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台頭する中国の内と外(2)

2009年10月17日   田中 宇

この記事は「台頭する中国の内と外」の続きです。

 10月11日、アフリカ中央部の国ルワンダのポール・カガメ大統領が、ドイツの新聞とのインタビューで以下のような趣旨を述べた。「アフリカに必要なのは貧困救済の開発援助ではなく、経済発展に必要な投資だ。中国は、アフリカ諸国が必要としている政府や企業に対する投資を出し、インフラ整備に協力している。対照的に欧米は、アフリカを前進させない援助しかやらず、しかも欧州企業はコートジボワールやソマリアに核廃棄物や産業廃棄物を捨て、アフリカを汚染している」 (Rwanda President Lauds China's Role in Africa, Slams West

 カガメは、1990年代にルワンダ内戦に勝って虐殺を終わらせた指導者で、米国で軍事訓練を受けたこともあり、米英と親しい。彼は以前から、アフリカ自身が「援助漬け」から脱却して自立できるような、世界からアフリカへの資金の流れを作る国際運動を展開してきた。そのカガメが「中国はアフリカで良いことをしているが、欧米は悪いことをしている」と言ったのだから、米英にとって大打撃である。

 米欧の新聞ではここ数年、中国のアフリカ進出に合わせて「中国は、アフリカで安い自国製品を売りまくって地元産業を破壊し、腐敗した諸政権を金で釣って資源をあさっている」という論調の記事がときどき出た。この論調は、中国批判の記事をほしがる日本のマスコミの需要に合致したらしく、この論調を真似た日本の新聞記事も出た。 (African Dictators ignore Western conditions with Chinese assistance) (Chinas Influence in Africa Arouses Some Resistance) (China of being a colonizing power in Africa

 しかし、親欧米のカガメの厳しい欧米批判と中国賞賛は「援助ではなく投資を」というカガメの以前からの主張と合致しているだけに、説得力がある。巧妙な商売人集団である中国がアフリカでやっていることは良いことばかりではないだろうが、少なくとも欧米マスコミの中国アフリカ進出批判は、欧米の不利を挽回するための誇張が入っていた疑いがある。英国の王立研究所は今年8月に「アフリカの石油資源が中国などアジア勢に奪われているという欧米の見方は誇大妄想が入っている」と指摘している。 (Asian bid for African oil `exaggerated'

 中国はアルジェリア、スーダン、アンゴラ、コンゴなどのアフリカの産油国や鉱物産出国に接近するだけでなく、内陸国スーダン南部の石油を運び出すルートにあるケニアやエチオピアのインフラ整備にも投資し、多角的にアフリカに進出している。ケニアは最近まで、ペルシャ湾の荒れ地の小島の産油国であるカタールが食糧確保策としてケニアの4万ヘクタールの農地を借り上げる構想について交渉してきたが、話が折り合わず頓挫し、中国に乗り換えた。中国の展開の後を追うように、ロシアもアフリカの資源開発に投資している。 (China and Kenya in key infrastructure talks) (Russia's New Scramble for Africa

 今のアフリカには、三つの政治的な力学が働いている。一つは従来の欧米からの影響力。二つ目は今説明した中国やロシアからの多極型の影響力。そして三つ目は「汎アフリカ・ナショナリズム」である。三番目のは、以前の記事に書いたアフリカ統合の話と一体のものだ。アフリカが欧米の支配下で分裂した個別国のナショナリズムに拘泥させられていた間は、汎アフリカ・ナショナリズムは夢物語だったが、もう一つの覇権勢力として中国やロシアからの影響や資金が入ってきたことによって、アフリカは覚醒し、連合体となりうる道が開けた。 (アフリカの統合

 汎アフリカ・ナショナリズムの旗手を自称するリビアの最高指導者カダフィは、欧米だけでなく中国やロシアも「国連安保理を私物化する大国」として批判の対象にしている。しかしカダフィのような途上国のナショナリズム勢力と、中露などBRICの新興大国群は「欧米の世界支配を終わらせる」という点で立場が一致している。アフリカは今後しばらく、中露の力を借りて欧米の影響を減らし、自立に向かう戦略を採るだろう。 (Gadhafi attacks 'terror council' with UN charter

 前回の記事に書いたように、中国は米国に引っぱり出されて台頭しているが、中国の台頭は米国中心の世界体制をひっくり返している。アフリカで起きていることが好例だ。米国が隠れ多極主義戦略を推進していると思われるゆえんである。

