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北朝鮮の核保有を許容する南北対話

2018年1月7日   田中 宇

 昨年9月、私は「プーチンが北朝鮮問題を解決する」と題する記事を書いた。ロシアのプーチン大統領が昨年9月初め、極東のウラジオストクで開いた東方経済フォーラムで、北朝鮮の核保有問題を解決する方法を提案したことを書いた記事だ。プーチンは経済フォーラムで、北に核廃絶を求めず核保有を黙認しつつ、北が核兵器とミサイルの今後の開発を中止する見返りに、露中と韓国が北との経済協力関係を再開する北核問題解決のシナリオを提案した。これと並行して中国は、米韓が北敵視の合同軍事演習をやめる(実施を凍結する)見返りに、北が核とミサイルの開発をやめる(凍結する)「ダブル凍結」の和平案を提案している。 (プーチンが北朝鮮問題を解決する) (北朝鮮と日本の核武装

 当時、韓国の文在寅政権は、プーチンの提案を受け、南北対話の再開を北に提案し、北への経済援助の再開も発表した。だが北は提案に乗らず、韓国を無視し続けた。韓国政府は北に対し、今年2月に開催する平昌冬季五輪に、選手団を派遣して参加してほしい、南北の選手団が統一旗を掲げて一緒に行進しようとも呼びかけ続けたが、北はそれも無視した。北は、米韓合同軍事演習が行われている限り、韓国との交渉に応じないと表明した。 (North Korea could come to talks while suspending nukes: South Korea) (No Negotiations If US Military Drills Continue

 北は、韓国からの提案を無視している間に、核ミサイルの開発を急いで進めた。11月末には新型弾道ミサイルの発射実験を行い、その直後に北は「米本土の全体に届く核ミサイルの開発が完了した。米国に対して核抑止力を持つ核保有国になった。核兵器は抑止力としてのみ使い、わが国に脅威を与えない国を攻撃するものではない」と宣言した。 (North Korea Says "Completed State Nuclear Program"; Warns "The Whole US Is In Range") (North and South Korea Agree to Border Talks Next Week

 この北の宣言の直後、中国は「ダブル凍結」の和平案を再提唱した。北の宣言は、核ミサイル開発を一段落させたことを意味しうるもので、北がプーチン提案やダブル凍結案、韓国の対話提案に乗ってくる展開があり得る状況になった。 (North Korea’s Nuclear Power Declaration Could Be a Prelude to Talks) (North Korea confirms nuclear statehood, says can now target anywhere in US

 昨年末になると、韓国が米国に対し、毎年3月ごろに行われている米韓合同軍事演習(Key Resolve と Foal Eagle)を、今年は、平昌五輪の後まで延期してほしいと要請した。そして、これに対する米国の返答が来るより先に、年を越えて今年になった後、北の最高指導者金正恩が元旦のテレビ放映の年頭演説で、平昌五輪に選手団を派遣する用意があると表明した。金正恩は同時に、米韓合同軍事演習の中止を改めて要求した。 (Decision expected soon on postponing joint military exercises) (US announces it will delay joint military exercises with South Korea until after the Winter Olympics following Trump's boast to Kim Jong-Un that he also has a nuclear button

 韓国の文在寅政権は、金正恩の提案を大いに歓迎し、北の選手団の五輪参加を実現するための南北対話を再開することを提案した。北はこの提案に応じ、1月9日に、2年ぶりの南北対話が板門店で開かれることになった。同時に、2年前から途絶状態にあった南北政府間の電話とFAXのホットラインも再開された。 (North and South Korea Will Meet Against Backdrop of Nuclear Threats

 米国(在韓米軍と韓国軍の合同司令部)は、南北が平昌五輪への北選手団の参加に向けた対話開始を決めた直後の1月5日、今年の米韓合同軍事演習を、平昌五輪(2月9-25日)とパラリンピック(3月9-18日)の後の4月23日から5月3日に実施することに決めたと発表した。 (S. Korea, U.S. to start joint military exercise in late April: source

▼露中韓が北を巻き込んで北東アジアの安保新秩序を作ろうとしている。それを無視する米国。ヤキモキする日本

 このような昨年来の流れを見ると、今回の北の五輪参加をめぐる南北対話の再開や米韓軍事演習の延期が、ロシアのプーチン提案、中国のダブル凍結和平案、韓国の文在寅の対北融和策という、露中韓の三位一体の北核問題の解決策のシナリオに北朝鮮が乗ってきたものであるとわかる。ロシアと中国の政府は、南北対話の再開に歓迎の意を表している。 (Russia, China welcome agreement to resume Korean talks) (北朝鮮危機の解決のカギは韓国に

