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安倍から菅への交代の意味

2020年9月19日   田中 宇

9月16日、安倍政権が終わり、菅政権が組閣された。安倍から菅への交代はなぜ起きたのか。「安倍の持病が悪化」が今回の交代の本当の最大要因であるとは、どうも私には思えない。国際政治的に辞任のタイミングが絶妙だからだ。安倍はこれまで、トランプの米国が中国敵視を強める中で、対米従属を続けながら中国にも擦り寄って日中関係を強化するという微妙なバランスの戦略をやってきた。これからトランプが再選されて中国敵視をさらに強めそうな中で、安倍はもう米中へのバランス戦略が続けられなくなったので辞めることにしたとか、そういう話でないかとこれまで考えてきた。 (安倍辞任の背景にトランプの日米安保破棄?

今回の分析は、それと似ているが少し違う。安倍は8月28日、辞任していくことを表明するとともに、新型コロナウイルスに関する感染症法の扱いを、これまでの1-2類相当から、5類への格下げ、もしくは法指定自体から外すことを検討すると発表した。感染症法の扱いは、新型コロナが「大変な病気」であることの法的根拠だ。分類的には、1類(エボラ出血熱、ペストなど)が最も重篤で、5類(季節性インフルエンザなど)が最も軽い。 (新政権はまず新型コロナ「指定感染症」の解除を

安倍政権は今年2月1日、中国が1月23日に武漢市を都市閉鎖してコロナ危機が始まった直後に、コロナを感染症法の1-2類相当に指定した。日本政府はコロナに関して、従来は1類にもなかった「外出自粛要請」などの新規制を盛り込んでおり、見方によってはコロナは「超1類」だ。コロナを感染症法1-2類に指定したことで、日本政府はPCR検査の陽性者を全員、入院させねばならなくなった。陽性者の多くはウイルスが咽頭に付着しているだけで感染しておらず、実のところ入院の必要がないが、付着しているだけの人と感染した人を見分ける方法がない。感染しても、その多くは生来の自然免疫によって治癒する軽症者だ。ごく一部は重症化や死亡するが、その比率は季節性インフルエンザより低い。要するに新型コロナは「インフル以下・ふつうの風邪相当」の病気である。感染症の指定など必要ない。 (コロナのインチキが世界的にバレていく) (ただの風邪が覇権を転換するコロナ危機

しかし、そうした実態がかなり確定的にわかってきたのは6-8月ぐらいになってからだ。初期の2-4月ごろは、米国や中国、WHOや国際マスコミなど(要するに軍産エスタブ??。国際筋)が新型コロナについて大騒ぎし、重症者がどんどん出ている感じも喧伝されていた。日本政府は、米国やWHOなど国際筋からの圧力で、新型コロナを感染症法の1-2類相当に指定した。だが、PCR検査を広範に実施すると、陽性者の大半に当たる何の危険性もない「付着者」や、付着すらしていない「コンタミネーションによる擬陽性者」などを強制入院させねばならず、無意味に医療体制がパンクする。(PCR検査は、検査室内で検体の試験管の開閉時にウイルスが空気中に漂い出し、その後の他の人の検体に入って擬陽性の反応を出す「コンタミネーション」が起きやすい。検査を増やすほどコンタミが頻発する) (Why the CDC botched its coronavirus testing) (愛知県 11日に感染確認と発表の24人 実際には感染なし) (6 Ways to Minimize Contamination during PCR

PCR検査に依存するのは危険な愚策なのに、WHOや米政府などの国際筋は、日本を含む世界中に大量のPCR検査をやらせようとし続けた。日本政府は2-3月に、国際筋からの圧力を受けつつも、できるだけ国民にPCR検査を受けさせないやり方でのり切ろうとした。だが3月中旬以降、国際筋は、店舗や企業の強制閉鎖、市民の外出禁止など強烈な都市閉鎖をコロナ対策として世界に強要し、米欧など多くの国が強烈な都市閉鎖を開始し、世界を大恐慌に陥らせた。日本政府は、国民にPCR検査を受けさせず、都市閉鎖もやらずにこっそり繁栄し続ける意図的な無策をやろうとしたが、国際筋から見とがめられ、都市閉鎖をやれと3月末に強烈に加圧された。日本政府は結局4月初めに、都市閉鎖より一段軽い「非常事態宣言」を発令し、禁止でなく自粛要請を出した。 (日本のコロナ統計の作り方) (集団免疫を遅らせる今のコロナ対策

日本政府は当初から、経済を大恐慌に陥らせる都市閉鎖や非常事態宣言を出したくなかったはずだ。当初の意図的な無策から、非常事態宣言へと急転換した3月後半の日本政府の動きを見ていて、これは米国からの圧力だろう、トランプが安倍に電話してきて「ロックダウンをやれ」と声高に命じたのだろうと当時の私は感じた。トランプから安倍への電話ぐらいしか、日本政府がわざわざ経済を自滅させる非常事態宣言の政策をやらざるを得ない状態にさせられる理由として考えられない。 (ウイルス統計の国際歪曲

