東京五輪森喜朗舌禍事件の意味2021年2月13日 田中 宇女性蔑視と攻撃される舌禍事件を起こした東京五輪の森喜朗委員長が2月12日に辞任した。私が見るところ、この事件には報じられていない裏の意味・意図がある。米欧が中国(や親中国の非米諸国)を敵視して米中分離の新冷戦のを形成している中で、日本を米欧陣営から引き剥がして中国の側に押しやろうとする「隠れ多極主義」の陰謀があると感じられる。今回、森喜朗を辞任に「追い込んだ」米欧勢力の中心にカナダの五輪関係者たちがいたが、カナダの五輪関係者たちは、来年の冬に北京で開催予定の中国冬季五輪をボイコットしようとする米欧勢力の中心でもある。 (China To "Seriously Sanction" Any Boycotters Of 2022 Beijing Winter Olympics) カナダの五輪関係者やリベラル(左翼)政治家たちは「新疆のウイグル人を『虐殺』する人権侵害をやっている中国には五輪開催の資格がないので、中国から開催権を剥奪し、自国カナダで来年の冬季五輪をやるべきだ」と言っている。今年初め、米国のトランプ前政権が「中共はウイグル人を虐殺している」と宣言し、ウイグル問題に対する認識をそれまでの「弾圧」から「虐殺」に引き上げて中国非難を強め、バイデン新政権がそれを踏襲した。その前後にカナダの五輪関係者や議会が、中国からの五輪剥奪の主張を一気に強めた。そのさなかに森喜朗が(飛んで火に入る夏の虫的に)問題の発言を行った。カナダの五輪関係者(Hayley Wickenheiser)は、森を追い込むと宣言した。この件は「女性を差別して人権侵害する日本に五輪の開催資格があるのか。そういえば日本は南京大虐殺もやったな」的な雰囲気になり、日本と中国を十把一絡げにして人権侵害を非難する感じになった。 (Canada should host 2022 Winter Olympics due to China's persecution of Uighur Muslims: Green leader) (Trudeau government passes decision on participation in Beijing Games to Canada's Olympic Committee) 森喜朗は「追い込まれ」て(原爆投下後みたいに)屈辱の中で辞任し、カナダの左翼たちは「極悪な日本のあいつは辞めて当然だ。ざまあみろ」と戦勝に湧いた。だが、敗戦国の日本と対照的に、中国はカナダを許さず「北京五輪をボイコットしようとする大規模な動きがあった場合、徹底的に報復する」と徹底抗戦を宣言している。 コロナ危機が今後も延々と続くことが(医学的でなく国際政治的に)ほぼ確定しているなか、今夏の東京五輪、来冬の北京五輪の開催が、人権問題だけでなくコロナ危機的にも危ぶまれている。だが、中共は絶対に来冬の北京五輪を開催するという強い姿勢を見せている。コロナ危機を国際管理しているWHOなど国連は、すでに中国の傘下にある。米欧などが、WHOの調査団を武漢に差し向けて「中国がウイルスを武漢P4ラボから漏洩させた」とする説を公式論にしようとしたが、中国はそれを阻止して、WHOに「新型コロナの発生源は(武漢ラボでなく)動物からヒトへの感染だ」という結論を出させた。WHO上層部での米欧と中国の権力闘争は、中国の勝ちになっている(バイデンも武漢ラボ説を採ったので中国に負けている)。米欧でなく中国がWHOの主たる支配者だ。となれば中国は、WHOを操るなど、巨大化した国際政治力を使って、コロナ危機の中でも例外的に来冬の北京五輪の開催を確定させられる。 (WHO Concludes That Coronavirus "Came From Animal," Not Wuhan Lab) (大リセットで欧米人の怒りを扇動しポピュリズムを勃興、覇権を壊す) 国際政治力を増している中国は、コロナ問題だけでなく人権問題でも、カナダなど米欧の反対を乗り越えて北京の冬季五輪を開催するだろう。カナダが中国から開催権を奪い取って自国で五輪をやることにはならない。今の国際政治バランスから考えて、アングロサクソン諸国はカナダを支持するかもしれないが、それ以外のほぼすべての諸国は中国の開催で良いと言うだろう。 (中国主導の多極型世界を示したダボス会議) 来冬の北京五輪は確定したとして、今夏の東京五輪はどうだろう。もし今回の舌禍事件によって、森喜朗の辞任だけでなく、今夏の東京五輪が開催されなくなった場合、東京五輪はやらないけど半年後の北京五輪はやるという、耐えがたいちぐはぐさになる。これは中共にとって認められない。