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バブルな米国覇権を潰しにかかるBRICS

2014年5月13日   田中 宇

 ことし3月分の米国の自動車販売は、年ベース換算すると1640万台で、1524万台だった1月分に比べて売れ行きが好調で、米経済が回復基調にあることを示すものと報じられた。しかし好調の裏にある理由を見ると、喜べる状況でない。借金したら返せなくなりそうな低所得者など、財務状況の悪い「サブプライム」格の人々に自動車ローンを貸し付け、彼らに売ることで、自動車の売れ行きが好調になっている。これは、米経済を良く見せるための歪曲の構造で、経済回復と逆方向の、バブル崩壊の懸念の方が大きい。 (Auto Sales: Example of How U.S. Growth Is a Mirage

 GMなど米自動車メーカーは、傘下の金融会社が貸すサブプライムの自動車ローンに補助金を出し、売れ行きを底上げする努力を続けてきた。通常なら自動車を買えない人々が、査定の甘いサブプライムのローンを借りて買っている。04−06年にサブプライムの住宅ローンが急増した後、07年からの金融バブル崩壊(サブプライム危機やリーマン倒産)につながった住宅ローンの前例を考えると、今回の自動車ローンのバブルもいずれ崩壊すると予測される。すでに昨秋から、自動車のサブプライムローンの返済遅延は前年比3割増えている。 (GM Financial tests prime-risk auto loans) (Subprime auto lenders exercising caution: Moody's

 これまで優良(プライム)格のローンの借り手だった中産階級は、雇用市場の縮小(フルタイム職の減少とパートタイム増)によって年収が減る傾向だ。優良格の借り手が減った穴埋めに、銀行はサブプライムの融資を再び増やさざるを得ない。 (Banks return to risky business: lax standards and subprime loans

 米経済の「回復」を好感し、米国の株価は史上最高値を更新している。経済の基調である雇用も、失業率が低下傾向だ。しかしこの点も、失業が長期化して求職活動をあきらめ、失業者の枠組みから外れる人が毎月100万人前後ずつ増えた結果でしかなく、無職の人は14年間で2700万人増えて1億人を超えた。米国の全世帯の2割(1600万世帯)は、家族の中に仕事をしている人が一人もいない。 (The Number Of Working Age Americans Without A Job Has Risen By 27 Million Since 2000) (Report: More Than 92 Million Americans Remain Out Of Labor Force

 リーマン危機後、米国で新たに作られた雇用のほとんどは、低賃金のパートだ。オバマ政権は「製造業の復活」をうたい、権威あるボストンコンサルティングは最近、米国が製造業の大国に戻るとする報告書を出したが、実際に増えているのは低賃金の単純労働だけで、製造業の復活はうたい文句だけで実現していないと自動車産業の専門家が言っている。政府の粉飾に協力するからこそ、権威あるシンクタンクと呼ばれているのが現実だ。 (Most of Jobs Added During Obama Years are Low-Paying, Part-Time Jobs) (The glory days of American manufacturing are not coming back: Steven Rattner

 このように米経済は、見かけの好調さと、実態的な悪さや危険の拡大との食い違いが拡大している。QE(量的緩和策)の縮小で、金あまり現象を人為的に煽るのも下火になり、いずれサブプライムなど高リスクな金融商品に対する信用が失墜してバブル崩壊につながる。 (バブルでドルを延命させる) (金融システムを延命させる情報操作

 前回バブルが大崩壊したリーマンショックの時は、他の大銀行がリーマンやAIGを潰して儲けようとするなど、危機回避策が十分でなかった。今回は、リーマン危機以来、部分的な凍結が続いている金融システムの延命策としてバブル膨張が行われているので、バブル崩壊を回避(先送り)しようとする策が前回よりも強く存在しているとも考えられる。バブルの先送りは、さらなるバブルの膨張によって行われているので、最終的には巨大なバブル崩壊が起きるだろうが、それがすぐに起きそうな状態ではない。 (米金融界が米国をつぶす

 しかし、リーマン危機時より今の方が米国にとって不利な点もある。それは国際政治の状況だ。米国は、世界の基軸通貨であるドルを持つ覇権国なのに、不健全な経済運営を続け、世界を不安定化しており、覇権国としてふさわしくないと、中露などBRICSが考える傾向を強めている。中国などは、外貨準備としてドルの代わりに金地金をさかんに買っている。 (Quiet revolution of the emerging countries