3月下旬に「ロックダウン」という、日本で初耳の、しかし米国で数日前から言及され出した言葉を記者会見で初めて頻発し始めたのは、安倍でなく、都知事の小池だった。安倍は、トランプから強要されたロックダウン的な非常事態宣言を出すにあたり、愚策とわかっていたので、自分でやらず、現場の東京都の知事だった小池にやらせたのだった。トランプは安倍に「ロックダウンをやれ」と言ってきたので、安倍は誰かに「ロックダウン」という言葉を頻発させる必要があった。そうしないと「非常事態宣言=準ロックダウン」という図式を米国にわかってもらえず、トランプの命令に従ったことにならない。安倍周辺は「小池が言うことを聞かずコロナ対策で独走している(愚策は小池が勝手にやっていることで安倍の責任でない)」とマスコミに漏らして書かせる茶番劇までやっていた。マスコミは当時「小池が安倍を追い出して次の首相になる」とまで書いていたが、小池は今回の首相交代劇で全く出てこない。

などなど、当時を思い出すと、安倍はトランプに加圧され、愚策なのでやりたくないロックダウンを薄めた非常事態宣言の策をやらされていた。その安倍が8月28日、辞任表明の同日に、コロナが大変な病気であるという法的根拠の根幹にある1-2類相当の感染症指定を、自分が辞めた後の日本政府が見直していくと発表した。新型コロナを、インフルエンザ並みの5類の指定に格下げするか、もしくは新型コロナの感染症指定そのものを解除する。これは、米国から加圧されていやいやながらやっていた「コロナが大変な病気なので大恐慌になっても都市閉鎖をやる」というインチキコロナ危機の愚策を、安倍が辞めた後に日本がやめていくということだ。

日本政府が感染症指定の格下げや解除を実施する表向きの理由は「軽症者や無発症者で病院がパンクするのを防ぐためであり、新型コロナがインフルや風邪並みの大したことない病気だということではない」となっている。しかし、新型コロナが大変な病気なら、大半の人が軽症や無発症でも、感染症指定の格下げや解除を検討するはずがない。世界的に、新型コロナで重症化・死亡する人の多く(ほとんど)は他の持病などによって免疫力が低下した状態で、コロナを「大変な病気」と思わせるために、持病で死んだ人がコロナで死んだと診断されている。コロナの「大変さ」は、世界的に誇張されている。軍産エスタブがコロナの重篤性を誇張し、トランプも(覇権放棄や多極化策に転用できるので)それに便乗して、安倍の日本にも圧力をかけて愚策な経済閉鎖をやらせてきた。 (Flu is killing more people than Covid19

日本は、安倍の辞任とともに、米国主導のコロナ危機の誇張に同調するのをやめていく。日本の権威筋やマスコミは、今後しだいにコロナの重篤性を誇張しなくなっていくだろう。日本が米国主導のコロナの誇張に乗らざるを得なかったのは、トランプが安倍にガンガン電話してきて、ロックダウンをやれ、国内旅行の奨励などまかりならん、などと命令し続けたからだろう。トランプ就任後、日本の対米関係は安倍とトランプの親しさに全面依存してきた。トランプの登場で、それ以前の米国と日本など同盟諸国との親密さの経路だった国務省・外務省系の軍産ルートは消滅した。安倍が辞めたら、日本は米国の権力中枢との親しい連絡ルートがなくなる。 (従属先を軍産からトランプに替えた日本

安倍が長期政権を維持できたのはトランプとの親密さのおかげだ。だが、コロナや中国敵視、軍事費負担増など、安倍の日本に対するトランプの要求が激しくなり、安倍は、自分とトランプの親密さが日本の国益になっておらず、トランプ再選後はそれがさらに強まると考え、日本とトランプの間のパイプを消失させるために首相を辞めることにしたのでないか。

日本政府は、11月の米選挙でトランプが再選される前の10月中に、新型コロナの感染症指定の格下げないし解除を決めてしまう。トランプが再選されて(もしくは可能性が低いがバイデン政権ができて)日本に「コロナでの再度の大騒ぎ」を強要してきても、そのころ日本では、新型コロナがインフル並みかそれ以下の病気と正しく見なされる新体制になっている。日本人はまだ大半がマスクをしているだろうが、店舗などは今より繁盛に戻る。トランプは、日本に文句を言ってくるかもしれないが、日本側は敏感に反応しなくなり、馬耳東風な感じが強まる。マスコミは、日米関係が悪化したと菅を批判するかもしれないが、同時に選挙後の米国は、トランプ敵視の極左による暴動激化など混乱の拡大が予測され、覇権国としての当事者能力が低下し、対米従属だけが最良策と見なされなくなる可能性も高い。

コロナ危機に関しては欧米で唯一、都市閉鎖をやらず、軍産傀儡のマスコミから誹謗中傷されていたスウェーデンが、最近、自国のコロナ政策が正しかったと主張できるようになっている。マスコミや権威筋によるコロナ危機の誇張の方がウソだったのだと、世界的に言いやすくなっている。欧米各地で、コロナ危機の扇動をウソだと見破って主張する市民運動が起きている。日本がコロナ危機の誇張をやめていくことは、世界的な風向きの変化に合わせたものだ。

