南シナ海の米中対決の行方2015年6月1日 田中 宇昨年来、中国が、領有権を主張する南シナ海(南沙群島)の数カ所の珊瑚礁で、浅瀬の海面を埋め立て、軍用の滑走路や管制塔、埠頭、宿舎、灯台などの施設を急いで作っている。これらの珊瑚礁は、フィリピンやベトナムなども領有権を主張している。中国とASEANは2002年、南シナ海の珊瑚礁や岩礁の現状を勝手に変更することを禁じた行動規範の協約を締結している。中国の行為は協約違反であり、フィリピンやベトナムが中国を非難し、それに便乗して米国が中国との敵対を強め、日本が軍事拡大(対米従属強化)の材料としてこの紛争を使っている。 (US Won't Buy China's Pitch on South China Sea Land Reclamation) 南沙群島、西沙群島など、南シナ海の島や岩礁類は、日本が植民地を拡大した1930年代に占領し、当時日本の一部だった台湾の傘下の行政区になった。戦後、台湾が中国(中華民国)に返還されたため、中華民国と中華人民共和国が南沙群島などに対する領有権を主張した。同時にフィリピンやベトナムなども、一部の島や岩礁への領有権を主張し、領土紛争となった。中国は、ベトナム戦争後ベトナムから一部の島々を奪い、冷戦後に米軍がフィリピンから撤退した後にフィリピンから一部の島々を奪うといった、米国の撤退に便乗する島の強奪を続けたが、その動きは緩慢だった。 (Territorial disputes in the South China Sea - Wikipedia) (南シナ海で中国敵視を煽る米国) 中国が一転して南シナ海に対する実効支配の動きを強めたのは、2011年に米オバマ政権が、フィリピンやベトナムを支持して南シナ海の紛争に介入することを「アジア重視策」という名の中国包囲網策として始めてからだ。08年のリーマン危機後、米国の強さの大黒柱だった債券金融システムの凍結状態が続き、米国の覇権衰退がしだいに顕著になる中で、13年からの習近平政権は、天安門事件(1989年)後にトウ小平が定めた「米国の挑発に乗らず、国際的に慎重に行動する」という基本戦略(24字箴言)から静かに離脱し、南シナ海問題で米国から挑発されると、沈黙せず、強い態度で反応するようになった。 (中国軍を怒らせる米国の戦略) (多極化の進展と中国) 中国は13年12月、初めて建造した空母「遼寧」を南シナ海に差し向け、軍事演習を行った。これを知った米軍が、挑発行為として、遼寧の近くに巡洋艦(USS Cowpens)を差し向け、演習の邪魔なので立ち退けと迫った中国軍に対し、ここは公海上なので航行の自由があると米軍が拒否し、軍艦どうしの洋上の小競り合いが起きている。この事件は、好戦的な米国と、売られた喧嘩を買うようになった中国とが対決する南シナ海紛争の新たな構図を象徴するものとなった。 (How the US Lost the South China Sea Standoff) 14年4月、オバマ大統領が日本などアジア諸国を歴訪し、マレーシアやフィリピンに対し、米国が南シナ海で中国の強硬策に毅然とした態度で臨むことを約束すると、その後中国はベトナム沖の南シナ海の紛争海域に海底油田掘削設備を設置し、米国がベトナムのために中国を非難しても無視して、米国が口頭での非難以上の対中制裁をやれないこと、米国の中国包囲網が張り子の虎であることを世界に暴露する策略を打った。 (U.S. Gambit Risks Conflict With China) フィリピンは、財政難で軍事力が弱く、現場における紛争で中国軍に負け、南シナ海の6つの珊瑚礁を中国に奪われている。米国はフィリピンを支持しているが、大した軍事支援をしていない。米国はむしろフィリピンが軍事以外の方法で南シナ海紛争を戦うことを望み、フィリピンは13年1月、南シナ海での中国の領有権の主張は無効であるとして、国連海洋法条約に基づく国連の仲裁裁判所で中国を提訴した。 (Philippines v. China - Wikipedia) フィリピンの言い分は、南沙群島で中国が軍を置いて実効支配している数カ所の珊瑚礁が、一般住民が生活する島でないので海洋法に基づく領有権を主張できず、南シナ海は中国大陸から続く大陸棚であるという中国の主張も無効で、南沙群島は地理的に近いフィリピンのものだと言っている。中国は、この法廷への参加を拒否している。その一方で中国は、フィリピンの提訴後、この裁判で俎上にのぼった数カ所の珊瑚礁の海水面を埋め立て、人が住める島に改造する動きを開始した。珊瑚礁は領土として認められないが、埋め立てて島にして国民を住まわせれば領土として認められるはず、というのが中国の狙いだ。 (China's island-building spree is about more than just military might) 中国は14年2月ごろから、南沙群島の数カ所の珊瑚礁での埋め立て工事を本格化した。フィリピン提訴の国際法廷は2016年に裁定を出す見通しで、中国はそれまでに珊瑚礁を埋め立て、滑走路や埠頭、居住区などを作り、島としての体裁を整えようと急いでいる。海洋法条約は、埋め立てで作られた島を領土にすることを認めていないが、前例のない国際裁判なので、どんな裁定が出るかまだわからない。今年7月に初めての審問(hearing)が行われる予定だ。海洋法条約の規定で、中国が欠席したままなら、どんな裁定が出ても中国は拘束されず、フィリピンだけが裁定に拘束される。 (China advances with Johnson South Reef construction) (South China Sea: Turning Reefs Into Artificial Islands? - Analysis) (Int. Law could Kill China's Claims in the South China Sea) 中国は埋め立てを隠密に開始したので、14年初めの開始から数カ月、国際的な注目を集めなかった。14年秋にBBCがフィリピン側から現場近くに船を入れて報道し、中国の埋め立て行為が国際問題化した。南シナ海では、中国より先にベトナムが珊瑚礁を埋め立てて島を作っているが、中国の場合、7つの珊瑚礁(Fiery Cross Reef, Hughes Reef, Mischief Reef, Subi Reef, Cuarteron Reef, Gaven Reef, Johnson South Reef)で同時に埋め立てを行っており、規模がベトナムよりはるかに広大だ。 (China's Island Factory) (Images show Vietnam's South China Sea land reclamation) (Why Is China Building Islands in the South China Sea?) 中国が埋め立てた島には、軍隊や兵器も置かれている。3つの島では滑走路も作られ、南シナ海での中国の不沈空母として機能するようになっている。米軍は近年、太平洋に海軍力を結集しており、中国軍は劣勢だ。だが、埋め立てた島が中国の新たな軍事力になり、従来は米軍が大してリスクを感じずに南シナ海に入ってこれたのが、今後しだいに米軍が軽々に立ち入れる海域でなくなる。中国は南シナ海で、米国に対する抑止力を強化している。そのきっかけが、米国自身の中国包囲網策だった点が重要だ。 (South China Sea reclamation a 'test of will' for Beijing: commentary) (中国の台頭を誘発する包囲網) (China has artillery vehicles on artificial island in South China Sea, US said) フィリピンは、自国領にしている南沙群島のパグアサ島(Thitu)に、雇用や教育を保障しつつ百人あまりの住民を住まわせ、国際法上の「島」としての地位を確保している。同様に中国は、埋め立てた島に住民を住まわせ「島」の体裁を整えていくかもしれない。中国は、埋め立てた島を正式な「国土」として主張し、その上空に防空識別圏を設定することを目論んでいるとも推測されている。 (Thitu Island - Wikipedia) (China raises prospect of South China Sea air defence zone) 中国は13年11月、日本近傍の尖閣諸島を含む東シナ海を防空識別圏に設定した。米国は反発し、当初挑発行為として米軍機を中国の識別圏内に飛ばした。だがその後、対中国路線を失いたくない米航空業界に圧力をかけられると、オバマ政権は腰くだけとなり、一転して中国の識別圏を容認し、その後は米軍機が中国の識別圏に入る挑発行為も行われていない。 (頼れなくなる米国との同盟) (米国にはしごを外されそうな日本) 中国が南シナ海を防空識別圏に設定すると、米軍機が勝手に南シナ海の空域に入れなくなる。米軍はすでに、中国が南シナ海に識別圏を設定したら挑発行為を行うべく、偵察機などの配備を開始している。しかし東シナ海での識別圏設定時の米国の腰くだけ的な対応から類推すると、米国がどこまで本気で中国と軍事対決するのか疑問が湧く。 (Calls to Punish China Grow) (Pentagon Sends Drone Patrol to Challenge China) 中国が、東シナ海と南シナ海に防空識別圏を設定して米国がそれを黙認し、台湾海峡や黄海にも米軍艦が入ってこない状況が続くと、それは事実上、中国が、九州沖縄沖から台湾の東側を通って南シナ海に至る「第1列島線」の西側を、自国の排他的な影響圏をとして確保し、米国がそれを認めるという、東アジアの新たな地政学的な状況が生まれることになる。以前、米中関係が協調的だった2010年ごろ、米中間で第1と第2の列島線について話し合われ「米国は第2列島線まで影響圏を退却し、中国は第1列島線まで影響圏を拡大する」という構想が描かれたことがあるが、それから5年経って、今度は協調体制の中でなく、敵対体制の中で、2つの列島線による米中の住み分けが隠然と実現しつつある。 (中国包囲網の虚実) (第1、第2列島線の地図) 今春以降、中国による珊瑚礁埋め立てが完成に近づくとともに、米国が再び挑発を強めている。5月20日、米海軍が、偵察機(対潜哨戒機P8-A)にCNNのテレビ撮影隊を乗せて、南シナ海の中国が海面を埋め立てて滑走路などを造成しているフィアリークロス珊瑚礁(Fiery Cross Reef、永暑礁)の近くを飛行した。CNNは中国を非難する内容の報道を行い、中国政府は米国を非難した。 (Exclusive: China warns U.S. surveillance plane) (US military flight over South China Sea escalates tensions) 5月25日には、中国共産党の機関紙である人民日報が出す英語版の「環球時報」に、米国が南シナ海での中国の建設事業(埋め立て)に反対することをやめない場合、米中の戦争が不可避になると警告する記事が掲載された。「中国は米国との戦争を望まないが、米国がやるというなら受けて立つ」といった強気の記事だ。 (Experts warn of military conflicts in S.China Sea) (US-China war 'inevitable' unless Washington drops demands over South China Sea) (Asia Scholar Lays Out "Three Ways China And The US Could Go To War") 5月26日には、中国政府が国防白書を発表した。地上より海上の防衛を重視し、日本の軍事拡張などに呼応するかたちで、中国軍の態勢を、領土が攻撃された場合のみを想定する専守防衛から、南シナ海の状況に介入してくる潜在敵(つまり米国)を公海上で防衛することまで拡大する策が盛り込まれていた。 (White Papers : China's Military Strategy) (China to extend military reach, build lighthouses in disputed waters) (White Paper Outlines China's Ambitions) 5月30日には、シンガポールで行われている年次の国際安保会議「シャングリラ会合」で米国のカーター国防長官が演説し、中国による南シナ海の珊瑚礁埋め立てについて「軍事対立を扇動している」「地域の安定を崩す」と非難し、米軍は中国との敵対の激化をいとわないと表明した。カーターは、米政府が4億ドルあまりの資金を出し、東南アジア諸国の海洋防衛力の強化に協力する計画(Southeast Asia Maritime Security Initiative)を発表した。国際会議の場で、米国が中国の埋め立て行為を非難したのはこれが初めてで、米中対立に拍車がかかっている。 (Defense Chiefs Clash Over South China Sea) (Carter Announces $425M In Pacific Partnership Funding) (US defence secretary challenges China at Singapore security forum) 米軍は、中国が埋め立てをやめないなら南シナ海での偵察や警戒行動をさらに強化し、中国側との衝突も辞さないとする態度をとっている。中国は、埋め立てをやめるつもりはない、米国が軍事衝突も辞さないというなら受けて立つと言っている。いよいよ米中が南シナ海で戦闘し、第三次世界大戦になる、といった感じの分析が、世界的に出回り始めている。 (U.S. vows to continue patrols after China warns spy plane) (Pentagon chief warns China over South China Sea islands) (George Soros Warns "No Exaggeration" That China-US On "Threshold Of World War 3") しかし、米政府の主張をよく見ると、米国自身が中国との対立激化を受けて立つのでなく、南シナ海の紛争で中国と対立する位置にある東南アジアの関係諸国をけしかけて、米国の同盟相手であるASEANを中国敵視で団結させることで、米国側と中国との対立の構造にしようとしている。そしてASEANは、中国を敵視しろと米国にけしかけられて困惑している。ASEAN諸国にとって中国は最大の貿易相手で、今後ますます中国への経済依存が強まりそうだからだ。 (U.S. hopes Chinese island-building will spur Asian response) 米軍は以前から、ASEAN諸国に対し、南シナ海の洋上警備を各国の軍隊や警備隊が別々にやるのでなく、いくつかの諸国で合同組織を編成し、ASEAN合同で南シナ海を防衛するよう求めている。ASEANの中のマレーシア、シンガポール、インドネシアは以前から、マラッカ海峡周辺でよく出没する海賊を退治するための合同軍を結成し、運用している。その組織の警備対象を、マラッカ海峡周辺から南シナ海に拡大すれば、ASEANが合同で南シナ海を警備する態勢ができる。それを早く進めろと、米国はASEANをけしかけている。 (U.S. Navy Urges Southeast Asian Patrols of South China Sea) (ASEAN Joint Patrols in the South China Sea?) しかしASEANの側は、対米従属性が強いフィリピンを除き、合同軍を作って南シナ海を防衛する態勢をとることに消極的だ。その理由は、中国がそれに猛反対してきたからだ。中国は、南シナ海の紛争解決の枠組みを「中国対ASEAN」でなく「中国対各国(2国間交渉)」でやりたい。ASEANが団結して中国と交渉することになると、各国がばらばらに中国と2国間交渉する場合よりも、東南アジア側の交渉力が強くなり、中国に不利になる。そのため、中国はASEAN内部の政治的な確執を最大限利用して、南シナ海問題でASEANが団結しないよう画策してきた。 ASEANの中でもタイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーは南シナ海で領有権を主張しておらず、この紛争に関係ない。中国は、これらの国々への経済支援を手厚くすることで、これらの国々が南シナ海問題を議論するASEANの会議で中国に配慮した言動を取るよう仕向けている。4月下旬、ASEANはサミットで南シナ海問題を議論し、フィリピンなどが中国の珊瑚礁埋め立てを非難する決議を提案したが、可決できなかった。議長国のマレーシアが、中国をやんわりと批判する文書をまとめ、それを声明文として発表して終わった。 (Paradigm Shift Needed In ASEAN's Approach To South China Sea Dispute - Analysis) (Chinese island-building in South China Sea 'may undermine peace', says Asean) このようにASEAN諸国は、米国にけしかけられても中国敵視を強めたがらない。中国はAIIB(アジアインフラ開発銀行)やシルクロード構想(一帯一路)で、ASEAN諸国のインフラ整備への投資を増額している。アジアの貿易決済で最も良く使われている通貨は、いまや人民元だ(シェア31%、円は23%)。この3年間でアジアの人民元の国際利用は3倍になり、日本円を抜いてアジアの国際決済で最も使われている通貨になっている。こうした中国のアジアでの経済覇権の拡大が、今後さらに強まることはほぼ確実だ。南シナ海紛争で、ASEANが団結して中国と対決することは、今後ますますなくなるだろう。ASEANをけしかけて中国と対決させたい米国の策略は、すでに破綻している。 (Renminbi tops currency usage table for China's trade with Asia) シンガポールのストレートタイムスは最近「中国自身が埋め立てをやめる気にならない限り、もう中国による珊瑚礁の埋め立てを止めることはできない」と、あきらめた感じの記事を載せている。中国人(華人)の独裁都市国であるシンガポールは、地政学的な位置を利用して米国の同盟国であり続け、毎年中国包囲網が語られる前出のシャングリラ会合などを主催する一方で、中国との良好な関係を保つ、絶妙なバランスの国家戦略をとり、成功している。