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北朝鮮問題の解決が近い

2007年1月23日   田中 宇

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 1月16日から18日までの3日間、ドイツの首都ベルリンで、アメリカと北朝鮮の代表者が、北の核開発問題をめぐって話し合いを行った。話し合いをしたのは、アメリカのヒル国務次官補と、北朝鮮の金桂冠外務次官で、ブッシュ政権が北朝鮮側と2国間の直接対話をしたのは、これが初めてだった。

 ブッシュ政権は「金正日はウソつきなので、北朝鮮とは2国間の直接交渉をしない」という立場を堅持し、北朝鮮側と2国間で交渉するときは、立場の曖昧な元政府関係者を非公式な代表として送ったり、北京で6カ国協議が行われた際に他国の代表がいる会議場の隅で2者対話をしていた。

 日本政府は「アメリカは、6カ国協議ではなく、米朝2国間の直接交渉をやった方が良い」と考えている。アメリカとの関係が唯一絶対の日本政府は、アジアにおけるアメリカの覇権の維持を強く望み、中国の影響力を増大させる6カ国協議には消極的である。今回のベルリンでの米朝2国間の対話は「いよいよブッシュ政権は直接交渉に踏み切ったか」という期待を、日本政府に抱かせた。

 だが、日本側の期待を裏切るかのように、アメリカのライス国務長官は「ベルリン協議は、アメリカが2国間交渉を始めたことを意味しない。単に、6カ国協議を進展させるために必要なので2国間の形式で協議しただけだ。あくまでも6カ国協議の枠内での行動である」と表明した。(関連記事

 この表明で「米朝の直接交渉が始まったか」という期待は消え、日本での報道は大々的にならなかった。しかし、私が見るところ、このベルリン協議は、直接か6カ国かという協議の形式論をはるかに超えた、アメリカの北朝鮮に対する大譲歩だったようである。

▼大喜びの北朝鮮

 協議が終わった翌日の1月19日、北朝鮮の外務省は国営通信社を通じ、ベルリン協議について「協議は、前向きで誠実な雰囲気の中で進められ、一定の合意を得ることができた。米朝は、核問題を解決するため、もつれている問題に決着をつけた」と発表した。(関連記事

 北朝鮮外務省は、米朝で何を合意したか明らかにしていない。だが、発表の言い回しから感じられるのは、金正日総書記ら北朝鮮の上層部が、ベルリン協議で合意した内容に満足し、大喜びしていることである。協議に不満足なら「アメリカの帝国主義者が、また狡猾なことを言った」という感じの発表になるはずだ。「前向きで誠実」という言い方からは、北朝鮮が「アメリカは、こちらの希望通りのことを言ってくれた」という印象を持っているという感じを受ける。

 北朝鮮外務省の発表が行われたのと同じ1月19日、交渉相手だったアメリカのヒル国務次官補は、ベルリンからソウルに飛び、次回の6カ国協議の日程について、韓国政府と話し合った。翌20日には東京に、そして21日には北京に飛び、同じテーマで日中とも話し合いをした。その後、約2週間の準備期間を経て、2月5日からの週に、北京で次回の6カ国協議が開かれる予定になっている。(関連記事

 6カ国協議は、約1カ月前の昨年12月後半にも開かれたが、北朝鮮が「アメリカが金融制裁を解除しない限り、交渉を進められない」と強硬姿勢をとったため、進展せずに終わった。金融制裁とbチたようである。

▼大喜びの北朝鮮

 協議が終わった翌日の1月19日、北朝鮮の外務省は国営通信社を通じ、ベルリン協議について「協議は、前向きで誠実な雰囲気の中で進められ、一定の合意を得ることができた。米朝は、核問題を解決するため、もつれている問題に決着をつけた」と発表した。(関連記事

 北朝鮮外務省は、米朝で何を合意したか明らかにしていない。だが、発表の言い回しから感じられるのは、金正日総書記ら北朝鮮の上層部が、ベルリン協議で合意した内容に満足し、大喜びしていることである。協議に不満足なら「アメリカの帝国主義者が、また狡猾なことを言った」という感じの発表になるはずだ。「前向きで誠実」という言い方からは、北朝鮮が「アメリカは、こちらの希望通りのことを言ってくれた」という印象を持っているという感じを受ける。

 北朝鮮外務省の発表が行われたのと同じ1月19日、交渉相手だったアメリカのヒル国務次官補は、ベルリンからソウルに飛び、次回の6カ国協議の日程について、韓国政府と話し合った。翌20日には東京に、そして21日には北京に飛び、同じテーマで日中とも話し合いをした。その後、約2週間の準備期間を経て、2月5日からの週に、北京で次回の6カ国協議が開かれる予定になっている。(関連記事