▼イランと中国

 中国はイランとも、エネルギーやインフラ整備の分野で連携を強めている。イランは米国からガソリン輸入を禁じられる制裁を受けそうだが、制裁に備えるかのように、中国の国有企業がイランにガソリンを売ったり、イランから原油を買う際にドルではなくユーロ建てで買ったりしている。中国は、イランが地域大国として台頭し、中東から中央アジア、アフガニスタンにかけての地域を安定させてくれることを望んでいる。 (China Firms Selling Fuel to Iran as U.S. Sanctions Loom) (China's Ties With Iran Complicate Diplomacy

 イラン政府は、日本が民主党政権に替わって中国と「東アジア共同体」の話を積極的に進めだしたのを見て「拡大東アジア共同体」ともいうべき全アジア諸国による「アジア連合」の構想を発表した。イランは、自国に核兵器開発の濡れ衣をかけて攻めてくる米欧を相手にせず、衰退する米英をしり目に経済発展しそうなアジア諸国との関係を強化したがっている。 (Iran proposes setting up 'Asian Union'

 中国だけでなく日本も、もともと日本は昔からイランとの親和性が強かっただけに、対米従属一本槍でイランを敵視せざるを得なかった自民党政権の終わりとともに、今後は再びイランとエネルギー開発などで関係強化できるはずだ。イランの「アジア連合」の構想は、そのあたりも狙っているのだろう。

▼パキスタン国家崩壊に備える中国

 中国はパキスタンとの関係も深く、パキスタンにとって隣国である中国は最大の経済支援者である。しかし最近、中国は、パキスタンのバロチスタン州で10年ほど前から手がけていたグワダル港の開発事業のうち、精油所の建設を棚上げすることにした。グワダル港は、ペルシャ湾出口のホルムズ海峡のすぐ外側のインド洋に面しており、ペルシャ湾岸の石油をグワダルまで運び、パキスタン国内にパイプラインを通して中国・新疆ウイグルまで運ぶ構想だった。 (アメリカを出し抜く中国外交

 しかしパキスタンは最近、米国主導のアフガン戦争が波及し、国内でタリバンなど武装勢力の跋扈が激しくなって不安定化している。下手をすると、パキスタンは内戦や政権転覆によってアフガンやイラクのような国家崩壊に陥る。中国は、グワダル港から新疆への石油輸送は困難と判断し、精油所建設を延期したようだ。 (China calls halt to Gwadar refinery

 中国は、グワダル港をあきらめる代わりに、パキスタンが国家崩壊したら中国の影響下に置ける、中国と国境を接する北部のギルギット・バルティスターン州のインフラ整備事業に投資することにした。中国側の新疆から同州への鉄道建設計画が進んでいる。 (Chinese shun Pakistan exodus

▼アフガニスタンを取り込む

 中国は、アフガニスタンと約80キロだけ国境を接している。アフガンのワハン回廊という細長い渓谷地帯が、中国の新疆と接している。ここはシルクロードの一部で、1271年にマルコポーロが通ったとされる。この地域は不自然に細長いが、それは英露が、アフガンを無理矢理に中国と接するように国境を設定した名残だ。19世紀にアフガンの支配権を競っていた英国とロシアは、アフガンを英露の緩衝地帯とすることを決め、英国のインド植民地(今のパキスタン)とロシア帝国下の中央アジアとが直接国境を接しないよう、ここをアフガン領とした。清朝の中国もこの地域の領有権を主張したが無視された。共産中国は主張を放棄して、ワハン回廊に接する対アフガン国境を閉めた。 (Wakhan Corridor - From Wikipedia

 近年、米国主導の欧米によるアフガン占領が敗色を強め、NATO軍に物資を運ぶ通路のパキスタンが不安定になって輸送トラックがイスラム過激派(タリバン)に襲撃される事件が相次ぎ、NATOは他の補給路を探さざるを得なくなった。ロシアから中央アジア経由の道路とともに、中国からワハン回廊を経由する道路(現在は砂利道)も補給路として見直され、アフガン政府は中国に国境を再開してほしいと要請している。中国は、タリバン系のイスラム過激派がアフガンから新疆に入り、新疆の反政府運動を扇ることを懸念し、国境開放やアフガンへの道路を改良することを躊躇している。 (Afghanistan eyes China border opening

