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米露が戦争で欧州をいじめる
2025年9月17日
田中 宇
9月10日の未明、ロシアのものと思われる20機ほどの無人飛行機(ドローン)が、ベラルーシからポーランドに入ってきた。
ポーランドは、ウクライナ戦争でロシアと敵対するNATOの加盟国であり、無人機の侵入は露軍の意図的な侵攻かもしれず、NATOはすぐに警戒態勢に入った。
オランダやイタリアなど他のNATO諸国の空軍も、すぐに戦闘機などをポーランドに飛ばして無人機を探し、4機を撃墜した。
無人機は兵器であり、これはロシアとNATOとの史上初の直接交戦だった。西欧諸国は、露軍の侵攻で第三次世界大戦の勃発かと懸念した。
(The Five Most Likely Outcomes From The Russian Drone Incursion Into Poland)
(Europe is closer to war than at any point since Ukraine invasion began)
だがしかし、NATOの盟主である米国のトランプ大統領は、この事態に対して「ロシアが(ウクライナに飛ばす無人機をポーランドに逸らせてしまって)間違えただけじゃないか」と発言するなど、緊張感がなかった。ルビオ国務長官も「もっと情報を集めないと(露軍の意図的な侵攻かどうか)判断できない」と慎重姿勢で、欧州諸国は苛立った。
(Trump Downplays Drone Incursion Into Poland As Likely 'Mistake', Angering NATO Allies)
(US wants to gather more data about incident in Poland before drawing conclusions - Rubio)
ロシアとポーランドの間には、ベラルーシやウクライナがはさまっている。ロシアの無人機は、ロシアからウクライナとベラルーシを通ってポーランドに入ってきた。
ベラルーシ政府は、侵入前の無人機がベラルーシ上空を通過中に、ポーランドとリトアニアの政府に対し、ロシア軍がウクライナに飛ばした無人機群の一部が、ウクライナ軍の電波妨害(ジャミング)によって統制不能になり、ベラルーシを通ってポーランドとリトアニアに入り込みそうだと通報していた。
ポーランドで撃墜された無人機は爆弾が積んでおらず、兵器としての機能がなかった。無人機の中には、目くらまし用のおとり機と思われるものもあった。
(2025 Russian drone incursion into Poland Wikipedia)
(The Reported Russian Drone Incursions Into Poland Might Have Been Due To NATO Jamming)
無人機は、ロシアがポーランドを攻撃するために送り込んできたものでなく、ウクライナとの戦争で使われるはずの無人機群の一部が、ジャミングを受けて統制不能になった結果、予定の進路をそれてベラルーシからポーランドに迷い込んできた可能性がある。
しかし、もし上記のような完全な間違いであるなら、無人機が逸脱し始めた段階でロシア政府がポーランドやNATO本部に連絡していれば、今回のような騒ぎにならなかった。ロシアは、それをやっていない。
(Why’d Polish Officials Contradict Trump On The Reason Behind Russia’s Drone Incursion?)
(European NATO members displeased with US reaction to ‘Russian drone incursion’)
無人機の騒動が起きた2日後の9月12日、ロシアはベラルーシとの大規模な合同軍事演習を開始した。ウクライナ開戦後の最大規模の演習だった。これも、無人機の侵入と連動しているかのようで、欧州の緊張感を高めた。
ロシアが、無人機事件で高まった欧州との緊張を良くないものと考え、緊張緩和を望んでいたのなら、合同演習を延期するとか規模縮小するなどしていたはすだ。
(Russia-Belarus Kick Off War Games Near Polish Border As NATO Tensions Soar)
だがロシア政府は欧州との緊張緩和を望んでいなかった。露政府(大統領報道官)は「NATOはウクライナを軍事支援しているので、それだけですでに欧州はロシアと戦争していることになる」という解釈を発表した。欧露は和解でなく戦争しているという姿勢だ。
(NATO ‘de facto’ at war with Russia - Kremlin)
9月14日には、ロシア軍の無人機がルーマニアに入り込んだ。ルーマニアもウクライナと隣接するNATO加盟国で、ロシアと仲が悪い。露軍は以前から、ルーマニア国境から近いウクライナのオデッサなど黒海岸の港湾施設を攻撃するために無人機を送り込み、その一部が進路をそれてルーマニアに迷い込む事態が時々起きていた。
ルーマニア政府はロシアを非難したが、露政府は「無人機の侵入など起きていない。証拠がない」と突っぱねた。
(Romania says Russian drone incursions pose ‘new challenge’ to Black Sea security)
