永遠の都市閉鎖 vs 集団免疫2020年6月8日 田中 宇北欧スウェーデンの政府は世界でただ一国、新型コロナウイルスへの対策として、都市閉鎖・強制的な経済停止・外出禁止でなく、集団免疫へと誘導する緩い規制の政策をとり続けてきた。そのスウェーデンの(事実上の)集団免疫策を決めてきた政府のコロナ対策責任者のアンデルス・テグネル(Anders Tegnell)が6月4日、ラジオの番組に出演し、もう少し厳しい経済停止や外出禁止など、都市閉鎖の策を採っておけば良かったと表明した。各国政府の現時点までのコロナ統計を比較すると、人口100万人あたりのコロナ死者の人数がスウェーデンは462人で、828人のベルギー、597人の英国、580人のスペイン、561人のイタリアよりは少ないものの、44人のノルウェー、58人のフィンランド、102人のデンマークといった、周辺の北欧諸国よりかなり高い(死因の採り方を一定にできないので致死率の比較はあまり意味がないが)。スウェーデン以外のすべての諸国が、かなり厳しい都市閉鎖策をとってきた。スウェーデンも周辺諸国と同様、都市閉鎖策をとっていたら、現時点までの死者数をノルウェー並みの5分の1ぐらいに抑えられたのでないか、と内外から批判されてきた。 (Swedish coronavirus chief concedes he'd change 'herd immunity' Covid-19 response) (Worldmeters Coronavirus) こうした批判に対し、スウェーデンのコロナ責任者テグネルは、周辺の欧州諸国がやってきたような都市閉鎖は過剰で不必要だとする従来の主張を崩さないまま、周辺諸国が採った過剰な都市閉鎖と、スウェーデンが採った寛容な政策(集団免疫誘導策)との中間ぐらいの政策をやるべきだったかもしれないと述べた。欧州では英国も、表向きは都市閉鎖策をやりつつ、スウェーデンよりさらに隠然としたかたちではあるが、集団免疫への誘導を意識したコロナ対策をやってきた。そして、1日あたりの新たな感染者数の増加分は、集団免疫への誘導を隠然も含めて全くやっていないデンマークやイタリアなどの多くの諸国が、5月以降減り続けて非常に少なくなったのと対照的に、スウェーデンでは6月に入って毎日千人の規模でむしろ感染者の増加幅が拡大している。隠然集団免疫の英国も、感染者の増加分は減っているものの毎日千人以上の感染増加となっている。スウェーデンも英国も、死者の増加幅は減った。だが、感染者の増加幅はそうでない。集団免疫策は、感染拡大をある程度容認してワクチンができる前に感染拡大を自然に止まらせる集団免疫を目指すものなので、当然ながら、感染者の増加幅は減りにくい。 (スウェーデンのコロナ統計) (デンマークのコロナ統計) (Has Sweden's COVID-19 Strategy Backfired? ) スウェーデン政府は以前、6月中に首都ストックホルムが集団免疫状態(抗体保有者が住民の6割以上)に達すると予測してした。だがその後、ストックホルムの抗体保有率について何も発表されていない。その一方で世界的に、抗体保有者の増加の速度がコロナ危機初期の予測よりかなり遅いことがわかってきている。どうやらスウェーデンでも抗体保有者の増加が予測より遅く、集団免疫に達するまでの時間が予想外に長くかかりそうな感じになってきた。今後も何か月か、毎日千人前後の新規感染者がスウェーデンで出続けるかもしれない。その一方で、4月から厳しい都市閉鎖をやった他の北欧諸国などは5月後半から新規感染者がとても少なくなり、一見するとコロナ危機が解決されてしまったかのようだ。スウェーデンの集団免疫策が失敗し、デンマークやイタリアなどの都市閉鎖策が成功したと言いやすい状態になっている。 (Spain has not reached 'herd immunity' as government study suggests 5.2% of population have caught and beaten coronavirus) (都市閉鎖 vs 集団免疫) 新型コロナは当初、発症の重篤性は弱いが感染力がものすごく強く、感染しても多くの人は無発症だが、無発症の感染者から他の人に感染拡大し、人々が気づかぬうちに感染がどんどん拡大し、免疫力が低い人々が経路不明の感染を受けて発症し重症化してしまう、と言われていた。