トランプ当選の周辺2016年11月9日 田中 宇11月8日の米大統領選挙でドナルド・トランプが勝った。米国などのマスコミには直前までクリントン勝利を予測していたので、マスコミの論調には意外感が充満している。毎回僅差で有名なフロリダ州は今回、トランプ勝利が早めに決まった(2大候補の差が2・6ポイント)。もっと僅差だったのは、ペンシルバニア(1・1ポイント差でトトランプ勝利)、ウィスコンシン(0・9ポイント差でトランプ勝利)、ミシガン(0・3ポイント差でトランプ勝利)といった、五大湖周辺の「ラストベルト(さびれた製造業地帯)」の諸州だった。 (2016 Presidential Election Results) 今回のように僅差が続出すると、それらは出口調査の誤差の範囲内になるので、出口調査と食い違ってもおかしいと思われず、投票マシンのプログラム書き換えなどによる選挙不正もやりやすい。だが今回、選挙不正があったという指摘は、散発的にしか出ていない。不正があるとしたら、投票機を使い、党本部が絡んだものになる。共和党本部から嫌々ながらしか支持されていないトランプ陣営は不正をやれない。不正をやるとしたらクリントン陣営の方で、だからトランプは支持者たちに「投票日に選挙不正を監視せよ」と呼びかけた。結局、不正はあまり指摘されず、クリントンは負けた。世論調査や討論時の不正(えこひいき)は多かったが、投票日の組織的な不正は行われなかったと考えられる。 (不正が濃厚になる米大統領選挙) (米選挙不正と米露戦争の可能性) (`Rampant' Voter Fraud Reported Across U.S.) 上記のラストベルト3州は、米マスコミの事前予測でクリントンが勝ちそうな州に分類されていた。製造業の労働組合員は、もともと民主党支持だ。3州合計で46人の選挙人(間接投票者)を決める。この3州がマスコミの予測通りになっていたら、クリントンの勝算がぐんと上がった。トランプが勝ったのは、NAFTAに象徴される自由貿易体制に乗って、ラストベルトの自動車メーカーなど製造業が、メキシコや中国などに工場を転出し、製造業で働いていた中産階級の人々が貧困層に転落して不満を抱えていたのを、トランプが自由貿易体制(ビルクリントンがやったNAFTAと、その拡大版であるTPP)に猛反対する候補として彼ら(凋落した製造業の元従業員たち)に接近し、支持を急増させたからだった。私が何回も記事の中で紹介した、ラストベルト出身の映画監督マイケル・ムーア(民主党支持)は、この点を繰り返し指摘して「トランプが勝ってしまうぞ」と警告していた。 (米大統領選と濡れ衣戦争) (不正が濃厚になる米大統領選挙) おそらく今後も、米民主党は、この凋落した製造業の元従業員たちを自分らの側に取り戻さないと、大統領の座を得られない。ラストベルトの民主党敗北は僅差が多いので、4年後に逆転しうる。だから、米民主党がTPP支持に戻ることはない。そもそも、TPPは米議会が反対しているので批准の可能性はない。議会両院は今回の改選後も引き続き共和党が優勢だ。 当日の金融相場の動きを見ると、今回の選挙は、6月末の英国がEU離脱を可決した国民投票と似ている。当日の昼前(日本時間)まで、金融相場は、株も為替も、事前のマスコミ予測に沿って、EU残留を予測する株高、ポンド高のかたちをとっていた。だが昼すぎに、離脱優勢が進むと相場がパニックになり、株は暴落、為替もポンド急落になった。今回の大統領選でも同様に、開票開始前の午前中はクリントン勝利を織り込んだ株高(日本株)、円安ドル高だったが、フロリダでトランプの勝算が高まったあたりから株が急落、円高ドル安、金地金の急騰が起きた。 (英国より国際金融システムが危機) 英離脱投票の時は、何日か前から、世論調査で離脱の可能性が高まる予兆があったが、米大統領選はそうした直前の動きがなく、当日までクリントン勝利予測一本槍で進んでいた。米国のマスコミは往生際が悪く、フロリダの開票率が99・3%(残り7万票)の時にトランプが1・5ポイント(13万票)も優勢で、どう考えてもトランプ勝利なのに、どこも「当確」を打たない状態が40分間も続いた(日本時間12時20分から13時)。その後も、クリントンの勝利州だけを早めに加算してトランプ不利を演出している感じが続いた。 (米大統領選挙の異様さ) そんな感じで、選挙は終わった。私は、日本でトランプ勝利を予測していた数少ない分析者の一人だったらしい。だが、トランプが大統領になって何を一番やりたいか、私にもよくわからない。私がトランプの当選を予測できたのは、彼についてよく知っていたからでない。マスコミの歪曲報道に対する日頃の分析から、実態は歪曲と逆の方向だと推測した結果だ。戦略は、公言せずにやる方が威力がある(「民主主義」と反比例する)。彼は、自分が大統領になってやりたいことの最重要な点が何なのか言わないまま当選した。クリントンと対照的に、トランプは自己資金なので、政治献金と引き換えに政策履行の約束をする必要がなった。 (得体が知れないトランプ) トランプが大統領になって何を一番やりたいか、推測はいろいろできる。新ヤルタ体制の構築者とか。ニクソンが米中対立を終わらせ、レーガンが冷戦を終わらせたように、トランプは「テロ戦争」を終わらせるとか(すでにオバマが終わらせた、とも言えるが)。ニクソンの金ドル交換停止の向こうを張って米国債の債務不履行を上演するとか(怖)。米連銀が12月に利上げを敢行するかどうか、まず見ものだ。選挙が終わったので、オバマの任期末にかけての最後のイスラエルいじめも行われるのでないか。 (イスラエルのパレスチナ解体計画) トランプの型破りな当選のしかたからして、かなり画期的な大統領になると予測される。2期8年やりそうな感じがする。トランプのこれまでの発言の感じからして、CFRやロックフェラーは、ひそかにトランプを支持している。トランプが何をしそうか、これまで何度か推測して書いてきたので、この記事からリンクしたそれらの記事をとりあえず読んでいただきたい。トランプ政権の閣僚人事の下馬評がいくつか出ており、それらの分析も今後やるつもりだ。 (トランプが勝ち「新ヤルタ体制」に) (優勢になるトランプ) この記事は、中身が薄く自分として満足いく文書でないので、メール記事として配信せず、ウェブサイトにだけ掲載します。
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