米国の暴動はコロナ愚策の都市閉鎖が主因2020年5月31日 田中 宇米国ミネソタ州のミネアポリスで5月25日に黒人のジョージ・フロイドが、白人警官に逮捕された時に絞殺されたことをきっかけに発生した暴動は、米国の黒人差別に対する抗議行動であると米マスコミで喧伝されている(米マスコミの多くは民主党支持・トランプ敵視のリベラル左派系)。ミネアポリスは、黒人世帯の平均年収が、白人世帯の平均年収の半分以下しかなく、全米で最も人種的な経済格差が激しい場所と報じられている。経済的にしいたげられている黒人は、地元の警察からも不当捜査や誤認逮捕の人権侵害を受けることが多く、今回フロイドが警官に逮捕・絞殺されたことはその象徴だったとされる。黒人への差別に怒った人々が抗議行動を起こし、それが暴動に発展したとされる。暴徒たちは、ミネアボリス市街地の50のビルを焼き討ちしたが、これらも「ビルや企業を所有する保守派の白人の金持ちに対する、虐げられた黒人やリベラル側からの仕返し」と考えれば正当化(!)できる。 (Racial inequality in Minneapolis is among the worst in the nation) (George Floyd's death, not looting, should outrage us all) リベラルなメディアはおもに「ミネアポリス暴動の原因は、白人から黒人への差別、保守派からリベラル派に対する攻撃であり、暴動が悪であると非難する保守派の白人は、自分たちの差別意識を悔い改めず、暴動を非難することで差別の構図から目をそむけようとする極悪人だ」と主張している。白人の警察官が黒人の市民に不当捜査や誤認逮捕、暴行する構図は全米的なもので、黒人が警官から人権侵害を受ける割合は、白人が受ける割合の2.5倍だとされている。ミネアポリスでの抗議行動に共鳴するかたちで、全米の百あまりの都市で、黒人への人権侵害に抗議するデモやそこから派生した小さな暴動が発生した。ミネアポリスでも他の諸都市でも、抗議行動や暴動を起こしている人々の多くは左翼リベラル、アンティファ(保守派を敵視する暴力的な勢力)、アナキストなどの活動家と支持者たち、もしくはそれらの動きに便乗して憂さ晴らししようとする人々である。 (How white America excuses its own violence) (Minneapolis Police, Long Accused of Racism, Face Wrath of Wounded City) リベラル派(民主党支持者)が言うところの「極悪な保守派の白人」の筆頭は、今や共和党を牛耳るトランプ大統領だ。リベラル派はトランプを攻撃し続け、トランプは保守派を代表してリベラル派を攻撃し続けている。この構図は今回の暴動でさらに強まった。トランプは暴動を非難し、民主党のヤコブフレイ・ミネアポリス市長を「弱腰なので暴動を鎮圧できない極左」と揶揄するツイートを発している。米国民の中には、保守派でなくても「暴動は差別の解決策にならないぞ」と思って左翼リベラルを嫌う人は多い。そうした人々を味方につけられるので、トランプは喜んで左翼リベラルが売ってくる喧嘩を買っている。秋の大統領選に向けて、トランプが民主党を「暴動容認」と非難し、民主党がトランプを「差別容認」と非難する構図が作られていく。保守派は「トランプの前はリベラルっぽいオバマ政権で、大統領も司法長官も民主党の黒人だったが、警察など当局による黒人差別は減らなかった。民主党は差別を減らすことすらできない」と揶揄できる。 (Trump urges Minneapolis mayor to 'get tough and fight') (George Floyd protests - Wikipedia) トランプや、側近のバー司法長官らは「ミネアポリスや他の諸都市での暴動は、アンティファやアナキストらの左翼リベラル・民主党系の活動家が黒幕として扇動している」と指摘している。リベラルな民主党支持のマスコミやネット内勢力は、トランプやバーの指摘を「何の根拠もない」と批判している。だが、地元のミネソタ州の民主党系のワルツ知事は、トランプやバーと同じ見方で、アンティファなどと名指しこそしないものの「州外からやってきた活動家の勢力が、市民社会を不安定にする(革命に近づける)目的で、組織的に暴動を扇動している」「デモ参加者の80%は州外から来た勢力だ」と言っている。 (Minnesota Governor Tim Walz says majority of protesters are from out of state) (Tim Walz - Wikipedia) 地元マスコミは「暴徒として逮捕された人のほとんどは州外でなく地元に住所がある」と報じ、州外から来た極左勢力の陰謀であるとの見方は間違いだという論調を流した。