 だが、米日のマスコミなどでは、露中韓のシナリオがまともに報じられず、ほとんど論じられず、けなされる対象として存在している。米日では、北が核兵器を全廃することが「北核問題の解決」であると考えられている。北に核廃絶を求めず、北の核保有を黙認している露中韓のシナリオは、北核問題の解決策ではないと、特に(中韓嫌悪の)日本で思われている。(米国には「米軍が日韓を防衛してやるのをやめれば、北は米国を敵視しなくなり、米国は北核問題にわずらわされなくなる」という考え方があり、日本と立場が異なる) (There Will Not Be a War with North Korea in 2018 (Unless America Starts One)

 南北対話の再開が決まったものの、そこで北の核やミサイルのことが話し合われる可能性はゼロだ。韓国側が、北の核やミサイルの話題を出したとたん、北の代表団は席を立って板門店の会議場を出て行ってしまうからだ。南北対話の再開を熱烈に望んできたのは韓国の方だ。韓国やロシアは(たぶん中国も)、話題が核やミサイルでなく、それ以外の何でも良いから、南北対話を再開・持続していき、南北間の信頼関係を再構築するのが良いと考えている。 (De-Escalation? Koreas Agree To Hold High-Level Talks Next Week) (South Korea Proposes Talks With North, Testing U.S. Bid to Isolate Regime

 露中韓のシナリオは、北に核やミサイルの廃絶でなく開発凍結を求めているが、それすら北に凍結宣言を出せと求めるものでなく、北が不言実行で静かに開発を凍結し続けてくれればそれで良い。目指しているのは東アジア的な「あうんの呼吸」「(北の)メンツ重視」の方式だ。露中韓は、北が核兵器を持ったままでも、周辺諸国との緊張関係が緩和されれば、それで事態が安定すると考えているようだ。核やミサイルの開発について、韓国は北に何も問わず、北は韓国に何の言質も与えないまま、平昌五輪に参加しそうだ。 (U.S. warns North Korea against new missile test, plays down talks

 米政府は、今回の南北対話に対して「韓国政府が誰と交渉しようと自由だが、北に核廃絶を迫るものでない限り交渉は全く無意味だ」と言っている。米国のマティス国防長官は「南北対話は、北の五輪参加だけに限定したものであり、核問題と関係ない。米韓演習を延期したのは、同盟国である韓国の五輪成功に協力するためのもので、北に宥和する意味はない。五輪が終われば、米韓軍事演習が行われ、事態は元に戻る。(今回の南北対話は)大した話でない」と述べている。マティスは昨年末に「北のミサイルはまだ、米本土を核攻撃できる状態でない可能性が大きい(ミサイルが大気圏に再突入する時の高温で核弾頭が空中で破壊されてしまう)。北はまだ核保有したといえず、まだ米国が北を先制攻撃できる状態だ」とも言っている。 (Mattis: Korea Exercises on Hold Until After March Paralympics) (Mattis: North Korean Missiles Not a ‘Capable Threat’ Against US

 米政府は昨年末から、北が間もなくミサイルを発射しそうだと言っている。北がミサイルを発射すると、それは国連決議違反となり、露中韓も北に厳しい態度をとらざるを得なくなる。米政府は、北がもうすぐミサイルを発射するぞと言うことで、露中韓に対して嫌がらせをしている。韓国政府は1月4日、北が間もなくミサイルを発射しそうだという情報が流布しているが、それは事実でない、北はミサイルを発射しそうにない、と発表している。 (Pyongyang Scores Diplomatic Victory After US & South Korea Agree Not To Hold Military Drills During Olympics

 米政府は全体として、今回の南北対話を軽視している。露中韓のシナリオが進行していることを軽視・無視している。だが米国と対照的に、日本政府は、今回の南北対話を、北の核武装が黙認される事態だと考えている。安倍首相は南北対話が決まった1月4日、北の核保有は全く認められない、北の核ミサイルは日本にとって戦後最大の脅威だ、と言っている。日本政府は、北が核廃絶すると言わない限り日朝交渉をしないと再表明し、米国と同歩調で、露中韓とは異なる態度をとっている。 (How to Guarantee a War with North Korea