 しかし最近、今夏のアフガン選挙でカルザイ大統領の陣営が大規模な不正を行ったことが発覚し(全国の投票総数の3分の1が不正票)カルザイ政権と米欧の関係が悪化し、アフガン政府は欧米の代わりに中国を頼りたいと思う傾向を強めている。アフガン政府は10月16日、改めて中国政府に対し「中国からワハン回廊経由でアフガンにつながる道路を是非作ってほしい。中国とアフガンとの経済関係を強化したい」と嘆願した。 (Afghanistan re-opens request for corridor road

 アフガンは未開発の鉱物資源が豊富で、世界中で資源漁りをしている中国の利益に合う。しかもアフガンは、中国と国境を接している。中国は欧米に知られずに往来や物資運搬することが可能で、地下経済的な国際関係を好む中国には好都合だ。中国が地下経済的な国際関係を得意とするのは中世の「海禁」以来の伝統で、欧米から経済制裁されているミャンマーとの関係が象徴的だ。 (世界史解読(1)モンゴル帝国とイスラム

 米国が単独覇権主義でアフガンを占領していた従来は、アフガンは中国が手を出すべきでない地域だった。しかし今や、アフガンでの苦境が増す米政府は、中国のアフガン介入をむしろ歓迎している。米国の歓迎の意は「わな」かもしれず、不用意にアフガンに介入すると戦争の泥沼にはまる。中国政府は、慎重な態度をとりつつ、アフガン問題に対する関与を強めている。

 9月末には、中国政府の安全保障政策研究所の幹部が、共産党の英字新聞チャイナデイリーに、アフガン問題の解決策についての英文論文を載せた。そこでは中国政府系の言論として初めてアフガン和平への道筋を提案するとともに「米国のアフガン戦争は失敗した。アフガンにも米国にも、何の利益ももたらしていない。米国民は反戦になっている。米政府は失敗を認め、戦争をやめるべきだ」と、初めてアフガンからの米軍撤退を呼びかけた。論文はまた、米侵攻以前からのアフガン国内武装諸勢力間の対立も混乱の原因であり、カルザイ政権、タリバン、武装諸派(戦国大名)の間の和解を国際社会が仲裁する必要があると呼びかけている。 (Afghan peace needs a map

 論文が出されたのは、ちょうどオバマ政権がアフガンでの今後の戦略の議論を本格化した時で、増派か縮小かという米国での議論の中で、論文は中国からオバマへの縮小の勧めとなっている。中国の作戦としては、米軍(NATO)が撤退を決めたら、国連がアフガン国内諸派間の和解を取り持ち、中国もその和解工作に協力してアフガン復興に参加し、その間に中国からアフガンへのワハン回廊の道路を立派にして、米軍撤退後のアフガンの経済開発に投資して儲けようと考えているのだろう。中国とロシアが主導する上海協力機構には、すでにアフガンがオブザーバーとして参加しており、中露は、米国による軍事偏重のアフガン戦略が失敗したらすぐに出ていける態勢をとってきた。 (China maps an end to the Afghan war

 オバマは国防総省に押し切られてアフガンに米軍を増派する方向に傾いており、1万3千人の米軍をアフガンに増派することを10月12日に決定した(国防総省は4万人以上の増派を求めている)。これは中国が望むのと逆方向だが、米政府とNATOはアフガン占領の窮地を認めており、中国やロシアからの支援をより強く求めるようになっている。いずれ米国はアフガンから軍事撤退を余儀なくされ、中露の戦略が現実になるだろう。今後の日本の民主党政権のアフガン支援も、中露優勢の流れに沿ったものになりそうだ。 (US approves 13,000 troops for Afghan war) (Consensus on Afghan strategy eludes Obama

▼インドの焦り

 このようにパキスタンやアフガニスタンでは、混乱拡大の中で中国の影響力が増している。インドは、この傾向に対して強い懸念を感じている。インドは独立時に英国の謀略によってパキスタンと二分され、長期対立する構図の中に押し込められ、印パが和解して「大インド」になることができないでいる。戦後ずっと対米従属で喜々として国家の自律心を放棄して魂を抜かれていた日本人も情けないが、英国にはめられたヒンドゥ対イスラムの対立を乗り越えるどころか、対立を自ら扇動して儲ける政界やマスコミを持つインド人も情けない。

