集団免疫を遅らせる今のコロナ対策2020年4月26日 田中 宇新型コロナウイルスに対する今の世界と日本の政策は、この危機をどうやって解決していくかという「大きな計画」「グランドデザイン」が欠如している(大きな計画は非公式にしか存在しない)。世界的に行われている都市閉鎖や外出自粛の政策は、ウイルスの感染拡大を遅延させる「一時しのぎ」でしかなく、閉鎖や自粛をやめれば、再び感染が拡大する。ワクチンがすぐにできるなら、その接種が解決策になるが、ワクチンはまだまだ完成しない。喧伝されている「ワクチン18か月完成説」や「今年じゅうに完成説」は、トランプ米大統領や英国筋による誇張だ。ワクチン開発には数年から10年ぐらいかかる。 (The architect of Sweden's controversially lax coronavirus response says he thinks it's working and that the capital city is already benefiting from herd immunity) (コロナ危機はまだ序の口) ワクチンがない中でのコロナ危機の解決策は「集団免疫の形成」しかないが、その政策を掲げているのはスウェーデンだけで、しかもそれは世界(国際マスゴミ)からバッシングされ続けている。英国のジョンソン政権も3月に集団免疫のグランドデザインを発表したが、各方面から叩かれて引っ込めた。人類は、コロナ危機の唯一の解決策を自らに禁じている。日本や世界のマスコミが報じ続けているのは、近視眼的な話か、もっと悪質な脅しやプロパガンダばかりだ。米欧でも日本でも、政府は事実上、国民に「1日じゅう家にいてテレビを凝視して軽信しなさい」と言っている。言われたとおりにやっている間抜けな人がまだ多いかもしれないが、しだいにみんなコロナプロパしか報じないテレビのインチキさを感じて、見たくなくなる。米国のオルタ分析者もそう書いている。 (A Global Backlash Is Coming... In Mostly Good Ways) 積極的な集団免疫策に不確定さとリクスがあるのは事実だ。しかし、無自覚な達成を含む何らかのやり方で集団免疫に達することしか、コロナ危機の終息はない。集団免疫を遅延させることになる都市閉鎖をずっと続けても、各国とも、たぶん2年以内に消極的な集団免疫に達する。数年後のワクチン接種より前に、集団免疫ができる。ならば、今の都市閉鎖策のマイナス面も勘案しつつ、積極的な集団免疫策を試行錯誤していく方が、コロナ危機による被害の総量を減らせる。集団免疫策を酷評し、都市閉鎖策を強要する人々は視野が狭い。 コロナ危機の一つの形として世界的に喧伝されていることの一つが「コロナによる死者の急増」だ。そこに関して世界各地でインチキが行われている可能性がある。最大のものは、主な死因がコロナ以外の持病で死んだ人々を「コロナによる死者」の統計に入れることだ。死因の特定は従来、死を看取った現場の医師の権限の範囲内だ。死因の特定は簡単でないし、死者や遺族や社会の事情もある。今のご時世だと、政府が医学界の上の方に「コロナの死因を増やせ」と言えば、多くの医師が、自らの立場を有利にすることとして、その要請に従う(大学病院など医療界は強固な階級社会なので、みんな上にあがりたい)。 ('Probable' coronavirus deaths now included in CDC totals) 世界的に、コロナの死者の90%以上は、もともと何らかの持病があった人だ。コロナの死者の中に、実はコロナでなかったとか、最期にコロナに感染していたが主たる死因は持病の方だという人が多く含まれていても不思議でない。米国では、PCRなどコロナの検査せずに死んだ人でも、現場の医師が「きっとコロナだろう」と思えば、死因をコロナにできる決まりになっている。一部の医師が「この規定はおかしい」と警告したが無視された。イタリアも同様だ。金欠のイタリアは、金満のドイツや北欧に支援金を出させるためにコロナの死者数を誇張した疑いがある。中国では逆に、政府がコロナの死者数を少なめに出したいので、コロナが死因でも違う死因にした疑いが持たれている。日本は、非常事態宣言後に検査数を急増させて感染者数の統計を増加傾向に歪曲したが、死者は急増していないので、死因の歪曲は少ないようだ。 金融界は医療の専門家でないが、政治の裏読みの専門家が多い(逆に、医療の専門家と崇められる人々の中に、政治的にインチキをやっている人が多い)。ゴールドマンサックスは3月中旬に「コロナで死ぬ人のほとんどは早晩持病で死ぬはずの人なので、見かけの死者数が多くても実体は大したことない」という見立てを発表していた。