他の記事を読む

長期化するウイルス危機

2020年3月6日   田中 宇

新型コロナウイルスの感染拡大が長期化する可能性が高まっている。2月の中ごろには、3月に感染拡大が終息するといった予測が日本や中国で出ていたが、今やその可能性はとても低い。中国は発症者(中国では発症していない人を感染者に含めていないので、中国の「感染者」の人数は実のところ「発症者」だ)の日々の増加がかなり少なくなっており、これを見て「事態は終息に向かっている。中国の3月終息予測は正しい」という見方もあるが、それは間違いだ。 (悲観論が正しい武漢ウイルス危機の今後

中国政府は、都市や地域、村落、集合住宅などを強力に封鎖して自国民の行動を極限まで制限する策をとることにより、感染の拡大を低くしてきた。これ自体は、世界へのウイルス蔓延を防いだ良策(ウイルスの発生源としての責任をとった策)だったが、中国が今後国民の行動制限を解いていくと再び感染の拡大がひどくなる。未発症・無発症なウイルス感染者が多数いるはずで、そこから感染が再拡大する。これは不可避だ。感染をできるだけ拡大せぬよう、時間をかけて少しずつ制限を解いていくしかないが、それは長い時間がかかる。閉鎖する時より、閉鎖を解いて再開する時の方が大変だ。日本政府が2月27日に全国の学校の休校を決めたとき「休校する時より、感染再拡大の恐れなど、再開する時の方が大変だ」と言われたのと同じだ。 (ウイルス戦争で4億人を封鎖する中国

制限をかなり解いても感染が拡大しなくなった時が「終息」であるが、それはまだかなり先だ。しかも、中共が国内の行動制限を解くと、海外からの人の流入も再開され、流入する外国人や帰国者の中には未発症な感染者が一定の割合で含まれており、そこからも感染が再拡大する。短時間で結果がわかる検査キットが出現しない限り、入国時に見分けることは不可能だ。中国だけ終息しても、世界が終息していなければ意味がない。

中国以外の世界は、まだまだこれから感染が拡大していく。3月中に終息の見通しが見えてくることはない。4月末でも無理だろう。日本でも、感染症の専門家たちが「3月中に終息する可能性は低い」とか「新型コロナ対策は、年単位で考えなければいけない」といった見方を表明し始めている。いちど感染したら体内に「生涯免疫(死ぬまで再感染しない免疫)」ができるものなのかどうか、現段階でまだわかっていないので、(ほとんどの人は無発症か軽症で)全人類が感染したらそれがこのウイルス危機の終わりなのかどうかもわからない。感染したら(ほとんどの場合)生涯免疫ができるのだとしても、全人類が感染するまであと何か月、何年かかるのか??、という話になる。 (ウイルスとの戦いは年単位か) (3月末の終息は困難、感染さらに拡大の恐れ

2回感染した人がいたと中国で発表されているが、どんな人が2回感染するのかわかってない(2回感染の割合は低いようだが)。暖かくなったら下火になるのかどうかもわからない(今が夏の南半球や熱帯諸国でも感染拡大している)。つまり、終息の時期は専門家でもまったくわからない。時期だけでなく、終息していく道筋(全人類の感染なのか、全人類でなく人類の何割かの感染で終わるのか、ワクチンの完成で解決するのか)すらわかってない。人類は、とんでもない事態に直面している。今夏の東京五輪の前にウイルス危機が終わることはない。「年内」もたぶん無理だ。 (How The Pandemic Crisis Will Probably Develop Over The Next Year

3月6日、日本政府が中国と韓国からの入国者を2週間隔離する政策を打ち出し、韓国も対抗措置を行った。この入国制限も、事態が長引くと日本政府が予測していることを示している。間もなく終息するなら、今から入国制限をする必要などない。安倍政権は、中韓からの入国制限を国内の専門家会議に諮らずに決めた。ウイルスの脅威が増したから入国制限したのでない。脅威増加の対策だったら専門家会議に諮るはずだ。これはおそらく日本の一存で決めたことでなく、日中韓で秘密裏に話し合って決めた共同体としての決定だ。韓国の怒りは演技だ。中国は沈黙している。

今後、ウイルス危機が何か月か続くと、世界経済の成長率はマイナス20%とか、そういった数字になる。株価は今後もどんどん下がっていく。今のところ中央銀行群がQE策で造幣した資金で株と債券を買い支えているが、いずれ力尽きる。ウイルス危機が長引くほど、世界的な金融大崩壊の可能性が高くなる。債券もジャンク債から崩壊(金利高騰)していく。株と債券の巨大なバブルが破裂し、米国の金融覇権が崩壊する。こちらも、すごいことになるのが確定的だが、最終的にどんな事態が立ち現れるのか、予測が全く出ていない。経済専門家は、そもそもきたるべきバブルの大崩壊を予測していない。医療分野と異なり、権威ある経済専門家は世界的に、ほぼ全員が「詐欺師」か「小役人」である。債券金融システム自体が米英発案の詐欺だ。 (ウイルスの次は金融崩壊) (Coronavirus raises the risk of real trouble in corporate bonds

