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シリアでロシアが猛攻撃

2016年9月30日   田中 宇

 シリアの内戦は、米露の合意により9月12日から19日まで停戦した。停戦の主目的は、反政府勢力(主にアルカイダ。旧ヌスラ戦線)が支配する最後の大都市である東アレッポに支援物資を運び込むことと、反政府勢力によって人質状態の人間の盾になっている東アレッポ市民の脱出を誘導することだった。だが、米政府内の国防総省など好戦派(軍産複合体)が、オバマ大統領の意に反して停戦への協力を拒否し、米国が支援してきた「穏健派」反政府武装組織のうちの主な勢力(Ahrar al-Sham)も、停戦に参加するはずだったのに参加を拒否した。その結果、停戦は支援物資搬入などの目的を達せずに終わった。 (In Russia-U.S. Deal, West Leaves Syrian Islamist Mess

 停戦期間が終わった後の9月26日から、シリア政府軍とロシア軍が東アレッポに猛攻撃をかけ、テロリストだけでなく市民が空爆で多数殺された。ロシアとアサドは極悪だ、停戦を壊したのも彼らだ、と報じられている。東アレッポに支援物資を運び込もうとしたトラック部隊が空爆されて20人が殺されたが、これも露アサド軍のどちらかがやったに違いないとされている。だが私が見るところ、これらの話は随所でひどく歪曲されている。 (As Aleppo burns, the U.S. hems and haws

 停戦期間中の9月17日、イラク駐留の米空軍は、英国、豪州、オランダの空軍機を引き連れてシリアに越境(領空侵犯)し、シリア東部の街デーレッゾールの近郊にある、シリア軍の空軍基地(滑走路)を空爆し、80人以上のシリア軍兵士を殺した。この基地は、以前から存在し、シリア軍が近くにいるISを攻撃するための拠点だった。米軍は「誤爆」と釈明しているが、基地がシリア軍のものであることを米軍が知らなかったはずがない。米軍は以前からISを支援しているふしがあり、露シリアは「米軍は、シリア軍の基地を意図的に空爆し、ISを退治しようとするシリア軍の力を削ごうとした」とみている。この「誤爆」は、露シリアの米国に対する信頼感を大幅に低下させ、停戦を破壊する要素になった。 (September 2016 Deir ez-Zor air raid From Wikipedia) (Attack on Syrian forces proved US assisting terror groups: Larijani) (ISIS Overruns Syrian Army Base After US Bombings

 米軍などがシリア軍基地を空爆した1時間後、米軍と連携するかのように、ISISの軍勢がシリア軍基地を襲撃し、一時は基地を占拠した。シリア政府は、空爆の直前に米軍とISが無線で交信したものを傍受した録音を持っていると発表している。また、米英豪蘭軍の空軍機隊は、9月28日にもイラクからシリアに侵入し、ユーフラテス川の橋を2つ空爆して破壊した。誤爆なら攻撃を繰り返すわけがない。これらの橋は、シリア軍が地上からISを攻撃する際に使う橋でもある。米英豪蘭軍は、ISがシリア軍に退治されるのを防ぐため、意図的にシリア軍基地やユーフラテスの橋を攻撃し、テロ組織であるISを支援している。 (Syria Claims To Have Recording Of Conversation Between ISIS And US Military Before Strike On Syrian Army) (Syria slams US-led coalition for destroying two bridges) (US again helps ISIS, destroys two vital Bridges in Deir Ezzor

 東アレッポのアルカイダは住宅街に武器を設置してシリア軍を攻撃し、シリア軍が反撃すると人質状態の市民が多数死に、反政府派を支援する米欧が「戦争犯罪だ」と非難する態勢を組んでいる。ロシアは、人質状態の市民が逃げ出せるよう、米国と交渉して停戦を実現した。だが、反政府派(アルカイダ)を支持する米国の好戦派が反政府派と結託して停戦を骨抜きにし、人質状態の市民の脱出を不可能にしたうえで、露シリア軍が停戦期間後に東アレッポへの攻撃を始めると、戦争犯罪だと非難している。東アレッポ市民を死に至らしめているのは、米国の好戦派だ。