 安倍は昨年9月、プーチンが北核問題の解決策を提案したウラジオストクの東方経済フォーラムに出席し、プーチンの案に賛意を表明している。当時はまだ、昨年4月に中国の習近平が訪米して米中で北朝鮮に圧力をかけると決めて以来の、米国主導で北に圧力をかけるシナリオに、中国も韓国も乗っていた。あの時点ではまだ、今のような米国と露中韓のシナリオの明確な大差がなかった。 (North Korea's Olive Branch, South Korea's Dilemma

 だが、それから4か月たった今では、北の核保有を黙認する露中韓のシナリオに北が乗り、これが進んでいきそうな展開になっている。一方、米国は露中韓のシナリオを(故意に)軽視・無視し、韓国に勝手にやらせている。露中韓が、米国を外した形で北の問題を解決し、北東アジアの新たな安保体制を構築していく道筋が見え始める中で、対米従属の日本は米国についていかざるを得ず、ヤキモキしながら「北の核保有は全く認められない」と表明する以上のことができない状態になっている。 (PM Abe says nuclear North Korea greatest threat to Japan since WWII

(これ以上「何か」をやるとなると、それは「日本も核武装する」になってしまいかねない。すでに豪州では「いずれ在日米軍が撤退し、日本は核武装する」と予測されている) (中国のアジア覇権と日豪の未来

▼文在寅が南北対話を維持するため今年の米韓演習を中止する可能性がある

 今のところ、米韓軍事演習は、平昌五輪後まで延期されただけで、4月末に実施されることになっている。今後の最大の注目点は、米韓演習が新たな予定通り4月末に実施されるかどうかだ。米韓が行われると、南北対話は再び断絶する。文在寅の韓国政府の長期目標は、南北対話をできるだけ長く続け、南北間の緊張を緩和し、朝鮮戦争を正式に終わらせ、(北が核兵器を持ったまま)南北が相互に国家承認して和解するところまで持っていくことだ。今回、五輪をきっかけに始まった貴重な南北対話を、米韓演習の実施によって破綻させたら、次にいつ対話を再開できるかわからない。 (North Korea, South Korea talks: Kim Jong-un accepts offer

 南北対話の再断絶だけなら、まだ良い。米韓演習は、北との戦争を想定したものだ。新たな予定通り4月末に米韓演習を実施すると、かなり高い確率で、米国側が「軍事演習の途中で本当に北を攻撃するのが良い」と秘密裏に(もしくは、なかば公言状態で)言い出す。ポンペオCIA長官は昨秋、今年3-4月ごろに北の核ミサイル開発が本当に完了するので、北を先制攻撃して核兵器を軍事的に排除するなら、そのころまでにやる必要があると言っている。米国が、米韓演習を隠れ蓑として北を本当に攻撃する気なら、それは事前に北の知るところとなり、本物の米朝戦争が始まる直前の事態になる。文在寅が、米韓演習の実施を拒否しない場合、せっかく再開した南北対話が再終了するだけでなく、米朝戦争が起きて韓国が国家として壊滅しうる事態となる。 (North Korea: Has diplomacy already peaked for the year?

 ここで重要なのは、文在寅が「南北対話を続けたいので、今年は米韓演習をやりません」と宣言するだけで、4月末の軍事演習が行われず、南北対話が継続できる点だ。米韓演習は米韓の共同主催であり、韓国がやらないと宣言すれば、米軍だけで演習することはない。韓国が演習しないと言ったら、トランプをはじめ米政府は、激怒するだろう。トランプは、在韓米軍を撤退するぞとツイートするかもしれない。米韓関係の悪化は不可避だが、その代わり、南北対話が進み、露中韓のシナリオに沿って北核問題の解決へと近づく。米韓演習の中止に呼応して、北が核実験とミサイル発射を自粛し続ければ、中国提案のダブル凍結が実現する。 (North Korea likely to pursue talks, South says in rosy New Year forecast

 北は、すでに昨年11月に核ミサイルの完成を宣言しているので、これ以上核実験もミサイル発射も不必要だ、ともいえる。ダブル凍結が実現したら、中露は国連安保理で北制裁の解除を提案できる。米国が拒否権を発動したら形式上、制裁体制が残るが、中露は無視して北に燃料などの輸出を再開するだろう。 (North Korea’s Kim Open to Talks With South Korea

