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腑抜けた習近平

2026年9月6日   田中 宇

9月23-25日に予定されている習近平の訪米は、かなり異例で異様なものになる。その要素の一つは、同時期の9月22-26日に米ニューヨークで国連総会が開かれるのに、習近平はニューヨークに行かず、非米諸国(グローバルサウス)から期待されてきた国連演説もしないことだ。

習近平は、ワシントンDCでトランプに会うためだけに訪米する。トランプに会う前か後にNYに飛び、国連総会に出て演説することは時間的に十分可能だ。5月に習近平の訪米日程が組まれた当初は、日程的にみて、習近平が国連総会出席のついでにトランプに会うのかと思われていた。しかし違った。
トランプは9月22日に国連総会で演説する。昨年やその前の演説と同様、たぶん今年も国連を非難し誹謗する。習近平も演説し、トランプに対抗して国連を擁護すれば良いのに、やらない。非米諸国は落胆している。
Xi Jinping Will Skip UN General Assembly Week Despite September US Visit

今年のイラン戦争など、米国(イスラエル、リクード系)は力づくで世界を支配している。非米諸国は、米イスラエルのやり方に怒っている。
以前の習近平は、米イスラエルの横暴を非難し、人々が米覇権に頼らないで生きていけるよう、BRICSや上海協力機構、一帯一路を強化し、世界の多極化を推進してきた。
非米諸国(や左翼、イスラム主義者たち)は習近平を、米覇権に対抗してくれる主導役(非米側の覇権国)として期待してきた。
サウジをイランと和解させ対米従属から解放した中国

だが昨年あたりから、習近平は非米側の主導役を放棄している感じだ。非米側の覇権国としての中共のピークは、イランとサウジの和解を仲裁し、BRICSを拡大した2023-24年で、その後は覇権を放棄する方向だ。
習近平は、昨年のブラジルでのBRICSサミットを完全欠席し(リモート出席もせず)、パレスチナ問題での発言も控え、開戦後のイランを支持する表明もしていない。中国は、一帯一路も宣伝しなくなり、アフリカの資源利権も手放す方向が続いている。
9月末におこなわれるであろう国連総会すっとばしは、習近平が非米側覇権を放棄する流れの一環として象徴的だ。

トランプ(やそれ以前の子ブッシュ)の米国は、国連を敵視して支援や拠出を減らし、国連は資金難が悪化している。
以前の中共は、米国が抜けた分をある程度穴埋めするとともに、国連での中共の発言力が増すように仕組み、国連を中共主導の非米側組織に転向させてきた。
たとえば新型コロナ以降、WHOはかなり中共の影響下にある。WHOは今年1月、トランプの米国に脱退され、資金難が一気に悪化した。だが、中共はWHOの困窮を放置する傾向だ。仕方がないのでWHOは、エボラ出血熱の拡大を誇張するなど世界から注目(とカネ)を集めようと必死だ。
コロナで世界中の国家主権を奪って超愚策を連発したWHOが、世界から見放されるのは良いことだ(まだ軽信してるマスコミやリベラル派は害悪)。
The WHO Drums Up Fear With Ebola After Hantavirus Scare Fails

習近平が非米側を率いる覇権的な言動をやめたのは、なぜなのか。私の推測は、米諜報界を英国系から乗っ取ったリクード系(トランプの上司)が、米諜報界が長年蓄積した中共上層部のスパイ網を活用し、昨年あたりから中共上層部で習近平への反乱を醸成し、習近平をビビらせているからだ。
リクード系は反乱醸成を通じて、習近平に「米イスラエルの覇権運営に楯突くな。非米側を率いるな」と示唆した。
習近平は、党上層部で大規模な粛清を展開して対抗し、自分の権力を維持しつつも、リクード系の要求を受け入れ、BRICSや国連を主導することを控えた。
私の推測が正しいという確証はない。だが、リクード系の仕業以外に、中共上層部の反乱と習近平の覇権放棄を説明できる強い仮説もない。
イスラエルと中国の暗闘

中共を擁護する人々は「習近平は、トランプに会う前後に、トランプを非難することになる国連演説を発したくない。これは外交的な配慮であり、国連や非米側を捨てることでない」と言いそうだ。
だが習近平が国連演説の中で、トランプを真っ向から非難せず、外交的にやんわり指摘できるはずだ。習近平は、ビビっている。極度に用心している。
リクード系に言動を監視され、不透明な基準で評定され、今後の待遇(党内反乱の様相、自らの失脚の有無)を決められている。習近平は、自分が党内や人民に対してやっているのと同じやり方で、リクード系から監視抑圧・傀儡化されている。ビビって、極度に用心するしかない。笑える。

習近平が国連演説したら、慎重な内容であっても、リクード系から「まだ国連を主導しようとしている」とみなされかねない。それは困る。慎重な内容の国連演説を発するのでなく、演説しない、NYに行かないことにするしかない。