安倍は、軍産と戦うトランプからの入れ知恵で、国務省など軍産とのつながりが強い外務省を政権中枢から外し、代わりに経産省を外交面でも重用していた。菅は、経産省を外し、財務省を重用しそうだと言われている。菅は、財務省が強くやりたがっている消費増税をやるとも言っている。菅は、財務省に引きずられる演技をすることで、日本は税収を増やしたい財務省に握られているので国内経済を成長させねばならず、そのために経済閉鎖などコロナ危機の誇張に乗れないのだと言えるようにしているのかもしれない。

また菅は、日銀との連携を強めるとも言っている。これは、米国の株価を下げたくないトランプのために、菅が日銀に以前のような積極的なQEをやらせて米国の株や債券を買い支えるという意味だろう。すでに日本は、中国が売り払った分の米国債を買い支え、再び中国を抜いて世界最大の米国債保有国になっている。日本がコロナの誇張策に乗るのをやめても、米国の株や債券を買い支えれば、トランプは日本を批判しないというのが菅の策略かもしれない。米日欧の中銀群によるQEは、米国中心の金融バブルを延命させるだけで、最終的にはドルの崩壊、基軸性の喪失になる。米国債もいずれ金利上昇してしまう。QEや米国債の買い増しは悪い策だ。しかし短期的には、どうせ破綻するなら延命できる限り延命させ続けるというのもありだ。

日本のトランプとの唯一のパイプだった安倍の辞任により、日本は自分から米国と疎遠にする道を歩み出している。菅は、米国と疎遠になる分、中国を重視する傾向になる。これは、菅でなく石破などが首相になっても同じだった。トランプは2期目に中国敵視を強めるが、日本はそれにあまり乗らない。乗る演技をするぐらいだ。

そういう時期に、英国が日本に近寄ってきて日英貿易協定を結び、TPPにも入ってくる。英国や独仏、豪州など従来の米同盟諸国は、トランプが2期目に入って覇権放棄や同盟破壊・多極化をやり続ける中で、米国抜きの「西側諸国」を形成していかねばならなくなる。早くそれをやらないと、東欧や韓国、東南アジアなど、西側だけど中露の近くにある諸国が、中露側にどんどん絡め取られ、西側の範囲がどんどん狭まる。西側が米国抜きで中露と敵対する選択肢はない。勝てないからだ。西側諸国が、米国と共倒れで分解・弱体化していきたくないのなら、中露と協調しつつ、西側を維持していくことが必要だ。その意味で、英国はすでに、米覇権主義の勢力である軍産と一線を画しているともいえる。日本も、安倍の辞任により、軍産や、米覇権への唯一絶対の従属姿勢から離脱していくことになった。 (UK Strikes Historic Free Trade Deal With Japan As Brussels Threatens To Abandon Talks

菅は、今後も軍産傀儡の残骸から出てきそうもないマスコミから批判されつつ「私は安倍さんのようなトランプとのパイプを持っていないので」と言いつつ、日本を米国から疎遠にしていく汚れ役をやるつもりなのだろう。菅でなく石破が首相になっていたら、トランプと大喧嘩して日米決別みたいな展開があり得たが、戦後の徹頭徹尾の対米従属があっただけに、日米の喧嘩別れに耐えられる日本人が少ない。そのためにも、まず菅が首相をやって、受動的に対米疎遠を進めるのが良い。いきなりの対米自立は無理だ。それは、08年の小沢鳩山が国民の広範な理解を得られず失敗したことが示している。日本人(やドイツなど対米従属諸国の人々)は、対米従属という「牢獄」に、自ら75年間安住してきた。急に自由に生きていいよと言われても、牢屋の方が居心地が良いですと答えるだけだ。トランプは牢屋を壊す。だから看守役の軍産マスコミはトランプを敵視する。

菅は、ロシアや北朝鮮との関係改善も視野に入れているようだが、それらは菅に向いている仕事でない。安倍は、かなりの強権を得ており、軍産傀儡の外務省を外したのに、ロシアや北朝鮮との関係改善をやれなかった。その理由は、自民党や保守派の中にロシアや北を毛嫌いする冷戦体質が根強く残っているからだ。米国の覇権が強く見えている限り、米国と一緒にロシアや北を敵視するのが良いと考える冷戦体質からの離脱が難しい。ロシアや北と和解するには、かつての小泉純一郎みたいに「自民党をぶっ壊す」と宣言せねばらない。菅は、そういうのに向いていない。しかも小泉自身、宣言したけど道半ばで終わっている(当時はまだ米国が強かった)。菅の役目は、日本は米国との同盟関係に安住できなくなったと、日本国民に納得させていくことだ。日本人が対米従属をあきらめた後、自民党(の冷戦体質)をぶち壊してロシアや北と関係改善していく次の指導者が出てくる。



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