そのシンガポールの新聞が、南シナ海での中国の影響力拡大に反対しても無駄だという論調を載せている。南シナ海で中国との敵視をあおる米国の戦略は、失敗に終わるだろう。おそらく米国の上層部は、失敗に終わるとわかったうえで中国敵視策を続けている。 (Too late for any US strategy to stop China reclamation in South China Sea: Analyst) (米国覇権の衰退を早める中露敵視) (中国の台頭を誘発する包囲網) 世界的に見て、倫理的にも、米国が中国を非難できる状況でなくなっている。第二次大戦後、米国は「正義」を掲げて覇権を行使してきたが、大量破壊兵器のウソに基づくイラク侵攻、濡れ衣のイラン核問題、政権転覆を煽った末に起こしたウクライナ危機など、近年の米国は、口だけ正義を振りかざして実のところ国際法違反を繰り返す「悪」に成り下がっている。中国が、ASEANとの協約を破って珊瑚礁を埋め立てるのは、それぐらいの「悪」をやって米国から非難されても、世界は「しかし米国も悪だよね」と考えて中国批判を弱めると考えているからだろう。 (South China Sea disputes of Atlantic World's making: Lawyer) 南シナ海をめぐる最近の米国の中国敵視策でけしかけられている国はASEANだけでない。わが日本も、米国からの提案を受け、南シナ海紛争に首を突っ込むようになっている。日本は、フィリピンを軍事的に加勢する戦略を進めている。フィリピンと日本で合同軍事演習をやったり、フィリピンの空港や港湾に日本の自衛隊が寄航できるようにする協約の整備が行われている。その一環で、6月中にアキノ大統領が訪日する。日本はまた、7月にオーストラリアで行われる中国包囲網の一環としての米豪軍事演習に、初めて40人の自衛隊員を参加させる。自衛隊は、豪州軍とでなく、米海兵隊とだけ一緒に演習する予定で、日本の国家目標があくまでも対米従属にあることを示している。 (Japan, Philippines Hold Joint Naval Drills in South China Sea) (Japan, Philippines to deepen defense ties when leaders meet next week) (Japan to participate in Australia-US Talisman Sabre military drill for first time) (Japan joins US-Australian military exercise in July for first time) 日米は、合同で南シナ海の防空警備活動を行うことも検討している。日本が南シナ海の紛争に軍事的に首を突っ込む話は、4月末の安倍首相の訪米の前後から急に実現した。日本が南シナ海で中国との紛争に首を突っ込むことが、安倍が訪米して米政界から賛美されることの、一つの見返り・対価だったことが感じられる。 (Japan considering joint US air patrols in South China Sea :Cources) (多極化への捨て駒にされる日本) これで、米国主導の南シナ海での中国との敵対策が、米国側に有利なかたちで進んでいるなら、日本が平和憲法を振り捨てて南シナ海の軍事紛争に首を突っ込むことに意味があるかもしれない。しかし、すでに述べたように、ASEANは米国の中国敵視策を迷惑と思う方向に進んでいる。米ハーバード大の学者(Graham Allison)は「米中大戦を避けるため、米国が南シナ海などアジア地域での覇権を中国に譲渡するしかない」とまで言い出している。米国が覇権国であり続けることが、世界を不安定化している。 (The US and China can avoid a collision course - if the US gives up its empire) いずれ、米国が中国に大幅譲歩する可能性が高くなっている。その際、日本は間違いなく置いてきぼりにされ、国家戦略の失敗に直面する。日本では最近、シンガポールを戦略的なお手本にする風潮のようだが、すでに述べたように、シンガポールは米国と同盟しながら親中国を貫くバランス戦略を成功させている。バランスを欠いた対米従属一辺倒しか国策がなく、世界の多極化も見ず、米国が負けるつもりでやっている中国敵視策に嬉々として巻き込まれている日本は、まったく大間抜けだ。日本外務省や安倍政権は、せめて「中国人の独裁国」シンガポールを見習ってほしい。
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