 アルカイダと米軍の両方が停戦を拒否するなか、人道支援のトラック隊がトルコから物資を運んできたところ、何者かによって空爆された。米側は「露軍かシリア軍のどちらかが空爆した」と主張したが、ロシア側は、当時上空に米国の無人爆撃機が飛んでいたと指摘している。ロシアとシリア政府は、東アレッポへの救援物資の搬入と、アルカイダに人質にされている市民の避難を実現したかったのだから、トラック隊を空爆するはずがない。空爆したのは、停戦を壊すことでアルカイダの不利を避けたい米軍の無人機だった可能性が高い。 (Lavrov: West not fulfilling obligations on Syria

 9月12-19日の停戦が終わり、露シリア軍が東アレッポに猛攻撃を開始した後も、露シリアは、48時間の短い停戦期間を設けたがっている。露シリアは、東アレッポの反政府派と市民を皆殺しにするのを避け、猛攻撃に耐えられなくなった反政府派や市民が東アレッポから出ていくよう仕向ける停戦期間を作りつつ、東アレッポの奪還を試みている。 (Russia Says It Would Support 48-Hour Cease-Fire in Aleppo to Allow in Aid

▼人間の盾を解消させるロシアの策だった停戦を潰した米軍産

 などなど、濡れ衣や善悪歪曲をバラバラに指摘しても、全体像を理解していただけないだろう。以下に、私が分析した全体像を書いていく。

 アレッポは、西半分がシリア政府軍の統治下で、東半分がアルカイダの支配地だ。155万人が住む政府側の西アレッポでは、通常の市民生活が営まれており、食料も足りていると、米マスコミも報じている。対照的に、27万人が住む東アレッポは、アルカイダが住民を「人間の盾」として使い、住民に東アレッポから出て行くことを禁じており、食料不足や生活水準の悪化が伝えられている。 (The two sides of Aleppo

 アレッポでは内戦前から、アサド政権の独裁に反対する野党的な組織、ムスリム同胞団の活動がさかんで、内戦開始後、同胞団は武装蜂起した。エジプト発祥の同胞団と、サウジ発祥のアルカイダ(サラフィ主義)やその分派であるISISは、考え方がかなり異なる。当初、同胞団系の反政府勢力は、ISやカイダとは別に戦っていた。しかし、内戦が長引くなか、外部からの補給が少ない同胞団系は、サウジやトルコからの補給が豊富なアルカイダ(ヌスラ戦線)に頼る傾向を強め、今や同胞団系は大半がアルカイダに取り込まれ、その一部になっている。 (Syria Peace Deal: Russia and US Could Force Their Allies to Keep This Truce

 ISカイダは世界的にテロ組織として扱われ、米国が正面切って支援できる相手でない。そのため米国の好戦派は、いまだに同胞団系がISカイダとは別に戦っているとウソの分析を発し、過激なISカイダとは違う「穏健派」の同胞団系を支援しているのだと言いつつ、実のところISカイダを支援している。 (Russia affirms the US works with ISIS

 アルカイダは、外からきた戦士が多いが、アルカイダに合流した同胞団系の勢力は、昔からアレッポに住んでいた市民なので、家族がたくさんいる。アルカイダが「人間の盾」として使っている市民の中には、反アサドの意識を強く持ち、いやいやながらでなく積極的に人間の盾になっている人も多い。このような人々は、米露が停戦期間を作っても東アレッポから出て行かない。だが、露シリア軍が猛攻撃を続けると、今後、いたたまれなくなって避難する傾向が強まる。今回の露シリア軍の猛攻撃は、それを狙っている。

 昨秋、露軍がシリアに進出し、アサドの政府軍をテコ入れし始めて以来、政府軍は東アレッポを包囲するかたちで市街地の近郊地域をアルカイダから奪還し、今年7月初めには、東アレッポと外部をつなぐ最後に残っていた道路であるカステロ通りを政府軍が奪還し、東アレッポは完全に政府軍に包囲された。アルカイダ側は従来、トルコから武器を支援されていたが、包囲されてそれが止まり、政府軍の優勢が増した。だが、アルカイダは東アレッポの27万市民を人間の盾にしている。加えて、米国が「東アレッポには穏健派もいるので攻撃するな」と強弁するため、政府軍は一気に攻撃できず、戦況は膠着が続いた。 (Pressure mounts in Aleppo after supply line cut