 6カ国協議は、約1カ月前の昨年12月後半にも開かれたが、北朝鮮が「アメリカが金融制裁を解除しない限り、交渉を進められない」と強硬姿勢をとったため、進展せずに終わった。金融制裁とbサれは「北朝鮮が核開発をやめたら、アメリカと日本は北朝鮮への敵視をやめ、北との国交を正常化する」ということである。北が核開発をやめたら、アメリカは北との国交を正常化するという宣言は、ベルリン協議の直前にヒル国務次官補が行った演説でも改めて表明され、アメリカの公式な約束であり続けている。(関連記事

 ここで問題になるのは「北朝鮮が核開発をやめる」とは、具体的に何を指すか、ということだ。2003年のイラク侵攻前、アメリカはイラクに対し、大量破壊兵器の「完全な、検証可能な、不可逆的な破棄」(Complete, Verifiable, Irreversible Dismantlement、略してCVID)を求めた。

 CVIDは、アメリカがイラクを追い詰めるために使われた。民間の工場で使う化学品までが「完全な」の対象にされ、「検証」の口実で兵器と関係ない国家機密までが査察の対象とされ、兵器を作れる学者の頭の中に知識が残っている限り「不可逆的」とはいえないとされ、イラクがどんなに努力しても、アメリカは「まだCVIDは達成されていない」と言える状況が作られた。

▼核廃棄は抜け穴が多くなりそう

 イラクの経緯を見ていた北朝鮮は、アメリカから「おまえも核開発を破棄しろ」と言われ、当然ながら「絶対いやだ」と言い返し、アメリカとの対立を平和理に解くことはできないと考えて、逆に全力で核兵器の開発を進めた。6カ国協議でアメリカから「核開発をやめたら、国交正常化してやる」と言われても、北朝鮮は「核開発をやめるとは、CVIDのことだろう。イラクみたいにはならないぞ」と考えて拒否した。

 このような経緯があるので、アメリカから「核問題について話し合おう」と言われたら、北朝鮮がまず尋ねることは「アメリカが言う、核開発をやめるということの定義は何か。CVIDなのか」ということだろう。北朝鮮はこの件について、ベルリン協議で、明確に尋ねたか、探りを入れたはずである。

 そして、協議の翌日に北朝鮮が「協議は前向きで誠実だった」と言っているということは、アメリカは北朝鮮にCVIDを求めなかったということである。北朝鮮が満足しているということは、今後アメリカが北朝鮮の核施設を査察しても、北朝鮮は核兵器の技術をうまく隠すことができそうで、また必要になったら核兵器を作れそうだということでもある。

 分析者の間からは、すでに前回の6カ国協議後の米朝の代表者のコメントからみて「アメリカは北朝鮮にCVIDを求めていない。今後、北朝鮮の核施設に対する査察が行われたとしても、それは抜け穴の多いものになる」という指摘が昨年から出されていた。(関連記事

「北朝鮮は、核開発を破棄するだろう。今ある兵器や装置を破棄しても、技術者や原料は残っており、後から再現できるので、北朝鮮にとっては大したマイナスではない」というコメントも、昨年のうちに専門家から発せられている。(関連記事

▼そもそも完全な核廃棄は不可能

 兵器の原材料や製造技術の多くは、民間でも使われている。兵器の設計図を破棄しても、設計図を書いた技術者の頭の中の記憶は消せないし、設計図を電子化すれば、メールで誰かに送るなどして、査察をすり抜けて保存するのは簡単だ。つまり、他国が強制的に兵器開発ノウハウを完全かつ永久に破棄することは不可能である。開発を何年か遅らせることができるだけである。

 敵国が永遠に大量破壊兵器を作れないようにするには、政権転覆して傀儡政権を作るぐらいしか方法がないが、この方法もすでにアメリカがイラクで試みて大失敗した(傀儡政権は作れたが、国民が反米になった)。アメリカは、もはや中東でイラク・イラン・アフガニスタン・ソマリアという4つの戦争を抱え、北朝鮮を攻撃して政権転覆できる状況にない。

 アメリカが北朝鮮を先制攻撃できないなら、日本がやればいい、という意見もアメリカの強硬派から出されているが、日朝が戦争したら、日本の方が無防備で破滅する。北朝鮮の問題は、もはや中国と韓国による融和式の解決方法しかない。すでに韓国では、朝鮮半島の緊張緩和を前提とした動きが始まっている感じがする。

▼北を脅威と思わなくなった韓国

 韓国政府は1月17日、ソウル郊外にある北朝鮮との停戦ライン(38度線)の近くに張りめぐらされているフェンスの一部を撤去する決定を発表した。フェンスは、38度線の近くを流れている漢江の水系の川の河原に作られている。朝鮮戦争以来、北朝鮮のスパイや特殊部隊が、韓国への侵入を試みる際の潜入ルートとして、漢江水系の河原が使われることが多かった。最近では1995年にもこの河原から潜入が試みられ、韓国軍が発見して侵入を食い止めた。(関連記事

