他の記事を読む

ウソの敵対を演じる米露

2025年8月7日   田中 宇

米国のトランプ大統領と、ロシアのメドベージェフ前大統領(現安保会議副議長)がSNSの書き込みで相互に非難・誹謗中傷しあい、米露が互いを攻撃する軍事態勢を強める事態につながっている。米露が第三次世界大戦を引き起こしそうだと喧伝されている。
Gold Signals War - Martin Armstrong Warns Of "Panic Cycle In 2026"
世界大戦への仮想現実に騙される

メドベージェフはプーチンの忠臣で、2022年春のウクライナ開戦でロシアと米欧の対立が決定的になった後、おそらくプーチンに任命され、露政府が正式発表できないものの世界に対して発したい、米欧に対する挑発的で過激な非難や皮肉を発し続ける担当者をしている。
Trump Threatens Russia's 'Failed Former President' Medvedev Who Better 'Watch His Words'

私のメモを検索すると、3年半でその分野のメドベージェフの発言は50件近くある。英欧の自滅や世界の非米化・多極化に言及する彼の指摘はけっこう正しく、笑える皮肉発言も多くて楽しめる(米国側の軽信者やリベラルには理解不能だろうけど)。リベラルの間違いに気づいて保守化したロシア国内には彼のファンが多い。
‘The Americans are no longer the masters of planet Earth' - ex-Russian president

今回もメドベージェフはいつもの調子で、トランプの口だけのウクライナ和平仲裁の動きや、ロシアと貿易する印度などにトランプが懲罰的な高関税をかけたことなどを批判し続けた。
最近様子が違ってきたのはトランプの方で、メドベージェフの発言が米露核戦争の引き金になりかねないと危険視し、8月1日に防衛強化と称して米軍の原潜をロシアの近くへと前進させた。
米国が原潜からロシアを攻撃することはないと言われており、前進配備は米露対立を見世物として演出するトランプの策略の疑いがある。
Trump’s Beef With Medvedev Just Went Nuclear

今回の米露対立にはプーチンも間接的に入ってきて、新型ミサイル「オレシニク」の大量生産の体制を確立した(だから米国と戦争しても負けない)と表明したりした。
トランプ政権では、ルビオ国務長官が「ロシアは米国よりも弱いので、米露の戦争になったら戦術核兵器を使わさせるを得ない」などと言っており、これまた米露核戦争の扇動になっている。
Trump Deploys 2 Nuclear Subs After Medvedev's "Foolish, Inflammatory" Statement

トランプは、プーチン政権と喧嘩(演技)をする一方で、イスラエルのガザ戦争やイラン系との戦争など中東の問題では、米露が密接に連絡を取り合って仲裁などの対応をしている。
トランプは1期目から、既存のロシア敵視を乗り越えて対露和解を目指し、民主党やエスタブ側から「トランプはロシアのスパイだ」と濡れ衣をかけるロシアゲートをでっち上げられて苦労させられた。(米国では今まさにロシアゲートの冤罪性が暴かれている)
US congressman demands Soros testify over Russiagate plot against Trump

このようなトランプとロシアの関係を見ると、トランプは今回、メドベージェフの発言を好機として使い、米露が核戦争になりそうな感じを演出している可能性が高い。
トランプはロシアだけでなく、中国や印度などBRICSや非米側の他の諸大国に対しても、ロシアと貿易しているという理由で高関税をかける経済制裁を開始している。
Is Trump Hellbent On Derailing India's Rise As A Great Power

トランプは実のところ、米覇権を自滅させて世界を多極化したい非米側・隠れ多極派の人だ。トランプは、自分が非米側の人であることを隠すために、ロシアやBRICSを敵視制裁する策をこれ見よがしにやっていると考えられる。
トランプが露中印を敵視するほど、露中印は結束して世界の非米化を推進する。トランプがBRICSに高関税をかけるほど、BRICSは経済面で米欧に頼らなくなり、米欧抜きで世界経済を動かすようになり、世界の非米化が進む。
非米側の拡大