 この膠着を解くための策が、9月9日に米露が合意した1週間の停戦だった。停戦の米露合意は当初、内容が秘密になっており(ロシアは公開を希望したが米国が非公開を望んだ)停戦の意味が不明だったが、停戦期間の終了後、内容が報じられた。停戦はアレッポが焦点で、7月まで東アレッポと外部をつなぐ最後の道だったカステロ通りを1週間再開し(シリア軍が一時撤退して代わりに米露軍が監視拠点を設け、沿道の安全を確保する)、外部から東アレッポの市民のために食料やその他の物資を国際機関が運び込むとともに、アレッポから外部に逃げ出したい市民がカステロ通りを通って出ていけるようにする条項が停戦合意に組み込まれていた。米国は、アルカイダと穏健派を初めて分離し、穏健派には停戦に参加させることになっていた。 (Text of Syria cease-fire deal) (Moscow Makes Public Full Text of Russia-US Deal on Syria

 停戦合意がすべて履行されていたら、アルカイダから人間の盾にされ、それまで逃げ出すことを許されなかった多数の東アレッポ市民が、カステロ通りを通って外部に避難していただろう。停戦終了後、東アレッポのアルカイダは人間の盾を失い、政府軍から攻撃され放題になり、政府軍がアルカイダを退治して内戦終結に道を開くのが、今回の停戦に対する露アサド側の狙いだった。だが結局、米軍とアルカイダに阻止され、支援物資の搬入も、市民の避難も実現しなかった。 (Russian Troops Stationed Along Road to Aleppo Ahead of Possible Aid Deliveries

▼オバマの対露協調策を潰すため米英軍が故意に「誤爆」

 アルカイダは、自分たちが不利になるこの停戦を当初から拒否しており、停戦の対象から外されている。さらに問題は、米国の国防総省など軍産複合体が、露アサドを敵視し、アルカイダに味方していることだった。米政権内で、オバマ大統領自身は、ロシアと協力してアルカイダやISISを退治することに積極的だが、軍産複合体は、オバマの対露融和策を毛嫌いしている。

 最近、ドイツの記者が、東アレッポのアルカイダの司令官の一人(Abu Al-Ezz)にインタビューし、ドイツの新聞に載せた。「米国は我々の味方だ」と話す司令官によると、米国製の対戦車トウミサイルなど高性能な兵器が、米同盟諸国(サウジやトルコなど)を通じて供給され、新しい兵器や戦争道具(暗視カメラ、軍事衛星情報受信)の使い方を教えるために、米国やトルコ、カタール、サウジ、イスラエルなどから軍事専門家が東アレッポに来ていた。サウジ、カタール、クウェートの政府は、資金も供給しているという。 (Interview with al-Nusra commander "The Americans stand on our side"

 アルカイダと一緒に戦う勢力の中には「穏健派」を名乗る者もいるが、司令官によると、それは(アルカイダと全く異なる穏健派に支援していることにしたい)米国の求めに応じて、穏健派のふりをしているだけで、実際はアルカイダの一部だという。またアルカイダは米国を敵視するが、ISISの幹部の多くは米諜報機関と関係があり、その点が両者の違いだとも語っている。米サウジなどがシリアのアルカイダを支援していることや、ISISの幹部が米諜報の傀儡であることは、以前から指摘されていたが、それをアルカイダの司令官自身が認めたのは初めてだ。 ("America Is On Our Side": Al-Nusra Commander Tells German Press US Is Arming Jihadists

 シリアのアルカイダの広報担当は、このインタビューをニセモノだと言っている。だが、米マスコミにも出てくる、シリア問題に関する有名な米分析者(Joshua Landis)は「(この司令官の)発言はすべて事実であると私には思える」とツイートし、彼自身の分析と、司令官の発言が合致していると指摘している。 (Former al-Qaeda group accuses German reporter of fake interview

 この件について尋ねられた米国務省の報道官は、米国はシリアのアルカイダに何も支援していないと述べたものの、中東の米同盟諸国の中にはアルカイダに武器を支援しているところがあるかもしれないとも語った。米国務省も、サウジなどがアルカイダに武器支援していることを事実と認めたわけで、それを止めない米国は、アルカイダの司令官から「味方だ」と言われるにふさわしい。司令官の発言と、国務省の発言は矛盾していない。 (US not arming Nusra, but our allies might – State Dept