 今回のフェンスの撤去は約13キロの区間で、拡大するソウルの都市開発が、38度線の周辺区域まで及んできたため、防衛より都市開発を優先し、撤去することにしたという。しかし「敵」が核兵器を開発して脅威を強めているときに、防衛より都市開発を優先するのは、全く奇妙である。

 韓国政府の判断が正常だとしたら、韓国と北朝鮮との敵対関係は最近、大幅に緩和され、もはや北朝鮮のスパイが韓国に潜入することはないと韓国側が思えるだけの南北関係が、すでにひそやかに作られているということである。

 これに関連していると思われる他の出来事もある。韓国政府は最近、男性国民に義務づけている徴兵の期間を、2年間から1年半に、半年間短縮する方針を決めた。その理由は「徴兵期間を短縮すると、その分国民の労働や消費の時間が増え、経済成長にプラスだから」というものだ。ここでも、核の脅威など、どこ吹く風である。これらの政策は、政府内などであまり反対されずに実現しそうで、韓国では北朝鮮との関係改善を前提とした政策が打ち出されている。(関連記事

 北の金正日は、昨年10月に核実験を実施する前に、韓国企業が北朝鮮で開発した金剛山の観光地を訪問している。これは、金正日が「核兵器の開発は、韓国との関係悪化を意味しない。韓国とは、一緒にもっと金儲けしていきたい」という意志表示をしたのだとも受け取れる。(関連記事

▼北朝鮮問題と多極主義

 前回の記事の末尾で紹介したように、先日フィリピンで開かれたアジア諸国のASEAN+3(中韓日)のサミット会議では、北朝鮮に核廃棄は求めるが、同時に北が経済発展できるよう国際貿易振興策も行い、北を追い詰めず、時間をかけて問題を解決していく方向性が検討された。今後、アメリカが北朝鮮に対する強硬策を緩和するとしたら、その後の北朝鮮問題は、中国と韓国が先導して「アジアのことは、アジア人がアジア式に解決する」という流れの一つになる。(関連記事

 私の以前からの洞察は、ブッシュ政権は2003年に6カ国協議の枠組みを作って中国に無理矢理に先導させた時点で、すでに「アジアのことはアジアに任せたい」と考えており、そのために北朝鮮の問題を米朝2国間協議ではなく6カ国協議で解決しようとしたのではないか、ということである。これはブッシュ政権が「単独覇権主義」のふりをした「隠れ多極主義」であることの一つの表れであると考える。(関連記事

 アメリカの上層部が、自国の発展を最優先に考えているのなら、自ら覇権を放棄して世界を多極化するのは馬鹿げている。欧州や日本を傘下に入れて君臨する、従来のG7型の欧米中心主義を維持するのが得策である。

 しかし、もしアメリカの上層部が、愛国心の理論ではなく、資本の理論に基づいて動き、全世界に投資された資本全体の利回りを上げることを最優先に考えているのなら、話は変わる。G7の先進国には、もはや高利回り(高度成長)は期待できない半面、中国やロシア、インドなどを中心とした途上国には高利回りが期待できる。だから、資本の理論に基づくなら、国際社会の総意の決定権を、先進国から途上国に委譲し、途上国が先進国から妨害されず、好きなように発展できる世界を作った方が良い。(関連記事

 途上国の経済成長を優先するには、人権重視の外交も邪魔なので、アメリカは、前回の記事に書いた「人権外交の終わり」を容認しているのだろう。

▼「北を空爆する」は「中国がんばれ」

 最近、米政界の有力者が、相次いで「中国や韓国が早く6カ国協議を進めないと、アメリカは北朝鮮を爆撃するかもしれない」といったような脅しの発言をした。1月18日には、ペリー元国防長官が、米議会上院でそのような発言をした。1月17日には、以前から北朝鮮への米軍の侵攻を支持しているボルトン前国連大使が東京で「6カ国協議はもうダメだ。国際社会は、他の方法を考えた方が良い」と発言している。(関連記事その1その2

 これらの発言は、そのまま解釈すると「アメリカは、いよいよ北を爆撃するかもしれない」という話になる。だが、米政府が6カ国協議にこだわり、6カ国協議では中韓の融和策が優勢になり、米軍は中東で手一杯で北朝鮮を攻撃できないという現実の状況を踏まえて考え直すと、米高官の発言は、むしろ中国と韓国に「融和策でもアジア方式でも良いから、もっと積極的に、早く北朝鮮の問題を解決しろ」と要求しているのだと解釈できる。アメリカで「北を空爆すべきだ」という主張が繰り返されるほど、アメリカは北朝鮮の問題を解決できなくなり、中国と韓国への期待が高まる。