早期に発せられたこの見立てが、たぶん正しい。マスクが払底していた早期にマスコミは「ウイルスはマスクを素通りするのでマスクは着けなくてよい」と喧伝していた。その話が「訂正」されないまま、今は世の中じゅうが「マスク着用義務づけ」みたいになっている。「子どもはコロナ感染を拡大させる要因にならない」と報じられたのに、学校はずっと休みのままだ。抗体保有で免疫がある教師から順番に学校に戻り、早期に学校を復活するのが良いと、英国などの集団免疫論者が以前に言っていて、全く正しいと思ったのだが、それも陰謀論扱いだ。人類は馬鹿だ。永久におうちにいて滅びるがよい。 ("Half Of America Will Get Sick": Here Is What Goldman Told 1,500 Clients In Its Emergency Sunday Conference Call) コロナが重症になった人は人工呼吸器につながれるが、呼吸器につながれた人の80-97%は死ぬ。残りの人々のかなりの部分が、呼吸器に2-4週間ぐらいの長期間つながれた後、ようやく回復する。この長期性が、呼吸器や集中治療室の不足を生むと言われている。しかし、呼吸器につながれた人は必ず既存病院の集中治療室に入れなければならないかというとそうでもなく、英国のナイチンゲール病院や中共が武漢にいくつか作っていた病院など、展示場や体育館を改造した急ごしらえの病院でも、呼吸器の施設を持っている。呼吸器が必要ない中程度や軽度の患者は、ホテルを転用した病院や、自宅療養で足りる。アビガンを処方してもらえば治っていく。世界的に、コロナ用の急ごしらえの病院を作るノウハウが蓄積されてきて、医療崩壊は起きにくくなっている。 (Lancet Medical Journal: 24% fatality rate if admitted to Hospital. 97% fatality rate if requiring mechanical ventilation) 国民階保険の日本では、コロナ危機になってから、コロナ以外の病気で病院に来る人が激減した。従来、不要不急の病院通いが多かったのだ。それらの不急患者が来なくなった分、医療界は全体として余力ができているはずだ。工夫すればいろいろやれるはずなのに、そんなのおかまいなしに行政やマスコミは「医療崩壊」ばかり叫んでいる。「こんな話、信じる方が馬鹿だよ」とか本音を言ったら、善人ぶった匿名者たちに言論的に暴行されるかな??。911以来暴行され続けてきたので、まあ良いけど(M)。 英国では、全国に6つ作られたナイチン病院がいずれもガラガラなのが問題になっている。ロンドンでは、一般の病院がナイチン病院に30人とか50人とかのコロナ患者を移送しようとしたが、ナイチン側が断わった。「ガラガラなのに何で入れないんだ。一般の病院は満杯寸前で大変なのに」という不満や批判が報じられている。 ("NHS Nightingale is failing to support London's drowning hospitals") (NHS denies empty Nightingale Hospital rejected 30 patients over lack of nurses) ナイチン側は「一般の病院が(本当に)満杯寸前になったら受け入れる」と言っている。一般の病院は、まだぜんぜん満杯でないのに、満杯寸前だと誇張して患者をナイチン病院に厄介払いしようとした疑いがある。医療界全体の病床の埋まり具合は、英国でも日本でも詳細に発表されておらず不透明だ。この問題は、医療というより政治や病院管理・経営の話っぽい。 (Why hasn't the NHS Nightingale hospital in London taken off?) (No patients treated at Birmingham's new Nightingale hospital so far after opening 10 days ago) 英国政府は3月の時点で、都市を閉鎖せず若者を中心に出勤通学させ続け、高齢者や持病持ちを擁護しつつ集団免疫を形成する策を持っていた。その策を実施したら、各地のナイチンゲール病院もかなりベッドが埋まったかもしれない。ナイチンは集団免疫策のための施設だったのかもしれない。頑固に集団免疫策をやっているスウェーデンは現状で、集団免疫まであと一歩だそうだ。英国も頑固にやってれば今ごろ集団免疫の獲得に近づいていただろうが、スウェーデンと違って英国には、米国が嫌らしい同盟国としてつきまとう(日本にも)。