 米国(軍産複合体)は、アルカイダやISISが強化されてアサド政権を転覆することを望んできた(それはシリアがリビアやアフガニスタンのような恒久内戦になることを意味するが、軍産は恒久戦争状態が自分たちの権益になる)。オバマは、軍産の恒久戦争策を嫌い、ケリー国務長官に担当させてロシアを説得し、昨秋、アサド支援の方向でシリアに軍事介入してもらった。それ以来、ロシアにISカイダ退治を任せてシリア内戦を解決したいオバマと、ISカイダを支援してアサド転覆を狙う軍産とが、政権内で対立してきた。 (New Cold War Spins Out of Control) (軍産複合体と闘うオバマ) (シリアをロシアに任せる米国

 今回の米露停戦でも、東アレッポ市民への人道支援と、アルカイダ退治を盛り込んだ停戦合意を、オバマはなんとか締結しようとしたのに対し、カーター国防長官や米軍の司令官など軍産系の高官たちは猛反対した。オバマ政権内の議論に収集がつかず、ジュネーブでの米露交渉で、ロシアのラブロフ外相は何時間も待たされた。最後は、オバマが部下たちを押し切って停戦合意を決めたが、停戦が始まっても米国側(軍)はロシアとの協調を拒否し続けた。停戦開始とともに、カステロ通りの管理はシリア軍からロシア軍に移ったものの、米国は、トラック隊が空爆され支援物資が届かないことを理由に、停戦合意で規定されている米露協調の停戦推進機構(JIC)の設立を棚上げすると発表し、これで事実上停戦合意は遂行されなくなった。 (How the Pentagon Sank the US-Russia Deal in Syria – and the Ceasefire by Gareth Porter

 さらに、停戦開始から5日後の9月17日には、すでに書いたとおり、米英豪蘭の空軍部隊が、シリア東部でISISと対峙しているシリア軍の基地を空爆した。米軍がシリア軍を攻撃したのは史上初めてだ(米国はアサドを敵視してきたが軍事攻撃したことはない)。米軍は「誤爆」だったと釈明したが、米国の著名なロシア専門家(Stephen F. Cohen)は、オバマが強行した米露協調の停戦に反対する米軍が、ロシアと親しいシリア政府軍の基地を空爆することで米国とロシアを仲たがいさせて米露協調を壊すため、わざと空爆したのだろうと分析している。この意図的な「誤爆」は、オバマに対する米軍(軍産)の反逆だった。 (Who Is Making American Foreign Policy—the President or the War Party?

▼オバマの任期中にシリアから反政府武装勢力を一掃したいロシア

 9月19日に米露合意に基づく1週間の停戦が終わった後、9月27日から、シリア政府軍とロシア空軍、ヒズボラなどイラン系のシーア派民兵団からなる合同軍が、東アレッポに猛攻撃を開始した。5年間のシリア内戦で最も激しい戦いになっている。これまでロシアは「東アレッポにいるのはアルカイダだけでない。米国が支援する穏健派もいるのだから攻撃するな」と主張する米国に配慮し、東アレッポの攻撃に参加していなかった。ロシアは米国に「どの勢力が穏健派で、それが東アレッポのどこにいるか教えてくれ。そうしたら穏健派を避けてアルカイダだけ空爆する」と要請し続けたが、拒否されていた。 (US should meet obligation to separate Syria militants: Russia) (Syrian troops begin ground offensive to retake Aleppo

 今回の停戦合意で、初めて米国が、ロシアの要請に応えることになっていた。だが、米国(国防総省)は、オバマの命令を拒否し、ロシアへの協力を断った。最終的に米政府は、どの勢力が穏健派(停戦に参加する勢力)であるかリストを作ってロシア側に渡したが、その中の主要な勢力(Ahrar al-Shamなど)はアルカイダの一部だった。ロシアは、米国が「穏健派がいるから攻撃するな」と言っているのは、アルカイダを擁護することが真の目的であると結論づけた。 (The New Syrian Ceasefire is a Strategic Defeat for the United States) (Iran raps US overt military support for terrorists