 アメリカは、これから中東でますます大きな戦争に突入していこうとしている。これから起きそうな中東大戦争は、アメリカの覇権を減退させ、アメリカにとりついて覇権を行使してきたイギリスとイスラエルを無力化し、欧米中心の世界体制を崩すと予測される。欧米中心の体制が崩壊しても、代わりに多極的な世界体制が立ち上がってこなければ、世界の混乱がひどくなる。

 アメリカは昨年秋から、北朝鮮問題を早く解決しようと躍起になっている観がある。なぜ今のタイミングで、北朝鮮問題の解決を急ぐのか。明確な答えはどこからも示唆されていないが、一つの回答としてありそうなのは、北朝鮮の問題を中国に解決させれば、それを機に、東アジアに中国中心の地域安全保障体制が形成されるということだ。これにより、米市場の消費力が落ちた後の世界経済の牽引役として期待される東アジアは、アメリカの覇権が落ちた後も、自律的に安定を維持できる。中東が大戦争になり、アメリカの覇権が失われても、東アジア経済は高利回りを産み続け、資本の理論に沿った状況を崩さずにすむ。

▼後回しにされた日本

 2月初旬に6カ国協議が開かれ、そこで事態が進展するとしたら、2月から3月にかけての時期に、米朝関係は大きく好転することになる。北朝鮮の要人は、先日北朝鮮を訪問した自民党の山崎拓氏に対し「今年2月、3月に驚くような状況の変化があるから、その後、もう一度訪朝してほしい」と述べたと報じられている。これは「もうすぐ米朝関係が好転する。日本も北朝鮮と国交を結ばねばならなくなるだろうから、その時にちゃんと話しましょう」というメッセージであると推測できる。(関連記事

 1月9日の山崎拓の訪朝自体、米朝関係が好転しそうだという情報を受けて挙行された可能性がある。山拓の訪朝は、小泉前首相の訪朝の前座として行われている。首相時代に2回も訪朝した小泉は「拉致問題を解決して日朝国交を正常化した人」として、歴史に名を残したいと考えている。拉致問題が解決される前に、先に核問題が解決して米朝関係が好転してしまうと、アメリカに追随する日本も、日朝関係を好転せざるを得ない。05年9月の6カ国協議で発表した北京宣言にも、核問題が解決したら、米朝関係と同時に日朝関係を好転させることが明記されている。(関連記事

 しかし、この流れだと、小泉が訪朝して拉致問題を解決したら日朝関係が好転した、という話にすることができず、小泉は歴史に名を残せない。小泉が訪朝するなら、米朝が核問題を解決する前にやらねばならない。小泉はアメリカの要人たちと親しい。アメリカが北朝鮮との関係を好転させるつもりなら、事前に小泉にその情報が入る可能性は大きい。小泉・山拓側は、アーミテージ元国務副長官と接触していたという話も、自民党筋から出ている。情報をキャッチした小泉は、次の6カ国協議より前に訪朝せねばならないと考え、まず急いで代理人である山拓を訪朝させたのだろう。

 小泉と山拓は、北朝鮮に住んでいる日本人を全員いったん日本に帰国させることを柱として拉致問題の解決案を作り、訪朝した山拓が、それを北朝鮮側に提案した。しかし、北朝鮮は、すでにアメリカと関係改善できそうだと感じていた。アメリカとの関係を改善すれば、北朝鮮は日本に対して以前よりはるかに優位に立てる。北が「拉致問題はもう解決ずみだ」と突っぱねても、米朝関係好転後のアジアで孤立したくない日本は、北との関係を改善せざるを得なくなる。

 だから、訪朝したいと申し入れた山拓に対して北側は「3月に来てくれ」と返答し、それでも山拓が「いや、早く行きたいんだ」と言うので、一応平壌に来てもらったが、そこでも北側は山拓の提案を断り「3月にもう一度来てくれ」と言って帰らせた。小泉の、歴史に名を残す作戦は失敗した。

 私の分析が正しく、しかもアメリカで多極化の黒幕であるチェイニー副大統領がCIA機密漏洩スキャンダルなどで辞任しない限り、北朝鮮問題は今後1−2カ月間、つまり2月から3月にかけて解決していく。それと並行してアメリカはイランと戦争を始めて中東大戦争になり、アメリカは北朝鮮どころではなくなり、東アジアの問題は、中国を中心としたアジア内部で解決されていく傾向を強める。

 日本は、その大転換の中で、事前の準備もろくにしないまま、従来の対米従属一辺倒の国是をやめて、別の国家方針を持たざるを得なくなる。



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