 文在寅が、今年の米韓演習をやらないと宣言したら、米国は怒って在韓米軍を撤退するだろうか?。もし在韓米軍が撤退したら、南北が和解交渉の最中でも、北朝鮮軍が韓国に侵攻してくるだろうか?。文在寅が、米韓演習をやらないと宣言した場合のリスク(在韓米軍の撤収、北朝鮮軍の南侵)は、米韓演習を予定通りやった場合のリスク(米朝戦争、北朝鮮軍の南侵)よりも大きいのか?。米韓演習をやらないリスクの方が小さい場合、文在寅は、韓国内の右派・米軍産傀儡勢力の反対を押し切って、今年の米韓演習の中止を宣言できるだけの国内政治力があるのか?。 (N. Korea: Trump taking dangerous step to nuclear war by seeking naval blockade

 これらは、すべて未知数だ。だが同時にいえるのは、文在寅が、今年の米韓演習を、五輪後まで延期した後、南北対話を維持するために結局中止する可能性があることだ。米韓演習の中止は、露中韓のシナリオに沿って、米国と日本を除外する形で、北朝鮮核問題が解決していくことにつながり得る。 (Kim Jong Un Offers Opening to South Korea But Warns of Nuclear Option

▼文在寅は慰安婦問題で日本と対立、左翼ナショナリズム扇動で権力基盤を強化し、対米自立と南北和解を進めたい

 私は、文在寅が今年の米韓演習を中止し、ダブル凍結が実現していく可能性が、意外と高いのでないかと考え始めている。その理由はいくつかある。一つは、韓国と米国が昨年から、有事の指揮権を米軍から韓国軍に移す作業を急いで進めていることだ。かつて韓国での軍事指揮権は、有事も平時も、韓国軍でなく米軍が握っていた。だが、すでに平時の指揮権は韓国軍に移譲されており、有事の指揮権も移譲されつつある。有事指揮権の移譲が終われば、次は、在韓米軍抜きで、韓国軍だけで韓国を防衛する態勢が見えてくる。文在寅が今年の米韓軍事演習を中止し、米軍が韓国から出て行く展開になっても、何とかなる。 (北朝鮮危機の解決のカギは韓国に

 従来の冷戦構造下では、韓国の安保的な後ろ盾は米国だけで、北朝鮮だけでなく、中国やロシアも韓国の敵だったが、今や韓国は中露と親しい関係を築いている。中露はかつて、北を味方、韓国を敵としてきたが、今では北が国際法無視の孤立した迷惑な犯罪国家で、韓国は中露にとって一緒に北の問題を解決するための準同盟国になった。今や中露も、北が韓国を攻撃しそうなら、韓国に味方して北をいさめてくれる国になっている。韓国は安保的に、対米従属一辺倒である必要がなくなっている。むしろ米国はトランプになって北を先制攻撃すると息巻き、韓国(や日中露)にとって危険な国になっている。

 この転換から言えるのは、韓国が有事指揮権を完全に習得する前に在韓米軍に出て行かれても、中露が北の脅威をある程度抑止してくれるので、在韓米軍の撤収が韓国にとって大したリスク増加にならないことだ。露中韓が北を招き入れて作ろうとしている北東アジア安保の新秩序は、米国(米日)抜きで設計されている(米国が今のように北を不必要に威嚇して北に脅威を与えないなら、新秩序に参加してもかまわない)。新秩序の最終的な帰着点が、米国抜きなのだから、在韓米軍が早めに出て行っても、韓国にとって大したリスクでない。

 米国の中枢では、トランプと軍産複合体が暗闘している。トランプは、無茶苦茶なことを言いつつ米国の覇権を放棄する策略を世界各地で展開している。軍産は、覇権放棄を進ませたくない。韓国に関して、トランプは、今にも北を攻撃しそうな姿勢を大っぴらに演じることで、韓国に、米国から距離をおき(在韓米軍に早めに出て行ってもらい)、中露や北に接近した方が自国の安全が守れると考えるように仕向けている。半面、軍産は、覇権維持のため、できるだけ長く米軍を韓国に駐留させ続けたい。 (America Preparing "Bloody Nose" Military Attack On North Korea: Telegraph

 この構図の中で見ると、文在寅が今後、南北対話維持のため今年の米韓軍事演習を中止すると宣言した場合、激怒して在韓米軍を撤収させるぞと息巻いて文在寅に喧嘩を売り、米韓関係を意図的に悪化させたがるのはトランプの方だ。対照的に軍産は、今年の軍事演習を中止することに同意し、来年以降も在韓米軍を駐留させることに力を注ぐだろう。トランプは「口だけ」「ツイートだけ」が多いので、文在寅が今年の米韓演習を中止してダブル凍結を開始しても、在韓米軍は撤収せずに残り、軟着陸的な新秩序の移行が、トランプの2期目にかけて数年がかりで続く可能性が高くなっている。 (US rhetoric on North Korea runs into logistical reality