▼トランプの真似をさせられる習近平

ここまで、習近平の訪米の異様さの1点目を延々と書いた。異様さの2点目は、習近平が、まるでトランプみたいに、自国の財界人たちを多数引き連れて訪米することだ。「習近平のトランプ化」。トランプの真似をさせられて踊らされる習近平。これも笑える。
この件を9月4日に特ダネ報道したロイター通信は「トランプと習近平の首脳会談自体は大した成果をあげられそうもない。習近平の訪米の主目的はむしろ、同行した財界人たちと米国側との商談や対話にある」という趣旨を書いている。

米中の政府間交渉は、希土類や半導体の貿易投資の話や、AI規制、台湾問題など、主要な課題はいずれも、双方の安保上の懸念が解けず、進展が期待できない。前代未聞の習近平の財界人同行による成果の方が期待できる。
トランプには、習近平よりジャック・マーが大事だとか(笑)。ビビって言いなりになってくれる習近平も良いけどね。権威あるロイターも首脳会談の無意味さを認めているのだから「真実」だよ。
China's Xi seeks to bring large CEO delegation on US visit, sources say

トランプは、今年5月の訪中に17人の米財界人を同行させており、今回の習近平の訪米は「返礼」だ。2020年の弾圧以来、財界人を警戒している習近平は、同行を自分から発案しない。トランプが習近平に勧めた可能性が高い。リクード系に監視されている習近平としては、トランプの勧めを断らない方が良い。
(習近平は、2020年の弾圧より前の2015年9月の訪米には、ジャック・マーら財界人を同行している)

習近平は、2020年のコロナ危機を使って国内の監視体制を強め、個人独裁を強化した。その際、ジャック・マーのアリババなど大手民間企業が、中国人民の金融や支払い、SNSなど言動に関する膨大な情報を持ち、共産党がその情報群を完全な管理下に置けないことが不満になった。
そこで習近平は、政府批判するジャック・マーを見せしめ的に大弾圧し、情報産業を共産党に絶対服従させ、人民や党幹部の動向情報を完全掌握し、個人独裁を無限に強化する道筋をつけた。
Is China’s Tech ‘Crackdown’ or ‘Rectification’ Over?

そのような経緯なので、習近平は財界人からの仕返しを恐れて警戒してきた。だが今回は大転換し、習近平は一気に「トランプ化」して、財界人を引き連れて訪米する。人選や人数はまだ不明だが、ジャック・マーが含まれる可能性がある。ジャック・マーがイーロン・マスクみたいになる?。拍子抜けする大転換だ。
習近平は、すでに2025年に自分と財界人との座談会にジャック・マーを出席させ、和解し始めている。トランプの発案じゃないぞ、と親(媚)中派が言いそうだ。しかし、座談会の出席から、訪米の同行に一足飛びに進むのは、隠然系の習近平っぽくない。ドラマ仕立てのトランプの作風だ。
リクード系は、習近平の国際政治面の動きを抑制する一方で、国内政治や経済政策は問題にしない(人権や民主を口実に内政干渉していた英国系と違う点)。トランプが習近平に、財界人と和解して儲けることを勧めるのは自然な動きだ。
(米欧の首脳が外国訪問に大勢の財界人を同行させるのは1990年代からあるが)
China's Xi holds rare meet with business leaders amid US tech rivalry

儲けが増えるのは結構だ。しかし、米イスラエル支配に対抗してくれるはずの習近平が、トランプを真似たかのような返礼的な財界人同行で訪米し、トランプの逆鱗に触れたくないので国連総会にも来てくれない。
習近平は、米中貿易で儲けることに積極的だが、世界平和は軽視するようになった。そう思われて、国際政治的に習近平の信用が低下する。
実のところ習近平は「儲けるのは良いが、世界平和を背負って立つのはやめろ。さもないと中国共産党内の安定を破壊する」と脅すリクード系に服従せざるを得ないだけだ。

▼イランにとても冷たくなった中共

8月31日からキルギスのビシケクで開かれた上海協力機構の年次サミットでも、習近平の腑抜けた姿勢が目立った。上海機構は、中国ロシア中央アジア諸国のほかに、印度やイランなどが加盟している。今年のサミットではイラン戦争への対応が話し合われた。
サミットのかたわらで、イランのペゼシュキアン大統領が、ロシアのプーチン大統領や印度のモディ首相と2国間会談した。ロシアも印度も、できる範囲でイランに協力すると表明した。
Russian, Iranian Leaders Hold Key Talks on Sidelines of SCO Summit in Kyrgyzstan

だが、参加した諸大国の中で、中国の習近平だけは、ペゼシュキアンとの2国間会談を拒否した。イランの政治家(Davoud Heshmati)は、イラン側が中国に2国間会談を要請したのに中国が拒否した、と指摘している。
中国とイランの政府は、要請や拒否がなかったと言っている。だが、イランにとって中国が最重要の頼れる国である(あった)ことを考えると、イランが中国に2国間首脳会談を求めなかったはずはない。実現しなかったのは、中国が断ったからに違いない。
仕方がないのでペゼシュキアンは、全体会合の合間に会場の隅で習近平を呼び止め、数分間だけ立ち話した。
Xi snub reignites Iran’s doubts about China

