乱闘になる温暖化問題2014年4月7日 田中 宇3月31日、FT紙が「気候変動が人類に破滅的な影響を与えるという考え方は馬鹿げている。国連の気候変動パネル(IPCC)が発表した報告書は、温暖化による予測される被害をひどく誇張している」と主張する記事を掲載した。記事を書いたのは英国の経済学者リチャード・トール(Richard Tol)で、彼は気候変動の経済的影響を専門にしている。 (Bogus prophecies of doom will not fix the climate) トールは1994年からIPCCに参加し、今回の報告書で、気候変動(温暖化)が世界経済に与える影響についての章の執筆を担当した(報告書は約300人で書いている)。IPCCの予測が当たって、地球の平均気温が21世紀末までに2度上昇した場合、世界合計のGDPが0・2−2%減るとする予測を、トール自身がIPCC報告書に盛り込んだ。数カ月間の金融危機や不況が世界経済に1−2%以上の影響を与えることはよくある。次の世紀末までの86年間で0・2−2%という減少はわずかなものだ。トールはIPCCの報告書の原稿として、温暖化による経済的な影響は少ないと書いた。 (Global Warming Will Not Cost the Earth, Leaked IPCC Report Admits) だが、温暖化による悪影響が少ないとする報告書が出ることを、英国政府などが好まなかった。英政府のエネルギー気候変動省の高官は、トールが書いた経済的影響の章について、気候変動の影響を軽視しており全く意味がないと批判するメモを書き、IPCCに影響を持つ各国の学者たちに配布し、圧力をかけた。英政府のメモは、IPCCが報告書の表現を最終決定する直前に配布された。 (Britain's secret bid to 'fix' UN climate report: Impact on economy is ramped up) フランスやベルギーといった強い温暖化対策を主張する欧州諸国も、同様の圧力をかけた。トールが書いた経済的影響の章は、最後の段階で大幅に書き直された。トールらの抵抗で、0・2−2%という微少なGDP減少の予測数字自体は残されたものの、温暖化で経済難になり紛争や暴動、飢饉が頻発するとか、何億人もが難民になるといった、出来事の面での派手な予測が盛り込まれた。トールは、報告書の担当章が意に反する内容になったため、報告書の執筆者から名前を外すことをIPCCに求めた。 (UK professor refuses to put his name to 'apocalyptic' UN climate change survey that he claims is exaggerating the effects) IPCCが報告書を出すのは8年ぶりだ。前回の報告書では、100年の温暖化が世界のGDPを5−20%減少させ、不況や飢餓、難民、紛争を引き起こすと書かれている。トールら今回の報告書の経済章の執筆陣は、これらの予測を誇張や極論と考える人が多く、その結果、GDPを微減予測に差し替え、温暖化で引き起こされる諸問題は十分に解決可能な範囲でしかないと草稿に書いた。しかし、誇張されていた方が政治的に好都合な英政府などが横やりを入れ、最後の段階で、8年前の報告書と同じような、大飢饉、大量難民、紛争といった派手な表現に戻された。IPCCは以前にも「2035年までにヒマラヤの氷河が消える」といった明らかな誇張を報告書に掲載し、広範な批判を受けて削除せざるを得なくなっている。 (UN report warns of the devastating effects of global warming which could lead to WARS between nations and food shortages) IPCCでは、従来からの派手な破滅予測を信奉する学者たちも多い。報告書の主筆である米スタンフォード大学の環境学者クリス・フィールドは、報告書は学界の主流な主張をまとめたもので、温暖化が世界経済に大して影響しないとするトールの主張は傍流で、極論だと言っている。トールの方は、できあがったIPCC報告書を極論だと批判しており、相互に相手を極論扱いしている。従来は破滅予測派が圧倒的で、今回のような互角な論争は、新しい傾向だ。 (Scientists clash over UN climate report) トールのような主張は、以前から学者の間で出ていた。