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トランプの優勢

2026年3月3日   田中 宇

トランプ米大統領は、イスラエルの傀儡すぎて米国で人気を失いつつある。イランは政権転覆されず、イランと傘下のヒズボラやフーシ派が米イスラエルに反撃し、トランプはイラン系との戦争の泥沼にはまって大失敗していく。今秋の中間選挙で共和党が惨敗し、2028年の大統領選でトランプの後継者(バンス?)が負けて民主党が返り咲く。イスラエルは巨大な人道犯罪を繰り返して世界から孤立し、トランプを巻き込んで潰れていく。ざまあみろ。そんな予測が出回っている。
Trump bit off more than he can chew with Iran - ex-Pentagon analyst
Iran Names Interim Successor To Khamenei Under 2nd Day Of Massive Bombs, Trump Demands Regime Change

私から見ると、それらの予測はかなりの噴飯物だ。イランは、ベネズエラ型のソフト転覆になる可能性が高い。最高指導者ハメネイ死亡後、イランの上層部は憲法の規定に沿って、国権の最高機関である聖職者集団の護憲評議会の代表(アラフィ)、行政府の代表である大統領(ペゼシュキアン)、イスラム法の司法府代表(モホセニエジェイ)の3人で構成する臨時指導評議会を結成し、ハメネイの職務を代行し始めた。
Iran president, 2 officials to lead transition after Khamenei's death: state TV

イランの権力構造は維持されている。政権転覆されてないぞ、という声が聞こえる。いやいや。トランプが1月3日から挙行しているベネズエラ方式では、大統領のマドゥロを米軍が逮捕拉致した後、憲法の規定に沿ってロドリゲス副大統領が暫定大統領に昇格し、ロドリゲスが表向き反米主義を掲げ続ける感じを醸しつつ、実際は米国と相談して親米的な政権運営を開始している。
トランプによるソフト転覆は、米国が軍事力で敵性諸国の指導者をすげ替えるが政体は名目的に維持し、新たな指導者と交渉して実質的な親米政策に転向させる策だ。
米国は、マドゥロ拘束前からベネズエラと交渉を重ね、ソフト転覆への道筋をつけていた。
ベネズエラ支配 成功への道

同様に、米国はイランと以前から交渉を重ねていた。ハメネイが殺されたことからは、ハメネイ自身はモスクワ亡命などソフト転覆に応じることを拒否していたと考えられるが、ハメネイ以外のイラン上層部の中に、ソフト転覆に協力する勢力がいたとしても不思議でない。
イランは転覆されるのか?

もしくは、ハメネイ死亡後の臨時指導評議会がソフト転覆に協力しているとか。そうだったとしても、水面下での動きなので状況が外部に漏れることはなく、イランもソフト転覆になるかどうかは結果論としてしかわからない。
イランがソフト転覆にならない場合、イラン側がソフト転覆に応じるまで、米イスラエルがさらにイランを攻撃する。米イスラエルの暴力によって、いずれイランはソフト転覆に応じる。
イラン攻撃でイスラエル中東覇権の確定へ

イランと傘下のヒズボラやフーシ派が反撃し、米イスラエルが苦戦して政権転覆どころでなくなる、という可能性はほとんどない。イランもヒズボラもフーシ派も、昨年から何度も米イスラエルに攻撃され、戦闘能力が大幅に落ちている。
ヒズボラは、カリスマ的な最高指導者だったハッサン・ナスララがイスラエルのピンポイント攻撃によって2024年9月にあっさり見事に殺されて以来、戦意が低下し、レバノンにおける政治力も失っている。
それ以降のレバノン政府は、基本的に米イスラエルの傀儡になっている。ハメネイ殺害後、ヒズボラの残存勢力がイスラエルに報復攻撃を開始したが、その直後、レバノン政府のサラム首相がヒズボラに攻撃を禁止した。
かつてレバノンで最強の政治力を持っていたヒズボラは、今や反政府勢力に落ちぶれ、見る影もなく弱体化している。レバノンは国家として米イスラエルを攻撃する気が失せている。中東では「善悪」よりも「力」が重要だ。
Lebanese PM bans Hezbollah’s military activities after attack on Israel

