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中東が戦争から和平に大転換
2025年6月27日
田中 宇
トランプ米大統領が、イランとの戦争が一段落したことを利用して、サウジアラビアなどイスラム諸国をイスラエルと和解・国交正常化させる「アブラハム合意」の拡大・本格化を進めようとしている。
イスラエルは昨年来、レバノンとシリアのイラン系勢力(ヒズボラとアサド)を次々と無力化し、今回はイラン本体を攻撃して軍事力を減退させた。イスラエルは、米覇権衰退後の多極型に転換した世界で中東の覇権国になるために、仇敵のイランを追い込んでいる。
(Witkoff: We will have big announcements on countries coming into the Abraham Accords)
イスラム主義やリベラル派のオルトメディアは今回、イランが勝ってイスラエルが窮地に陥ったと言っているが間違った妄想だ。もしかするとイスラエルが、イランとの和解に転じる下準備として、1970年代にエジプトと和解した時のように、負けたふりをする歪曲情報を流す策かもしれないが。
(リベラル派は以前、ウクライナ戦争でもロシアが惨敗しているというマスコミのウソも軽信。温暖化人為説もコロナの誇張も、簡単に騙されて軽信。知識人は間抜け)
(Khamenei’s fantasy world: Speech shows a supreme leader detached from reality)
イスラエルは、トランプの米国を自由に動かせることを示すため、イスラエルが持っていない大深度兵器バンカーバスターでトランプにイランの原子力施設を攻撃させた。
プーチンは米イスラエルを批判したが、イランへの軍事支援はしなかった。その理由は「旧ソ連から移民した露語話者が多いイスラエルは、ほとんどロシア系の国だから」。プーチンは親イスラエルであり、批判は口だけだ。
今回、軍事力と政治力を誇示するイスラエルに、本気で歯向かう国はない。
(Putin's surprising reason for not providing war aid to Iran: 'Israel is almost a Russian-speaking country')
こうした状況を見て、多極化が進んで米国に頼れなくなる前にイスラエルとの関係性(対立か、譲歩して和解か)を決めておねばならないサウジアラビアは「イスラエルがパレスチナ国家の機能破壊をやめて建国支援に転換しない限り、イスラエルと正式和解しない」と言っていたのを引っ込めつつある。
サウジ(権力者MbS皇太子)は譲歩し、イスラエルとハマスが停戦してガザ戦争が終わったら、パレスチナ国家が機能不全なままでも、アブラハム合意に入ってイスラエルと国交正常化することにしたようだ。トランプの中東特使ウィトコフや、ネタニヤフが、そのように示唆している。
(イスラエルはパレスチナ抹消を世界が認めるまでイラン攻撃する?)
イスラエルは、ハマスが残っている人質全員を解放し、ハマス幹部(やその他のガザ市民)たちが第3国に亡命(移住?)してガザでの活動をやめたら、停戦しても良いと言っている。この条件をハマスが了承すると、サウジがアブラハム合意に入る。
(Netanyahu interested in meeting Trump in coming weeks, sources tell 'Post')
サウジが入ると、インドネシア、カタール、クウェート、オマーン、ニジェール、マリ、ジブチなどのイスラム諸国もアブラハム合意に入る。
サウジが入らない場合でも、アゼルバイジャン、アルメニア、シリア(HTS政権)が合意に入りそうだ。ヒズボラが潰されて政府が親米になったレバノンも入りうる(民意が極度の反イスラエルなので不透明)。
(Netanyahu says victory opens path to expand Abraham Accords)
トランプは、イランと和解する話も進めている。トランプは、イスラエルに頼まれてイランの原子力施設を攻撃せざるを得なくなる前もイランとの和解を進めており、攻撃し終わると和解路線に戻った。
自分の側の勝手な都合で翻身し、和平と戦争を行き来するトランプに対し、イランは怒っている。トランプは、イランをなだめるため「イランは、核施設を破壊されて濃縮ウランを作れなくなったのだから、もう核合意を結ばなくても和解できる」などと言っている。
(US Reportedly Mulls Easing Iran Sanctions, Assisting Non-Enrichment Nuclear Program)
トランプは、イランと和解できたら、イランをイスラエルと和解させてアブラハム合意に入れようとしている。
先週まで激しく戦争していたイランとイスラエルが和解するはずがない、とも思える。だが、世界が多極型に転換する前の今のうちに、米国の仲裁を受けてある程度和解しておいた方が良いのも事実だ。
米政権が多極派のトランプ系でなく、単独覇権の幻想を追い続ける民主党側に戻ったら、今回のような仲裁もやってもらえなくなる。イスラエルと、イランやサウジの和解は今が好機だ。
(Trump says US will meet with Iran next week, asserts nuke deal ‘no longer necessary’)
もともと今回のイラン戦争は、トランプがイスラエルの協力を得て米上層(諜報界)の敵たち(英国系)をはねのけて政権に返り咲き、非米側を助けて多極化を推進しようとした時、イスラエルが、中東の覇権国(の一つ)の座をもらうだけでなく、英国系から背負わされてきたパレスチナ問題の抹消と、仇敵イランの勢力削減を条件に出してきたのが始まりだ。
(Netanyahu decided on Iran war last year, then sought to recruit Trump)
イスラエルが望むイランの勢力削減がどこまでのものなのか不明だが、今回のイランとの停戦で、ネタニヤフは目標達成を宣言しており、トランプが望むアブラハム合意の拡大にも賛成している。
いったん和解したら、その後さらにイランを攻撃するのは得策でない(再度の和解が困難だから)。イスラエルは、イランの勢力を十分に削減できたと考えているのでないか(政権転覆までやるつもりでないかと最近の記事に書いたが)。
(イランとイスラエル 停戦の意味)
パレスチナの抹消は、まだ西岸もPA(自治政府)も残っている。だが、もしサウジやインドネシアがアブラハム合意に入るなら、それはアラブやイスラムの諸国がパレスチナへの固執を大幅に減らしたことを意味する。
イスラエルがパレスチナ抹消を続けても、アラブとイスラム諸国の多くはイスラエルを敵視しなくなる。パレスチナは見捨てられるが、中東は諸大国間の和解が成立して安定していく。
そのうち台湾も米国に見捨てられ、韓国と北朝鮮の和解が始まり、日本は対米従属の維持を許されつつ、多極化による世界の安定というトランプ(やロックフェラー)の目標が達成されていく。
(中東安定のためにイスラエルがイランを空爆)
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