震災対策にかこつけた日銀のドル延命支援2011年4月1日 田中 宇【この記事はエイプリルフールではありません】 大震災後、日本の企業などが海外に持っていたドル建て資産を取り崩して円に換え、復興資金として使うという予測から円が買われ、円高ドル安になった。日銀は、円高を止めるため市場に巨額の円資金を供給するとともに、円売りドル買いの為替市場介入を行い、G7諸国にも協調介入してもらった。その結果、今は円安に戻りつつあるが、この日銀の介入の目的は、円安だけでなく、これ以上金融緩和できない米連銀に代わって日銀が米国(日米)の株価をテコ入れする意図があったのではないかとの分析が、米国で出ている。 (A Yen to Explain a Stock Rally) (3月22日の速報分析) 日銀が市場に供給した資金の一部は、金融機関から下請け的な投機筋などに回り、日本株の購入資金として使われたり、ドル建てに転換されて米国株市場に流入した(円キャリー取引と呼ばれる)。円高ドル安になった3月16日に下落した米国の平均株価は、その後、為替が円安に戻るのと同期して、再び上昇に転じている。 政府の財政赤字(国債発行)が増え続ける米国では、連銀がドルを大量発行し、売れ残りの米国債を買い支えたり、市場に巨額資金を注入して投資家に株を買わせて株高を演出したりする量的緩和策(QE2)を、今年6月までの予定で続けている。その結果、昨年10-12月期に発行された米国債の63%を連銀が買う事態になっている。これは米国債の63%が売れ残ったことを意味し、連銀が買い支えねば米国債の買い手がつかない不健全な状態だ。世界の投資家がこの事態に気づき、米国債はますます売れない傾向だ。 (Is This Why Bill Gross Dumped Treasuries?) このような状況なので、連銀は、不健全な米国債の買い支え(量的緩和策)を続けにくい。ドルの過剰発行で、米国は食料や燃料の値上がりが続き、実質的なインフレがひどくなっている(食料や燃料はインフレ指標である消費者物価指数から外され、見かけ上、公式なインフレ率は低く抑制されている)。連銀内では、この実質インフレを抑えるため、量的緩和策とゼロ金利政策をやめて、金利を上昇すべきだとの声が出ている。 (Fed's Kocherlakota says 2011 hikes 'possible') 連銀が量的緩和策をやめたら、米株式市場に回る資金も減り、株式相場と債券相場が下落する。今の米経済は、連銀の量的緩和によって人為的に作り出された金あまり状態が、株高、債券高、金融界を中心とする高所得者の消費増をもたらし、それが一見すると「景気回復」に見える状態を作っている(米国民の大半を占める中産階級や貧困層は収入減と失業、物価高によって困窮を深めている)。米株式相場と債券相場が下がると、似非的な景気回復すらも失われ、米経済は名実ともに二番底の不景気に逆戻りする。 (The (Unofficial) Beginning of the Double Dip Recession) この米国の窮地を救っているのが「震災後の国内資金需要の増加に応える」という名目で行われた日銀の大量資金供給である。日本の証券会社は個人投資家に米国株を買うよう勧めており、これも日本が米国の窮地を救う動きの一つである。震災からの復旧については、米国が日本を助けているが、金融と通貨については、日本が米国を助けている。 米政府が財政赤字の増加を止めるのは困難だ。米議会は赤字削減策を論議しているが、共和党と民主党で削減したい分野が異なり、調整がつかない。リビアとの戦争が始まって戦費がかさみ、すでに削減が決まった額を上回る支出増になっている。財政赤字を減らせず、米国債の増発が続く一方で、QE2が終わると連銀の買い支えも期待できなくなる。 米政府の公式な統計では、日本政府は米国債の購入残高を増やしていないことになっているが、日本の当局が金融機関などに頼み、オフショア市場で米国債をこっそり買うことはできる。連銀がやりきれない分、日本がこっそり米国債を買い支え始めている可能性もある。中国当局は、公式統計では米国債を買い増しているが、実際にはこっそり米国債を売り払い、金地金などに換えていると推測できる。 (中国の米国債保有額のなぞ) 今のような人為的で不健全な金融市場のテコ入れ策が有効である限り、日本が米国債を買い増し、投機筋にゼロ金利で金を貸して日米の株式相場をテコ入れしても、損失は出ない。しかし、このままいくと、いずれ日米当局がいくら買い支えをやっても債券相場の下落を止められなくなり、米国債を含む債券や株の急落が起こり、最終的に米国債は債務不履行になる。債券金融体制(影の銀行システム)の創設など、長く金融市場を操作してきた米大手銀行JPモルガンの会長(Jamie Dimon)ですら、米国債が債務不履行になる可能性について語り出している。 (Dimon: U.S. debt default would be `catastrophic') 米国債が債務不履行になると、米国(たぶん全世界)の株や債券の相場が急落する。日本勢が買い増している米国資産の価値も急減し、日本の金融機関も破綻するところが出るだろう。為替も非常に不安定になるが、各国通貨の多くはドルに連動する為替政策がとられているので、どこかの通貨に資金が集まるのでなく、通貨の代わりに、金地金やその他の国際商品(石油や食糧、鉱石など)の高騰に拍車がかかりそうだ。ドル崩壊後、通貨の大混乱がしばらく続き、その後ようやくG20やジョージ・ソロスが提唱してきた多極型の国際通貨体制(いわゆる新世界秩序)が姿を現すだろう。顕在的なドル崩壊は、早ければ今年中に始まる。日米による延命策がうまく機能し続ければ、ドルはもっと先まで持つ。 (George Soros Planing To Reinvent The Entire Global Economy) (きたるべきドル崩壊とG20) (失われるドルへの信頼)
田中宇の国際ニュース解説・メインページへ |