トランプとプーチンはウクライナ戦争に関してもひそかに協働し、ウクライナ軍の兵力が枯渇して戦えなくなっても、兵力を必要としない無人機やミサイルを多用して、ウクライナがロシアに攻撃を仕掛けて戦争が続いているという演出を続けている。
Ukrainian Long-Range Drones Hit Multiple Russian Refineries, Factories Overnight

ウクライナ戦争が長引くほど、既存の米英覇権の中心にいた、英独仏など英国系の諸国は自滅し(米国の英国系=民主党勢力もすでに無力)覇権が解体していく。
英国系諸国は、財政をウクライナへの兵器類の送付で浪費し、石油ガスも安い露製を買えなくなって国民生活が悪化し、不満を募らせる有権者たちが選挙のたびに既存のエリート支配層を追い出していく。
自滅させられた欧州

トランプとプーチンは協力して、英国系を自滅させるためウクライナ戦争の構図を長引かせている。
欧米が謀議して、失敗しているウクライナのゼレンスキー大統領を辞めさせて、もっとましな戦争屋のザルジニー将軍(駐英大使=英国系)と交代させる計画があると報じられている。
だが私の見立てだと、トランプ(やプーチン)はゼレンスキーを辞めさせない。大統領の任期が切れ、戦争も失敗しているゼレンスキーは政治正統性がなく、トランプの言いなりになってくれるからだ。
What's The Most Realistic Scenario In Which The West Might Replace Zelensky?

ここまで書いたところで「来週トランプがプーチンと会う」という話が出てきた。ウィトコフ米特使とプーチンがウクライナ停戦について話し合ってうまくいったので、トランプ自身がプーチンと会ってウクライナの話をするのだという。
Kremlin aide reveals details of Putin-Witkoff meeting

ウクライナが停戦和平するなら、私の分析は大外れだ。しかし、多分そうでない。
以前からの私の見立てでは、米露の話し合いの本当の中心はウクライナ戦争でなく、多極化の一環であるイスラエルの中東覇権拡大(ガザ戦争とか)の話だ。ウクライナは多分まだ停戦しない。
続くウクライナ停戦の茶番劇

ウィトコフはモスクワに行ってプーチンと会う前にイスラエルに行き、ネタニヤフと会ったり、ガザ現地に行ったりしている。
そもそも、トランプの中東特使であるウィトコフが、ウクライナ特使も兼務しているのが奇妙だ。全く違う分野なのだから、違う人にやらせれば良いのに。
Witkoff Visits Gaza To Investigate Aid Crisis, Hamas Dismisses 'Staged' Photo Op

おそらくウィトコフは、イスラエル(ネタニヤフ)の意志をトランプやプーチンに伝えるために特使をしている。イスラエルの覇権戦略にとって、ロシアは米国と同じぐらい重要なのだ。
ウィトコフは、ウクライナ戦争担当の特使を兼務することで、頻繁にロシアに行ってプーチンと会い、イスラエルの意志をプーチンに伝えている。
Trump, Putin To Meet As Soon As Next Week In Potential Breakthrough
イスラエルの覇権拡大

ネタニヤフは、ガザの全域を軍事占領する方針を打ち出している(ガザはシャロン首相がパレスチナ隔離政策を開始した2005年以来、イスラエルの占領下から外してあった)。
まだ全容が見えてこないが、イスラエルのパレスチナ抹消策が新たな段階に入るので、その話に米露が協力し、トランプとプーチンが会うのでないか。
Netanyahu senior officials say occupation of Gaza is next step, with US approval

世界の中心である米英諜報界はイスラエル(リクード系)に乗っ取られており、トランプとプーチンは、イスラエルに協力することで、自分たちの諜報力を増進しようとしている。今や米露イスラエルは一つの安保上の隠然同盟体(ブロック)であるとすら感じられる。
英国系潰し策としてのガザ虐殺
Putin, Netanyahu Hold Second Phone Call in Two Weeks



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