アポロ月面着陸の事実性2023年5月11日 田中 宇5月7日、ロシアの元副首相でロスコスモス(露国営の宇宙開発事業団)のトップだったドミトリー・ロゴジンが「米国のアポロ11号の月面着陸は、事実と思える証拠がない」とテレグラムで発言した。 ロゴジンは2018-22年にロスコスモスのCEOだった時に、社内に組織を作ってアポロ11号の月面着陸の事実性を調べさせたが、着陸した宇宙飛行士の証言などがあるだけで、事実と確信できる証拠がなかったという。 (РОГОЗИН НА ФРОНТЕ) (Ex-Russian Space Boss Finds 'No Proof' Americans Landed On Moon In 1969) ロゴジンは当時から、アポロ月面着陸の事実性を疑う発言を繰り返してきた。彼は、ウクライナ開戦後にロスコスモスのCEOを露政府から解任されるまで、NASAとの共同宇宙開発から手を引くかもしれないという脅しも言い続けていた。米国の関係者や政界はロゴジンを敵視していた。 ロゴジンは「露政府の高官ら宇宙開発関係者が私に、米露関係が悪化するのでアポロ月面着陸の真贋性を問題にしないでくれと言ってきた。私は単に、月面着陸が事実なら証拠を見せてくれと言っただけだ。誰も証拠を見せず、私を非難するだけだ。おかしいぞ」と言っている。 (Of course Russia's ex-space boss doubts US set foot on the Moon) ロゴジンだけでなく、米国でも共和党支持者など国民の2割がアポロ月面着陸の事実性を疑っている。ソ連との激しい宇宙開発競争の中で行われた1969年の月面着陸は、米政府がソ連に勝つ演技をするためにでっち上げられたウソだったのでないかという疑いだ。 そしてロゴジンだけでなく米国側で月面着陸の事実性を疑う全ての人々が、事実性への疑いを払拭する前にマスコミ権威筋から一方的に非難され、不満を強める結果になっている。アンデルセン「裸の王様」の構図だ。 この構図は、ケネディ暗殺、地球温暖化問題、911テロ事件(米当局がアルカイダやISISを支援している疑いなどテロ戦争全般)、コロナの超愚策(ワクチン、都市閉鎖、マスク義務)、ウクライナ戦争での善悪歪曲の疑いなど、他の多くの問題と共通している。 そうした他の問題との共通性をみると、1969年の月面着陸もインチキだったかもしれないと思えてくる。 だが、月面着陸もインチキだったと言い切る前に、本当に当時の状況を詳しく調べても事実性を確認できる確たる証拠がないのかどうか見極める必要がある。 ケネディ暗殺、地球温暖化、911テロ事件、コロナ超愚策、ウクライナ戦争は、調べていくほど公式説明を裏付ける確証がないことが顕著になる。月面着陸はどうなのか。私はこれまで、この件について調べたことがなかったので今回やってみた。 するとわかったのは、当時は米ソの宇宙開発競争が最高潮で、米国がアポロ11を打ち上げたのと全く同時期に、ソ連は無人探査機で月面着陸を目指すルナ15号を打ち上げていたことだ。 アポロが月面着陸した1969年7月20日、ルナは月面着陸に失敗して月面に衝突・墜落した。今年4月26日、日本の宇宙開発会社ispaceの探査機が月面着陸に失敗した時と似た状況だったようだ。 米国と宇宙競争で激戦していたソ連は、アポロ11号の動向をつぶさに観測していた。米ソは事前に連絡しあい、相互の打ち上げを邪魔しないことで合意していた。 ソ連は、アポロ11号のコースや旅程を知っていたし、2GHz帯などでの通信も傍受し、電波の発信地も把握できた。アポロが本当に月面に着陸したのかどうか、ソ連はすぐに把握したはずだ。 当時ソ連で宇宙開発を担当していた連邦宇宙局は、のちにロゴジンがCEOをつとめたロスコスモスの前身だ。ロゴジンは、社内の昔の文書を調べるだけで、アポロ月面着陸の事実性を確かめられた。 (民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション1 月面着陸について) 米国もソ連・ロシアも、宇宙開発に関する情報の多くを国家機密にしている。ロゴジンは、アポロ月面着陸の事実性を確かめても公表できないだろう。 しかし、それならロゴジンは「月面着陸が事実でないと思える情報が見つかった。情報の内容は(国家機密なので)言えない」と言うべきだ。「月面着陸の事実性を確かめる情報がない」という発言は間違いだ。 ロゴジンは副首相までやったのだから、プーチンに提案して当該文書の機密解除もやれた。少しの機密解除でアポロ月面着陸のウソを暴いて米国の信用と覇権の崩壊を加速できるなら、プーチンもやりたいはずだ。 