(トランプは昨年来、北を先制攻撃するしかないと言いつつ、先制攻撃の準備を進めていない。昨年11月には、西太平洋に3隻の米空母が集まり、トランプが北を先制攻撃するつもりなら好機だったが、彼は何もしなかった。最近、トランプの北攻撃は口だけだと考える米専門家が目立つようになってきた) (North Korea's Grandstanding And US Inaction Will Likely Continue In 2018

 露中韓のシナリオに北が乗り、南北対話が始まると、南北間の信頼が醸成され、南北が交戦する可能性が低下する。韓国軍の周辺には、軍産のスパイがたくさん入っており、それらが故意の誤算をやって南北の軍事対立を扇動する可能性もあるが、(日本の嫌韓派が言うように)必ず誤算や扇動が起こされて和平が潰されると決まっているわけでもない。しかも北にとっては、軍事力で韓国と戦うよりも、南北が和解した後、韓国の左派を北の味方として取り込んで、民主主義を使った政治謀略で韓国を混乱・弱体化・親北化した方が得策だ。 (Trump’s Strategy to Knock Out North Korean Missiles Carries Risk

 文在寅が、米国から距離をおく南北対話を継続し、在韓米軍の撤収や対米自立につなげるには、韓国政界で、米軍産傀儡などの右派に負けないようにする必要がある。そのための一策として文在寅が開始していると考えられるのが、従軍慰安婦問題を意図的にくつがえし、日本敵視を煽って韓国の左翼的なナショナリズムを勃興させる謀略だ。文在寅は最近、慰安婦問題での日本との和解体制を破壊した。昨年11月、トランプが訪韓した際には、元慰安婦をトランプと会わせたり、晩餐会に「独島エビ」を出したりして、日韓対立を意図的に煽った。12月に訪中した際には、南京大虐殺記念館を訪問し、中韓が一緒に日本の「戦争犯罪」を糾弾しようと提案する姿勢を見せている(訪中に際して中国側は、THAAD配備問題があったので、文在寅を冷遇したが)。 (South Korea’s Real Fight is With China, Not Japan

 文在寅は、対日関係を捨て駒として使って左翼を結集し、自分の政治力を強化している。以前の韓国は対米従属一本槍だったので、米国の求めに応じて日本と仲良くする必要があった。だが文在寅は、韓国を対米従属から引きはがし、露中北と一緒に北東アジア安保の新秩序を作ろうとしている。もう日本と仲良くする必要はないので、対日関係が捨て駒として使われている。きたるべき多極型の世界において、韓国は明確に中国の影響圏であるが、日本は違う(孤立するか、海洋アジア圏を形成するか、困った挙句に韓国より下位の国として中国の影響圏に入るか)。多極化にともない、覇権的な分界線が、38度線から対馬海峡へと南下する。韓国は当面、日本に冷淡にし続けられる。 (South Korea appears to be alienating Japan right as they face the same nuclear threat

 文在寅は、日本に喧嘩を売っているが、日本政府は売られた喧嘩を買いたがらず、日韓関係は何も変わっていないと(現実と違うことを)言っている。その理由は、安倍政権が、日韓の両方が対米従属を続けたまま、日韓と中国が和解協調していくシナリオを進めたいからだ。安倍は昨年から、日中韓の外相会談を開いた後、中国の習近平に訪日してもらう構想を持っている。安倍は、トランプの米国と、米国から距離をおく韓国中国の両方と仲良くすることで、日本の対米従属を何とか安定的に維持したい。だが昨年、日中韓の外相会談は開けず、今年に入って文在寅が慰安婦問題で日韓関係を破壊し、もうしばらく外相会談の開催は無理な状態だ。

 次の注目点は、3月に平昌五輪(パラリンピック)が終わるまでに、文在寅が、4月に予定の今年の米韓軍事演習の中止を言い出すかどうかだ。米韓演習が中止されると、露中韓による米日抜きの北問題の解決策が起動に乗り出す。そのようにならず、まだまだ一触即発の危険な事態が続くかもしれない。何か展開が見えてきたら、また記事を書く。



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