米国におけるトランプへの支持や政治力がこれから低下するという予測も、私から見ると間違いだ。トランプがイスラエルの傀儡であることは間違いない。それを理由にトランプを批判する米国民が増えているのも事実だ。
イランは米国に脅威を与えていなかったし、イランが核兵器開発しているという話もイラン敵視のためのウソだった。イスラエルのガザ虐殺が巨大な人道犯罪であり、パレスチナ人に同情してイスラエルを非難する米国民が増えているのも事実だ。
Americans now more sympathetic to Palestinians than Israelis - poll

だが、二大政党制の米国で、トランプの共和党よりもイスラエルを批判する傾向が強い民主党が優勢になり、今秋の中間選挙や2028年の次期大統領選で民主党が勝って政権に返り咲くかというと、そうではない。
米国は、イスラエル傘下のトランプ系が支配している。諜報力は政治力だ。米民主党は英国系なので政治力が低下し、もう勝てない。マスコミなど民主党系の勢力は自分たちの諜報力の喪失に気づいてないので、今年の中間選挙で勝って巻き返せると思っているが、それは間違いだ。

民主党本部(DNC)は最近、2024年の大統領選でハリスがトランプに負けた敗因の分析をまとめたが、それを公表せず非公開のまま隠蔽してしまった。隠蔽したのは、最大の敗因がパレスチナ問題だったからだ。
諜報界を通じて情報操作ができるイスラエルは、パレスチナ問題でイスラエルを批判する民主党を敗北に追い込んだ。ハリス陣営は、敗北を避けるためにイスラエル批判を少なめにしたが、それは党内左派のパレスチナ支持者たちを怒らせ、党内の亀裂を大きくした。
ハリス陣営はどっちつかずな態度を取らざるを得ず、ゴリゴリの親イスラエルで諜報界から支援されたトランプ陣営に惨敗した。
The DNC Covered Up Its 2024 Election Autopsy, And Now We Know Why

DNCがまとめた秘密の敗因分析はそんな感じになっているようだが、それなら今後の選挙で民主党がイスラエルを批判しそうかと言えば、そうではない。民主党はイスラエルに対してどういう態度をとるか結論が出せないまま、イスラエルに対して中途半端に追従するだけだ。
イスラエルが米国を牛耳っていることすら、言及したら「ユダヤ人差別」で糾弾される。何も言えない。分析も発表できない。何も対策できない。だから民主党は今後も負ける。

民主党では極左のAOC(アレクサンドリア・オカシオコルテス)や、前回選挙で無能さが明確になったカマラ・ハリスが次期大統領選に出馬しそうだが、無能な彼女たちに投票したい人は民主党内でも減っている。
AOCは出馬の意思を表明するかのように、欧米間の安保会議であるミュンヘン安保会議に出席して安保関係でいろいろ発言したが、それはAOCの無知を世界にさらす結果になっている。
AOC's Ignorance Is No Laughing Matter

どっちつかずの民主党と対照的に、トランプの共和党は明確なイスラエル傀儡だ。トランプ政権の駐イスラエル大使のマイク・ハッカビー(キリスト教シオニスト)は、ハメネイ殺害前の2月下旬、タッカー・カールソンのインタビューに対し、イスラエルは中東で自由に領土や影響圏を拡大して良いんだと、旧約聖書の記述を根拠にして述べた。
Saudis Lead Arab Fury After Huckabee Floats 'Greater Israel' Vision

ハッカビーの発言はアラブとイスラムの諸国を怒らせたが、その直後に米イスラエルはハッカビー発言を具現化するかのようにハメネイを殺害した。
アラブやイスラム諸国は、米イスラエルに楯突いた国家元首がピンポイント攻撃で殺される新たな世界の出現を見て、ほとんど言葉を失っている。中東やイスラムの世界では、善悪よりも力がものを言う。
イスラエルは、すでに好き放題に中東(だけでなく全世界)を支配している。
Khamenei killing: America and Israel cross a new line in international politics