だが、現場で逮捕されるのは黒幕でなく、黒幕に扇動された人たちだけだ。黒幕は逮捕されない。州外から来た左翼活動家たちが、地元の人々を扇動して暴動を起こしたという見方は多分正しい。今回の暴動後、連邦議会上院でアンティファを国内テロ組織扱いする法案を共和党が提出した。下院の多数派が民主党なので、すぐには法制化されないだろうが、米経済が悪化して暴動が起こりやすい状態が今後もずっと続くので、繰り返される暴動の黒幕としてアンティファなどが指摘され続け、テロ組織に指定される可能性が高くなる。 (Majority of Minneapolis-St. Paul riot arrests are from Minnesota) (2 Republican senators introduce resolution to label antifa as domestic terrorists) トランプは就任以来、嬉々として民主党の左派と喧嘩し合っている。その理由は、トランプが左派を敵視するほど左派もやり返して過激化し、過激化した左派の非難の矛先がトランプだけでなく党内の主流派である中道派(軍産エスタブ。ネオリベラル)にも向けられ、民主党内の左派と中道派の分裂や内紛がひどくなり、トランプが漁夫の利を得て大統領に再選されたり下院の多数派を奪還できる可能性が増すからだ。トランプ就任後、民主党内で左派がどんどん強くなり、今回の民主党の大統領候補選びの予備選では、バイデンを推す中道派が苦戦し、今年2月のアイオワ州の予備選の電子投票で左派のサンダースを落とすために集計機をバックドアから乗っ取る不正をやらかすなど腐敗している。 (The Clinton Machine Will Do Anything to Stop Bernie Sanders) 民主党だけでなく、米諜報界、マスコミ、学術界などで構成される「軍産複合体」の全体が、米国の覇権運営(世界支配)を握ってきたが、トランプは軍産を潰すことを目的に大統領になり、就任以来の3年間で軍産を弱体化することに成功している。民主党だけでなく共和党もトランプまでは主流の中道派(軍産)と、傍流の保守派(リバタリアン、キリスト教原理主義など)とに分裂してきたが、トランプは保守派を味方につけつつ党内の軍産中道派を排除無力化して共和党を乗っ取って「トランプ独裁党」にしてしまった。民主党は分裂したままだが、共和党はトランプ独裁だ。全米で断続的に暴動が続くほど、この傾向が強まる。 (ロシアゲートで軍産に反撃するトランプ共和党) トランプと側近・黒幕(隠れ多極主義陣営)らは、米諜報界から軍産系を追い出して乗っ取り、自分たちのものにしている。トランプらは乗っ取った米諜報界を使い、アンティファやAOC(オカシオコルテス下院議員)など民主党の左派組織の中にスパイを潜り込ませ、左派がミネアポリスなどで暴動を起こしたり、民主党中道派やトランプにどんどん喧嘩を売るように仕掛けている可能性がある。日本でも、弱体化した極左組織が公安警察のスパイに入り込まれて操られた歴史がある。スペインのバスク分離主義の過激派は、軍産系の米西の諜報界に入り込まれてアルカイダのふりをしてテロを挙行した。ミネアポリスの暴動を起こした「州外の過激派組織」の黒幕はトランプ自身かもしれない。AOCも実は民主党の自滅を目的としたトランプ系のスパイなのかもしれない。トランプと極左が組んで米国を破壊していく。これまで米国と世界を支配してきた中道系の軍産エスタブは弱体化させられていく。 (Trump Blasts "Antifa, Radical Left" After Minneapolis Officials Blame "White Supremacists, Foreign Actors & Terror Cells" For Rioting, Looting) (米民主党の自滅でトランプ再選へ) (トランプと米民主党) 話をミネソタ暴動に戻す。極悪な保守派の象徴である白人警官が、正義のリベラル派の象徴である黒人市民を不当逮捕して絞殺した。喧伝されているこの構図は、実のところ、ミネアポリス暴動の主因でない。暴動の主因は、コロナに対する愚策である都市閉鎖である。ミネソタ州のワルツ知事もミネアポリスのフレイ市長も、民主党の左派系である(ワルツは民主党傘下の左派の地元政党DFL)。民主党左派は、国家体制を社会主義に近づけるため、政府の権限や財政の肥大化を好むので、コロナ対策として都市閉鎖や、経済全体を当局の資金(中銀QEやMMT)で下支えする策をやりたがる。