 これとは別に、ロシアは以前から米国に「米露で一緒にISカイダを空爆しよう。そのための米露の共同司令本部を作ろう」と提案し、9月9日の米ロ合意には、ヨルダンの首都アンマンに米露合同司令部を作る案が盛り込まれていた。だがそれも、オバマは乗り気だったのに国防総省や政権内の好戦派が強く反対し、話をつぶしてしまった。 (Putin Says Russia and U.S. Close to Breakthrough Deal on Syria) (America Has No Choice But to Cooperate with Russia in Syria

 ロシアは、今回の米露主導の停戦が、シリアでの最後の米露協調の試みであると考えていた。それがあえなく失敗し、9月17日には、米軍などがIS支援とおぼしきシリア軍基地空爆を挙行した。ロシアは「米国はISカイダを擁護するばかりで戦う気がない。米国と協調しようとする限り、シリア内戦を終わらせられない」と結論づけた。ロシアは、米国に気兼ねするのをやめ、ISカイダを退治する気があるシリア政府、イラン系勢力と協力し、本気のISカイダ退治に乗り出した。それが、9月27日からの東アレッポへの猛攻撃であると私は分析している。 (West still arming Al-Nusra in Syria, peace almost impossible – Russia's UN envoy) (Russia to create new coalition on Syria

 ロシアが米国に見切りをつけて猛攻撃を始めた後、米政権内の好戦派は、これまでやっていなかった、東アレッポの(アルカイダを含む)反政府勢力への直接的な武器支援を検討し始めた。米国はISヌスラを敵視するふりをして支援してきたが、このウソがロシアにばれた(ロシアが米国のウソに付き合わなくなった)以上、もはや見せかけは必要なく、米国(軍産)は露骨にテロリストを支援する姿勢を見せ始めた。しかし、オバマはこれに消極的だし、露シリア軍の新たな猛攻撃は迅速だ。 (Obama Administration Threatens to Suspend Talks With Russia on Syria, Considers Weaponry for Syrian Rebels

 ロシアの今後の戦略について、ヨルダンの英字新聞に興味深い分析記事が載った。それによると、シリア露イラン合同軍は、東アレッポをアルカイダ(反政府派)から奪還できたら、それを皮切りに、ダマスカス、ホムス、ハマ、ラタキア、シリア南部など、アルカイダ・反政府軍の支配地域がスポット的に残っている他の地域でも、同様のやり方で猛攻撃をかけて蹴散らし、シリア政府の支配地として次々と奪還する計画だという。オバマは、シリアに米軍を大量派兵しないと言い続けているが、次の大統領は、クリントン候補がオバマより好戦的で、トランプ候補はどんな策をとるか得体が知れずひょっとすると好戦的かもしれないので、来年1月までのオバマ政権の間に、シリア全土からISヌスラを含む反政府勢力を軍事力で一掃してしまおうと、シリア露イランは考えているという。 (Choices in Syria

 イスラエル諜報機関系と言われるデブカファイルも、露シリア軍は東アレッポで始めた猛攻撃が成功したら、同じことをシリア南部でも行うつもりだと書いている。デブカによると、露シリア軍は、東アレッポの反政府勢力とその家族の合計12万人を猛攻撃によって駆り立ててトルコが支配する北シリアの国境地帯に国内避難民として追い出し、シリア南部を支配している反政府勢力ら(同じく12万人)をヨルダンやイスラエルに難民として追い出すつもりだという。 (Russian-Syrian Aleppo tactics await the South

 東アレッポには人間の盾をさせられている市民が多く、しかも反政府派は病院や学校を軍事拠点にして攻撃してくる。露シリア軍との戦闘で市民の死者が増え、国連では米英仏がロシア非難の安保理会議を招集し、旧宗主国のフランスが強制的な停戦案を計画している。東アレッポを数日以上に停戦させると、アルカイダが軍事的に再編して盛り返すので、長期の停戦は和平と逆方向の「テロリスト支援行為」なのだが、米英仏はそんなことよりロシア敵視を優先している。 (France wants U.N. resolution on Aleppo, force Russia's hand

 ロシアへの非難は、今後さらに強まるだろう。ロシアは安保理常任理事国なので、悪者にされても拒否権を発動することで実際の停戦を強制されたり経済制裁されるのを回避しつつ、急いでシリア全土から反政府武装勢力を一掃する現実策をやり始めている。



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