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今後の世界経済
2024年4月21日
世界の2つの主要な航路で、どの船を通し、どの船を通さないかという通行許可を、イランが握ることになった。
欧州(地中海)とアジア(インド洋)をつなぐ、スエズ運河から紅海への航路を、昨年10月のガザ開戦直後から、イエメンのイラン傘下のシーア派武装組織(与党)のフーシ派が握っている。
フーシ派は、親イスラエル国の船を空爆して追い払う半面、中露など非米諸国の船は通す。紅海は世界の海路貿易の3割が通る。
またイランは最近、イスラエルとの戦争に際し、自国の前にあるホルムズ海峡(ペルシャ湾とインド洋をつなぐ海峡)で、イスラエル系のコンテナ船を拿捕しており、ホルムズ海峡の通行許可もイランが握り始めている。ホルムズ海峡は、アラブ諸国の石油を世界に輸出する航路にある。
(Heading For Supply Shock? Four Maritime Chokepoints Flash Red As Escalating Conflict Looms)
(中国に棚ボタな紅海危機)
以前は米国の軍事外交力が強く、イランや傘下勢力が通行権を握ろうとしても米軍に阻止されて無理だった。だが最近は米軍が弱くなり、フーシ派やイランの行動を阻止できない。
米国が阻止できなくなったので、紅海やホルムズ海峡をイラン系が握る事態は今後ずっと続く。商船やタンカーは紅海を避けて2週間長くかかる喜望峰を回らずを得ず、運賃の高止まりから世界的なインフレが続く。商船がフル稼働になり、運べない商品が増えて物不足も続く。
サウジアラビアなどペルシャ湾岸産油国は、イランに輸出路をふさがれて大変かと思いきや、そうでもない。サウジは、石油価格の高騰を歓迎している。イランとサウジは昨年、習近平の仲裁で和解しており、もう敵同士でない。
("The Federal Reserve Is Clearly Trapped")
(サウジをイランと和解させ対米従属から解放した中国)
サウジは表向き親米・米傀儡国を演じ続けながら、実質的に中露イランと結託する非米側の国に転換している。非米側は、世界中の資源利権を米欧から奪い返し、戦後ずっと続いてきた新植民地支配を終わらせ、米欧に資源類を高く売りつけて立場を逆転したい。
その流れを作るために、イラン系がホルムズ海峡や紅海を握ることは、非米側にとってこっそり嬉しいことだ。サウジは米傀儡を演じつつ「仇敵イランにやられた」ふりをして、実は喜んでホルムズ海峡の断続的な閉鎖を受け、石油高騰で儲ける。
("Obviously, This Is Very Bad News For Biden": Wall Street Reacts To Today's Red Hot Inflation Print)
米議会では超党派で、中露イランを「新・悪の枢軸」に指定しようとしている。米国は傀儡の欧日を引き連れて、今後ずっと中露イランを敵視し続ける。イラン系の航行制限による資源類の高値、品不足、インフレがずっと続く。
米国はこれから中国との経済的な断絶も強化し、日本など傀儡諸国にも強要する。日本は、最大の貿易相手である中国との縁切りを強要されて不況がひどくなる。中国は、米欧日との経済関係を非米側との関係に切り替えて発展を維持する。
(US house speaker announces ‘new axis of evil’)
プーチンのロシアは、米国による長期的な「新・悪の枢軸」指定をひそかに喜んでいる。ひとくくりにされて米欧から敵視された中露イランは、サウジ印度など他のBRICS諸国も巻き込みつつ結束し、既存の米国中心の世界経済システムから切り離された、独自の非米的な世界経済システムを、時間をかけて入念に構築できる。
非米側はすでに資源類も巨大消費市場も製造技術も持っている。今のような米国側と非米側の決定的な分断が25年も続けば、非米側だけで世界を長期に繁栄させる体制を作れる。米欧日は、今よりずっとショボくなる。非米側が先進国で、米国側が後進国になる。発展途上でなく、衰退中のあわれな後進国だ。
(Shift from dollar-based financial world to CBDC-focused system is IMMINENT)
米国は、紅海など国際的な流通網の詰まりだけでなく、国内の流通網の詰まりも続いているため、インフレがおさまらない。マスコミ権威筋は「今年はインフレがおさまり、米連銀が何回も利下げする」とウソの予測を発して株価を吊り上げてきたが、実はインフレがひどくて利下げできない。むしろ、追加利上げが必要なことが最近露呈している。
(Forget Cocoa, Coffee. There's A "Squeeze Risk" Building In The Tin Market)
米当局は、インフレ激化を受けてやめてしまったQE(造幣による債券買い支え)の代わりに、政府の財政赤字を100日ごとに1兆ドルずつ増やし続け、その資金で株や債券をテコ入れしている。だが、財政赤字の急増は米国債の過剰発行になり、長期金利の上昇を引き起こし始めている。
国債金利の上昇は、米政府の利払い増加となり、財政赤字をさらに増やす。IMFなどが米国に警告したが無視されている。財政赤字の増加で金融相場をテコ入れしているのであれば、1-2年以内に継続不能になり、金融危機を引き起こす(裏帳簿による不正な資金生成でテコ入れしているのであれば、もっと続く)。
(Precious Metal Soars Above $2,400 After Sudden Gap Higher)
(金融システムの詐欺激化)
非米側を主導するBRICSは今年、加盟諸国がデジタル通貨(CBDC)を新設し、それでBRICS内の相互貿易を決済する新体制を導入する。
BRICSのCBDCは、貿易を担当する国有企業や大企業のみが使う。一般市民は使わない。単一のBRICS共通通貨を作れるのは何年も先になるので、当面は各国通貨の相互利用になる。BRICS内の貿易は不均衡も多いので、貿易不均衡は金地金の支払いなどで定期的に精算する。
(Lavrov states West’s growing concern about BRICS plans to develop own financial tools)
それらの話がどの程度まで進んでいるのか、最近ほとんど見えてこない。BRICSでは昨年まで、ロシアが能弁に非米側の新しい世界経済システムの諸案を語っていたが、最近はロシアもあまり表明しなくなった。
BRICS経済の中心である習近平の中国が、BRICSの新システムはできるだけ秘密裏に構築した方が、米国側から破壊されにくいので良いと考え、ロシアなど他の参加国にも隠密行動を要請したのでないか。決定的に勝つまで隠密行動を続けた方が良いというのは「孫子の兵法」だ。
(BRICS - The Project Of The Century)
(BRICS共通通貨の遅延・これも目くらましか?)