ガザ戦争の巨大な人道犯罪に対しては、人道重視の民主党内だけでなく、保守主義とか反イスラムとかキリスト教原理主義の立場から親イスラエルの傾向が強いはずの共和党の草の根勢力の中からも、イスラエル批判が出てきている。
あの巨大な人道犯罪は、さほど人道を重視しない保守派の人々にとっても受け入れ難い部分がある。民主党支持勢力は、露骨にイスラエル傀儡の姿勢をとり続けるトランプ政権は危ないぞと言っている。だが、すでに書いたように、この点では民主党の方が中途半端であり、分裂・弱体化しているので民主党の方が危ない。
トランプ系の米国支配はずっと続く。トランプは後継者にJDバンスを昇格させるようなので、次期大統領選はバンスの勝ちになる。
The Coming Conservative Turn Against Israel Goes Much Deeper Than You Realize

イスラエルが支配する巨大な諜報力(政治力)の恩恵を受けようとする為政者は、党派を問わず、自分の支持者たちの中から湧いてくるイスラエル非難に苦しめられる。
民主主義を重視して有権者の気持ちを尊重して政治家がイスラエル批判を発すると、その政治家はイスラエルの支援を受けられなくなって落選する。
イスラエルがガザで露骨な人道犯罪を展開した目的は、諜報界のライバルだった英国系を潰すだけでなく、傀儡化した政治家たちに民主主義を軽視・無視させるためだとも考えられる。強烈な「近代否定策」である。

政治家にとって有権者からの支持は政治力(民主主義の力)だ。政治家がイスラエルから諜報力をもらうには、有権者からのイスラエル批判の突き上げを無視し、民主主義の力を自滅的に削がねばならない。
政治家はその分だけ弱くなり、それを補うため、ますますイスラエルの傀儡になる。それがイスラエルの意図的な人道犯罪の目的だろう。

トランプのソフト転覆策は、今のところ批判の対象だ。しかし今後時間が経つほど、ソフト転覆された後のベネズエラやイランが、米イスラエルの味方(傀儡)に転換して経済制裁を解除されて発展し、世界の安定に寄与するようになると、トランプの策を評価する人が増える。
トランプは中南米において、ベネズエラの次にキューバをソフト転覆しようとしている。キューバがソフト転覆されて親米の国に転換すると、トランプは戦後の歴代の米大統領が誰もやれなかったことを達成することになる。
ごく一部の極左以外の多くの人が、トランプはすごいと思うようになる。トランプは優勢だ。
Trump: "Maybe We'll Have A Friendly Takeover Of Cuba"

トランプの背後にいる米諜報界(リクード系)は、多極型世界の覇権国になるはずだった習近平の中共にも隠然と内政干渉して脅している。
今回のハメネイ殺害により、リクード系は、習近平をもピンポイントで殺せることを示した。習近平はざまみろ的にビビって沈黙しており、すでにリクード系の言いなりだ。
イスラエルと中国の暗闘

リクード系は、中共覇権の多極型になるはずだった世界に殴り込みをかけ、世界における中共の覇権を次々と削いでいる。中共と親しかったイランのソフト転覆はその一例だ。
中共は従来、アフリカにおいても経済開発の支援などで覇権を拡大してきた。だが最近、中共はアフリカ(やその他の世界各地)への投資を減らしている。
エネルギーの分野では、中国からアフリカへの投資がピーク時(2015年)から85%も減っている。中国は2024年だけでアフリカへの投資を46%減らしたという調査結果もある。これらは、中共が戦略的にアフリカから撤退していることを示している。
'Out Of Africa': Beijing Slashes Investment Up To 85%

その理由として、中国の国内経済が悪化し、中共は外国でなく国内に資金を投入せねばならなくなったからだという説がある。アフリカは中共にとって、投資の時代から貿易の時代に転換したという説もある。それらはそうかもしれない。
だがそれだけでなく、米国でトランプが返り咲く前ぐらいから、世界の覇権状況は多極化よりもリクード化が優勢になり始め、それを察知した中共は、やられる前に自主的に世界から撤退してリスクを減らしてきたとも考えられる。

リクード系に支えられたトランプは、中共に対しても優勢なのだ。トランプは表向き習近平に対して優しい態度をとり、お得意の脅しや中傷を発することが少ないが、その裏には、米諜報界から隠然と脅された習近平が自主的に覇権を放棄しており、トランプやリクード系が満足している現状がありそうだ。



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