全米各州で、民主党の知事は都市閉鎖をやりたがり、共和党(小さな政府主義者が多い)の知事はやりたがらない。左翼であるミネソタ州のワルツ知事は都市閉鎖に積極的で、ミネソタでは3月28日から5月18日まで都市閉鎖・外出禁止・経済停止の策が行われていた。そして、都市閉鎖や外出禁止が解かれた1週間後の5月25日にたまたま起きた、黒人のフロイドが警官に殺された事件を機に、都市閉鎖や外出禁止、失業急増でたまっていた貧困層の不満が爆発するかたちで暴動が起きた。 (What you need to know about the new 'stay safe Minnesota' order) 都市閉鎖による経済停止は失業を急増させ、貧乏人ほどひどい目に遭う。金持ちは大して困らないが、貧困層はとても窮乏させられる。すでに書いたとおり、ミネアポリスでは人種間の経済格差が全米屈指で、白人が中産階級かそれ以上、黒人が貧困層の傾向が強い。民主党左派系の州知事が行った強めの都市閉鎖は、民主党を支持する割合が高い黒人を特にひどい目に遭わせた反面、「極悪保守派」の白人たちを大して困らせなかった。都市閉鎖が、コロナ対策としてひどい愚策であることは、すでに何度も書いた。コロナ的には愚策だが、大きな政府を好む民主党左派には信条的に「魅力的(笑)」な策だ。左派の信条的には魅力的だが、支持者の黒人ら貧困層をひどい目に遭わせるので、都市閉鎖はやはり愚策である。しかし、左派リベラルが陣取る米マスコミは決してそんなふうに書かない。すべてはトランプら保守派のせいだ、と「解説」しつつ、都市閉鎖をやらないとコロナでみんな死んでしまうと喧伝し、人々の恐怖心を煽る。 (都市閉鎖の愚策にはめられた人類) (911とコロナは似ている) ミネアポリスから派生したアトランタでの暴動(抗議行動)では、リベラル系のテレビ局CNN本社の看板が汚されるなど、マスコミに対する人々の怒りも発露された。しだいに多くの米国民が、都市閉鎖は愚策だと気づき、外出禁止令を守りなさいと報じ続けるマスコミをクソだと思っている。今回の暴動による損失はすべて、都市閉鎖策のマイナス面の中に合算されるべきだ。暴動は、都市閉鎖の愚策性の発露の一つである。 (Nationwide Chaos: NYPD Precinct Attacked, CNN Vandalized) 都市閉鎖は一時的にコロナ感染者の増加幅を減らすが、閉鎖を解除すると感染拡大が再発し、コロナ問題の最終解決(集団免疫)への道のりを不必要に長引かせる。小さな感染拡大が何度も再発し、恐怖心を植えこまれた人々は外出・消費など経済の正常化に消極的になり、経済悪化が長引く。世界的に、少し前まで「経済はV字型回復する」というインチキ報道を軽信していた人々が最近、経済がなかなか回復しないことを理解し、企業は解雇を本格化し、V字回復を信じてこれまで出していた広告を出さなくなっている。経済悪化が本格化するのはこれからだ。人々の大量失業が悪化しつつ固定化し、米国では最も貧困な黒人層の生活がますます悪くなり、ミネアポリス型の暴動が断続的・全米的に今後もずっと続く。 (Global Ad Spending Plunges As Hopes For V-shaped Recovery Fade) (This Is A Full Societal Breakdown) 暴動が発生しやすい状態の全米的な長期化は、米国社会の不安定さを拡大する。たとえ米国が海外からの人々の渡航を受け入れるようになっても、観光や企業進出は危なくてやれない国になる。そもそも米国は外国からの渡航をなかなか受け入れないだろうし、移民は受け入れない傾向がずっと続く。海外からの有能な人材が入ってこなくなり、在米する中国人の人材は全員が帰国させられ、米国は人材的な貧困化も進む。都市閉鎖というコロナ愚策は、米国の衰退と覇権喪失につながっていく。これはトランプの就任目的の一つだ。 (Will Trump Really Ban All Legal Immigration?) 都市閉鎖は大きな政府主義の民主党左派が好む政策だが、都市閉鎖を米国のコロナ対策の中心に据えたのはトランプ政権だ。「都市閉鎖が必要だ」という政策決定の根拠になったのは、英国政府の顧問の学者だった英インペリアル大学のニール・ファーガソンが主導して作ったコンピューターモデルだが、このモデルは「地球温暖化人為説」の根拠になったコンピューターモデルと同様、数字の恣意的な操作による全くインチキな産物だ。一説によると、ファーガソン(独身?)の不倫相手(Antonia Staats。人妻)が温暖化人為説の活動家で、ファーガソンは彼女の勧めに従って人為説のインチキモデルをコロナ対策に援用したのだという。