「温暖化による被害を大げさに言う学者の多くは、政治野心から発言している。権威を求めない学者は大体、近年地球が温暖化している傾向は見られないし、人為説は仮説の一つでしかないと言う」「温暖化問題は、炭素税など温暖化対策で儲けようとする勢力による誇張だ」といった指摘も前からあった。 (Climate scientist ridicules U.N. report as junk) しかし国際的な報道のシステムも、学界の権威を支える国際的な論文評価システム(権威ある学術誌の多くは英国系)も、世界の外交システムも、戦前に英国が作ったものだ。学術的に何が「正しい」か、マスコミ的に何が「事実」か、国際的に誰が「正義」かを決めるシステムの根幹に、英国(英米)による操作が入りうる。マスコミでも学界でも、温暖化による破滅予測が「主流」「事実」になっている。 (IPCC's doom-and-gloom global warming apocalypse is political theater, not real science) 気候は大昔から常に変動している。5日後より先の気候変動予測は困難と言う学者もいる。大昔の気候動向も確定しにくい。気候は不確定な部分が大きいのに、学界やマスコミは、人為(化石燃料利用による二酸化炭素排出など)による地球温暖化が人類を破滅させると断定し、人為説や破滅説に異論を出す人々を無視するか、極論・傍流と決めつけて否定してきた。昇格したい、権威を持ちたい、仕事がほしい学者や評論家の多くが温暖化破滅論のプロパガンダに積極的に乗り、外されたくない、冷や飯を食わされたくない者たちはプロパガンダを黙認してきた。 (Report: 95 Percent Of Global Warming Models Are Wrong) しかし今回、冒頭に紹介したFT紙などは、温暖化の悪影響が少ないと主張するトールが書いた記事を載せ、有効な主張として扱っている。温暖化について、大惨事だと誇張する側と、そんなのは誇張だと指摘する側が対等に扱われていく新しい傾向が見てとれる。以前は非常に強かった、温暖化をめぐる国際プロパガンダの構造が、崩れ始めている。 以前は無誤謬な正しさと報じられていた温暖化破滅説が、最近、誇張であることが露呈している背景には、破滅論者が誇張をやりすぎ、批判を圧殺しすぎたことや、地球の平均気温が10年以上上がっておらず、むしろ寒冷化の傾向が見えること、太陽黒点の減少など寒冷化の理由が見えてきたこと、国連内の勢力争いで温暖化対策の主導権が欧州から中国など新興諸国に移っていることなどがある。 (地球温暖化の終わり) (地球温暖化は政治と投機の問題) IPCCは暖冬や降雪の減少を予測したのに、世界は今冬、大寒波に襲われた。温暖化の元凶とされる二酸化炭素の増加は、緑地を増やして砂漠化を防ぎ、むしろ温暖化防止の効果があるという説も強まっている。二酸化炭素増で温暖化すると食糧危機になるとIPCCは言うが、二酸化炭素増や気温上昇は植物の繁茂につながり、むしろ豊作につながる。 (The IPCC's Latest Report Deliberately Excludes And Misrepresents Important Climate Science) (The big list of failed climate predictions) 大きな洪水が起きると「温暖化のせいだ」と大々的に報じられるが、実は気候が寒冷化した時期の方が、植物が減って山間部の保水力が低下して洪水が増える過去の傾向が指摘されている。マスコミは北極の氷が溶ける印象をばらまくが、実際の北極圏の氷は今冬、25年ぶりの氷の厚さになり、カナダやロシアでは砕氷船がフル稼働した。 (Canadian Government Warns Of The Most Atlantic Ice In Decades) 米英の権威ある学者たちがデータを歪曲的に使って温暖化の傾向を誇張していたことは、2009年の「クライメートゲート」などで暴露されてきた。今年1月には、米国のNASA、NOAA、USHCNといった政府系機関が収集している全米各地の気温のデータに、内部の学者が勝手に1度加えてデータを高めに改竄していた疑いが指摘されている。これらに関する報道はすぐ忘れられ、温暖化プロパガンダは変わらず続いているかに見えるが、実は温暖化がプロパガンダだと察知する人の数を世界的に増やしているのだろう。 (地球温暖化めぐる歪曲と暗闘) (New Climate Data Rigging Scandal Rocks US Government) 温暖化プロパガンダの崩壊とともに、これまでいやいやながら温暖化対策に協力してきた国々が、公式に温暖化対策をやめる傾向だ。カナダは京都議定書からの離脱を宣言したし、日本も原発の停止を理由に温室効果ガス削減目標の放棄を表明した。昨秋に政権が、温暖化誇張の労働党から、温暖化否定の保守党に代わったオーストラリアでは、政府が温暖化対策をやめようとしている。豪州は今年G20の開催国(議長)で、温暖化対策を今年のG20の議題から外すことを決めた。 (Australia marked down for reversal of climate change law) (EU "unhappy" with Australia's decision to drop climate change from the G20 agenda) 英国などEU諸国は、豪州の姿勢に怒っている。しかし英国自身、保守党政権に温暖化懐疑派が多く、温暖化対策の予算を4割も削ってしまった。英国は、経済の大黒柱である金融界がリーマン危機後ぼろ儲けできなくなって財政難がひどく、温暖化プロパガンダの発信元なのに温暖化対策費を削らざるを得ない。 (UK gov't slashes global warming spending by 41 percent) 学界自身、温暖化がプロパガンダであると露呈していく中で、態度を変えざるを得なくなっている。米国の物理学会は、温暖化問題に対する組織としての姿勢を劇的に転換し、温暖化懐疑派として著名な3人の学者を、広報委員会の委員に加えた。米国の物理学界では、人為的温暖化を確定的だと言う学者は、気候変動をめぐる不確定要素を過小評価しているという見方が広がり、その結果、学会を代弁する広報委員会に懐疑派が入ることになった。学界における誇張派の「主流派」としての地位が揺らぎ出している。 (American Physical Society Sees The Light: Will It Be The First Major Scientific Institution To Reject The Global Warming 'Consensus'?) 権威や地位が揺らぎだした誇張派はヒステリックになっている。米国のロチェスター工科大学の物理学の教授(Lawrence Torcello)は、学術系のウェブサイトに、公式の場で温暖化を否定する主張をした市民を投獄できる法律を作るべきだとする論文を掲載した。似たような主張は、ほかからも出されている。 (Professor Calls For Climate Change `Deniers' To Be Imprisoned) しかしその一方で、市民運動の中からも温暖化の誇張を否定する傾向が強まっている。グリーンピースの創設者の一人であるカナダのパトリック・ムーアは最近、米議会上院の公聴会に出席し「温暖化人為説は根拠が薄い」「二酸化炭素の濃度が今の10倍だった時期に氷河期があった」「人類は寒さより暑さに強いので、温暖化はむしろ良いことだ」などと述べた(ムーアは、以前から温暖化人為説を否定し、すでに組織と縁を切っている)。 (Humans are NOT to blame for global warming, says Greenpeace co-founder, as he insists there is 'no scientific proof' climate change is manmade) 「地球温暖化」は、学校でも教えられており「事実」とみなされている。それが極論や誇張であることは、マスコミでほとんど指摘されない。温暖化のプロパガンダはこの先かなり長いこと生き残るだろう。しかし、これが科学でなく政治(似非科学)に基づく誇張であることは、しだいに多くの人が気づいている。他の問題を含め、マスコミや権威筋の誇張や歪曲が露呈する傾向はしだいに強くなっているが、誇張や歪曲の構造はなかなか崩れない。最終的に崩れても、それは「IPCCや権威ある学者たちが誇張していたこと」が「事実」になる転換が起きるのでなく、温暖化問題がいつの間にか語られなくなることで終わりそうだ。
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