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単独覇権とともに崩れゆく米諜報界

2023年4月13日  田中 宇 

2001年の911テロ事件は、米諜報界のCIAが、当時とても親しかったサウジアラビア諜報機関の力も借りて、サウジ人らのエージェントたちに計画実行させていた可能性が高いことが、最近の米国の機密公文書の開示で明らかになった。これらのことは以前から指摘されていたが、今回はグアンタナモ監獄にとらわれている人々の裁判記録の機密解除というかたちで示された。この記録では、実行犯のうちの主犯格だった2人のサウジ人(Nawaf al-Hazmi と Khalid al-Mihdhar)が1年半かけてテロを計画して実行犯メンバーを募集する過程について、CIAがずっと行動を監視していたことが明らかになった。 ('Special' service: Declassified Guantanamo court filing suggests some 9/11 hijackers were CIA agents

2人は犯行18か月前の2000年1月にマレーシアから米国に入国したが、マレーシアでは2人を含むアルカイダが会議を開き、テロ計画について話し合った。CIAはマレーシアの諜報機関に依頼して、この会議を盗撮し、そのときの動画と写真が残っている。CIAは2人がアルカイダで、これから米国でテロを計画するつもりだと知りながら、2人を放置し、米国のビザを発給して入国させた。

2人は米入国後、サウジ諜報機関の要員アルバユミ(Omar al-Bayoumi)と会い、テロの実行犯になってくれるサウジ人などを探す行動を開始した。サウジ王政は、米国在住のサウジ人たちの間に王政打倒の民主化運動への支持が広がらないよう監視するため、米諜報界の許しを受け、諜報要員を米国内で活動させていた。サウジの諜報要員たちは、サウジ王政が運営資金を出していた全米のモスクのネットワークを使って動いていた。CIA要員の2人は、サウジ要員アルバユミが持つ在米モスク網を頼ってテロ参加者を集めた。モスク網の人脈には、サウジのイスラム主義を支持する者が多く、アルカイダに対する違和感が少なかった。 (仕組まれた9・11

CIAとサウジの諜報界が配下の要員たちにテロを計画させているうちに、FBIがこの事態に気づいて捜査を開始した。外国の要員絡みの話なのでCIAに何度も問い合わせたが、CIAは「知らない」の一点張りで、FBIに捜査をさせなかった。そのうちにテロ事件が発生した。 (Operation Encore: US releases previously classified record of FBI investigation into Saudi government’s alleged links to 9 /11 attacks

あのテロ事件は、倒壊した世界貿易センタービルが飛行機の衝突でなく、あらかじめセットされた爆弾の爆発で倒壊した可能性が高い。国防総省の爆発も、ジェット機の衝突でなくトラック爆弾によるものだろう。などなど、いくつもの不可解な点がある。「CIAとサウジの要員がサウジ人らを集めて旅客機をハイジャックして貿易センタービルと国防総省に突っ込んだ」という筋書きで説明しきれない点が多々ある。だが、何機かの旅客機が同時ハイジャックされたのは事実だろう。その犯人は、CIAとサウジの要員が集めた実行犯である。911が諜報当局の自作自演だったことは確定的だ。 (911事件関係の記事

米国では政府とマスコミがぐるになって911の自作自演性を隠蔽してきた。バイデン政権になって米国がサウジへの敵視を強めるようになると「911はサウジが政府ぐるみで起こした」という話がマスコミで「暴露」されるようになった。何のことはない、それまで全て隠蔽(指摘されても事実でなく無根拠な陰謀論と一蹴)してきた「CIAとサウジの諜報機関が配下の要員にテロをやらせた」話のうち「CIA」の部分を隠蔽したまま「サウジ」の部分だけ事実と認めて報じることで「サウジの諜報機関が在米サウジ人に911のテロをやらせた」というサウジ非難の記事が作られた。 (Operation Encore and the Saudi Connection: A Secret History of the 9/11 Investigation

実のところ、当時のサウジの諜報機関はCIAの下請けにすぎなかった。サウジ側は、CIAが自作自演の大規模テロをやらかすとは思わず、何かのおとり捜査に協力していると思っていたかも知れない。全容を知っていたのはCIAだけだ。22年後の今や、サウジの方が米国を見限って中露の側に転向し、911の話はどうでも良くなった。911は、米国が世界中で幻影的なテロ退治の戦争を引き起こす体制を作り出し、米国は各地で大失敗の戦争をやらかし続けて自滅していった。ウクライナ戦争がとどめとなった。 (サウジをイランと和解させ対米従属から解放した中国) (OPEC+の石油減産は米覇権潰し策

911に似た米諜報界の自作自演的な破壊事件として最近起きたのが、昨年9月のノルド・ストリーム爆破事件だ。いくつかの物的証拠も出てきて、あの爆破はセイモア・ハーシュの指摘どおり、米当局の仕業である可能性が高まった。ハーシュによるとあの爆破は、米大統領府が諜報界の本流に知らせないまま、大統領府が直接に米軍内部の諜報界の実働部隊を動かして挙行した(米諜報界が大統領府を飲み込んだ911とは逆の構図)。ノルド・ストリーム爆破事件により、大統領府と諜報界は決定的に断絶している。ウクライナにどんな戦略で戦争させるかという件でも、大統領府が諜報界に相談せずに勝手に稚拙な戦略を立ててゼレンスキーに実行させて失敗しているとハーシュは分析している。 (Seymour Hersh: Nord Stream Sabotage Led to ‘Total Breakdown’ Between White House, Intel Community