実際の英国は、米国あたりから横やりが入ったのか、2週間もしないうちに集団免疫策を引っ込め、逆に集団免疫の形成を遅らせてしまう都市閉鎖の政策に転換した。ナイチン病院はガラガラのままになった。 (The architect of Sweden's controversially lax coronavirus response says he thinks it's working and that the capital city is already benefiting from herd immunity) 日本でも「病院は医療崩壊寸前です」「不要不急の外出が増えると医療崩壊する」と何十回も喧伝されている。だが日本では英国と異なり、ナイチンや武漢で作ったようなにわか大病院の建設の話すら具体化していない。日本では、全国の製造業界に急いで呼吸器を作らせた、といった話もない。既存のホテルを軽症者用の病院にしているが、それらが満杯だという話もない。日本の「医療崩壊寸前」は、人々の外出を自粛させるための誇張でしかない疑いがある。 コロナの検査にはPCR検査と抗体検査の2種類がある。PCR検査は今ウイルスに感染している状態かどうかを調べるもの。抗体検査は過去に感染して体内に抗体ができているかを調べるものだ。感染者を見つけ出して隔離して感染拡大の進行を遅らせるにはPCR検査が必要だが、コロナ危機の解決策である集団免疫の形成を確認するには広範な抗体検査が必要だ。 (Quest for accurate antibody tests in fight against Covid-19 ) これまでのほとんどの感染症は、今回の新型コロナより感染力が弱く、感染者を素早く隔離していけば感染が広がらずに終息できた。この手の場合、PCR検査によって感染者を探し出すことが最重要だった。だから今回も従来の延長で、世界的にPCR検査が対策の主流になっている。問題は今回の新型コロナが、無発症での感染拡大など、異様に強い感染力を持っていることだ。中国だけで感染が広がっていた早期の段階ですでに、人類の大半が感染して集団免疫が形成されるまでコロナ危機は終わらないと指摘されていた。そこから、コロナ危機の解決策は集団免疫の形成しかないという戦略的な思考が英国などから出てきた。 現状はすでに、どこの国も国民の5-10%とかそれ以上が感染している。こんな状態になると、PCR検査で感染が確認された人を全員隔離もしくは入院させるのが不可能だ。感染していても重症でなければ自宅療養になり、周囲のパニックを考えるとそもそも検査しない方がましだという、今の日本の状況になる。PCR検査は個別の患者の管理のためでなく、全国的にどの程度の感染拡大になっているかを統計的・政策的に調べるためのものになっている。 世界的に今行われている政策は、都市閉鎖をしつつ、毎日大量のPCR検査を行い、感染拡大の傾向が緩やかになったら都市閉鎖を緩和し、その緩和によって感染拡大が再びひどくなったら都市閉鎖を再強化するという閉鎖と緩和の繰り返しによって、いずれ最終的な感染拡大の収束、つまり集団免疫の形成を達成するという、消極的かつ時間がかかるやり方による集団免疫策の道を進んでいる。日本の政府やマスコミ、専門家などは、目標が集団免疫の獲得であると公式に表明したことがなく、自分たちがどっちに向かっているかさえ言わない。国民も尋ねない。戦争とともに戦略的思考も放棄したのが戦後の日本だったのだから当然だが。 日本では、PCR検査がしだいに多く行われているが、抗体検査はほとんど行われていない。欧米では、事態がどのくらい集団免疫に近づいているかを調べるため、PCR検査だけでなく抗体検査も積極的に行われている。最近明らかになったのは、ニューヨーク市民の21%が抗体を持っていることだ。NYが21%なら、先に感染拡大した東京では30-40%の都民が抗体を持っているかもしれない。東京は、集団免疫の形成まであと一歩の可能性がある(調べる気がないみたいだが)。だが、非常事態が宣言され、経済が停止され、強い外出自粛が行われたことにより、集団免疫の形成が先送りされている。 (Up to 2.7 Million in New York May Have Been Infected, Antibody Study Finds) (1 in 5 New Yorkers May Have Had Covid-19, Antibody Tests Suggest)
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