だが最近では「無発症者は他人に感染させない」という結論を出す専門家が各国で登場している。米英の専門家は「新型コロナの重篤性はどんどん下がっている。多くの人はウイルスが体内に入っても感染すらしない状態(無発症でなく無感染)まで、新型コロナの重篤性が下がっている」と言い出している。都市閉鎖策の効果があったので感染が拡大しなくなったのでなく、ウイルス自体の威力が低下したという話だ。この現象が、免疫保有者の増加の速度が思っていたよりかなり遅いことにつながっているのかもしれない。コロナの威力の低下が続くと、集団免疫の状態になる前に感染拡大が止まってしまうかもしれない。スウェーデンで、感染者の増加幅が減っていないのにコロナ死者の増加幅が減ったことも、ウイルス自体の威力の低下の話と連動している感じもする。 (Prof. Karl Friston: "80% Of Brits Not Even Susceptible To COVID-19") (COVID-19 Has Become "Less Prevalent" And "Isn't Making People As Sick", UPMC Doctor Says) ウイルス自体の威力が低下しているとしても、それを検証するのは困難だ。ほとんどの国は都市閉鎖策をやっており、感染者がほとんど増えなくなったことの理由が、都市閉鎖の効果なのか、ウイルスの威力低下の結果なのか判断できない。ウイルスの威力が低下しているのだとしても、各国は都市閉鎖をやめていくことができない。都市閉鎖をやめて感染が再拡大したら責任問題だし、マスコミを軽信してコロナに対する過剰な恐怖心を植え付けられてしまった大半の人々(哀れな被洗脳者たち)は、社会距離やマスク着用が全く無意味になっているとしても、かたくなに社会距離やマスク着用をやり続ける。とくに若い人々は、成長期の被洗脳が一生残る(だからこそ、子供たちは感染すらほとんどしないのに、医療的に無意味な休校が延々と続けられている)。大人たちは、子供たちを守ると言いながら、子供たちのこれからの人生を台無しにしている。 (新型コロナの脅威を誇張する戦略) (都市閉鎖の愚策にはめられた人類) ウイルスの威力が低下していようがいまいが、都市閉鎖をやった国々は、閉鎖の強度をやや緩和することはできても、閉鎖の全体をやめて経済や社会の活動をコロナ以前の賑やかさに戻すことは二度と(少なくとも今後10年近くは)できない。「いずれコロナ危機が終わったら・・・」と人々は言うが、そんな時はずっと先まで来ない。都市閉鎖によって、現在のコロナの危険性を測ることが不可能になり、測定不能なので永遠に都市閉鎖をやらねばならなくなっている。「都市閉鎖をやめて、人が死んだらどう責任をとるのか」と率先軽信者に言われたら、みんな黙ってしまう。「都市閉鎖によって、コロナ以外の病気や経済苦で無数の人が死んでいくことにどう責任をとるのか」と、率先軽信者に言い返す人はいない。世界的に、都市閉鎖策は「永遠の都市閉鎖策」として確立した。 (Evidence piles up that Sweden may be on wrong path) 「間もなくワクチンができる。都市閉鎖はそれまでの政策だ」という見方があるが、これも不確定なトンデモ話、陰謀論だ。ワクチン完成までには何年もかかるし、副作用がないものが完成したとしても、効く人と効かない人が出てくる不完全なものになる可能性が高い。ウイルス変異の可能性もある(変異したらワクチンだけでなく集団免疫も作り直しかもしれないが)。傀儡軽信筋は「抗体ができても免疫があるとは限らない」という不確定な話を流布するが、「ワクチンができても全員に効くとは限らない」という話はしない。 (コロナ危機に関する私の認識のまとめ) (Corona2 econwar2 500 Doctors Write To Trump Warning Lockdown Will Cause More Deaths) 私から見ると、永遠の都市閉鎖策は、トランプに乗っ取られた米国の軍産複合体(諜報界、外交界、学界、マスコミなど権威筋。覇権運営層)が意図して世界にやらせている策略だ。軍産は、都市閉鎖の愚策を世界に強要するため、都市閉鎖のライバルである集団免疫策をマスコミや権威筋に思い切り誹謗中傷・攻撃させて潰した。スウェーデンは軍産の強要に抵抗して都市閉鎖をやらず、集団免疫を続けたが、他の北欧諸国より致死率が高いことをさんざん非難され、スウェーデン政府のコロナ担当者が自己批判せざるを得ない状況まで追い込んだ。