仮想通貨を暴落させる中国2021年5月21日 田中 宇5月19日、ビットコインの対ドル相場が30%下落、イーサリアムの対ドル相場が44%下がるなど、仮想通貨の価値が暴落した。その後は反騰したが、昨年来の上昇局面の中でこんな暴落は初めてなので、これが相場の流れの転換になると指摘されている。 (The 30% one-day fall in bitcoin’s value looks like a turning point) (Crypto Market Crashes After China Extends Its Cryptocurrency Ban) 下落の一因は、中国当局が「仮想通貨は通貨でないので金融機関が取り扱ってはならない」とする通知を出したことだ(ほかにテスラが温暖化対策にかこつけて顧客からのビットコインでの購入代金受け取りをやめると発表したことも暴落の要因として指摘されている。テスラ自体も中共から見放されて落ち目になりつつある)。中共は2013年から「仮想通貨は通貨でない」と表明しており、今回の通知は新たなものでなく再通知だ。 (China Crackdown On Crypto Wipes $1 Trillion In Wealth As Ether Crashes 40%, Bitcoin Below $35k) 中国共産党は習近平の独裁体制になってから、中国の国内で自分たちが支配できないものが出てくることを許さなくなっている。たとえば、以前は勝手にやらせていたアリババなど中国のネット大企業の活動を中共が規制するようになったことなどだ。ネット大企業(グーグルやフェイスブックなど)は米国で政府をしのぐ力を持つようになり、トランプや共和党を打ち負かしている。中国のネット大企業も放置するとそのうち共産党の言うことを聞かなくなったり、米国の軍産複合体(諜報界)が中国のネット企業を通じて中共の政権転覆を画策しかねない。とくにアリババは中国を席巻する決済機能を持ち、中国系ネット大企業の筆頭でもあるので潜在脅威だ。だから習近平はアリババを虐待して弱体化させている。 ("Good Days Have Gone": A Shocked Wall Street Responds To China's Unprecedented Crackdown On Tech Giants) ネット大企業と同様、ビットコインなど仮想通貨は、中共の支配下に入らないものの象徴だ。仮想通貨の価値(対ドル為替)は、米連銀を頂点とする米金融界がQEの資金の一部で仮想通貨を買ってふくらませてきた。中共から見ると、仮想通貨は連銀や金融界など米国勢の支配下にある。中共が中国国内での自由な仮想通貨の流通を許すと、それは中国に中共の支配下に入らないものを入れることになる。仮想通貨も、ネット大企業と同様、米国(諜報界や金融界)の代理勢力として中国に入り込んで中共支配を崩そうとしかねない。だから中共は仮想通貨を嫌い、国内流通を許していない。 (中国主導の多極型世界を示したダボス会議) 中国は国力が小さかったこれまで、米国の単独覇権体制の傘下でうまくやっていくことを目指していた。トウ小平が天安門事件後に発した「外国(米英)から意地悪されても頭を低くして耐えろ」という24文字家訓がその象徴だ。しかしイラク戦争やリーマン危機で米国の覇権が自滅的に衰退したため、習近平は中国を米国覇権下から脱出させ、ロシアなどと連帯してユーラシアの独自の地域覇権国になっていくことを決め、一帯一路などをやり出した。連動して米国は、トランプもバイデンも、中国敵視にかこつけて世界経済の米中分離を進め、世界経済を米国の単独支配から米中による分割状態へと転換させ、中国の覇権拡大をこっそり容認・扇動して隠れ多極主義を推進している。 (中国の権力構造) この転換後、習近平の中国は、自国内に米国の覇権の代理勢力が入ってくることを拒否する姿勢を強めた。欧米企業が中国で欧米の商品を売るのはかまわないが、顧客である中国人の個人情報を大量に収集するサーバーは中国国内に置き、中共がいつでもサーバーの中身を見られる態勢にせねばならない。アリババなど中国企業は100%中共に服属せねばならない。ビットコインを中国人の資産備蓄に使わせてはならない。中共はいずれ、中国での米ドルの使用も制限していく。米ドルの国際決済は米当局(NY連銀)の監視下なので、米ドルを使う限り、その部分での対米従属(米国が中国に入り込んで好き勝手をし得ること)を容認せねばならないからだ。中共は、今年始めたデジタル人民元をいずれ国際利用してドルに代わる国際決済通貨にしたい。 (人民元、金地金と多極化) ビットコインの上昇はQE資金の注入によるものだと書いたが、QEは究極の金融バブルなので、仮想通貨の価値の増加もバブルだ。QEはドルの過剰発行であり、潜在的にドルの基軸通貨性を弱めているので、QEをやるほどドルのライバルである金地金の価値が上がる。金相場の上昇を防ぐため、米連銀や金融界は先物を使って金相場の上昇を防いできた。これに加えて近年出てきた新たな金相場の上昇抑止策が、ビットコインなど仮想通貨の価値を膨張させて「金地金は古い。これからは金に代わって仮想通貨だ」と喧伝するプロパガンダを流布し、投資家が資金を金地金から仮想通貨に移すように仕向けることだった。仮想通貨は金地金の当て馬としてバブル膨張してきた。 (ビットコインと金地金の戦い) このビットコイン(仮想通貨全般)と金地金の当て馬喧嘩の中で、中共はビットコインの敵で金地金の味方だ。中共は2015年から中国国内の金地金の保有量を増やす策を展開し、人民元に金本位制っぽい色彩を持たせようとしてきた。完全な金本位制でなくイメージ喚起だけだが、それによって人民元を国際通貨として強めたい。それを踏まえると、今のタイミングで中共がビットコインへの規制や敵視をあらためて表明したことは意味がある。最近、米国でインフレがひどくなり、コロナ危機長期化でQEをやりすぎたことによるドルの信用低下と相まって、金相場がQEによる上昇抑止を乗り越えて反騰し始めている。中共はビットコインへの敵視を表明し、金地金がビットコインとの喧嘩に勝つよう、加勢したのだと考えられる。 (金本位制の基軸通貨をめざす中国) 今後の相場の展開は、この構図のとおりに行かないかもしれない。だが中長期的には、米国の衰退と中国の台頭が進むと予測されるので、ビットコインと金地金の喧嘩も、金地金が優勢になっていくだろう。
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