめ、反米諸国と結託して米国の覇権を押し倒す方に動いている。トランプは、イランを中国の傘下に押し込む一方で、イスラエルをけしかけてイランと戦争させようとしている。トランプはイスラエルを困らせ、弱体化させている。 (Pompeo To Essentially Call For 'A People's Uprising' In Communist China) (Pompeo: US Will No Longer Tolerate China) 中東では最近、イスラエルの北隣にあるレバノンも中国との関係を深めている。レバノンは東隣のシリア内戦の影響を受け、イランと親しいシーア派のヒズボラが政権をとっている。イスラエルとヒズボラは激しく敵対している。ヒズボラを嫌う米国やサウジアラビアはレバノンを経済制裁し、仕方なくレバノンは中国への経済依存を強めた。イランからイラク、シリア、レバノンにかけての中東の三日月地帯は、イラン中国ロシアの覇権下に入っている。イランは地上軍(民兵団)、中国は経済、ロシアは空軍や停戦交渉を担当している。イスラエルは、この三日月地帯に隣接している。米国が退潮する中、イスラエルは中露に相談し、イランやヒズボラとの敵対を低下させていくしかない。それが明白なのに、トランプはイスラエルに「イランと戦争しろ」と言ってくる。無理だ。 (Lebanon turns east to China for help out of financial crisis) (Iran Aims To Build Up Syria And Iraq’s Air Defenses To Thwart Israeli Airstrikes) トランプ政権は最近、国際刑事裁判所(ICC)がアフガニスタンでの米軍の行為や、イスラエルのパレスチナ支配を「戦争犯罪」として捜査していることを非難し、ICCからの離脱も辞さないと言っている(この件も、イスラエルがトランプに圧力をかけてICCを非難させていることになっているが、実際はたぶん逆だ)。米国がICCを非難して捜査を妨害するほど、ICCは米国と対立し、捜査立件の任務を遂行するために、国連やG20など国際機関の全体で力を増しつつある中国に頼るようになる。 (Israeli impunity is coming to an end) (International Racketeering: ‘Godfather’ Donald’s Mafia War On The ICC) (Pompeo: U.S. Could Make Moves Against International Criminal Court In “Coming Days”) イランやシリア、ベネズエラなど反米諸国は、米国から犯罪的な攻撃や政権転覆の策動を受けている。今回イスラエルはイランやシリアを攻撃し続けているし、1月には米国がイランのスレイマニ司令官を殺害した。これらの事件はすべてICCに持ち込んで米イスラエルの高官たちを戦争犯罪者として断罪できる。米イスラエルは日独並みの「極悪」な戦犯に仕立てられる。 (UN Investigation Finds US Soleimani Killing "Unlawful" As There Was "No Evidence" Of Imminent Threat) (America Has Created a “China-Iran Collaboration” Monster) ICCが中国を頼り、中国がイランなど反米諸国の肩を持つほど、ICCが米イスラエルを有罪にする日が近づく。米イスラエルはICCの判決を無視するだろうが、そうすると国際社会で中国の権威が高まり、米イスラエルの権威が下がる。覇権が転換する。米イスラエルが戦後のドイツを延々と苦しめた善悪歪曲・ウソまみれの攻撃手法が、今まさに米イスラエルに向けられている。隠れ多極主義のアイデアはすごい。戦後世界の最大のウソが自滅させられていく。痛快だ。クソまじめで間抜けな知識人=軽信者たちには理解不能だろうが。 (ホロコーストをめぐる戦い) (史上最も成功したポスト真実策は日独戦犯) もし11月の選挙でバイデンが勝っても、米民主党は左傾化しており、世界支配を嫌がりイスラエルを敵視する傾向だ。どっちが勝っても米国は世界から退潮していく。イスラエルはますます米国に頼れなくなる。米国を牛耳って中東を支配してきた従来の国策をあきらめ、中露と協調し、イランなどイスラム世界と和解させてもらうしかない。それが必要なことはずっと前からわかっていた。イスラエルの連立政権内で国防相や外相を歴任してきたアビグドル・リーベルマン(ソ連出身)らはイスラエルの国家存続のため、何年も前からロシアに接近してきた。だが、リーベルマンは結局政権をとれず、イスラエルの権力はいまだに米国と一緒に自滅しようとする入植者の過激派が握っている感じだ。 (イスラエルがロシアに頼る?) (ロシアの中東覇権を好むイスラエル) とはいえ、ネタニヤフ首相は7月1日の西岸併合を見送った。これは、イスラエルが「米国と一緒に自滅」の道を離脱しようとしていることなのか??。わからない。しかし、イスラエルがこのまま米国とくっついていると、トランプの策略に乗せられて米国の後ろ盾なしに中露イランと対決させられ、世界の嫌われ者にされていくばかりだ。核保有国(10発増やして90発保有)であるイスラエルは、追い詰められて滅ぼされそうになると核戦争を起こす。それは誰も望んでいない。それに中国は、自国の金儲けのためにユダヤ人の知恵を借りたいはずだ。イスラエルの滅亡は避けられる、というのが私の読みだ。 (Israeli Leaders Say West Bank Annexation Must Wait Due To COVID-19) (Israel increases secretive nuclear stockpile to 90 warheads: Report)
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