サウジアラビアは今年からBRICSに入ったはずだが、まだ入っていないという説が出ている。サウジの「親分」である米国が、敵である中露がやっているBRICSに入るなと加圧しているからだという。
これに対して中露は「サウジはすでに加盟国として会議に出て活動している」と言っている。どうやらサウジは、米国側に対して「まだBRICSの正式な会員でないです」と言い訳しつつ、実際は正規会員として活動しているようだ。これも非米側の隠密行動の一つだ。
(Saudi Arabia has not yet joined BRICS - Saudi official source)
ロンドンのLMEとシカゴのCMEという、米英の商品取引所では最近、対露制裁の一環として、ロシア産の資源類(アルミニウム、銅、ニッケル)の市場での取引を禁止した。ロシア産の資源類のほとんどはウクライナ開戦後、米英の市場を通さず長期の相対取引で輸出しており、LMEなどでの取引禁止は対露制裁の効果がない。
(US, UK Ban Deliveries Of Russian Copper, Nickel And Aluminum To Western Metals Exchanges: Here's What This Means)
むしろ、ロシアが資源類をいくらで売っているのかわからなくなり、非米側で流通する資源類の取引価格がますます不明になる。米英は非米側に対し、習近平が好む隠密行動をとるよう、わざわざ仕向ける(隠れ多極主義的な)超愚策をやっている。
資源類の利権の大半はすでに非米側にある。非米側の資源大国であるロシアを米英の商品取引所から締め出すことは、長期的に、米国側の資源の不足や高騰を引き起こしていく。
(US Ban of Russian Aluminum on Global Exchanges May Impact World Market - Trade Group)
(Aluminum, Nickel Soar Then Slide After Western Sanctions On Russian Metals)
非米側は、経済システムの構築を秘密裏にやるようになり、情報が出てこなくなっている。米国側は、不景気なのに(財政赤字や裏金の注入で)株が高騰するインチキな事態になっているのに、マスコミ権威筋が「景気は株価の要因でなくなった」などと新たなニセ理論を喧伝する馬鹿げた事態になっており、出てくる情報が無意味・不合理になっている。
意味のある情報が減り、私は経済分析の記事が書ける量が減り、年初から購読料を半額にした。この傾向は、今後も続く。米国側で流布する経済情報は、さらに頓珍漢になっていく。
(IMF Prepares Financial Revolution - Say Goodbye To The Dollar)
金相場は今後もっと上がる。今年末までの金相場の上昇予測として、ゴールドマンサックスは1オンス2700ドル、バンカメは3000ドル、UBSは4000ドルを予測している。この2週間に、金相場は2300ドルから2400ドルへと上昇した。
金相場は高すぎるから反落するという予測もあるが、それは金地金のライバルである債券やドルを擁護するための政治的主張だろう。売り資金の注入で瞬間的に暴落させられても、その後じわじわ反騰して戻る。
(Gold & Silver Are Entering Their Exponential Phase)
(金地金の高騰)
ウクライナや中東の戦争状態は今後も続くので、地政学的に見て金相場はさらに上がる。優勢が進む中露BRICS非米側は、自分たちの共通の備蓄通貨として金地金を好んでいる。
非米側を率いるに中露は、米国側のドルや米国債にもう価値を見出していない。ドル(米国側)と金地金(非米側)の対決は、地金が(隠密行動で)どんどん優勢になっている。だから金相場が上がっており、今後も続く。
(Wall Street raised its gold price expectations one after another: Goldman Sachs 2700, Bank of America 3000, and UBS 4000!)
米政府は財政赤字の急増・米国債の過剰発行を続けている。これはドルを弱め、逃避先として金地金を強くする。ビットコインも上がっているが、優勢になる非米側は民間仮想通貨を嫌っている。
ドルや債券はヨタヨタしてるが、まだ崩壊していない。いずれ崩壊感が強まると、金相場が急騰する。2700ドルはすぐに超えてしまう。4000ドルの予測の方がしっくりくる。
来年までドルや債券が崩壊せずに延命するだろうか。米連銀が裏金システムを持っているとか、新たな資金源を見い出せば延命する。そうでなく、財政赤字の増加にだけ頼っているのであれば、それは2年ぐらいしかもたないから、その後崩壊していく。
(Massive Financial Strain - New Report Exposes Horrifying Situation)
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