ファーガソンはコロナに発症し、誰にも会ってはいけないと言われつつ自宅にいる時に不倫相手を家に呼んだことがバレて英政府顧問を解任された。 (Was Professor Panic's Flawed Computer Model Virtue-Signaling To His Radical Climate Activist Lover?) (Husband of lockdown-breaking Professor Ferguson’s lover Antonia Staats ‘has his own mistress’) 都市閉鎖策が抱えるこの手のインチキさをトランプ陣営は知っていたはずだ。だが都市閉鎖は、コロナ対策としてトンデモな愚策でも、米国覇権を自滅させる隠れ多極主義の策として「優秀」だ。だからトランプは米国の国策として都市閉鎖を導入し、日欧の中銀群が自国経済のテコ入れで手一杯で米国を支援できない状態にさせるため、日欧の同盟諸国にも都市閉鎖策を強制した。米国の民主党左派系の知事たちが都市閉鎖を喜んで受け入れて定着させると、トランプは一転して「都市閉鎖は民主党がやっている愚策だ。早くやめよう」と言い出して、トランプ自身が都市閉鎖の愚策から米国を解放する右派ポピュリスト的な国民運動の先導役をやり出した。都市閉鎖の愚策はトランプが導入したことなのに、トランプ自身はいつの間にか愚策をやめさせる英雄役になっている。しかし、いったん恐怖心を植え付けられた米国民は都市閉鎖を嫌悪しつつ、その呪縛から今後もずっと逃れられない。トランプの支持は増えるが、米国の覇権を崩壊させる都市閉鎖の効能はずっと続く。 (コロナ大恐慌を長引かせる意味) トランプ傘下のコロナ担当部局CDCは、マスク着用のコロナ防止への有意性について、この3か月ほどの間に「マスクは効果がある」「実は効果はありません」「いや、やっぱりあります」と、何度も翻身している。この翻身で、米国民の約半分(主に共和党支持者)はマスク着用の効果はインチキだと思うようになり、残りの人々(主に民主党支持者)は言われるままにマスクを着用し続けている。トランプは、マスクを着けて2か月ぶりに自宅から外出した対立候補のバイデンを馬鹿にするツイートを発し、マスクは不要だと思っている共和党支持者を喜ばせた。 (Blue States Will see economic ruin in Cities like Chicago, New York, and Los Angeles, these cities may start to look like Venezuela) (Biden blasts Trump for mocking face masks) コロナの致死率も、当初言われていたよりはるかに低いことが暴露され、都市閉鎖のせいで失業させられた人々は、何のために自分が失業させられたのかと怒り、暴動に参加する傾向を強めていく。米国は今後も、暴動が起こりやすい状態が続く。トランプは都市閉鎖の失敗を民主党のせいにし続ける。この傾向の中で秋の大統領選挙になる。ブレジンスキーがあの世でニンマリしている。 (世界的な政治覚醒を扇るアメリカ) (都市閉鎖の愚策にはめられた人類) 米国は以前から国連の人権理事会に批判的で、約束した資金も出さない状態が続いている。米国に嫌われた人権理事会は、中露の傘下に入る傾向を強めている。その人権理事会はミネアポリスの暴動後、米国で黒人が人権侵害を受け続けていることを批判する声明を出した。米国は立派な人権侵害の国になっている。人権理事会の背後にいる中国は、米国から「チベットやウイグルでの人権侵害」を批判されるたびに「ミネアポリスなどでの黒人への人権侵害」について米国を逆非難できるようになった。WHOも米国に嫌われて中国の傘下に入る傾向を強めている。トランプは、中国敵視策によって中国を強化している。 (UN Human Rights Chief Urges 'serious Action' To Halt US Police Killings Of Unarmed African Americans) (トランプが捨てた国連を拾って乗っ取る中国) 同盟諸国にとって、都市閉鎖はトランプから強制された愚策だ。日本では、準都市閉鎖である非常事態宣言について検討した政府の専門家会議が議事録を意図的に残さないようにしていたことが問題になっている。「専門家」たちは、コロナ自体の状況を分析検討する会議でなく、安倍がトランプに言われてやらざるを得ない都市閉鎖をどのように正当化してやっていくかを検討する会議をやり続けているのだろう。当然ながら、議事録を残すわけにはいかない。
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