米政府閉鎖で敵性職員を排除するトランプ
2025年9月27日
田中 宇
米政府はかなり前から、議会で2大政党が接戦状態で政府予算をすっぱり決められず、数カ月ごとの暫定予算をつないで財政をやりくりしてきた。暫定予算の期限が近づくたびに、野党(大統領でない方の党)が意地悪して次の暫定予算をなかなか通さず、危機や騒動になってきた。
期限を超えて次の暫定予算が決まらないと、不要不急の機関の閉鎖や連邦職員の一時帰休が起きる。放置すると米国債の利払いも滞って金融危機になる。
(Trump Admin Plans Federal Job Cuts As Dems Threaten Shutdown Over $1.5 Trillion Leftist Wish List)
(米国債がデフォルトしそう)
今回は、今年3月に決めた暫定予算が、9月末に期限を迎える。次の暫定予算は、議会で下院を通過したが、上院でモメている。野党の民主党は、トランプが削った福祉分野など1.5兆ドルの予算を復活しないと通さないと強硬姿勢だ。10月1日から緊急事態になると予測されている。
(Trump Slams 'Unserious' Dems As Government Shutdown Looms: What To Know)
通常なら、大統領のトランプが困るはずだ。しかし今回は違う。
トランプは、10月1日に政府予算が足りなくなるのを逆手に取って、連邦政府内の民主党系の敵性職員を大量解雇したり、過去の民主党政権が作った環境や人権などリベラル系の政策を担当する部署を廃止しようとしている。
トランプは「民主党のせいで予算が通らず、仕方がないので米国のためにならない職員や部署を潰す」という策略だ。
(Government Shut Down Would Let the White House PERMANENTLY Fire Government Employees)
トランプは大統領就任後、イーロン・マスクに担当させたDOGE(政府効率化省)に世界支配系やリベラル系の部署の廃止や減員を進めさせた。マスクは、廃止騒動になったUSAIDに象徴される、米覇権系の諸組織を潰そうとした。
これに対し、おそらくイスラエルから横やりが入り、トランプはDOGEの勧告の多くを無視して実行しなかった。
(イーロンマスクを激怒させた意味)
イスラエル(リクード系)は、911からトランプ台頭までの約15年間で、英国系から米諜報界を乗っ取っている(最後の抵抗者はオバマ)。トランプが英国系を潰して米覇権体制を崩した後、イスラエルは米諜報界を居抜きで残し、イスラエル覇権の拡大と維持のために再利用したい。
イスラエル傀儡なトランプはそれを知っているが、マスクには知らせなかったので、DOGEは米諜報界の資金や組織を削減しようとした。イスラエルはトランプを加圧し、DOGEの勧告を無視させた。マスクは怒ってトランプから離れた(最近、左翼リベラル潰しに参加するために戻ってきた)。
(世界を敵に回すイスラエルの策)
今回の政府閉鎖を利用したトランプの敵性職員・部局の排除は、おそらく、イスラエルが乗っ取って使っている諜報界を侵害しないように進められる。
暫定予算が切れて政府閉鎖が始まると、米国債への懸念から、債券や株の市場が悪化しかねない。だが、米金融バブルの膨張によって作られる巨額資金は、諜報界の運営費にあてられている。諜報界の新たな主であるイスラエルは、債券や株の崩壊を好まない(だからずっと、実体経済の悪化を全く無視して相場が上がり続けている)。
10月1日に政府閉鎖が始まっても、金融市場への悪影響は最低限に抑えられるのでないか。金融界もマスコミもユダヤ人(かつて英国系、今はリクード系)の牙城であり、金融と報道の両面で簡単に歪曲が行われる。
(トランプは金融システムをいじらない)
トランプ(とイスラエル)は、米上層部から英国系(リベラル派エリート)を追い出す策略を続けている。政府閉鎖のほかにも、戦争省のヘグセス長官が来週、世界各地に駐留している800人の幹部(将校)たちを米国に集めて会議を開くことも、この関係の策略と思われる。
米軍は世界に分散展開しており、こんなに多数の幹部たちを集めるのは前代未聞だ。しかも、会議の趣旨が明らかにされていない。将校たちも、会議の目的を知らされないまま緊急招集されている。何やら怪しげだ。
(US War Chief Summons Hundreds of Generals and Admirals for Urgent Meeting)
トランプは最近、米国の軍事戦略の中心を、ロシアや中国を敵視(脅威とみな)して世界覇権を維持することから外し、南北米州の支配や米国内の脅威(左翼)排除といった米州主義(孤立主義)を新たな中心に据えた。
トランプは、既存の米覇権体制(英中心)を放棄・破壊して、世界を多極型に転換し、米国は多極型の一部として南北米州を影響圏にする多極主義を進めており、軍事戦略の転換はその具現化だ。
(トランプの米州主義と日本)
ヘグセスが緊急招集した会議は、このトランプの軍事転換に関するものだと推測される。単独覇権体制の維持を好む英国系の将校たちを軍内から排除していく流れの始まりになるかもしれない。
トランプ政権になって、すでに6万人が国防総省(戦争省)を辞め(させられ)ている。
(More than 60K defense civilians have left under Hegseth—but officials are mum on the effects)
トランプの米国は、既存の米国の(表向きの)リベラルさを捨てて、軍内や党内の反対派を容赦なく粛清したスターリンのソ連や中共、北朝鮮みたいな国に近づきそうだ。これはトランプ個人の戦略でなく、今後ずっと(10-25年?)続く。
すでに目の前にある多極型の世界は、民主主義より民族主義(ナショナリズム)、左派より右派が強くなっており、戦後のリベラル世界と全く違うものになりつつある。
(911と似たトランプの左翼テロ戦争)
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