今後の展開は全く不透明だが、ウイルス危機がこれから何年も続き、巨大な金融崩壊が発生するという前提ですべてのことを考えていった方が良い事態になっている。すべてが終わった後、世界がどんな風になっているか想像がつかない。幸いなことに今回のウイルスは、ほとんどの人(とくに若者)にとって発症時の重篤性が低いので、すべてが終わった後でも人類の大半が生きている。事態はおそらく覇権体制の転換につながり、これは本来(歴史的先例)なら世界大戦(核戦争)によって引き起こされる転換だが、ウイルス危機は核戦争よりはるかにましだ。75年前の世界大戦では若者たちがたくさん死んだが、今回は若者たちが生き残るので、危機終息・転換後の世界経済の発展がやりやすい。 (不確定がひどくなる世界

ウイルス危機が今後ずっと続くとなると、対ウイルス政策への見方・評価のしかたも変わってくる。今は、中国での強硬な封鎖政策によって新たな発症者の増加が減っている。対照的に、日本では封鎖が全く行われず、人々の自主的な行動規制に任されているが、日本政府はできるだけウイルス検査をしないことで感染者数の統計をごまかしており、本当の発症者は統計の何十倍もいると思われる。検査を積極的にやっている韓国では感染者が約6千人で、人口比で考えると日本で1万人が感染していても不思議でないが、日本の統計上は360人しかいない(韓国も全国民を検査したわけでないので、日本の実際の感染者は10万人以上かも。それでも国民の0・1%だが。多くは無症状)。

中国の強硬封鎖策と、日本の放置・隠蔽策が対照的だ。中国も無発症の感染者を統計に入れてないし、数字自体のごまかしもありそうなので隠蔽しているが、国民に大きな不便をかけつつ必死で封鎖を続けているのは確かだ。きたるべき多極型世界における日本の新たな「おかみ」である「中共さま」の気の早い提灯持ちたち(中国在住の日本狗とか)が「中国に比べて日本の政策は劣っている。日本はダメだ」と上から目線で言っている。

しかし、強硬封鎖をずっと続けるわけにはいかない。長期化するほどマイナス面が大きくなる。封鎖を解いていく時に感染が急拡大しかねない。家庭内のウイルス感染は止められないし、運動不足による健康被害も増す。国民経済的にも大変なマイナスだ。中共が(とくに湖北省の)強硬封鎖をしなかったら、世界のウイルス被害は何百倍もひどいものになっていた。その点で強硬封鎖は良策だった。中共中央としては、ウイルス危機を利用して国民の行動を監視する体制を一気に構築できる「独裁強化の利点」もあった。しかし、中国から離れている日本で同じことをやる必要はないし、やれない。中共は町内会まで下部組織があるので強硬封鎖をやれたが、日本にはそんな強い組織がないし不必要だ。

(少し前まで「米国の政策は良いが日本はダメだ」と言う「米国通」の上から目線発言もあったが、今では米国も検査をやらせずに感染者数を隠蔽しているし、隠蔽を乗り越えて感染者が急増して日本よりダメな事態になっている。日本にとって「先代のおかみ」だった米国の覇権衰退を象徴している) (The Official Coronavirus Numbers Are Wrong, and Everyone Knows It

ウイルス危機が今後何年も続くなら、強硬策はできるだけやらない方が良い。ウイルスの特性がわからないままなので答えが確定しない。ならは、国民生活をできるだけ残した方が良い。感染者数のごまかしは、国民のパニックを悪化させない精神衛生上の利点もある。日本はこれから発症者が急増して隠蔽が破綻し、隠蔽策を後悔することになるのか??。わからない。逆にもし今後も事態が急に悪化せず隠蔽が粛々と続くなら、それは「次善の策」だったといえる。隠蔽策の犠牲者として、本当は新型ウイルスで死んだのに死因をごまかされる人が増えるだろうが、隠蔽しなかった場合に病院が満杯になって入院できず死ぬ人が増えるのと比べてどっちが悪いのかわからない。

若者たちは発症しないので従来通り人混みに出ている人も多い。無発症だが感染している若者が、無自覚なまま高齢者に感染させる「犯罪行為」「殺人」をやっていると批判されている。若者から見れば、自分たちが払った年金や健康保険の掛け金を「浪費」してしまう人々がウイルスの犠牲になって減っていく。(年金の基金は、投資先の金融商品がこれからのバブルの大崩壊で破綻していくので、結局のところ若者たちが年金を受け取れないことには変わりがないのだが) 今回のウイルス危機は、核戦争の代わりに起きている「隠然世界大戦」だ。今は平時でない。核戦争ほどでないが、死ぬ人が急増する事態だ。



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