 BRICSは7月のブラジルでのサミットで、IMFや世銀に代わる、新興諸国や途上諸国のための国際機関を新設することを決める予定だ。BRICSの圧力で2010年に決めたIMF改革(米欧の議決権を削ってBRICSにわたす)を米議会が批准しないので、BRICSはIMFに代わる機関の新設を決めた。これは、BRICSや途上諸国が貿易決済の通貨をドルから相互通貨や人民元などに替え、ドルを基軸通貨から引きずり降ろす動きにつながる。 (BRICS 80 Preparing To Take Down The Dollar

 米経済は粉飾やバブルで不健全さが増し、BRICSが押せば倒せる状態になっている。以前は、ロシアも中国も、米国が覇権国である方が世界が安定しているので、米国と敵対せず国益を拡大しようとしていたが、911以来、米国は外交も過度に好戦的で、世界の安定を守る役目を果たさなくなっている。 (Uncertainty, not China, is replacing US power

 BRICSは昨年から、米国に愛想を尽かす傾向を強めている。米国の諜報機関NSAが世界の通信を傍受していたことが発覚し、ブラジルは大統領の訪米をとりやめ、米国を経由しないインターネット網の構築を他の諸国と検討している。ロシアは、ウクライナ危機で米国から敵視され、米覇権打倒の方針に傾いた。インドは間もなく反米のモディが首相になる。中国も、南沙紛争などで米国に対する苛立ちを強めている。 (米露相互制裁の行方) (ウクライナから米金融界の危機へ

 ウクライナ危機後、BRICSが経済面から米国の覇権を引き倒す可能性がぐんと強まった観があるが、BRICSが今後、どのタイミングでどのように米国の覇権を引き倒す策に出るか、まだ見えてこない。米国にとって最も打撃なのは、中国が米国債を買わなくなったり、貿易決済にドルでなく人民元を使う割合を急増したりする時だ。それがいつ起きるか、まだわからない。 (China currency liberalization to be a 'seismic event': Australia) (金融システムの地政学的転換

 米国を引き倒す前に、BRICSは相互の結びつきを強めそうでもある。5月20日にプーチンが訪中し、ロシアが中国に天然ガスを売る量を増やす代わりに、中国がロシアへの投資額を増やすことが決まりそうだ。この協定は20年前に調印されたが、中露間に相互不信があり、具現化が止まっていた。ウクライナ危機は、中露が相互不信を払拭する起爆剤となっている。 (Ukraine crisis forces Eurasian evolution) (Anti-Sanctions? Putin Lifts "Limits" And China Agrees To Increase Investment In Russia

 BRICSが結束を強めて米国の覇権を潰しにかかると、EUの立ち位置も微妙に変わる。今はまだ米国の覇権が強いので、ドイツなどEUは米国の同盟国として振る舞い、いやいやながら米国の対露制裁につき合っている。しかしドイツのメルケル首相は昨年、自分の私的な電話を米NSAが全て盗聴していたことが発覚して以来、ブラジルのルセフ大統領と同様、訪米を延期し、米欧自由貿易協定(TTIP)の交渉も頓挫している。メルケルは最近ようやく訪米したが、NSAが絡む諜報協定の締結を拒否し、米政府から冷淡な扱いを受けた。 (US and Germany remain frosty amid awkward visit from Merkel) (U.S. and Germany Fail to Reach a Deal on Spying

 ウクライナ問題はロシアの優勢が増しているが、米国はロシア敵視を変えず、EUは米国の非現実的な反露策についていけなくなる。今後、BRICSが結束して米覇権を引き倒しにかかると、EU(独仏)は、米国よりBRICSと組みたいと考える傾向を強めるだろう。それを先取りして、3月末にドイツを訪問した中国の習近平は「中国とドイツは、経済だけでなく政治面でも戦略パートナーだ」と何度も強調し、欧州初の人民元取引所をドイツに作ってやり、ドイツをBRICSの方にいざなった。 (China, Germany establish comprehensive strategic partnership



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