大統領府が諜報界に諮らずに勝手に稚拙な戦略を立てて戦争して大失敗した先例は、2003年のイラク侵攻だ(911で諜報界に飲み込まれた大統領府がイラク侵攻で反逆)。あの時は大統領府に巣食ったネオコン(隠れ多極派)が、米国の覇権を浪費する目的でわざと稚拙な戦争を大規模に展開して米国を失敗にはめ込んだ。今回も、大統領府にはネオコン系の人材(サリバン安保担当補佐官など)が入り込み、ウクライナに下手な戦い方をさせ、ウクライナは間もなく勝つとか露軍は自滅しているなど事実と逆のプロパガンダをマスコミに書かせつつ、欧州を巻き込んで軍事経済の両面で米国側を自滅させてきた。大統領府が主導したノルド・ストリームの爆破も、ドイツなど欧州の同盟諸国が米国に愛想をつかせるように仕向けた策略だ。 (WaPo: Officials at NATO Meetings Know Not to Talk About Nord Stream Bombings

米諜報界は、CIAや国防総省、国務省、それらの傘下の下請け会社、シンクタンクや外交専門家やマスコミ、軍事やエネルギーの産業界などで構成する複合体だ。軍産複合体や深奥国家と同じものであり、米国の覇権運営を担っている。米大統領は表向き諜報界より上位だが、諜報界は大統領府を盗聴したりして動きを把握した上で歪曲情報を注入することで、事実上大統領を支配している。大統領が諜報界と戦おうと思ったら、情報も部下も信用できない中で孤独の戦いを強いられ、だいたい失敗している。ケネディからオバマ、トランプまで皆そういう目にあった。 (China is ‘ghosting’ the US because normal diplomacy has proven useless) (David Stockman On Imperial Washington - The New Global Menace

米諜報界は、米国が覇権国になった終戦前後に創設されて以来、建前的には米国の覇権を守るための集団だ。だが当初から諜報界は、米国が国連を通じて多極型の体制を実践していこうとする多極派(ロックフェラー系)と、冷戦を起こして国連の多極型体制を破壊して米英単独覇権体制に塗り替える単独覇権派(英国系)とが内部分裂して暗闘が続いてきた。冷戦終結は多極派の勝利だったが、冷戦後に対米自立するはずだったEUは米傀儡のままで、中露も弱かったので多極化は起こらず、諜報界の自作自演だった911テロ事件によって世界は再び「アルカイダとの新冷戦」の構図を持つ単独覇権体制に戻るかに見えた。しかし、米諜報界と大統領府に入り込んだ隠れ多極派によって、イラク戦争からウクライナ戦争までの自滅策が次々と打たれ、米国がへこんで中露サウジなど非米側が台頭する多極化が誘発された。 ('Pentagon Leak' Shows US Dragging Allies Into War With Russia

欧日など米同盟諸国はこれまで米諜報界の多極主義的な傾向に見てみぬふりをしてきた。米覇権の崩壊が加速しているのに、同盟諸国はいまだに見てみぬふりだ。フランスのマクロン大統領が訪中して非米側に転向する感じを見せたが、これも米国側のマスコミではきちんと報道されず重要性が無視されている(フランスのいつもの裏切り、みたいな歪曲話になっている)。米諜報界の多極派は、見てみぬふりの同盟諸国を困らせてやろうと最近、米国が同盟諸国をスパイしていることを示す国防総省の機密文書の束を意図的に漏洩させ、騒動を作り出している。 (White House Says Don’t Report on Pentagon Leaks) (Pentagon Leaks: 5 Key Revelations

機密文書の束によると、米政府は韓国政府から武器弾薬を買ってウクライナに送ったが、これは韓国にとって違法なことで、米国は韓国に無断でこれをやり、韓国政府を苛立たせた。また、イスラエルでは諜報機関モサドの長官らが、配下の諜報部員や国民を扇動してネタニヤフ政権に対する反対運動を起こさせている。トルコやエジプトは、米同盟国なのに、こっそりロシア側に兵器を売ろうとしている。などなど、米当局は同盟諸国の政府が釈明に困るような内容をスパイして報告書にしていたが、その文書が漏洩した。 (Here are the biggest Middle East disclosures in the leaked intel docs

同盟諸国の政府はいずれも「そんな事実はない」と強く否定し、漏洩したとされる機密文書自体が偽物であると言ったりしている。米大統領府自身が、漏洩文書は本物だと認めてしまったが、同盟諸国はそれを無視している。同盟諸国は、米単独覇権体制のもとで長く安住してきたので、まだまだそこから出たくない。米覇権はこれまで何度か崩壊しかけた(ベトナム戦後など)が、その後蘇生しており、今回もまた延命するかも知れない、と同盟諸国は期待している。だが今回は違う。中露がどんどん多極型の新覇権体制を作り、米覇権は押しのけられて領域が狭まっている。今回の多極化は不可逆だろう。だからマクロンは訪中し、対米自立して中国と組むことにした。しかし、日本を含む多くの同盟国では、まだこの事態が理解されていない。 (South Korea warns of ‘fabrications’ in Pentagon leaks



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