習近平は訪米前なのでトランプに配慮してイランと親しくしなかったという「解説」が流布している。だが、その手の配慮は、トランプの顔色をうかがわねばならない対米従属の日欧がやるものだ。
プーチンやモディも、米イスラエルを怒らせない範囲で、ほとんど口だけイランに協力すると言っているだけだ。その程度でも、露印は国家の尊厳を保って毅然としていられる。
習近平はそうでない。習近平の腑抜けた姿勢は、中国が日本みたいな対米従属国と同水準まで成り下がったことを意味している。
China sticks with Iran, but downplays top-level contact at SCO summit

イランの別の政治家(Hossein Marashi)によると、中国政府はイランに対し、ホルムズ海峡を開放して通行料も取らず、米国やサウジと和解しない限り、今後の外交関係や経済支援の再開を進めないと通告してきた。
イラン政府は、ガリバフ議長を中国との交渉特使に任命したが、中国はガリバフの訪中を認めず、その前にホルムズ再開と米サウジとの和解をイランに求めている。追い詰められているイランには無理な条件だ。これは事実上、イランに対する中国の国交断絶に等しい。
Iranian Politician: China Set Conditions Before Qalibaf’s Beijing Visit

イランと中国の政府は、この話をウソだと一蹴している。イランは、中国から切られたことを認めたら弱体化が露呈する。中共は、イランを切ったことを認めたら、世界の反米勢力から非難され、その他の勢力から馬鹿にされる。
だからウソだと一蹴する。しかし、習近平の最近の状況から見て、この話は事実である可能性が高い。
China Sets Conditions for Tehran Over Hormuz Crisis and US Conflict

習近平は9月1-2日にエジプトを訪問した。エジプト政府の経済開発計画を、中国が「一帯一路」と連結して投資する話が進んだ。
これは一見、習近平が経済覇権戦略である一帯一路を再開する話であり、アラブの大義としてパレスチナ国家の建設を米イスラエルに求めるエジプトとの関係を強化する話でもある。習近平は、リクード系の脅しに屈するのをやめたのか??。
Xi In Rare Egypt Visit Blasts 'External Interference' In Mideast, As Iran War Drags On

よく見ると、そうでもない。エジプトはヨルダンとともに、1980年代からイスラエルの傀儡国家だ。エジプトとヨルダンはずっと、アラブの盟主である大金持ちのサウジアラビアから経済支援されて何とかやってきた。
しかし今後、ホルムズ閉鎖が長期化してサウジが経済難になっていくと、エジプトやヨルダンはサウジに頼れなくなり、新たな経済構造を模索せねばならない。その際に、中国からの投資で産業発展できると好都合だ。
イラン戦争の長期化でサウジが財政破綻する

リクード系は、イスラエルの傀儡であるエジプトやヨルダンの経済安定を望んでいる。そのために使えそうなのは中国だ。中共がエジプトを経済支援してくれるなら「一帯一路」という覇権用語を使っても良い。いやむしろ積極的に使ってくれ。
そういう感じで、リクード系が習近平に、10年ぶりのエジプト訪問に行かせた、と考えることができる。
Xi in Cairo: How China’s yuan push could help Iran evade sanctions

習近平はまた、9月12日から印度のニューデリーで開くBRICSの年次サミットに、400人の高官らを引き連れて参加する。習近平は、昨年のブラジルでのBRICSサミットを欠席し、非米側の主導役を放棄した観がある。今年の大規模な再参加で、習近平は非米側の主導役に戻るのか??。訪米するのに国連総会を無視する姿勢と矛盾してないか??。
China's Xi likely to visit India with big delegation for first time in seven years

これも、行き先が印度であることに注目すると、一段深い考察ができる。印度は、イスラム敵視の人気取り策で政治力を強めたモディ政権になってから、イスラエルと親密になった。リクード系のトランプやUAEとも親しい。
印度は独立以来の非同盟な感じを活かして、米欧日と非米側の両方と親しくしている。米イスラエルの側にいるのにイランとも親しい。
英国系はかつて、世界分割支配のために中国と印度の対立を扇動した。安倍晋三とトランプも、米日豪の中国包囲網に印度を取り込んだ。

だが同時に印度は、2008年の創設以来、中国と並んでBRICSの加盟国だ。習近平は非米側の覇権拡大策の一環で、2018年にモディと和解する画期的な武漢会談を行い、それ以来、中印関係はゆっくり好転してきた。
中国にとって印度は、国境を接する隣国であり、対印関係はBRICSの覇権の話だけでなく、自国の安全に直接結びつく問題でもある。
India and China resume historic border trade

習近平は今回BRICSサミットを機に印度を訪問し、中印関係を大きく好転しようとしている。8月には中国と印度の国境貿易も(象徴的に)再開された。
中国は印度の発展に貢献できるので印度側も歓迎だ。モディの印度はリクード系なので、米イスラエルも習近平の訪印に好意的だ。ここでも習近平は、リクード系に許されて外遊する。
習近平が米イスラエルの言いなりだなんて、左翼の媚中派には許せないことだろうが、それが今の世界の、当たらずといえども遠からずな現実だ。



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