(Romania Is 2nd NATO Country In A Week To Be Breached By Russian Drones)
9月15日には、ロシアとベラルーシが続けている合同軍事演習を見学するために、米国から2人の国防総省(戦争省)幹部がベラルーシにやってきた。
トランプの米政府は8月下旬から、ロシアとの和解策の一環として、ロシアと最も親しい同盟国でこれまで米国が敵視してきたベラルーシと和解する動きを進めている。米軍幹部が合同軍事演習の見学のためにベラルーシを訪問したのも和解策の一つだった。
(US Military Officers In 'Surprise Visit' To Belarus To Observe Joint Russian War Games)
戦争省に改名された米軍は、もうロシアを敵とみなしていないのだから、ロシアの子分のベラルーシとの和解も当然だった。
しかし、ロシアの無人機がベラルーシ経由でポーランドに侵入して、欧露が第三次世界大戦になるかと大騒ぎし、露ベラルーシが欧州との敵対を挑発するかのように軍事演習を開始した直後に、米軍幹部が演習見学のためにベラルーシを友好訪問するのは、トランプによる欧州いじめ以外の何物でもない。
(Minsk aims to gradually improve relations with Washington, says Belarusian leader)
ロシアの無人機のポーランド侵入は、ウクライナ(NATO)にジャミングされた結果としての逸脱(トランプが言うところの「間違い」)だった可能性もあるが、そうでなくて、ロシアが欧州を大慌てさせるために意図的に逸脱させた可能性もある。意図的な策略である場合、トランプもグルだ。
(Europe On "High Alert" As Polish Moms Train For War Against Russia)
トランプは以前から、プーチンのロシアと組んで、戦後ずっと米覇権を牛耳って世界支配してきた英国系の勢力(米民主党や英国やEUなど)を無力化し、世界を多極型に変え、米国を覇権の拘束(世界の面倒を見る義務)から解放しようとしてきた。
トランプを擁立(操作)する隠れ多極派(リクード系とロックフェラーなど)は、わざわざ2020年の米大統領選で民主党に選挙不正をやらせてトランプをいったん政権から引き離し、勝たせたバイデンにウクライナ戦争を開戦させて英国系を自滅の道にはめ込んだ。
(米大統領選、裏の仕掛け)
そして今年からトランプが返り咲き、プーチンと米露結束しつつウクライナ戦争の構図を継続し、英国系の自滅を加速している。先日のカーク射殺事件で始まった左翼退治で、米民主党はテロ組織扱いされて壊されていく。
(トランプの左翼退治)
トランプは欧州への軍事支援を急減し、諜報(軍事情報)も欧州に与えなくなった。米諜報界は英国系を追い出したイスラエルに牛耳られ、パレスチナを支援する英欧は諜報を閲覧不能にされている(そのためにガザの人道犯罪がある)。
今回の無人機騒動でも、ポーランドや英国などは諜報力がないので無人機侵入の詳細な状況を把握できない。ロシアに対して証拠を示して非難することができず、嘲笑されている。
(UK Foreign Office fails to provide evidence of Russian troops launching UAVs into Poland)
(Poland not ready for consultations with Russia on drone incident)
英欧の上層部には、勝てないウクライナ戦争を早くやめてロシアと和解した方が良いと合理的に考える勢力もいるはずだ。だが、合理論は勝てない。隠れ多極派は、絶対にロシアを勝たせてはダメだと強硬に主張する好戦派に英欧の上層部を乗っ取らせ、英欧が自滅するウクライナ戦争の構図を永続している。
(L’Allemagne devance les États-Unis en matière de financement de l’aide militaire à Kiev)
英欧のエリート層は、諜報力も兵器も足りないまま、勝てない戦争に押し込められ、財政を使い果たし、いずれ選挙で政権を反エリートな極右の諸政党(独AfDや仏ルペン派や英ファラジ)に奪われる。これが、世界的な英国系(米単独覇権の運営体)の終焉となる。
(Sergey Karaganov: Europe is fading. We must embrace a new elite for a new Russia)
トランプ政権は最近、ドイツのAfDの副党首(Beatrix von Storch)を大統領府に呼んで話し合いをした。トランプは、ドイツが英国系のエリート諸政党の政権から、親露で多極型世界を容認するAfDやBSWの反エリート政権に転換するのを待ち望み、AfDと話し合いを続けている。
(Top AfD politician makes surprise visit to White House)
(Conflict with Russia would be Germany's end - German politician)
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