北京五輪を絶対に開催すると考えている中共は、東京五輪も開催してもらいたいはずだ。カナダなど米欧の意見が東京五輪の中止に傾いたとしても、中国だけは、日本に東京五輪をやってもらいたい。カナダなどは森喜朗の日本側をさんざん攻撃し屈辱を与えたが、カナダなどが日本側を攻撃するほど、中共は日本側に対して「応援してますから舌禍事件を何とか乗り越えて東京五輪を開催してください。いっしょに頑張りましょう」と非公式に励ましているはずだ。 自民党など日本の上層部は、何とか東京五輪を開催したいが、舌禍事件でカナダなど米欧から攻撃されて無条件降伏し、屈辱的な昭和20年の状態に引き戻されている。そんな落胆と狼狽の中で、中共が日本の上層部を励まし、こっそり味方になってくれて、東京五輪の開催を応援してくれる。これは自民党などにとって感涙ものだ。御恩は一生忘れません的な気持ちになっている。現時点で、東京五輪は無観客などの方法で予定通り開催する構想が有力だが、このように開催できる状態になっていることの裏に、国際政治力を増した中国の力添えがあると考えられる。米欧の中に東京での開催を渋る動きがあっても、中国がそれに対抗して日本を守ってくれる(日本自身は今回も降伏した敗戦国を再演しており無力だ)。日本は、中国の力添えによって東京五輪を開催する。中国が日本のメンツを立ててくれた。自民党や官僚など日本の上層部は、中共の傘下に入る傾向をさらに強める。日本は、対米従属から対中従属への転向に拍車がかかる。 (安倍から菅への交代の意味) 台頭する中国を米欧が脅威と考え、中国包囲網や米中新冷戦の戦略によって中国を封じ込め、無力化しようとするなら、中国沖の不沈空母でもある日本を米欧の側に引きつけておく必要がある。戦後の日本はもともと喜んで米欧の傀儡であり続けていた。だが今回の舌禍事件は、米欧側が日本側を攻撃している間に、中国が日本を取り込んで漁夫の利を得る結果を生んでしまった。森喜朗を辞任に追い込み、保守反動・男尊女卑なオヤジばかりの日本の上層部に国際的な屈辱を与えたのは、人権的に大成功かもしれない。だが、地政学的・覇権的には、米欧側だった日本を中国側に追いやってしまい、大失敗である。すでに経済面では、中国が世界で最も経済成長している大国になった半面、米欧はコロナの都市閉鎖の愚策で経済的に自滅し、日本(や韓国や豪州やASEAN)が経済的に米欧を見限って中国への依存を高める不可逆的な流れを生んでいる。そして今回の舌禍事件は、政治面で日本の中国依存を強めてしまった。米欧の中国包囲網・米中新冷戦の策は失敗している。 (中国覇権下に移る日韓) カナダなど米欧の上層部にいる左翼リベラルは、地政学的に大失敗になると自覚しつつ、日本側に屈辱を与えたのか。多分そうではない。カナダの左翼リベラルは、米国の民主党の左翼リベラルとつながっているが、米民主党の左翼リベラルは、今回の対日舌禍事件と同様の手口で、トランプら米国の共和党勢力を攻撃し、米国内の対立構造を修復不能に悪化させ、米国が覇権を維持するために必要だった2大政党制(2党独裁制)を不可逆的に破壊し、米国の覇権喪失と世界の多極化を加速している。米国の左翼リベラルは、もっと上にいる黒幕的な隠れ多極主義の勢力にあやつられて無自覚的に覇権喪失につながる動きをやっている。カナダの左翼リベラルも同様だろう。 (米議事堂乱入事件とトランプ弾劾の意味) (Alexandria Ocasio-Cortez wants Congress to stamp out First Amendment to stop “false information” from spreading) カナダや米国の左翼リベラル政権は、コロナ対策として超愚策な都市閉鎖をやり、自国民の人権をひどく侵害している。日本の自民党政権は、リベラル様たちから見ると時代遅れかもしれないが、コロナ対策の超愚策をできるだけやらないようにして、日本人の生活と人権を守っている。コロナ危機のインチキな構図を間抜けに軽信して人類を不幸にしているのはリベラル様たちの方だ。中露イランなどに対する人権上の攻撃も、多くは地元の事情を軽視して米国の強権的な覇権を維持するための間違った政策なのに、リベラル様たちはそれにも気づかず軍産の一部に成り下がっている。人類にとって害悪なのはリベラル様たちの方であるが、彼らはマスコミや権威筋を牛耳り、中共よりも隠然なだけに悪質な世界的な独裁体制を敷いているため、批判すら許されない。言論の自由を守るといって実は壊しているのもリベラル様たちである。 (民主や人権の模範でなくなる米国の失墜)
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