 世界が英米中心体制である限りは、インドや日本のやり方は国益を増進する利点があった。911後、米国のテロ戦争戦略が「アルカイダ=パキスタン」という構図を採りがちだったため、インドはテロ戦争に積極的に乗った。アフガン戦争では、パキスタンの諜報機関が育てたタリバンと敵対する北部同盟をテコ入れし、アフガンへの影響を拡大した。しかし、イラクとアフガンの泥沼化でテロ戦争が失敗し、金融危機とドル崩壊で米英の衰退と中露の台頭が顕在化すると、パキスタンでもアフガンでも中国の影響力が増した。アフガンのインド大使館はテロで爆破された。ネパールでも親中国のマオイストが強くなり、インドの米英追随策は失敗している。 (India Hints at Pakistan Link to Kabul Embassy Blast

 インドとパキスタンの外交官は最近、国際会議のかたわらでしばしば会い、和解する努力を見せているが、大きな進展はない。インドもパキスタンも、反政府世論が強まると政府が人気回復のために相手国を敵視する体質が抜けず、昨年のインドのムンバイ・テロ事件や、最近のパキスタンの国家崩壊感の強まりなど、双方とも敵視の軽減が難しい事態が続いている。 (Pakistan, India End Talks Without Breakthrough

 印パの対立永続化によって南アジアへの間接支配を維持してきた英国の諜報機関は、アルカイダを操る術を知っており(アルカイダは英米諜報機関そのものという見方もできる)、印パが和解しそうになったらテロを起こして和解を簡単に失敗させられる。 (アルカイダは諜報機関の作りもの

 英米中心主義者がアルカイダを操り、多極主義者が中露やインドなどBRICを台頭させる暗闘の中で、インドはBRICに属しているものの、米英側の束縛から抜けられず、反米非米諸国の多極化ネットワークの弱点の一つとなっている。印パが和解しない限り、世界の多極化は完成しない。

▼インドと中国の国境紛争

 英米に追随する姿勢を国是としているインドでは、少し前までの日本と同様、中国との対立が扇動されていると思われる動きがある。以前に少し書いた、中国軍によるインド国境侵犯の件である。 (多極化の本質を考える

 事件は、インド領だが中国が領有権を主張するアルナチャル・プラデシュ州の中印国境で起きている。中国軍は、以前からしばしばインド側に入り込んで示威行動をしたり、赤いペンキで「ここは中国領だ」と書いて帰ったりすることを繰り返してきた。領有権の紛争がある地域なので、インド側はことを荒立てない態度をとり、中国軍の行為を黙認してきた。中国軍の行為は、かつて中国が台湾領有下の金門島に向けて毎日1発ずつ大砲を撃っていたのと同様、中国が同州の領有権を主張し続けていることの表明として続けられてきた。 (Gorkha Janmukti Morcha to be alert along India-China border

 インド側は9月中旬以降、この中国軍による越境行為を侵略行為と見なして非難する論調を強め、右派マスコミを中心にこの問題が大きく採り上げられた。インド政府は「中国軍の越境行為は以前からのもので、騒ぐほどのことはない」と表明したが、インドの世論は扇動されて「なぜ政府は以前から中国軍の越境行為を黙認してきたのか」と政府非難を強めた。 (India plays down Chinese incursions

 10月3日には、世論に押されるかたちでインドのシン首相がアルナチャル・プラデシュ州を訪問し、中国政府は「対立を煽るな」と非難した。中国は、インドがアジア開発銀行に同州への投資を要請していた案件について、開銀に圧力をかけて潰している。一方でインドは、中国がスリランカやモルジブ、ミャンマー沖などのインド洋に各地に海軍拠点を増設していることにも懸念を表明している。 (China attacks visit to disputed state

 印中の対立は、今のところ戦争に発展するようなものではないが、急速に衰退する英国が再起のために何をするかわからないという懸念はある。しかしその一方で、以前は対米従属の呪縛が非常に強かった日本政府が、9月の政権交代を境に、魔法のように呪縛が解け、世界の多極化の流れに沿った動きを開始したことから考えて、インドでも今後、意外な政治転換によって生まれ変わり、多極型の世界に適応していく可能性がある。

 米国中枢の多極主義者たちは、日本やインドの転換を歓迎する。米政府は、反米的な鳩山新政権を評価する言動を発し続け、10月17日には米国務省の東アジア担当責任者であるカート・キャンベルが、鳩山政権が提唱する米国を外した形の東アジア共同体構想に理解を示した。これは「米国が怒って鳩山政権を潰してくれる」と期待していた日本の対米従属論者にとって悪夢だが、多極化の流れとしては、ごく自然なものである。



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