しかし実際は、そんな展開になっていない。勘ぐるなら、当時のソ連の情報を見ると月面着陸が事実だったと考えられるが、それはロゴジンが目論む政治意図(米露敵対の扇動)と異なるのでウソを言ったことになる。 (Luna 15 - Wikipedia) ソ連は、ルナ15号で無人機による月面着陸に失敗したが、その後1年かけて改良を加え、1970年9月にルナ16号を打ち上げて無人機の月面着陸に成功している。ソ連も開発を続ければ1972年ぐらいまでに有人機の月面着陸をやれただろう。 当時の米ソの宇宙開発競争は接戦で、米ソは技術的に大差なかった。1972年にソ連がやれることを1969年に米国がやれたと考えることは無理がない。こうした全体状況から考えても、アポロ月面着陸は事実だった可能性が高い。 月面着陸の事実性は当初から疑われていた。米政府がアポロ11号に関する文書の機密解除をもっと上手に進めていたら、延々と事実性を疑われる事態を避けられた。 だが米政府はそれをせず、事実性に対する疑いが強い状態を野放しにし続け、疑う人々をマスコミ権威筋が敵視攻撃し続け、2大政党間やエスタブvs草の根の対立を米社会で激化させた。 その結果として起きたのが、トランプ革命や、左翼リベラル過激化によるインチキな覚醒運動で米国が自滅する今の事態だ。月面着陸やケネディ暗殺、911事件などをめぐる事実性の脆弱さは(隠れ多極主義の策略として)意図的に放置された疑いがある。 (Luna 16 - Wikipedia) 米国は1969年に有人機で月面着陸したが、その後有人着陸を試みていない。ソ連・ロシアは1970年に無人機で月面着陸したが、ソ連もそこまでだった。ソ連の月面着陸はその後世界的に忘れられており、2020年に中国が無人機を月面着陸した時、マスコミは「米国に次いで世界で2カ国目」と報じた。本当は3番目だ。 月面着陸は国威発揚や覇権強化のために良い策だ。アポロの着陸は、普及したばかりのテレビで世界中の人が見たし、中国人のほとんどが自国の月面着陸を見(ることを奨励され)た。 (中国が月面に国旗掲揚、2カ国目) しかし、月面着陸の効用は多分そこまでだ。衛星通信やGPSなど、人類に多大な利便性を与え、商業的に成功した地球周回(人工衛星)の技術に比べ、月の開発や月面の利用は利得や儲けがない。 利得があるなら、アポロやルナの成功をもとに月の開発が進み、月への飛行が頻繁に行われていたはずだ。米国の資本家がいろいろ考えても月の開発は意味がなかったから、月面着陸は国威発揚で止まっている。 ロゴジンはアポロ着陸の事実性を疑う根拠としして「月面着陸が1960年代の技術でやれたのなら、その後着陸が行われていないのはおかしい」と言っているが、月面着陸は儲からないからもうやらないのだ。それにロゴジンは、自国(自社)のルナ16号のことを(わざと)忘れている。 (Russia dismisses space agency chief in wake of international controversies) ロゴジンはロスコスモスを離れた後、ウクライナ戦争の前線に行ってドンバスのロシア同胞たちを加勢している。これはロシア人として正しい行為だ。ウクライナ戦争でロシアは被害者だ。米国側の軍産マスコミとその軽信者たち(善良だと思いこんで実は知的怠慢なだけの市民)が加害者だ。日本などの軽信者がウクライナ人を殺している。ロゴジンは、ウクライナに関して正しい。しかし、それはそれ、これはこれ。アポロの月面着陸は事実だろう。 (Former head of Roscosmos now thinks NASA did not land on the Moon) (Russian space chief, former NASA astronaut Scott Kelly trade barbs on Twitter) アポロ月面着陸が「事実」だと言うと、マスコミを軽信する人々は「それなら温暖化や911やコロナやウクライナの公式説明も事実だよね」と言いたがるかもしれないが、それは違う。 温暖化や911やコロナやウクライナは、調べていくほど公式説明の間違いが強く感じられる。アポロ着陸は、調べていくと公式説明に事実性が感じられるとともに、国家機密によって事実性の補強が阻止されていることも見えてくる。 911テロ戦争も国家機密に覆われているが、あれは機密が解除されるほど米当局による自作自演性が強く感じられ、公式説明のウソがばれていく。 (単独覇権とともに崩れゆく米諜報界)
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