即座に世界のマスコミは、鬼の首をとったように集団免疫策に「大失策」「人殺し」のレッテルを貼りつけ、スウェーデンの野党は集団免疫策を採った政府責任者に殺人容疑の刑事罰を与えるべきだと言い出した。 (Herd immunity strategy proves unsuccessful) スウェーデンの担当者が「都市閉鎖はやりすぎだが、その半分ぐらいの厳しさの規制をやるべきだったかも」と発言したのに呼応するかのように、隣国ノルウェーの首相(Erna Solberg)が6月3日に「わが国の都市閉鎖は厳しくやりすぎたかも」と自己批判の発言をしている。この相互の自己批判は、これまで集団免疫と都市閉鎖という両極を進んできたがゆえに相互の人的交流を断絶し続けねばならなかったスウェーデンとノルウェーが、相互に半分ずつ歩み寄る自己批判をして、これから人的交流を再拡大(北欧のトラベルバブルにスウェーデンを加入)できるよう道筋をつけたものと考えられる。だが、世界のマスコミ(と、軍産うっかり傀儡の軽信者たち)は「スウェーデンが集団免疫の失敗を認めた」ことだけを喧伝し、集団免疫だけに大失敗の烙印を押してご満悦だ。コロナ危機では、多くのことが歪曲されている。 ('Was it necessary?': The PM who regrets taking tough coronavirus lockdown measures) ウイルス自体の威力が低下して集団免疫に達する前に感染拡大が自然に止まってしまうのであれば、集団免疫を目指すのも愚策だったことになる。感染拡大の抑止をもう少し強めるべきだった(そうすれば累計死者数を減らせた)というスウェーデン政府の担当者の自己批判に現実的な意味があるとすればそこだ。だがその一方で、感染拡大が自然に止まるとしても、都市閉鎖はやめられないし、都市閉鎖下では感染拡大が自然に止まったかどうかの検証もできない。加えて都市閉鎖は、通院入院不能による他の病気での死者の急増、恒久的な大恐慌と貧困急増、米国での永遠の暴動の継続と覇権喪失など、コロナ以外の部分の愚策性がひしめいている。米国は今後、民主党が知事の諸州で警察の解体や予算減が行われ、警察力の低下の中、各地の暴動が極左と極右の武装闘争に発展し、内戦になっていく。米国の内戦は、コロナの都市閉鎖策が原因だ。米経済はますます破綻する。金融相場だけ連銀のQEで上がり続ける。都市閉鎖の諸国の経済成長はマイナスだが、スウェーデンが先日発表した1-3月の経済成長は年率換算でプラス0.4%だった。 (米国の暴動はコロナ愚策の都市閉鎖が主因) (Sweden’s economy actually grew in the first quarter after it opted against a full virus lockdown) (Minneapolis Mayor Loudly Booed, Subjected To 'Walk Of Shame', After Refusing To Abolish Police Department) プロパガンダの力を使って都市閉鎖を正当化し、集団免疫を攻撃誹謗する軍産傀儡軽信筋の動きを見ていると、同じ軍産筋が2003年の米軍イラク侵攻時に「政権転覆による中東民主化」を正当化し、イラク占領の失敗予測や開戦大義(イラクの大量破壊兵器保有の濡れ衣)への疑問を表明する人々を攻撃誹謗していた時とよく似ていると感じる。米軍は簡単にイラクを政権転覆し、まもなくイラクは自然に民主化して素晴らしい国になるとマスコミが喧伝し、みんなそれを軽信していた。これは「都市閉鎖でウイルスを撃退し、まもなくワクチンが完成して世界経済は以前の繁栄に戻る」という喧伝・軽信と構造的に同じだ。実のところ、イラクは占領と市民殺害の泥沼に入り込んで何年も続き、イラクの人口の5%にあたる100万人が殺された。都市閉鎖もこれから世界大恐慌と米国内戦の泥沼に入り込んで何年も続き、最終的にコロナで死ぬ人の何十倍もの人が、貧困などで死んでいく。そしていずれのケースでも傀儡筋は以前に自分たちが軽信したことをきれいさっぱり忘れ、次の軽信に移っていく。 (911とコロナは似ている)
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